【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
僕と
今の彼女の表情は、大人になった事以外は何時もの綺麗な笑顔のままだ。
だがその身に宿る膨大な狂気、そして
…今の僕ならばハッキリと分かる。
あの時力を借り受けただけだった僕が、彼女と対峙した事がどれだけ無謀であったのかを。
一見無防備に見えるその佇まいだが、それに釣られて飛び込めば手痛いカウンターが飛んでくる。
現にデイトナとジブリールが無策で飛び込んだ結果、
二人は一応紙一重で回避は出来たが、あの一撃に込められた膨大な第七波動に肝を冷やしたようだ。
その流れるような一連の流れは美しさすら感じた。
やはり、今の僕から見ても明らかにその動きと能力の練度が桁違いだと分かる。
ならば遠距離からとメラクとテセオによる
それを察知して危なげなく回避出来ていた二人も流石だと僕は思ったが、どうやら二人は先程の対処を見て、自身の攻撃は回避されると踏んでいたようだ。
このような事があった後、僕と彼女が互いに向き合う形となり、今に至るのだが、正直この状況は極めてマズイ。
その理由は、今も尚増大している第七波動を感じるからだ。
これは明らかに、あの時と同じように彼女は詩魔法を紡いでいるのだろう。
「ねぇGV? 私が今何をやっているか分かるかな?」
「少なくとも、第七波動を練り上げている事だけは分かるよ。……あの時と同じように、
「相変わらず私の事になると何でもお見通しなんだね、GVは。私にはそれがとても嬉しい……そんな貴方の事だから、私がここに居る皆に戦いを挑んだ本当の理由も分かっているんだよね?」
「……その通りだよ、シアン。君は自身が解き放たれた場合どうなるのかをここに居る皆に示すのが目的なのだろう?」
「……うん、その通りだよ、パンテーラの事とか本当はどうでもいいの。貴方なら間違いなく貴方のやりたい事を実現できると思っているから。だからこれは私の唯のお節介にすぎないの」
「ガンヴォルト、彼女は何をしたいのか分かるのかい?」
「紫電……結論から言うと、彼女は僕に危害を加えようとする相手に対する抑止力を示そうとしているんだ。
「なるほどね、実に彼女は健気じゃないか。……それのとばっちりをこれから受ける僕達の身にもなって欲しいけどね。貸し一つだよ、ガンヴォルト」
「分かっているさ、紫電……とはいえ、だからこそ彼女は間違いなく本気で来る。今は最終防衛結界「神代」が切れている状態だから、塔を出しても結界に干渉する事も無い」
「塔……ですか? ガンヴォルト、貴方の言う塔とは一体……?」
「…………
そうパンテーラが僕に尋ねた所で、彼女は第七波動を紡ぎ終わったのだろう。
彼女から膨大な第七波動が開放され、塔が具現化していく。
その塔は、この世界とは異なる法則下にある惑星に存在する成層圏を突き抜ける程巨大な塔。
それは人々に大きな富を
そしてとある人災により暴走し、その惑星のコアを打ち抜き破壊した星殺しとも言える塔。
アルトネリコ第一塔が、僕達の前に姿を現した。
僕やシアン達は既に一度見ているので驚きは少ない。
だけど、他の皆はそうはいかない。
「おいおい…そんなのアリかよ。なあアリス、俺は夢でも見ているのか?」
「…夢であって欲しいと思う気持ちは理解できます。ですがジーノ、少なくともこれは現実です」
「今ハッキリと分かリましタ…こレが如何足掻いテもエデンが滅びル理由だっタのですね……」
「
「分かりました、テンジアン。……アリス、私が憎いと思う気持ちを止めろとは言いません。彼女を止める為に、今だけは力を貸して欲しいのです」
「…………仕方のない
「任務?」
「ネームレスの……お姉様の事です。折角その正体を把握して裏付けも取れたと言うのに、まだ報告が終わっていません。……だから、
「お姉様のですか!? ……ええ、必ず生き残りましょう、アリス」
「僕もそれについて非常に気になるから、後で僕にも教えて欲しいかな。……パンテーラ、一時的に皇神とエデンで手を組まないかい? この状況、そうしないと生き残るのが難しそうだ」
「紫電……スパイだった私を許すのですか?」
「今はまだこの国でエデンが本格的に暴れた訳じゃないからね。こうやって共同戦線を張れば皇神にエデンも取り込めると僕は踏んでいるだけさ。それに、この巨大な塔の出現の方が派手だしね。案外彼女はそれも込みであの塔を出現させたのかもしれない。彼女は君に辛辣だけど、君の必要性を理解しているみたいだ。……頼りにしているよ、
