【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第六話

「この銃の能力を阻害する力を弾いただと…どういうマジックだ? ネームレス?」

「今の貴方に応える義理は無いわ」

 

 …正直、僕はもう助からないと覚悟を決めていたのだが、施設を破壊していた筈のネームレスがあの能力を阻害する弾丸を弾き飛ばしながらこの場に姿を現したのだ。そういえば、ネームレスの扱う不可視の力…あれは一体何なのだろうか? あの黒いエネルギー球は雷撃麟でも、カゲロウでもどうしようもなかったと言うのに。

 

「GV、話は全て聞かせて貰ったわ…私もGVと同じ意見よ。貴方をこのままにはしておけない」

「ネームレス、いつの間に…」

「施設を破壊している途中で胸騒ぎがしたのよ。だから急いで済ませてここまで急いできたの。そうしたら案の定よ…アシモフ、悪い事は言わないわ。このやり取りを無かったことにして、ここから帰還しましょう…私達二人相手では分が悪い筈よ」

「「アシモフ…」」

「この声は…モニカ、それにジーノか」

「お願いよ、アシモフ…そんな馬鹿な事を考えるのはやめて!」

「そうだぜ! アシモフらしくねぇ! ここは四人で俺達の所へ帰って大団円って流れだろうがよ!」

 

 モニカさんとジーノの悲痛な叫びがネームレスが持つ通信機から流れ出してくる。少なくともこのアシモフの企みはネームレスは勿論、モニカさんやジーノにも伝わってい無い様だ。これでアシモフの企みは突発的な物であると証明する事が出来た。

 

「…惜しいぞ、GV、ネームレス。お前達の力ならば、新たな時代の先駆者(パイオニア)となれただろうに…それにジーノ、モニカ…もう、私は止まる事は出来ん。能力者達に明確な危機が迫っている以上は!」

「明確な…危機だって!?」

「そうだGV…お前もあの無能力者(アキュラ)と対峙していたならば分かっている筈だ! この銃が我等能力者達にとって、どれだけ危険(デンジャー)な物なのかが!」

「それは…!」

 

 確かにその通りだ。あの銃は僕も直撃は避けはしたが、少しでも掠ればたちまち力が拡散してしまうのだ。それが直撃でもしてしまえば…この場に僕がこうして立っている事は無かっただろう。だからアシモフの言いたい事も理解は出来る。この銃が量産されれば不味い。そう言う事だろう。だけど…!

 

「無能力者達全てがアキュラみたいな人達ではないでしょう! モニカさんを含めたフェザーにだって無能力者は居るんだ! それを知らないだなんて、言わせはしない!」

「アシモフ…貴方は魔が差してしまっただけなのよ。この施設、シアンの力、アキュラの存在、この銃の力…貴方がそう言った考えに至った理由はこの辺りから察しは付くもの。今滅ぼさないと、次の機会が無い。そう考えているのでしょう? …だけど、それをしてはいけない。そんな事をしてしまえば、本当に取り返しが付かなくなってしまうわ」

「GV、ネームレス…やはり、敵対をやめぬか…」

「いいえ、これは敵対では無いわ。過ぎた危機感に捕らわれた貴方の目を覚まそうとしているだけよ! …その銃も結局は人の手で作られた物よ。ならば、当然対策だって出来るわ! 今の私が防いだように!」

「……ならば、その力を私に示して見せろ…はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 アシモフが普段付けている色眼鏡(サングラス)を取った直後、白い稲光が彼の周囲に迸った。あの光は…まさか僕と同じ…!

 

「その力は…!」

「アシモフ…マジかよ!」

「蒼き…雷霆?」

「迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)…我が敵を貫き滅ぼせ…!」

「………」

 

 ネームレスを除いた僕達全員が、アシモフの能力に驚愕していた。当然だ。何故なら、アシモフは僕達にもどういった能力を持っているのかを語る事は無かったからだ。思えば、僕の能力の詳細に詳しかったり、装備が用意されていたりと、何処か腑に落ちない所があった。その理由がこれだったのか。

 

「驚いている様だな、GV…雷撃の第七波動(セブンス)がお前だけの物だと思っていたのか? …折角だ、戦いを始める前に、モニカ達も聞くといい……かつて、南米の奥地で世界で最初の第七波動能力者が発見された――その者の第七波動は、電子を自在に操る蒼き雷霆…雷撃による高い戦闘能力と電磁場を利用した機動力…そして何より、電子技術が支配する現代社会において、あらゆる電子機器を意のままに操れる雷撃の第七波動はまさに究極の能力」

