【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
転生前、かつ年齢は大学生辺りなので一人称が「僕」から「俺」に変化しています
画面の向こうの彼女と近くて遠い彼女
これはまだ俺が転生する前の大学に通っており、そしてまだシアンの事を「モルフォ」と呼んでいた頃、とあるゲームが販売された。そのゲームの名前は「シェルノサージュ」。確か雰囲気が「アルトネリコシリーズ」に似ていたと言う理由で購入したはずだ。実際に同じゲームメーカーが販売を開始したのだから、それも当然の話ではあるのだが。
『…………(やっぱり、このゲームを起動してる時だけ知らない波動を感じる。それに前に歌を聞かせた時、イオンの疲れが無くなってた…やっぱり、この画面の向こう側は、実際に存在するんだ…)』
(…………モルフォから、とても真剣な想いを感じる。少なくとも、とてもゲームをしていると言う雰囲気じゃない。このゲーム、選択肢にからかったりふざけたりする様な物もあるけど…)
このモルフォの想いを感じた以上、俺自身も真剣に選択肢を吟味する必要がある。いや、俺だけで選ぶのは不味い。彼女の意見も聞くべきだろう。…だけど、俺には彼女の言葉が…声が分からない。そう、丁度この「シェルノサージュ」で登場する端末とイオンとのやり取りみたいに。
(このゲームはある意味似ている。そう、
モルフォは通常の状態では姿が見えない。歌を歌っている時、そして歌った後の少しの時間だけ彼女の姿を見ることが出来る。そして触れ合う事も、言葉などのコミュニケーションを取る事も出来ない。だけど、その代わり彼女の想いに長く触れていたお陰で大まかに彼女の言いたい事を感じる事が出来るようになっていた。とは言え、シェルノサージュの端末みたいに正確に分かる訳では無いのだが。
「(…先ずは、彼女の事に専念しよう。モルフォは彼女の状態を見て、更に「イオンの音声記録ディスク」を聞いた後に強い憤りを感じていた。…間違い無く、モルフォの過去に関係しているのだろう)モルフォ、この選択肢なんだけど、どっちを選択した方がいいと思う? 俺は上の方を選択した方がいと思うんだけど」
『そうだね…私も同じでいいと思う』
「…………モルフォも同じ意見なんだね? じゃあ、選ぶよ」
…こうしてこの「シェルノサージュ」を進めて思った事がある。画面越しではあるが姿も見え、声も聞こえる「イオン」と言う女性、そして俺の隣で普段姿を見せられず、声も聴けない「モルフォ」。イオンと俺の距離とモルフォと俺の距離、果たして何方が遠いのかと。
(本音を言えば、モルフォと触れ合いたい。それが叶わなくとも、せめて声を聞いて話がしたい)
そう、丁度今やっているシェルノサージュでイオンとのコミュニケーションをしている様に。…それが叶うのがこの世界における俺の人生が終えた後である事を、今の俺は知る由も無かった。
――――
途切れた通信
「シェルノサージュ」発売から二年後、まだシェルノサージュが完結していないのに「アルノサージュ」と呼ばれるゲームが販売された。その内容はシェルノサージュのネタバレを容赦無く当時のプレイヤーに叩きつけた。が、このゲームの世界観を考えるに、このネタバレも織り込み済みなのだろう。
『つまり、
『それを
「…………二人の考えを纏めると、大体そうなると俺は思う」
あれから二年が経ち、とある出来事を切欠に
『イオン、無事に元の世界に戻れると良いね…』
『アタシ達が諦めなければ、きっと大丈夫よ』
「…………そうだね」
そう信じてアルノサージュを進め、適度にシェルノサージュとセカイリンクもする事で有利に俺は進めて行く。セーブもこまめに、シェルノサージュでのセーブデータ消失の危機もあった事が切欠でバックアップも怠らずに用意している。だけど、「それ」は起こるべくして起こった。
『そんな!』
『どうして画面が暗いままなの!』
「…………ちょっと、ネットで調べてみる」
そうして掲示板を調べてみた所、今の俺と同じ状況でゲームがストップしてしまったと大炎上を起こしていた。そう、「アーシェスが衛星砲からイオンを庇って大破したシーン」で。
『GV…』
『大丈夫よね? イオン、助かってるわよね?』
「…………きっと、大丈夫のはず。信じて修正されるのを待とう」
この俺の発言が為される事は無かった。この数日後の大地震によって。そしてこの問題は俺が転生した後、多くの人達の手を借りる事で漸く解決の糸口を掴むことが出来る様になるまで先延ばしとなるのであった。
――――
羨ましい
俺は今両親からのお土産で和菓子のようかんを食べようとしていたのだが…
『うぅ……いいなぁ、GV』
『みっともないわよ、シアン?』
『そう言うモルフォだって、さっきからようかんに釘付けじゃない』
『…そんなことないわよ』
「…………(シアン、モルフォ、こればっかりはどうしようもないんだ。ゴメン)二人には悪いけど、頂きます」
そうして俺は一口大にカットしていたようかんを口に含んだ。…思ったよりも甘さが控えめでおいしい。思わず笑みが零れてしまう。
『『あぁ~~~~~!!』』
二人の「羨ましい、私達も食べたい!」という想いが俺に突き刺さる。とは言え、この出来事はこれが初めてと言う訳では無い。シアンは俺が子供の時からずっと一緒にいたのだから。
『……ねぇ、シアン』
『何、モルフォ?』
『アタシがGVに初めてうどんを食べさせてもらった時の事、覚えてる?』
『うん。…そう言えばあの時、「こうして何かを食べるのに憧れてた」って言ってたよね』
『覚えていた様で何よりだわ。…今ならあの時のアタシの気持ち、分かるでしょう?』
『…うん。私の場合、なまじ味を知ってる分…』
…二人から辛そうな想いが伝わってくる。二人共僕の傍から離れる事が出来ないから、こういう時はどうしようもない。だから…
『そういえば…ねぇモルフォ、GVのセーフハウスに居た時の私達のおやつで良くようかんとかの和菓子が出てたのって…』
『…アタシ達が羨ましそうに見てたのをGVが覚えてくれていたから…?』
だからもし、二人に食べさせてあげられる時が来たら…おやつにはようかん等の和菓子を必ず用意しようと、俺は思ったのであった。
シアンとの心の繋がりを感じた