【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第二話

何処にでも居る害虫

 

 今日は神園家の保有している療養施設へとお邪魔していた。ミチルは幼い頃、神園博士による電子の謡精(サイバーディーヴァ)摘出手術の影響で声を失い、体調も悪くなる一方だったのだが、ロロに組み込まれたシアンの力が凝縮されたガラス片から流れ出た力がミチルに流れ込んだことで体調が回復し声まで戻っている。

 

「ここがミチルを療養している施設だ。…最も、此処に居るのも後少しになるのだがな」

「立派な施設だね。…これ程の施設が無ければ彼女を療養するのは無理だったのか」

「ええ、それ程までに、ミチル様はお体が弱かったのです」

『そうそう、今は元気だけどミチルちゃん、つい最近までとっても辛そうだったんだ』

 

 今僕はアキュラとノワに施設の案内をしてもらっている。シアン達は今この場にはおらず、本格的に案内してもらう前に真っ先に訪れたミチルの相手をして貰っている。今頃三人で微笑ましい会話をしている事だろう。そう思い、彼女が療養しいている部屋の近くまで歩いていた時だった。

 

「「「きゃぁーーー!!」」」

 

 突然、三人の悲鳴が聞こえて来た。僕達は全員、弾かれた様に部屋へと突入した。そこには、三人で布団を頭からかぶり、震えていた。

 

「どうした、何があった!?」

「シアン! モルフォ!」

「あ…アキュラ君…ロロ…ノワ…」

「「GVぃ…」」

 

 三人共顔を青くして僕達の名前を呼びながら壁の隅を指さしていた。そこには、黒光りする害虫が壁を我が物顔で這っていた。

 

(…良かった、誰かに突然襲われたとか、そう言う事は無かったんだな)

 

 そういえば、転生前でもシアン達はこいつ(黒光りする害虫)が苦手だったな。しょうがないと思いながら僕は処理を済ませようとした。が、

 

「「ハァ!!」」

 

 僕のそんな思考の一瞬の間に、丸めた雑誌を持っていたアキュラとノワによる一撃が害虫を捉え、速やかに処理が済まされた。…動きが早すぎる。それだけ二人はミチルの事を想っているのだろうけど。

 

「やれやれ…ここの衛生はどうなっている?」

「衛生管理の責任者に問い合わせてみます。ミチル様、シアン様、モルフォ様、怖がらせてしまい誠に申し訳ございません。衛生管理の責任者にはさらなる恐怖を味わわせておきますので」

「ほどほどにしておけ。ここの世話になるのは後少しとは言え、働く人間が居なくなるのは困るからな」

『二人共怖いよ…』

「……ロロ、それだけ二人にとってミチルが大事なんだろう。今まで体調が悪かったのもあるだろうし」

 

 内心ロロの言葉に賛同しつつ、そう言いながら脅威(黒光りする害虫)が居なくなった事を僕は三人に伝えるのだった。

 

 

――――

 

 

正体を明かして

 

「これは…」

「…………」

「うわぁ…綺麗…」

『でしょ? 実はもう一つ、オウカの護衛をしてた時の姿があってね…』

『そうそう、その姿の時の写真が…』

 

 僕は今、アキュラ達の前で「ネームレス」の姿に変身していた。アキュラとの決着を着けた後、どうせなら隠し事の清算もしておきたいと思っていたからだ。その隠し事とは、以前アキュラの研究所にこの姿で潜入した事だ。

 

「こうして直接変身している所を見なければ、戯言だと切り捨てる事が出来たのだが…」

「まあ、そう言う事よ…ごめんなさいね。変身前に話した通り、回収したデータは廃棄したとはいえこんな風に姿を変えて貴方の研究所からデータを奪ったのは事実よ」

「…一つ聞きたい。何故奪ったはずのデータを破棄した? 俺が言うと自画自賛になってしまうが、当時のお前達からすればその価値は相応にあったはずだ」

「当時の私達フェザーが真似出来るという事は、当然皇神もデータがあれば真似が出来るという事。あの段階の皇神やフェザーにこの技術を流出させた場合、私もアシモフも悲惨な未来しか想像できなかったから…」