「究極…ね。確かに、言われてみればその通りだぜ。GVを見てれば嫌でも分かるしな」

「その通りだ、ジーノ…当時、旧来の発電方法に限界を迎えていた皇神(スメラギ)の連中は、新たなエネルギー資源のキーとしてこの力に目をつけたのだ。皇神はエネルギー研究のため、雷撃能力者を量産する計画を打ち立てた。始まりの能力者から雷撃の能力因子を複製(クローニング)し、他の実験体へ移植するプラン――「プロジェクト・ガンヴォルト」」

「プロジェクト…ガンヴォルト…じゃあ、GVの名前の由来って…ここから?」

「その通りだ、モニカ…だが、雷撃の能力因子に適合する者は極めて少なく、生きた成功例はわずか二名…その成功例が、この私とお前というわけだ」

「……アシモフ」

「GV…私もお前と同じ境遇だ。お前ならば分かるだろう? 世界は偏見に、差別に満ち溢れている…力無き無能力者達が、いかに我々を迫害してきたか…能力者と無能力者は、決して相容れることは出来ない――あの男(アキュラ)は、正にこの世界の無能力者達の代表と言えるだろう……ならば、滅ぼすしかあるまい?」

「じゃあ、モニカも始めとしたフェザーに居る無能力者達も滅ぼすの?」

「ネームレス…それは……」

「答えられないわよね? …これ以上はもう言葉を交わす段階は過ぎているわね。ここからは…貴方の言った通り力で示しましょうか…はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう言いながら、ネームレスが対となっていた片側の髪飾りを外し…その力を開放した。その解放された第七波動に僕やジーノ達だけでは無く、アシモフも驚愕した。何故ならば、その体からは僕やアシモフと同様に稲光を纏っていたからだ。それも、僕と極めて酷似した物を。

 

「その第七波動パターンは…! あり得ん、蒼き雷霆だと!?」

「…突然だけど、並行世界って概念を知っているかしら? 異なる世界、もしもの世界…簡単に言えばそう言った物よ。そして私は…とある目的があってそんな極めて近く、限りなく遠い世界からこの世界へと来た存在なのよ」

「つまり、ネームレスの正体って…」

「おいおい、超展開過ぎてついて行けねぇぞ!」

「そこの世界では、私はこう呼ばれていたわ。「蒼き雷霆ガンヴォルト」…と」

 

 ネームレスが、異なる並行世界の僕だって!? だけどこの第七波動…紛れも無く蒼き雷霆の物…それも、僕の物と輝きも、波動の流れも酷似し過ぎている。

 

「優奈さん…」

 

 シアンが恐る恐るネームレスに声を掛けた…今にして思えば、ネームレスと言う名前は、この世界では「名無し」だからそう名乗っていたのだろうと推測できる。そして、彼女の居た世界にも、シアンは居たのだろう。ネームレスは彼女にとても良くしてくれていた。料理を教えたり、それ以外にも勉強を見たりと…

 

「シアン…ごめんなさいね、今まで本当の事を話せなくて…詳しい話は、この戦いが終わってからよ。GV、準備はいいわね?」

「……ええ、詳しい話はこの戦いが終わってからにしましょう。今は力を貸して欲しい。貴女の…異なる世界の蒼き雷霆()の力を」

 

 ネームレスはシアンに対して優しくそう答え、僕に準備を尋ねて…そして戦いは始まった。開幕、アシモフはアキュラの銃を僕達に対して猛烈な勢いで連射した。これはネームレスに「あの時弾いた力が偽りでは無い事を見せて見ろ」と言いたいのだろう。それとは対称的に、ネームレスから散発的にスパークしていた蒼き雷霆の光が沈静化していき…

 

「いや、違う! ネームレスの体内から凄まじいEPエネルギーを感じる!」

「あの不可視の力の…「陽炎」の二つ名の正体が、まさか蒼き雷霆だったとはな!」

 

 僕とアシモフの発言を肯定するかのように、ネームレスはアシモフの放った黒いエネルギー球を全て弾き飛ばし、無力化した。

 

「お前が蒼き雷霆の能力者である事は間違いは無い…この第七波動パターンは完全にGVと一致している。 なのに何故能力を拡散させるこの弾丸を防げる…何らかの力を、私の知らない力を、蒼き雷霆で増幅しているのか?」

「…流石はアシモフね…ほぼ正解よ。とは言え、これ以上の情報は戦いが終わった後に話をさせてもらうけど」

 

