【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第八話

モルフォはシアンの…

 

「ねぇGV、ちょっといい?」

「ん…モルフォ、どうしたの? 何か嬉しそうだけど」

 

 モルフォが何所か嬉しそうに僕に話しかけて来た。…モルフォから僕を驚かせようとしている雰囲気を感じる。笑顔で、とても嬉しそうだ。こういう時のモルフォは本当に綺麗で、見惚れてしまいそうになる。

 

「ちょっとシアンが居る訓練所に来て欲しいの。GVに見せたい物があって」

「訓練所? …第七波動関係かな?」

 

 僕とシアン達が使える第七波動「蒼き雷霆」と「素粒子の謡精女王」。この二つの第七波動は未だに能力の底が見えておらず、新たなスキルや使い方を模索している最中だ。つい最近では「素粒子の謡精女王」の世界を越える範囲の精神感応能力を応用し、一種の普遍的無意識を形成し、そこから力を引っ張り出すと言う方法を確立出来るようになった。まあつまり、「相州戦神館學園八命陣」に登場する「終段」を素粒子の謡精女王で再現したという訳である。

 

 とは言え、終段の再現は既に蒼き雷霆で可能ではあるのだが、出力は断然素粒子の謡精女王で行った方が上なのだ。何故ならイメージのし易さもあるが、単純に大勢の人達から力を借り受ける事が出来るからだ。僕はそんな事を考えながらモルフォと一緒に僕のセーフハウスにある訓練所に足を運んだ。

 

「お待たせシアン。GVを連れて来たわよ」

「ありがとう、モルフォ」

「シアン、見せたい物があるってモルフォから聞いたんだけど」

「うん。 でもその前に…GV、「謡精の目」を使ってて欲しいの」

 

 謡精の目…蒼き雷霆で増幅した「波動の力」を目に集中させる事で見えない存在が見えるようになるスキルだ。これのお陰でノワの正体を見破ったり、第四から第六の波動を感知することが出来た。…僕はシアンの言う通りに謡精の目を発動させた。

 

「早速使わせてもらったけど…」

「ありがとう、GV。 じゃあよく見ててね…モルフォ!」

「行くわよ! ()()()()()!」

 

 モルフォから第七波動とは異なる波動が雷となって落ちた。これは…今の雷は第七波動じゃない! 第六波動による物だ! それにモルフォが放った雷の名前…ペルソナシリーズで使われている雷の魔法の名前だ。…そういえば、ここに居るモルフォはシアンがペルソナのイメージで深層意識から呼び出された存在だ。

 

「つまり、モルフォがペルソナとしてのイメージで呼び出したから、もしかしたらペルソナシリーズの魔法が使えるんじゃないかって思ったの」

「そして試したらドンピシャだったって訳よ!」

 

この後もモルフォはペルソナシリーズの魔法を色々と披露し、中には「真理の雷」等の特定のペルソナ固有の専用の魔法をも行使していた。これは素粒子の謡精女王による終段を応用しているとの事。そう言った事も有り、モルフォ限定ではあるけど、遂にこの世界のファンタジー要素に対しての足掛かりを付ける事が出来たのであった。

 

 

蒼き雷霆を扱う注意事項

 

 アキュラの屋敷の訓練所にて、以前ミチルと約束した今日の蒼き雷霆の訓練を終え、僕達は一息付いていた。

 

『ミチルちゃん、大丈夫?』

「ロロ…うぅ、まだ力が抜ける感覚が続いてる…」

「おい、ガンヴォルト…ミチルは大丈夫なんだろうな?」

「僕も初めてオーバーヒートをした時はそんな感じだったよ、アキュラ。…蒼き雷霆を扱う以上、避けては通れない道なんだ。一度は絶対に経験しないと寧ろ不味い」

「私も最初はそんな感じだったなぁ。…今はもう慣れたけど、オーバーヒート中って物凄く怠いのよね…」

 

 今話している内容は、訓練を終える直前にミチルにオーバーヒートを体験させた事だ。アキュラにも話した通り、オーバーヒートは蒼き雷霆を扱う以上避けては通れない。これは僕やアシモフ、シアンにモルフォ、アリスにパンテーラだって例外では無い。

 

「歌いながら蒼き雷霆を使えば、オーバーヒートにならなくて済むのかな?」

「…歌いながら戦うと言うのは無謀だと思うぞ、ミチル」

「別々の能力の同時行使は例外(パンテーラ)を除いて現実的じゃないのよね…」

「私達も、一度は通った道だよ…」

「歌の支援を受けている僕の意見だけど…例えばニムロドのリキッドや、カレラの磁界拳(マグネティックアーツ)とかは例え歌の支援があっても対策無しで受けるとEPエネルギーの残量関係無しにオーバーヒートしてしまうから、歌があれば絶対にオーバーヒートしないという事は無いんだ」