「…そうか。とは言え、元を正せば俺がお前から蒼の雷霆(アームドブルー)の因子を得た事が切欠だ。因果は何時か巡ってくる覚悟は、持っていたつもりだった。…お前達の理性に、感謝する」

「…ガンヴォルト、一つお願いがあるのですが」

 

 こうして僕はアキュラに対する隠し事を話し終え一段落付いた所で、先ほどから沈黙していたノワが僕に対していつの間にか用意していたある物を差し出しながら話しかけて来た。それはミチルの付けている髪飾りと紫のジグザグ型のカチューシャだった。

 

「何も聞かずに、これらを身に付けて貰っても構わないでしょうか?」

「この髪飾りは…ミチルが何時も身に付けている髪飾りの予備だな。そのカチューシャは…何処かで見た事があったような…?」

「……分かったわ、ノワ。…これでいいかしら?」

「…………ありがとうございます」

 

 僕はこれらをノワから貰い、身に付けた。そして身に付け終わった僕を見て、ノワは何所か懐かしそうな表情で僕を見つめていた。…今の僕のネームレスとしての姿は()()()()()()()()をした状態だ。もしかしたら、ノワは知人の誰かと姿を重ねているのかもと僕は思った。…流石にその後出された制服を着てもらう様にお願いされた時は丁重に断らせてもらったけど…ノワは一体今の姿の僕を誰と重ねていたのだろうか?

 

 

――――

 

 

破廉恥から始まる、二人の世界

 

 シアン達がミチルとロロと一緒にファッション雑誌を呼んでいるのを、僕は部屋の少し離れた位置でアキュラと見ていた。四人共、あーでもないこーでもないと楽しそうに話し合っており、僕はそんな光景を微笑ましく見ていた。そんな時、ミチルがアキュラに話しかけてきた。

 

「アキュラ君、見て? この服いいと思わない?」

『僕としても、この服はいいと思ってるんだけど…アキュラ君はどう?』

『私もこの服、ミチルに似合ってると思うんだけど』

『アタシも皆と同じ意見なんだけど、どうかしら?』

 

 ミチル達四人がそう言いながら指さしたのは、全体的に大きく露出した服だった。…大人しそうな外見をしている彼女だけど、案外こう言った派手な服装を好むのかと僕は考えたが…彼女は電子の謡精(サイバーディーヴァ)の本来の能力者。その能力の大本であるモルフォや強い影響を受けているロロの姿を鑑みるに、納得出来る要素はあったのだが…

 

「…破廉恥だな」

「『『『はれんち!?』』』」

「そう言う服はやめておけ。…と言うか三人共、こんな服をミチルに勧めて貰うのは困る」

 

 アキュラの一言でバッサリと切られた四人は少しむっとした顔をした。だけど、アキュラのそんな一言に負けじとミチルはその理由を語った。

 

「アキュラ君、私よりもずっと大人っぽいから、二人並んだ時に子供っぽく見られる服は嫌なの…」

「…ミチルはもう元気になったんだ。無理に大人ぶる必要は無い。お前らしい恰好をしてくれ。…何年か経てば、そう言った恰好も似合うようになる。もう、焦る必要は無いんだ」

「アキュラ君…」

『…僕達、置いてけぼりだね』

『そうね…』

『うん…』

「…まあ、綺麗に話が纏まって良かったと考えよう」

 

 アキュラ達は二人の世界を無意識に作り、僕達四人を置いてけぼりにしてしまっており、僕達は何所か呆れながらそんな二人を眺めていたのであった。




(GVは)シアンとの心の繋がりを感じた

(アキュラは)ミチルとの心の繋がりを感じた

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