【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
嘗て敵対していた組織の枠を超え
人々は
その想いに対する答え…それは謡精達から響き渡る
本格的な切欠は「
「ダメー!」
「おっと…これはシアンが書いた物みたいだね」
「お願いGV、何も聞かずにそれを私に返して!」
「……シアン、ひょっとして何か未練があったりする?」
「そ…そそそんな事無いよ! これは…その…」
僕は転生前にシアン達との想いだけのコミュニケーションを生前続けていた為、その表情や想いだけで言葉が無くとも何が言いたいのか大体把握出来ていた。当然、僕から見て過去のシアン達にもそれに当てはまる。だからこそ、こうして会話もできる以上シアンの考えが手に取る様に分かる。その悩みを聞こうと僕はシアンに対してそれを言い当て、真剣に相談しようと持ち掛けようとした時、モルフォが横から僕達に話しかけて来た。
『いいじゃないシアン、GVなら貴女の事をからかう事何てしないわ。その事はここでの半年の生活で分かるでしょう? それとも、アタシの口から言わせたい?』
「うぅ…ズルいよモルフォ…GV? 実は私…」
曰く、アイドルに未練があり、出来る事ならばまた皆の前で歌を歌ってみたいのだと言う。以前、
…
正直な話、これについて当時の僕が出来た事と言えば体力をつけさせたり、詩集を沢山用意したり、外出する機会を増やしてインスピレーションを促す事で地力を付けさせる事くらいしか出来なかった。流石にモルフォの死を無かった事にする為には相応のコネが必要になってくる。それこそ、皇神に対してのだ。
だけど、それでシアンを当時の皇神に引き渡してしまったら本末転倒となってしまう。だからこの時のシアンのアイドルへの未練に対しての救済案は暗礁に乗り上げてしまっていた。
だけど、今は違う。あの騒動から一年間の間に紫電は更に昇進しており、皇神でもかなり重要な役職に就く事が出来ていた。そのお陰でコネの問題が実質解決していた。何しろ、現在僕達フェザーはエデンと共に紫電を経由して皇神と手を組んでいるからだ。後は、モルフォの復活によって皇神に利益が出る案等を構築し、紫電に対して相談を持ち掛けるだけで済む。
モルフォの歌を慕っている人々は本人曰く、未だ多く存在している。きっとこの国の人々はモルフォの復活を歓迎してくれるだろう。
…あの時、機械に繋がれていたシアンが僕に連れ出される前に願った事があった。「外の世界で、私の歌を唄いたい」と。僕はこの願いを忘れた事など無かった。だからその当時の僕は、シアンの見た目を年相応にする為にあんな無茶な提案をし、高校進学を見据え勉強も付きっ切りで教え、将来の学校生活における能力を隠す為や、いざと言う時に逃げられるようにする為に制御の練習に付き合い、少しづつフェザーから距離を置く様に動いていたのだが…
今考えてみれば穴だらけの案に過ぎなかった。結局僕の留守の間に当時の皇神に見つかってしまい、連れ攫われ、シアンを守ることが出来なかったのだから。
だからこそ、僕はシアンの願いを叶えたい。この一年の間、シアン達は僕の我儘に付き合ってくれてはいるけれど、偶に取れた休暇の時、ネットの動画でライブなんかの動画を見てどこか羨ましそうな眼差しで見ていた事もあったからだ。皆が集まる機会の時も、シアン達は積極的に歌を披露して場を盛り上げてくれていたし、デイトナからのサインの要求にも答えていた。
それらの行動の節々で、未だにその未練が残っているのが僕だけでは無く、あの場に居た一部の人間は把握していた。そう、紫電やデイトナ等の一部の人達は、その事を把握していたのだ。
「やっとその相談を僕に持ち掛けてくれたね。まあでも、僕の予想よりも早い段階で、だけどね」
「シアンちゃんの願いを叶えてぇのはおめぇだけじゃないって事だぜ? ガンヴォルト」