 何らかの力を増幅させる…そう言えば、僕が扱えるスキルに「アルケミィライズ」と呼ばれるスキルがある。これは蒼き雷霆で「五行の金の気を高める」事で拾得物の効果を引き上げるスキルなのだが…ネームレスは恐らく、蒼き雷霆でこの五行の金の気以外の何らかの力を増幅させて、あの不可視の力を行使しているのだろう。

 

「ならば…フッ…ハァッ!」

「ッ! GV、私に合わせて雷撃麟を!」

「相殺するんですね、了解!」

 

 アシモフが雷撃麟を纏いこちらに突撃して来るが、それを僕とネームレスの雷撃麟で相殺。アシモフをオーバーヒートに追い込んだ。そして、僕達はトドメのSPスキルをアシモフへと…

 

 

「ぐぅ…GV…ネームレス…」

 

――煌くは雷纏いし聖剣 蒼雷の暴虐よ敵を貫け

 

「「迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)! スパークカリバー!!」」

 

 放ったが、僕達の雷の聖剣の切っ先はアシモフを捕える事は無く、目の前で寸止めされていた…ネームレスも、僕と同じ事を考えていたようだ。

 

「勝負ありだ。アシモフ」

「私達の勝ちよ。文句は言わせないわ」

「……フッ、甘いな」

 

 そうアシモフが呟いた…この第七波動の急速な高まりは…!

 

「絡め取れ! ヴォルティック……! 何だと!」

 

 恐らくアシモフはヴォルティックチェーンを放とうとしたのだろう。だけどその瞬間、背後から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出現し、アシモフを逆にその身から放たれた鎖で瞬く間に拘束してしまった。

 

『言ったでしょ、此処までだって』

『油断大敵だよ、ネームレス』

「だから後詰めを頼んだのでしょう? ()()()()()()()

 

 シアン…? シアンだって!? やっぱり、ネームレスの居た世界でもシアンは居たのか! だけど、何処か僕の知っているシアンとは違う感じがする。何と言えばいいのか…まるで、モルフォと同じように第七波動その物になっている様な…

 

「ぐ…この第七波動パターンは…電子の謡精に限りなく近い……この状況では認めざるを得ん…流石だ、GV、ネームレス…その力、お前達こそ、新たなる世界の先駆者に相応しい…」

「…そんな物になるつもりは無い…僕はただ、アシモフを止めたかっただけだ」

「私も同じよ。ただ貴方が過ちを犯すのを止めたかっただけ」

「ああ、そうだろうな…ネームレスもGVと同じように随分と甘い性格をしているからな…まあ、別世界のGVであると分かってしまえば、納得はいくのだが……私が何もしなくても、能力者の台頭は止められん。私は勿論、力を持っているお前達も、その流れに抗うにしろ、乗るにしろ、いずれ…逃れられぬ戦いに巻き込まれていく事になるだろう」

「……」

「…確かにその通りになってしまうわね」

 

 ネームレスがアシモフの言葉を肯定している…つまり、この場は何とかなっても、近い将来、再び僕達やシアンが戦いに巻き込まれるという事だ。だけど、ネームレスの次の発言で、アシモフの言う戦いの定めから逃れられる希望を見出す事となる。

 

「だけどアシモフ、忘れてないかしら? 私は()()()()()()()()()()()よ。当然、既に元の世界に帰る手筈も整えてあるわ」

「…何が言いたい、ネームレス」

「取引よ、アシモフ…()()()()()()()()()()()()()フェザー構成員を含めた貴方達全員、この世界から脱出して私の世界の帰還に相乗りしてもいいのだけれど、どう?」

 

 

――――

 

 

「ねぇGV」

「ん、どうした? シャオ」

「最初さ、あの世界のフェザー構成員全員を連れて行くなんて無茶な事言いだして、如何しようかと僕は頭を抱えてたけどさ…」

「うん」

「まさか、テラフォーミングが終わった火星への()()()()()()にしちゃうなんて…ひょっとして、最初から狙ってたの?」

「パンテーラ達が兎に角開拓者の人員が足りないから、もし当てがあるなら何とかして欲しいってお願いされていたからね…あの世界の僕達をこのまま放っておいて帰還してしまったら、彼等は向こうの世界の戦いの渦に巻き込まれてしまう。もうそれを放っておけないくらい、向こうのフェザーにも愛着が付いてしまったんだ」

 

 だから僕はこの提案を持ち掛けた。僕達の世界のテラフォーミングを済ませた火星の開拓者として生きていくつもりは無いかと。僕達の世界は少なくとも向こうの世界と違ってもうそう言った大きな戦いが起こる事は無い。何故なら皆宇宙開拓と言う新たな希望を見出しているからだ。