「……ええ、分かりました、紫電……
…どうやら、この事が切欠でアリスとパンテーラの問題も解決し、それと同時に紫電との仲も修復出来たようだ。
これもまた、彼女の中では予定調和なのだろう。
『うへぇ、女の子がヘンタイさんになっちゃったよ……』
「第七波動ってあんな事も出来るんだね、ロロ」
「後で抗議しなくてはな……ミチルの教育に悪すぎる」
「全くですね。ミチル様の事はアキュラ様とロロ、そしてこの私三人で守りましょう」
「了解だ……! ガンヴォルト、しくじるなよ? まだお前とは決着を着けていないのだからな」
「分かっているさ、アキュラ。……行こう、シアン、モルフォ。
『『了解よ、GV!!
「準備は出来たみたいだから始めるね? こっちも丁度塔との接続が終わったの……今度は耐えるだけじゃダメだよ、GV? ちゃんと私の事を仕留めてね? ……大丈夫だよ、この場に居る私が消えても本体には何も影響は無いから。だから遠慮無く掛かって来て? ……最も、簡単にやられるつもりは無いけどね! 先ずは小手調べだよ! スパークカリバー! シュート!!」
こうして
彼女はまず小手調べに無数のスパークカリバーを僕達を囲むように展開し、射出しつつ、皇神とエデンの大量の機械群を同時に創造し、僕達に嗾けて来た。
僕はシアン達から
今の彼女は、僕達との半強制的な協力強制により
その上、彼女は塔との接続により無尽蔵に第七波動を汲みだしている状態だ。
普通に考えたらまず僕達に勝ち目が無いように思える。
だけど、彼女の協力強制により僕達三人にも塔との接続の恩恵を受けている為、今のこの状況は最低でも互角であり、むしろ僕達の方が有利なのだ。
パンテーラとテンジアンとアリスが協力強制により、彼女や機械群に対して上下反転の幻覚を浴びせつつ凍結させ、動きを止める。
テセオとアスロックが協力強制により、エデンの機械群を強化しつつ塔と機械群に砲撃による攻撃を慣行している。
メラクと紫電が協力強制により、宇宙から隕石を呼び寄せ、塔へと落としていく。
デイトナとストラトスが協力強制により、その憤怒の爆風までもが全てを喰らう性質を帯びるようになった。
ニケーといつの間にか戻っていたニムロドとの協力強制により、彼女の変幻自在な髪の全てを起点に、自然界に存在しえない特殊電解液を、超高圧で無数に射出し、機械群を機能停止に追い込みつつ、強度と鋭さを増した髪がバラバラに引き裂いていく。
ロロとミチルの協力強制により、力を合わせる事で出来るようになった詩魔法で、皆の傷や疲れを癒しながら、能力を強化させていく。
そんな二人を、ノワとアキュラは確実に護り抜いている。
中には、組織の枠組みを超える形で行っている組み合わせもあった。
ジブリールとエリーゼ達による協力強制により、本来ならば命のリスクのあるジブリールのSPスキルをノーリスクにし、エリーゼ達もその恩恵を受けていた。
イオタとガウリによる協力強制により、イオタの光をガウリが水晶で増幅し、機械群を薙ぎ払っていた。
……皆、早速僕が教えた協力強制を使いこなしている。
その劇的な効果に皆も驚いているようだ。
但し、カレラは相変わらず我を貫き、一人で戦い抜いていた。
そして、アシモフとジーノもまた、協力強制をしようとしていた。
……ジーノの能力はおいそれとは使えない。
僕自身そんなジーノの能力について尋ねた事があった。
それによると、ジーノは放射線を操る能力「ラディエーション」*1である事が分かったのだ。
流石にそれは、おいそれとは使えない。
何故ならば、下手に制御を誤ればジーノ本人所か、周りの皆にも被害が行く可能性が高いからだ。
だけど、それは単独で使用する場合の話だ。
この放射線をアシモフの弾道操作技術の応用で収束させ、制御する。
それは偶然にも、一直線に放射線を収束させて解き放つ、精神力だけであらゆる障害を乗り越える僕の知るとある英雄の技に酷似した物となった。
その収束された放射線の光は、見事に塔の一部を貫抜き、彼女に明確な痛みを与えたのだ。
……彼女は今、塔と接続している。
故に、塔が受けた傷の痛みも共有してしまうのだ。
そして、それは僕達も例外では無い。
そのはずだったのだが……僕やシアン達にその痛みは共有されなかった。
……なるほど、後の僕の一撃による痛みをシアン達と共有させたくない。
彼女のそんな独占欲がそうさせているのだろう。
(ズルい……ズルいよ、私!! GVからの痛みを私達に共有させないだなんて!!)