「紫電…デイトナ…何時から把握していたんだ?」
「あの時リゾート施設に招待した時、モルフォが歌を披露してくれた時があっただろう? 明らかに歌唱力が上がっていたから、実はアイドル活動に未練があったんじゃないかってね」
「だから俺達は俺達の出来る範囲で準備を少しづつ進めていたのさ。こいつが『ガンヴォルトの事だからきっと僕に相談を持ち掛けてくるだろう』ってな。…認めたくねぇが、シアンちゃんの歌が上手くなってたのはテメェのお陰なんだろ?」
「…僕がしたのは歌の練習の為の環境の構築に、シアン達に体力を付ける事、そして能力の制御を出来るように促しただけだよ、デイトナ。後は全てシアン達の努力だ。…それで、協力してもらえると解釈してもいいのか?」
「シアンちゃんの…正確にはモルフォのファンは未だに多い。その証拠に、後続のバーチャルアイドルの人気もモルフォの人気に遠く及ばねぇ。皆、モルフォが居ねぇから仕方なくって所が実情だ。…テメェはシアンちゃんのファンでもあるからな、だから俺は協力してやるよ」
「僕としてもモルフォが再び表でアイドル活動するのは賛成なんだ。モルフォと言う希望が復活すれば、この国も盛り上がるし、経済効果もかなり期待できるだろう。…だけど、一つ問題がある。分かるよね? ガンヴォルト」
「……僕の傍から遠い距離に離れることが出来ない事だね?」
そう、ここに来てこの問題が立ち塞がる事となった。今のシアン達は僕との協力強制によって、あまり遠い位置から離れることが出来ないでいる。これはミチルとの共鳴を防ぐことが目的の物であり、シアン達が今隣の部屋で何の反応も無くミチル達とお茶会なんて開けているのもこのお陰なのである。そして、僕の傍から離れられない事で起こる問題。それは、「アイドルの傍に男…つまり、僕が居る事」だ。
いくらバーチャルアイドルで通っていたモルフォとは言え、男の影がチラつくと言うのは宜しくない。これによりあらぬ誹謗中傷を受ける事だってあるだろうし、何よりアイドルは夢を売るのが仕事なのだ。
「そう言う事さ。常にモルフォの傍に君と言う男が傍に居るとその辺りを勘繰られて大炎上、なんて事があるからね。実際に君達は恋人同士だし、隠し通すのはまず無理だと僕は判断しているんだ」
「実際に、俺はそれが理由でテメェに何度も喧嘩を吹っかけてるしな。…で、どうすんだ? この問題は放置したら不味いだろ?」
「…一応、案が無い訳じゃ無い。問題なのは『モルフォの近くに男が居る』という事だ。だから…」
そう、この問題を如何にかする方法は既にあるのだ。それは嘗て僕自身がフェザーの任務外での活動の際、僕の正体の露見を防ぐための手段であり、未だにパンテーラが僕に執着している原因でもある。その方法とは、
この事が知られたのはあの騒動の直後、アリスが僕の正体をパンテーラに話した事が切欠だ。とは言え、その事に対して僕やアシモフにも許可を求めていたし、僕達は許可を出していたので、アリスの独断と言う訳では無かったのだが。
そのお陰でパンテーラが猛烈に僕に対して是非その姿になる所を見たいとねだられ、実際に姿を変えてみた所、彼女の琴線に触れていたのもあり、思いっきり抱き着かれてしまった。が、その直後、彼女は涙を流していた。これには僕やシアン達、そしてその場にいたG7の皆も困惑していた。曰く、やっとこうして直接この姿の僕と会うことが出来た事と、僕がパンテーラと同じ様に
性別や年齢の超越が可能なパンテーラにとって、方法は違えど同じ事が出来る僕と言う存在は貴重なのだろう。…その後、テンジアンが僕に、シアン達がパンテーラににらみを利かせる様になったのはまた別の話だが。
「こうすれば、問題は無いでしょう?」
「……はぁぁぁぁぁぁ!? なんだそりゃ!? 何パンテーラみたいな事してやがる!! 声や服装まで変化してんのも同じかよ!!」
