【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
実際に画面越しで見た事はあった。「Dies irae」と呼ばれる創作物に登場する
そんな彼女がパンテーラによって終段で呼び出されこの場に降臨した。…こうして実際に見て見ると、「人類最悪にして最美の魂」等と言う彼女を指す言葉すら陳腐に思える。
いや、言葉だけでは無い。人類が持ちうるあらゆる表現…絵画、動画、写真、文章、その他ありとあらゆる表現が陳腐となる。つまり、彼女の在り方を完全に表現できる器となり得る物が存在しないのだ。それ程までに、今この場に居る彼女は美しく、尊い女神であった。
実際にこの場に居る全員が彼女から目を離せておらず、皆彼女を見てこう思っている事だろう。「女神が降臨した」と。その心と魂に刻み込まれたはずだ。
…そう言えば、アキュラはどんな状態なのだろうとふと気になった。アメノウキハシのミッション前の時や今回の飛天での移動中の時の僕を含めた皆との雑談の際に、何かと「神」の存在を持ち出していた。これはノワからアキュラの母親の影響が大きいと教えて貰っていた。
僕は彼女から目を離したく無いと言う誘惑を断ち切りアキュラを目視で探し、見つけたのだが…そこには跪き、両手を組んで祈りを捧げるような恰好をし、その上で彼女から目を離せていないアキュラの姿を見つけることが出来た。
アキュラから見ても、彼女は紛れも無く「神」なのだとその姿を見る事で把握する事が出来た。その隣ではミチルもアキュラと同じような恰好でいたのを見て、やっぱりこの二人は兄妹なんだなと僕は思った。
そしてその傍らに居る、「悪魔」であるノワはと言うと…普段の冷静沈着な表情のまま、涙を流し続けていた。悪魔であるが故に、彼女のその在り方を僕達人間よりもずっと深く感じる事が出来ているからだろう。
そう、彼女は善悪関係無くありとあらゆる誰もの幸せを願い、見捨てたり攻撃したりするという考えがない。例えどの様な極悪人であってもその手を差し伸べ、抱きしめ、来世へと導くだろう。いつかきっと幸せになれる、だから頑張って欲しいと。
だからこそ僕はもう直接助ける方法が無くなってしまった別世界の
それに、シアン達による転生の歌である「
そう僕が考えていた時、シアン達が僕にテレパシーで話しかけて来た。
(GV、大丈夫? 意識を持ってかれたりしてない?)
(シアン…僕は何とか大丈夫だけど…パンテーラを除く他の皆は黄昏の女神から目を離せなくて、意識を持っていかれてるみたいだ。
シアンは大丈夫みたいだけど、モルフォはどうなんだ?)
(アタシも何とか大丈夫だけど…気を強く持って無いと目が吸い込まれちゃうわね。
まさかこうやって黄昏の女神の事を直接見る機会が出来るだなんて思わなかったわ。
……陳腐な言葉になっちゃうけど、とても綺麗ね)
(そうだね、モルフォ…見た目だけじゃない、その在り方も思想も、とっても綺麗)
そんな
十分程彼女は目を閉じた状態を維持し、再び宝石のように綺麗な瞳を開いた。そして、彼女を中心に第一から第七の波動のどれにも該当しない、この世界において完全な未知の力が収束しているのが分かる。どうやら彼女は己が願いによって全世界を塗りつぶす力、「
これは「異界」と法則を永続的に流れ出させ、世界を塗り替える異能であり、流れ出した法則は最終的に全世界を覆いつくし、既存の世界法則を一掃して新たな世界法則と化す。
世界法則を定めるものを「神」と呼ぶのであれば、流出とは新たな神の誕生であり、古い神を倒してその「座*3」を奪うこと、即ち神の交代劇でもある。
この世界にはノワみたいな悪魔が存在するファンタジー世界な側面が存在している。ならば当然、この世界には「神」が存在しているのではと僕は思っていたのだが…心優しい彼女が迷わず流出を開始しようとしていると言う事は、そういった物は居ないのだろうと僕は結論付けた。何しろこの世界には覇道神が奪い取る「座」と言う物は無い筈だからだ。それに、先ほどの天眼はその確認もあったのだろう。
…彼女は力の収束を終え、世界法則を展開する準備を終えたようだ。そしてその力を解き放つ寸前、僕達は彼女の声を聞く事が出来た。愛に満ちた、魂に響く彼女の祈りと想いが籠った言葉を。
『この世界は第七波動と言う力によって争いが起こっているとても悲しい世界。今この瞬間も、これが理由で多くの人々が苦しんでいる。第七波動の有無で傷つけ合う必要なんて、本当は無いのに…だからこそ私は思うの。
その儚き声が、この世界に存在するすべての人々の幸せを謡う。
『私が見ている』
あまねく渇望の絶対肯定の理が今、開かれようとしている。
『傍にいる』
黄昏に輝く世界が。
『見捨てたりしない』
愛に満ちた世界が。
『抱きしめる』
幸せを心から願う詩が流れる世界が。
『ううん、お願い』
今生における自由が許される世界が。
『抱きしめさせて』
来世が保証された世界が。
『愛しい全て、わたしは、永遠に見守りたい』
抱きしめたがりと言う
『
今この瞬間、僕達の居るこの世界を覆いつくし、世界は黄昏の女神の
そして解放された魂もまた、来世へと旅立った。それを確認した黄昏の女神は満足そうな笑顔と共に展開した世界法則に偏在しながらその姿を消したのであった。
――――
とある世界のとある国の病院で、新たな命が生まれた。その新たな命は、生みの親の母親に対して鳴き声を出す事で生まれた事を、生きている事を必死に訴えていた。その鳴き声を聞いたのだろう。その母親の人生のパートナーである父親が慌てた様子で病室に入り、母親の腕に優しく抱き上げられた生まれ落ちた赤子を目撃し、「よくやった」と涙を流し、母親を褒め、赤子の誕生を祝福した。
「ふふ…この子の顔付き、アナタにそっくり。私の大好きな、優しくて頼もしい旦那様に」
「そうかな? 目元なんかは君に似ているじゃないか。俺の大切で愛おしい妻にね」
「貴方の事だから、もう名前は決めているのでしょう?」
「ああ、その辺りに抜かりはないさ…この子の名前は「優」…優だ。君みたいに優しい子であって欲しい、そしてその優しさで沢山の人達と絆を結んでほしい。そんな願いを込めた名前だ」
「とてもいい名前ね、アナタ。…今日から貴方の名前は優よ。名は体を示すように、私は貴方を優しい子に育てて見せるわ」
その赤子…優は後に自分にだけが見える揺精と知り合い、交流を深めていく事となるのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
※終段で呼ばれた黄昏の女神について
実は玲愛ルートのマリィが遠い遠い異世界からのSOS…つまり、パンテーラの終段に乗っかる形で送り出した触覚。これがこの小説内で登場した黄昏の女神です。なお、小さい姿をしていないのはパンテーラの終段の際のイメージに引っ張られたからです。
そんな彼女による流出は、座に居るマリィの物と比べて砂粒以下とも言える物。
だけど、それはマリィにとって貴重なビーコンとして機能するのです。
さて、そんなビーコンが機能している世界を、その世界群を、マリィは放っておけるでしょうか?