 

 火星も既に開拓の拠点とも呼べる所は完成しており、ネット環境も既に地球と繋がっているし、衣食住の問題も全てクリアされている。ここに向こうの世界のアシモフ達を案内した時、彼等は火星の開拓拠点のスケールの大きさに唖然としていた物だった。

 

 だけど、何よりも移住の決め手になったのは、能力者と無能力者の争いがこの世界では相当緩和されている事であった。実際、僕達の居る世界の情勢を教え、実際に街を出歩かせ、その空気を体験させたりもした。

 

 その後、アシモフを含めたフェザー構成員達は開拓者として元気に働いており、向こうの世界のシアンと僕は、開拓拠点にある学校に通っている。生活もあの時の逃亡生活の時と同じ様に二人で過ごしており、最近この二人の仲も進展し、互いに意識し合っている状態にまでなった。その後の二人は当たり前の様に結ばれ、結婚し、温かな家庭を築く事となる……ここまではフェザー構成員達の、そして向こうの僕達のその後の話だ。

 

 そして向こうの世界のその後は、紫電の企みを阻止したけど、向こうの皇神は残しておいたエリーゼのお陰で重要な能力者達の人的損失は実質0と言ってもよい。だけど、第九世代戦車等の、資源に関わる損失の補填はどうしようもない。そこで以前僕の世界で偶然やらかしてしまった海底資源の再生。これを意図的に同じ場所に引き起こし、その座標、そしてフェザーが居なくなった事を記したメモを倒れていた紫電の傍に忍ばせておいた。

 

 これで少なくとも向こうの世界のあの国の国防を整える時間稼ぎ位は出来るはずと踏んでいる。それ位、紫電の優秀さを僕は当てにしており、信頼している。歌姫(ディ-ヴァ)プロジェクトの失敗の補填もこれで何とかなり、向こうのエデンを始めとした組織にも対抗できるようになるはずだ。まあ、向こうの世界の顛末はこんな感じだ。

 

 それで、肝心の世界移動のデータについてなのだが…あの後、シャオによる並行世界移動の転移を繰り返し、彼は最終的に時間軸や可能性軸の誤差を0に出来る様になった。

 

「後はこれらのデータを元に、俺が世界を越える転移装置とも呼べる物を開発するだけだな」

『この世界移動の経験のお陰で、アタシ達も時間移動や並行世界移動が安定して出来るようになったのは思わぬ収穫だったわよね、シアン?』

『うん。だけどアキュラもそうだけど、シャオは特に、ずっと付き合わせて迷惑かけちゃってたし…』

「まあ一時期はどうなる物かと思ったけど、僕自身の第七波動のコントロールの向上も出来たから、結果的にGVの誘いに乗ってよかったと思ってるよ。それに、移動の合間にGVが転生前の世界の漫画やアニメなんかの娯楽を用意してくれてたお陰で、暇も十分潰せたし、これをネタにジーノに自慢出来たりしたしね」

「それなら良かった。シャオには長く付き合わせて申し訳なく思っていたんだ…とは言え…」

「ああ、これでようやく第一歩と言えるだろう。次の段階は、俺の作った転移装置の実証実験が必要となる。とは言え、完成するまでにしばらく時間が必要だが…」

「その間はシアン達のライブの予定でぎっしり詰まってるから、焦らずに完成させて欲しい」

 

 そうして少しの時が過ぎ…アキュラは転移装置を完成させた。この日、予定を開けていた僕は何時も通りに姿を変え、シアン達は電子のサイズへとなり、この転移装置の実証実験を行った。この際の設定は言葉に表すと、「あの時、アシモフの放ったグリードスナッチャーに当たった後の未来」であった。シャオは今回付いて来ては居ない。何故ならシアン達が移動手段を得たからだ。こうしてアキュラの転移装置を起動させ、その世界へと向かったのだが…

 

「………………」

『貴女は…まさか追手!? …GVは、私が守るんだから!!』

 

 そう、何時か起こると予測されていた向こうの世界の人と、遂に転移直後に鉢合わせしてしまったのだ。そして、その鉢合わせた相手も問題だった……心も体も擦り切れ、摩耗し、服装も所々ボロボロとなったこの世界におけるガンヴォルト…もう一人は、そんな彼と一つとなったであろうモルフォ…いや、シアンであった。彼女は突然出現した僕に対して警戒心を露わにし、ボロボロになっていたこの世界における僕を守る為に立ち塞がるのであった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
これにて無印編は終了となり、別世界と言う形で爪編へと突入します。





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