 

 そんな風に僕達が話し込んでいる際、ノワが一口サイズに切り分けられた様々な果物を乗せた皿を持って姿を現した。

 

「皆様、お待たせしました」

「ノワか…今日は果物が多いな」

「蒼き雷霆は使用しているとお肌が乾燥するとガンヴォルトから聞き及んでいましたので」

「そういう訳で、ビタミンやミネラルが豊富な果物を間食で用意する様にお願いしていたんだ。肌の乾燥を防ぐ意味でね。僕は兎も角、女の子であるミチルは気にした方がいいだろうし」

「シアン、知ってる? ノワって凄く器用なんだよ? …ほら見て、こんな風にリンゴを兎の形にカットしてくれるの。凄いでしょ?」

「確かに器用で凄いのは間違い無いと思うけど…私の知ってる兎の形じゃない*1ような…」

 

 そうした会話をしながら小休止を挟んだ後、再び訓練を再開し、その後の夕食で出されたサラダの中に入っていたブロッコリーを避け、アキュラにさり気無く差し出すミチルと、それをやんわり断り、蒼き雷霆の訓練を理由に食べる様に促すアキュラという微笑ましい光景を見ながら、僕は穏やかな時間を過ごしたのであった。

 

 

人間賛歌を謡う魔王

 

 僕達は最近ちょくちょくと尋ねてきているパンテーラから最近見た「夢」の内容を聞かされていた。それは簡潔に言うと「とある男」との会話と、ちょっとした戯れだと言う。

 

「なんでも私は「盧生」と呼ばれる存在になれる可能性があるとの事で…」

「盧生だって!」

 

 …黄昏の女神やイオンが実在しているという事は、当然盧生も実在していると考えるのが自然だ。しかし「とある男」と言っている以上、少なくとも候補は二人に絞られる。一人は「継承」を理想とする盧生「柊四四八」。 …だけど、彼がそんな事をパンテーラに言う想像なんて出来るはずも無い。

 

『…因みにその男の人の名前って分かる?』

「ええ、しっかりと名前も覚えています。…「甘粕正彦」、そう名乗っていました」

『何となく予想はしてたけど、やっぱりかぁ…能動的に貴女と接触してきそうな盧生で思い当たるの、その人しか思い浮かばないもの』

「…出来ればそうであって欲しくなかったよ」

 

 甘粕正彦…彼は本来実在する人物であるのだが…盧生を名乗っている以上、「相州戦神館學園 八命陣」で登場する「ぱらいぞ」を理想とする盧生「甘粕正彦」に相違ないはず。…何となくではあるけど、この二人は気が合いそうに思える。だけどパンテーラが盧生になれる可能性があると言うのはどういう事なのだろうか?

 

「なんでも私の第七波動、理創境(アルカディア)の幻と現実の境界線を取り払う力を利用すれば「夢界」と呼ばれる所へと行く事が出来るのだとか」

「…第七波動は能力者の解釈次第でその応用範囲も広まる。そして幻は夢とも捉える事が出来る。…もう夢界へは行ったのか?」

「いいえ、そもそも私にはそこへ行く理由がありませんので、その誘いはしっかりと断らせて頂きました。…ですが、彼との話と戯れは実に有意義で楽しい物でした。あのような苛烈な愛のカタチを知り、それを体験出来たのですから」

『…なんかその内容が想像できちゃうかも』

 

 …僕にも想像出来る。変身したパンテーラと甘粕の二人が高笑いしながらぶつかり合っている姿が。

 

「そういえばガンヴォルト、シアン、モルフォ、彼から伝言を預かっています。『俺の夢を再現するだけでは無く応用までしてみせるその力…実に興味深い。是非会って話がしたい』…だそうです」

 

 パンテーラのこの伝言を受けた時点で話だけで済むはずが無い。甘粕が僕達の力を体験したいが為に戦いを挑まれる事をこの時点でありありと想像が出来た。

 その後日…結論から先に言うと、彼の基準での腕試しを少しだけと、話し合いで済ませることが出来た。そして僕が懸念していた夢を再現する事を肯定し、寧ろ積極的に使っていけとのアドバイスまで貰ってしまった。「それは夢の再現ではあるが、夢その物では無い。お前達自身の力である以上、俺達(盧生)に遠慮をする必要は無い」と。

 この言葉は僕に邯鄲の夢の再現の躊躇を無くすのに十分な理由となり、結果的に僕達の戦闘力が向上するのであった。

*1
彫刻のような精密さと言う意味で文字通り、兎の形にカットされている。




(GVは)シアンとの心の繋がりを感じた

(アキュラは)ミチルとの心の繋がりを感じた

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