(アタシ達を差し置いて、一番おいしい所を独占するだなんて、あんまりよ!!)
(ふふ……どうせ私が戻った後でこの痛みは共有されるんだから、それでいいじゃない?)
(良くない!! こう言うのはリアルタイムで受けてこそ価値のある物なのにぃ!!)
彼女を含めたシアン達にとって、僕のあらゆる行為はご褒美なのである。
だからこそ、この後で齎される僕の一撃による痛みを独占したいのだろう。
……そんな彼女の事も、それに嫉妬するシアン達も、本当に愛おしい。
だから彼女の望み通り、痛みを独占させ、滅茶苦茶に壊す。
その時彼女は、どんな綺麗な表情をするのだろうか?
今からその瞬間が楽しみで仕方がない。
その表情を見て嫉妬に狂うシアン達を見るのも楽しみだ。
……だけど、それを成すには僕達だけの力では難しい。
あの時のパンテーラからシアンを守った時の力は、所謂火事場の馬鹿力のような物だ。
あれに何時までも頼っていたら、シアン達に心配をさせ、悲しませてしまう。
それに、この場に居る皆で力を合わせ、それによって成せる事を見せたいのだ。
そして、その準備はもう完了し、後は皆から力を借りるだけだ。
……
パンテーラが憎いとか、抑止力とか、そんな物は全て建前なのは僕も知っているさ。
……大丈夫、僕はこんなにも大勢の人達と知り合い、手を取り合うことが出来た。
だから、その
僕のそんな想いを込めた視線に、彼女は歓喜に満ちた笑顔で笑っていた。
それに呼応して、蒼く輝く氷の瞳に第七波動が収束されていく。
彼女も期待しているからこそ、僕はそんな彼女に応えなければならない。
「…皆、
この僕の言葉に呼応し、この場に居る皆との協力強制が為されていく。
それに伴い、僕自身の
そして、あの時のパンテーラとの戦いの時と同様に、刹那が永遠となった。
僕はあの時と同様に、
その中の、今の僕が持つ最大の切り札である
だからこそ僕はこれを見せ、その
そしてイメージはもう既に決まっている。
それは中国の伝説上の神獣「四神」の一柱で、東を守護する存在。
その存在の司る五行は木属性*2であり、風水においては河川に棲まう存在。
その存在が持つ色は青、蒼、緑、空色だけでは無く、僕の大好きなシアン色を持つとされた伝説の存在。
「東を守護せし
――
そして僕の呼びかけに応え、蒼龍*3は姿を現した。
その全長は、塔に巻き付いてなお余る程であった。
僕はこの蒼龍をイメージした時、川の化身という想像を行った上で、最大規模の川であるアマゾン川をそれに組み込んだ。
その結果、アマゾン川の流域面積が反映され、この様なあり得ない程の巨大な姿を持って現れたのだ。
僕はこの龍の頭上に乗り、天高く手を掲げた。
僕の頭上に存在する宇宙の法則が乱れ、数十万の軍勢が姿を現した。
それは本来、衛星軌道上から音速の十倍もの速度で金属の棒を叩きつける宇宙兵器。
人類の歴史の中でも既知最強の鉄槌であり、
第一盧生、甘粕正彦が得意とする創形、紫電との決戦の時にも使用した「
その在り様を捻じ曲げ、変化させ、
……
氷の瞳に収束されている膨大な量の第七波動は、ここから世界の全ての研究所で観測可能なほどに高まっている。
先ずは彼女に先手を取らせる事とした。
彼女のこの一撃を受けられる度量の広さを持たずして何とする。
蒼龍には悪いが、僕と一緒にこの一撃を受けてもらうぞ。
……安心して欲しい、その痛みは
「すっごく大きな龍だね、GV! ……私もそれに負けないくらい、沢山
「来てくれ、
「それじゃあ行くよ、GV……収束した全ての第七波動を開放!!
