【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第二話

皇神(スメラギ)とエデンの抗争」の後、僕は色々あってネームレスとしてフェザーと合流する事を選んだ。最初はこんな僕の存在を何処か可笑しいと思われていたが、この世界のデータバンク施設の情報を一部公開したり、実際の潜入ミッションで成果を上げ続けた結果、フェザーの諜報班の一員として活動する事が出来るようになり、フェザーからある程度の信用を得る事が出来た。

 

 この際、この世界の僕やジーノ達が居るチームシープスともそれなりの付き合いが出来るようになり、時には模擬戦の相手になったり、料理を振舞ったりとプライベートでもそれなりの付き合いも出来るようになった。これでこの世界の僕やフェザーの皆からある程度の信用を得ると言う目的は達成できた。

 

 そして始まった電子の謡精破壊ミッション。それは僕の居た世界()()発生した物で、事前情報では皇神第一ビルに破壊対象であるプログラムコア…機械に繋がれたシアンが居るとされていた。だけど実際に突入してみれば蛻の殻で、既に近くの輸送列車に積み込まれていた。あの時はわざと捕まって情報を得る事で対処し、何とかギリギリのタイミングで列車に乗り込むことが出来たのだが…

 

 とは言え、そんな苦労を態々この世界の僕にさせるつもりは無い。何しろあのビルには何処か可笑しい変態のオジサンが居るのだから。…まあこの世界の僕も蒼き雷霆(アームドブルー)であり、シアン達曰く、同じ時間軸での僕との実力差はSPスキル等を考慮しない上で蒼き雷霆()()で換算すると、この世界の僕の方が高いとの事なので心配は不要だけど。

 

 これはラムダドライバ…「波動の力」の訓練をアシモフと試行錯誤していた時間を完全に訓練に集中する事が出来たからだ。実際に動きのキレや射撃の精度、雷撃麟の展開速度等の基本的な項目は今の僕よりも上であると認めざるを得ない。後、習得しているスキルが「ライトニングスフィア」のみだと言うのも大きいだろう。何しろ、行動の選択肢が少ない分迷いなく動ける。そう考えている内に、この世界の僕が輸送列車に乗り込む事に成功し、本格的にミッションが始まった。

 

「コードネームGV「ガンヴォルト」より、シープス3、回線開いて」

「こちらシープス3! 無事に列車に取り付けたようね」

「ええ、これより予定通り、電子の謡精破壊ミッションを開始します」

「分かったわ。…いつも言ってる事だけどGV、無茶も程々にね。今回のミッションはネームレスも付いているから負担は軽減されているとは思うけど…アシモフ?」

「うむ…こちらシープスリーダー。了解した、シープス2と()()()()()は予定通り、GVのサポートを頼む」

「へいへい、こちらシープス2、今回はいつもと違ってネームレスが居てくれるから少しは気が楽だぜ」

「シープス4、了解よ。…GV、()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()から」

「…了解、善処するよ」

「あ、今俺が言おうとした台詞が…! まあそれはいいとして、GV、ホントに分かってんのかねぇ?」

「それは本人のみぞ知る事よ、ジーノ」

「では、これより電子の謡精破壊ミッションを開始する。グッドラック!」

 

 そうしてミッションが開始された。この世界の僕は順調に危なげなく列車を進んでいる。…うん、この調子ならば問題は発生しないだろう。そう思わせる程に安定した動きをしていたのだが…

 

「後方より、複数のレーダー反応を確認。第九世代戦車みたいね…」

「敵を捕捉した、これより邀撃する。一機目命中、二機目命中! …チィ! タンク二機の狙撃に成功、撃破した。スマン、残った一機がそちらの列車に向かったぞ」

 

 そう、ここでアシモフが三機目に対して狙撃を外したのだ。…恐らくこの世界のアシモフが「波動の力」を知らない事が原因なのだろう。とは言え生憎この場には僕も居るのだ。列車に接近等、させはしない!