「……報告はかなり前から聞いていたけれど…いやはや、実際に目にしてみないと分からない物だね、ガンヴォルト。いや、その姿の場合は『ネームレス』と呼ぶべきかな? その見た目だけなら、あのパンテーラが未だに君に執着する理由も分かる気がするよ。…ふむ、
「そう? あの時パンテーラに見せた時は何も言われなかったから気がつかなかったけれど…瞳の色、反転していたのね」
「…口調まで徹底してやがる。目の前で変身してる所を見て無かったら、まんまと騙されてた所だったぞ、これはよぉ」
「そうでなければ私が困るわ。 当時の私は
「…話を戻そう。その姿の君をモルフォの護衛と言う形で居て貰えれば、問題は解決するね。元々、
「そこを強調されると…私も耳が痛いわね」
とまあ、そんな感じでこの問題も解決し、後はどうやってモルフォを再び表に出すのかを尋ねてみたのだが、その方法はこのような物だった。まず、夜の時間に紫電に指定されたルートを実体化させたシアン達を連れて、そして、僕はネームレスの代名詞である透明化をしながら空を飛ぶ事だった。何でも唐突にモルフォが復活したと言うのは違和感が出てくるので、まずはネットや口コミ等で噂話が広がる様にこうして夜の街を飛び回って欲しいのだと言う。
それを三ヵ月ほど続け、噂の信憑性が増して来た所でモルフォの復活を公式に発表し、コンサートの調整を済ませる、と言う流れだ。その時、もし話しかけられたら手を振って応えたりするのも許可された。流石にその場で話し込んだりゲリラライブめいた事はダメだと釘を刺されたりはしたけれど。
それと、ネットでの噂の扇動にはメラクとテセオが担当するみたいだ。少なくともこの二人がタッグを組めばネット関係は大丈夫だろうと考えている。そのネット情報についてなのだが、モルフォが実は生きているのではと言う噂は、実は前からあったのだ。その際にアップロードされていた画像は、
この画像はモルフォ以外は完全にモザイクになっており、居場所までは特定できないようになってはいたけれど、一時期、極一部のネットでは騒がれていたらしいのだ。とは言え、モルフォは世間ではバーチャルアイドルとして通っていたので、「モルフォのモデルになった子なのでは?」と言う憶測で結論が出ていたのだが。
これで後はシアン達のやる気次第と言った所まで調整を進めることが出来た。そして、この事をシアン達に話した時、「是非やらせて欲しい」と言う返事を貰うことが出来た。シアン達からすれば、自身の歌が能力者に対するソナーだったり、洗脳だったりと言う用途に用いられる事も無く、ただ純粋に歌を歌える機会を得られた事が本当に嬉しいのだろうと思った。
何しろこの話をした時のシアン達の表情は、それはもう心からの笑顔だったのだから。今までの努力が実を結ぶ機会が得られた以上、モチベーションも当然高い。
こうして準備は着々と進み、ネットでも夜の空を飛ぶモルフォとシアンの姿の画像や動画が大量に上げられ、モルフォの復活、そして傍で一緒に飛んでいたシアンが新たなバーチャルアイドルと言う噂が飛び交い、遂に皇神からモルフォの復活と、シアンがモルフォとタッグを組む新たなバーチャルアイドルと言う発表が為されたのだ。
この時のネットや世間の盛り上がりは、それはもう僕達の想像を遥かに超えた凄まじい物であった。伊達にこの国の希望だった訳では無いという事が、これでもかと僕達に思い知らせてくれた。
これなら行けると発表から三日後に新曲として「藍の運命」が動画付きで発表された時なんか、街の雰囲気が熱狂に包まれていると言うのを肌で体感できてしまう程だったし、実際にその一ヵ月後に発売された時も、どの音楽サイトでもダウンロード販売数首位を独占してしまう程であった。
どうしてここまで凄い事になったのか? それは、元々嫌々歌わされていた時ですらこの国の希望とまで言われていた程に人気が高かった。それが、本人達が心から歌いたいと全力を出して心から歌っているのだ。この人気もそう考えれば当然であった。