氷の瞳から放たれた何百、何千万の数を誇る光の柱が僕と感覚を共有した蒼龍に降り注いだ。
この一撃は紛れも無く、この世界に向かえば全てを滅ぼしうる一撃。
そんな一撃に、僕と蒼龍は蹂躙された。
……光が収まり、僕と蒼龍は満身創痍の状態でその一撃を受け切った。
皆の力を借りている上に、その一撃を放ったのは
ならば、彼女と皆の期待に応え受けきるのは、僕にとって当然の義務。
彼女も含めたシアン達によって齎される大部分の行為は、僕にとってご褒美その物。
そもそも僕は耐える必要など無く、あるがままに受け入れれば何も問題は無い。
そう、彼女が齎した
……さあ、次は僕の番だ。
君は僕にこんなにも
だから、僕もそれに応える…往くぞ、…
先ずはこの数十万の軍勢から放たれる
「神鳴る鋼の嵐よ……雷となり、かの身を蹂躙せよ……ロッズ・フロム・ゴッド!!」
宇宙に存在する数十万の軍勢から、僕の第七波動による電磁加速と弾道変更技術による鋼の嵐が巻き起こる。
それの一つ一つがこの一撃に備えていた塔全体を覆う程の電子結界を貫き、突き刺さり、
その雷となった鋼の嵐を、当然のように彼女は耐えきった。
その表情は相変わらずの笑顔のままであったが、何処か物足りなさそうな想いが伝わってくる。
「貴方が与えてくれる
……大丈夫、それは唯の前準備に過ぎず、本番は、此処からなんだ。
それは僕とアシモフにとって最も基本であり、攻防一体の、蒼き雷霆の代名詞。
SPスキルも含めたあらゆるスキルよりも重要であり、その名を轟かせた元凶。
「迸れ、
僕と蒼龍は互いに同調し、その身を包むように雷撃麟を展開した。
そして、数十万の鉄槌に仕込まれた僕の髪の毛と蒼龍の鱗の一部全てに雷撃が誘導。
塔全体を蹂躙し、暴虐を尽くしていく。
この蒼き雷霆の雷には皆の力も協力強制によって込められている。
故に、彼女がこの雷撃を無効化する事は出来ず、この雷を受ける事となった。
……僕の内側に居るシアン達から、凄まじい嫉妬の感情が流れ込んで来る。
その
嫉妬に塗れた二人の表情は、言葉では言い表せない程に綺麗だった。
そして、塔が遂に崩れ去り、彼女はその身を重力加速度に預け、落下した。
役目を終えた蒼竜に深い感謝をしつつ、あるべき場所へと返した後、僕は彼女に向かい飛び込み、お姫様抱っこで受け止め、波動の力でそんな物理法則に逆らいながらゆっくりと降下していく。
……彼女はとても幸せそうな表情をしており、僕の与えた
「GV…貴方の、貴方達の
彼女は本気でそう思っているのだろう。
その切実なる深き想いが僕に突き刺さる様に伝わってくる。
だけど同時に、そうなる未来などあり得ないと、心の底から僕の事を信頼している。
そんな矛盾に満ちた彼女の思考が複雑に絡み合い、僕の心を満たしていく。
「君の
「良かったぁ。GVに私の
そう言い残し、彼女は
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。