 

「そこよ! 取りこぼしの一機を撃破したわ。…アシモフ、貸し一つね」

「サンクス、ネームレス。…GV、障害は排除した。急いで先頭車輌へと向かってくれ」

「了解」

「…なぁ、ネームレス」

「どうしたの、ジーノ?」

「やっぱプログラムコアを破壊したら、もうモルフォちゃんも観れなくなるんだよな。オレ、モルフォちゃん結構気に入ってたんだよ。大人っぽいところとかさ。まさか彼女の歌が能力者をあぶり出す(ソナー)だったなんて…やっぱりショックだぜ」

「…そうね」

「電子の謡精が、この国の人々の希望で心の拠所だとしてもだ。現実はあの謡精により、多くの同胞だちが皇神に捕らえられ、今も苦しんでいる」

「……」

「…判ってるって。任務に私情を挟むほど、俺はバカじゃねえさ」

 

 そうして先頭車輌へと到達しようとしたその時、第九世代戦車(マンティス)の最後の一機が立ち塞がっており、レーザー砲による砲撃を撃ち込んで来た。その狙いは正確であり、この世界の僕を見事に捉えたと思われたが…

 

「電磁結界「カゲロウ」…どんな攻撃も僕には通用しない!」

「一瞬ヒヤッとしたわよ、GV。…いい? 無人型の第九世代戦車には共通する弱点があるの。頭部に大ダメージが入ると、非常冷却が働いてコアが上部に押し出されるわ。そのコアを攻撃すれば倒せるはずよ」

「了解、迎撃開始します。ありがとうモニカさん。…迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)!! 我が敵を貫き滅ぼせ!!」

 

 カゲロウのお陰で難なく攻撃を凌ぎ、第九世代戦車をモニカさんの情報通りに頭部に大ダメージを与え、コアを露出させた。そして、この世界に来て驚いた事が一つある。それはこの世界におけるSPスキルの運用法だ。…()()()()()()()()()()()()詠唱は僕の世界ではイメージを強固にする為に必要であり、僕自身、シアンの歌の強化が無ければ難しい、そう思っていた。…目の前の光景を見るまでは。

 

「コアが露出したわ、今よGV!」

「了解、仕掛けます!」

 

――天体の如く揺蕩え雷 是に到る総てを打ち払わん

 

「迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)!! ライトニングスフィア!!」

 

 この世界の僕が放った詠唱無しのライトニングスフィアは僕の放ったものと威力も変わりなく、問題無く第九世代戦車のコアを破壊して見せた。後に聞いた話なのだが、詠唱も頭の中で瞬間的にイメージしているとの事。実際にこっそりと一目の付かない所でこの方法をシアン達と一緒に試してみたのだが、僕達も例外無く使用出来た*1。…棚からぼた餅とは正にこの事であった。後にこの方法は僕の居た世界でも広く知れ渡る事となるのはまた別の話だ。そしてその時は来た。

 

「この車両に電子の謡精…モルフォのプログラムコアが…これは…!? これが…モルフォ…? そんな…これは…!」

『…貴方は? 研究所の人じゃ…ないの?』

『アタシは、この子の想いが具現化した電子の謡精(モルフォ)という名の第七波動()…貴方、研究所(プロダクション)の人間じゃないんでしょ? お願い…この子を…アタシをここから連れ出してくれない?』

「…ッ! …こちらGV、ターゲットと接触しました。情報の修正を…電子の謡精はプログラムデータなんかじゃない…小さな女の子の第七波動(セブンス)です」

「なんですって…!」

「少女に敵対意思は無し…皇神に拘束されているものと思われます」

「皇神のヤツら…えげつねぇコトしやがるぜ」

「…そうね」

「これよりミッション内容を変更。彼女を救出…」

「いや、変更はしない。その子を抹殺しろ、GV」

「アシモフ!?」

(やっぱり、アシモフはそう答えるわよね…)

「すぐに皇神の増援が来る。君は罠かもしれない少女をかかえたまま戦うつもりか? 仮に無事に済んだとして、その後はどうする? フェザーに――武装組織に彼女の居場所があるのか?」

「…それは!」

『…………それなら…私を殺してください。もう、あの人達の為の歌は…皆を苦しめる歌は、唄いたくない…だからいっそ、殺してください』

(…この子は……あの頃の僕と同じだ。アシモフに助けてもらったあの頃の…)

(そうよGV。シアンを助ける。その事に…)

((迷う事は無い))

「簡単に命を投げ出すな! 君が自由を望むのなら僕が()を貸す! 僕は君を助けたい…君の本当の願いは何?」

『私は…外の世界で、私の歌を唄いたい…!』

「OK。それが君の願いなんだね……アシモフ、僕はフェザーを抜ける。かつて貴方が僕に自由をくれたように…今度は僕が彼女の翼になる」

 