それと、シアンの存在も大きい。動画ではモルフォと動きをシンクロさせたり、仲睦まじそうに歌い合ったりしている姿が人気を呼び、多くの人達からすっかりモルフォの妹ポジとしてその存在を確立させたのだ。そうして「電子の謡精復活ライブ」がニュースに流れ、遂にその時が来たのだ。シアン達の夢を本当の意味で叶える、その時が。
そして今、ライブが始まる三十分前の状況にあった。これからシアン達は本当の意味で初めて全力で、心からの生の歌を大勢の人たちの前でライブと言う形で披露されようとしている。
(ねぇGV、私今でも信じられないよ。こうやって皆の前で歌を歌える時が来たって事が)
(正直ね、アタシはこんな機会が来るなんてもうあり得ないんだって思ってた)
(だから私達は、こんな機会を用意してくれた皆に感謝しているの。だから、その感謝の気持ちと、私達の心からの想いをこのライブでの歌で歌わせてもらうから…)
(だからGV? アタシ達の歌、しっかりと聞いてね)
(…ええ、思いっきり歌ってきなさい。私達はシアン達のライブを楽しみにしているから)
(うん! 行こう、モルフォ! 皆に歌を届けに!)
(ええ! 行きましょう、シアン! 皆、アタシ達を待っているわ!)
そうして開始時間となり二人は外へと飛び出した。そんな二人を、この日の為に用意された大規模な会場に居る大勢の人々が出迎えてくれた。そんな大勢の人達にシアン達による感謝の気持ちが籠ったモルフォの歌の中での始まりの歌、「蒼の彼方」が響き渡った。
…本当に感無量だ。あんなにも嬉しそうに皆の前で歌っているシアン達を見れるだなんて。そう思いながら僕は光学迷彩を展開しつつ警備をしながらライブ会場を眺めていた。
あそこの観客席に見えるのは…デイトナか。それに…アシモフ達フェザー組や、パンテーラ達エデン組、アキュラ達の姿も見つけることが出来た。紫電達皇神組はライブ会場でバラバラに居るのが確認出来た。それにしても…このライブの司会者に見覚えがある。確か名前は「ロメオ」であると聞いているけど…
思い出した。確か皇神第一ビルに居た「変なおじさん」だ。最後に確認出来たのは被虐趣味に目覚めていた所だったけれど。まさかここで再会する事になるだなんて思わなかった。それにしても、司会者が板についている。歌の合間のトークで会場が沸いているのがここからも伝わってくる。
そうしてライブは最後の歌手前まで盛り上がった。「蒼の彼方」から始まり、「霧時計」「蒼き扉」「追憶の
この際、二人は蒼く透明な扇子を構えて妖艶な笑みを浮かべたり、観客の居るスレスレの位置へと飛んで手を振りながら楽しそうに飛び回ったりしていた。
そして「輪廻新章」が歌い終わり、このライブを締めくくった最後の歌は…「青写真」であった。今までの歌とは全く毛色の違う、僕にとってなじみ深い、とてもゆっくりとした物であった。それに合わせてシアン達の動きも今まで激しかったのが、会場の中心で目を閉じ、マイクを両手で持ちながら、ゆっくりと降下しながら歌い上げた。そして、シアン達はこの歌をこのライブで今まで歌い上げたどの歌よりも心を込めていた。その姿は僕の視点から見ると、とても神秘的に見えた。
そう見えたのは僕だけでは無いのだろう。恐らくそれが理由でこの時のライブ会場は完全に静まり返っていた。そしてシアン達が歌い終わり、頭を下げた所で…僕達を含めた会場全ての人達からの沢山の心からの感謝の拍手がシアン達を迎え、無事「電子の謡精復活ライブ」は大成功を収め、終わりを迎えた。
鮮やかな光の中、貴方と生きていく――僕はこれからも、シアン達を守り抜く。彼女達が知った色鮮やかな世界を共に生きて行く為に。そう、僕は改めて心に誓ったのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。