 この世界の僕は「自由」に対して強い想いがある。そんな彼が機械に繋がれて不自由でいる彼女を見たのならば、この選択を選ぶのは当然の事だ。だからこそ…

 

(きっと私と彼はこの点(自由に対する見解)では分かり合えないわね。…私は本人が望んでいる事とは言え、シアン達を喜んで拘束し、束縛しているのだから)

「それがお前の選んだ「自由」か。ガンヴォルト…いいんだな?」

「ええ…」

「了解した…組織に規律を乱す者は不要。これよりコードネームGVをフェザーから除名する」

「ちょっとちょっと、二人とも! 何を言っているの!?」

「そうだぜ! 二人とも! どうかしてるんじゃねぇか!? ネームレスも何か言ってくれよ!」

「…一度こうなったGVはテコでも動かないわ。二人共、もう分ってるでしょ?」

「それは…」

「まあ、そうだけどよ…」

「…いいんだ、モニカさん…ジーノ…ネームレスも…今までありがとう」

「皇神の増援部隊は我々フェザーにまかせてもらおう。今の君は我々フェザーとは関係のない一般市民だ。戦いに巻き込むわけにはいかん。…グッドラック」

「GV、貴方の…貴方達の新しい旅立ちに幸あらんことを。…行ってらっしゃい」

「…ありがとう、アシモフ、ネームレス」

「……羽? ……貴方は、天使?」

「ボクはGV――ガンヴォルト。君の名前は?」

「私は…シアンです」

 

 そしてこの世界の僕は、電子の謡精(シアン)と出合い…僕の、そしてアシモフの予想通り、フェザーを抜け、彼女の翼となった。…それにしても、そろそろ()()()()()()()()んじゃないかって思っていたのだが…

 

(アキュラは結局出てこなかったわね)

 

 皇神の増援部隊の撃退を終え、一息つきながらそう思ったのであった。

 

――

 

 フェザーを辞めてフリーの傭兵…所謂何でも屋の様な事をするようになってから半年と少しの月日が流れた。とは言え、受ける依頼の殆どがフェザーからなので、ゲリラ工作任務が殆どで、例外と明確に言えるのはネームレスからの訓練依頼等であった。

 

「ふぅ…また腕を上げたわね、GV」

「ネームレスこそ、相変わらずな様で何より」

「聞いたわよ。最近では皇神の工場施設に薬理研究所の襲撃に成功したって」

「ええ、これも事前情報をしっかり集めて貰ったお陰ですよ。特に第三海底基地の件では、本当に助かりました」

「アレは本当に巧妙だったわね…諜報班もまんまと騙されてしまったのだから」

「あそこでネームレスがハッキングをして海水注入を阻止してくれなかったらどうなっていた事か…」

 

 そう話しながら訓練を終え、僕は帰宅する事となった。但し、今回はネームレスも一緒について行く事となっている。フェザー構成員である彼女が僕とシアンに接触するのには様々な工作や手続きが必要だ。とは言え、それはもう終わっており、今日の訓練依頼と被せる様に調整していたと本人は語っていた。

 

「それで、()()()()()()()()はどう?」

「まあまあと言った所かな。…彼女は僕以上に楽しんでるみたいだけどね。最近ではあだ名を言い合うくらいの友達も出来たって聞いてるし」

「そう、それは良かったわ。…もうそろそろね」

 

 ネームレスの言う通り、僕の隠れ家のドアが見えた。あの先に僕の帰りを待つシアンが居る。

 

「お帰りなさい、GV。こんにちは、()()さん。お仕事お疲れ様」

「ただいま、シアン」

「こんにちは、シアン」

「それとね、今日は学校がお休みだったから簡単なお昼ご飯を用意したの。GVと優奈さんの分も用意してあるけど、どうかな?」

 

 シアンは任務終えた後、こうして簡単な料理を用意してくれる事が多くなった。これもネームレス…いや、この場では優奈さん*2と呼ぶべきだろう。彼女は僕に会いに行く際、シアンに簡単な料理とお手軽なレシピを教えてくれていた。そのお陰でこうしてシアンの手料理を時折食べる事が出来る様になっていた。

 

(…私の教えた通り、上手く出来てたわね)

(本当ですか!? 良かったぁ…)

(この調子でいけば、きっといいお嫁さんになれるわ)

(えぇ!! お嫁さんだなんて…)

(意中の相手を得る基本はその人の胃袋を掴む事…私の場合もそうだったわ。シアンも頑張りなさい。私も応援してるから)

 

 食べ終えた料理を片付け、食器を洗っていた為、離れた二人の会話は良く聞こえなかったが、シアンの顔が少し赤くなっており、機嫌も良くなっていた。きっと有意義な会話を出来ていたのだろう。…僕は優奈さんとシアンが初めて顔を合わせた際、シアンの機嫌が氷点下にまで落ちていた事を思い出していた。

 

 一応フェザー構成員である事等も顔を合わせる前に説明していたのだが、如何した物かとその時の僕は思っていたのだが、優奈さんがシアンの耳元にとある事を告げた結果、その機嫌が急速に回復し僕は安堵した物であった。その内容を僕は聞こうとしたのだが、「内緒」の一言で誤魔化されている。

 

「でも、良かったんですか? 優奈さんの所は忙しいってGVから聞いていたのに、お泊りだなんて」

「いいのよ。その為に色々と調整を済ませてここに居るのだから。…むしろ良かったのかしら? 私をお泊りさせちゃっても」

「優奈さんなら()()()()()()()()()のは分かってますから」

 

 …間違いとは何のことなのだろうか? まあ兎も角、僕達はこの日、のんびりとした一日を過ごすことが出来…なかった。そう、この日の夜更け…シアン達も眠りにつき、僕も就寝するため寝巻きに着替えようとしたその時、フェザーからの緊急入電が舞い込んできたのだ。

 

「こちらフェザー! GV、応答を!」

「モニカさん…こんな夜更けに…どうしたんですか?」

「ごめんなさい、GV。貴方に緊急のミッションをお願いしたいの。私たちが追っていた皇神の能力者が、その近くに逃げたようなの。ジーノが追っていたんだけど負傷してしまって…」

「すまねぇ…しくじっちまった…」

「ジーノ…!」

 

 ジーノは普段の態度は軽いが、その戦闘技術に関してはフェザーでもトップクラス。つまり、相手はそれ程のの強敵だということだ。…僕一人で行くよりも、優奈さんに…ネームレスにも同行して貰う方がいいだろう。戦力は多いにこしたことは無いはずだ。

 

「…分かりました。そのミッションを引き受けます。それとモニカさん、今僕の所にはネームレスが居ます」

「ネームレスが? そういえばシアンちゃんの様子を見に貴方の所に泊まりに行くって言っていたわね。…大丈夫そうかしら?」

「休暇はほぼ終わった様な物だし、問題無いわ。今は緊急ミッションの方が大事よ。それと、話は全部聞かせて貰ったから、状況は把握しているつもりよ」

 

 いつの間にかネームレスは僕の背後に立って話を聞いていた。…この神出鬼没さは敵に回せば恐ろしい。が、味方なのならばこれ程頼もしい事は無い。

 

「わりぃな、GV、ネームレス…奴は強ぇ…気を付けてくれ」

「ああ…ジーノはゆっくり休んで、後は僕達に任せて欲しい」

「このミッションが終わったらお見舞いに行かせてもらうわね、ジーノ」

「…むにゃ…GV…優奈さん…また出かけるの?」

 

 シアンが眠そうに目をこすりながら顔を出す。どうやら起こしてしまったようだ。

 

「ごめんなさいね、シアン。緊急ミッションが入ってしまって…」

「シアン、もう夜も遅い…ベッドに戻って休んでいるんだ」

「ううん…私、起きてる。起きて、貴方達の帰りを待ってるから…」

 

 真っ直ぐに、シアンは僕達を見つめる――もう彼女の意思が曲がる事は無い様だ。

 

「分かった。なるべく早く戻るから。…行ってくるよ、シアン」

「行ってくるわね、シアン。…朝食の時間までには必ず戻るわ」

「行ってらっしゃい…GV…私の歌が、きっと…貴方の(チカラ)になるから…優奈さんも、必ず無事に帰って来て…」

 

 そうして僕達は緊急ミッションの舞台である歓楽街へと足を運ぶ事となったのであった。

 

*1
元の世界のシアンとモルフォは元々無詠唱は可能であったのだが、長く能力に触れていた為無意識にやっている様な状態であった。それが今回の件で原理が判明し、以前よりもより効率良く、素早くSPスキルが展開できるようになった。

*2
この名前はネームレスの、女体化した時の表向きの名前として名乗っている。前作第四十一話参照




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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