【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第七話

 かつての仲間達の元から去り、どれ程の時間が経ったのだろうか。心身共にすり減らし、疲弊しきった今の僕にはその見当は付かない。皇神(スメラギ)にもフェザーにも追われる身となった僕は、もうあの場所(隠れ家)に戻る事は出来ないのだから…

 

「…………」

 

 あの時の事を、思い出す。何も言えずに、ジーノとモニカさん達から離れてしまった直前の事を。

 

『GV!! って…お前…それ…』

『そ…そんな……』

『アシモフ…!? まさか…死ん…で…? …いやっ!! そんなっ…そんな……!!』

 

 冷たく事切れたアシモフ(シアンの仇)の姿を把握し、ぼろぼろと涙を浮かべ、モニカはその場に力なく崩れ落ちる。僕は、そんなモニカさんの事を気にも留めずに…振り返ることもなく、軌道エレベーターの外へ去っていく。

 

『お…おい、GV? なんだよ! 何があったってんだ!? アシモフはどうして…!? それに…シアンちゃんは!?』

『彼に…ふれないで…!』

『…見えない壁!? 如何なってやがる! …GV!!』

 

 僕にに近づこうとしたジーノが、不可視の力によって阻まれた。――夜が明ける。僕にとっての長い長い夜が明け、ようやく訪れた朝。幽鬼のように、立ち昇る朝日の中へと歩む僕に対し、電子の謡精(シアン)は優しく語り掛ける。

 

『GV…これからは…どこまでも、ずっと…一緒だから…貴方は、どこへ行きたい…?』

『…僕は……』

 

 この時、僕は何を呟いたのかは覚えていない。……こんな事があった以上、国外に逃亡出来れば、楽だったかもしれない。だけど、この国は皇神グループが管理する強力な結界…最終国防結界「神代(かみしろ)」によって守られており、出入国も厳しく取り締まられているのが現状である以上、それは不可能に近い。

 

『国家存続の為にも、今は一刻も早く危険因子を取り除き、兵力を蓄えなければいけない』

 

 この言葉は、かつて僕が戦った相手である紫電の言葉だ。恐らく、彼が以前は緩かった管理体制を強化したのだろう。そのお陰で、フェザーは増援が困難となり、少数で相手取る事となる羽目になっていたのだが…紫電は倒れた。それは間違いない。だけどその志は、想いは、この国と皇神の中で生き続ける事だろう。

 

 なら、僕はどうなのか? 電子の謡精(シアン)を巡る戦いの中で、僕は一体何を得たと言うのか。

 

『GVには、私が居るよ?』

 

 健やかな亡霊(シアン)の…僕が背負う罪の、僕に宿った死した意識(たましい)が囁きかける。……時折、僕は考える事がある。()()()()()()()()()()()()()()。――スワンプマンと言う思考実験がある。ある男が沼の傍で落雷に撃たれて絶命した。その直後、もう一つの雷が男の傍の沼に落ちる。

 

 この泥に落ちた落雷によって奇跡的な化学反応を齎し、見た目や記憶、原子の並びに至るまで生前の男と全く同一で、同質の存在が新たに作り出された。この新たに生まれた泥男(スワンプマン)は、死んだ男が蘇った存在と言えるのか? と言う物だ。

 

 優しい口調で語り掛ける彼女は、シアンの死を受け入れられない僕自身が無意識の内に生み出した泥男と同じ存在なのでは無いだろうか…例え、本物のシアンだとして、魂だけの存在となった彼女は、生前と同じシアンと同じ存在と言えるのだろうか?

 

『私はちゃんと、ここに居るよ。ずっとずっと、GVの傍に』

「………」

 

 乾ききった僕の喉からは声は出ず、力なく頭を振った。このシアンを見る度に、僕の心は苛まれる…せめて、この()()()()()()()()()()()()が居てくれれば…この僕の気持ちを、吐き出せる誰かが居てくれれば…

 

『GV…』

 

 シアンは悲し気な表情を浮かべながら僕の視界から姿を消そうとした…その時だ。突然、僕の視界に黒髪の女性が姿を現した。あまりに唐突に出現した為、僕もシアンも、これが戦闘だったら致命的とも言える程に硬直してしまった。

 

「………………」

『貴女は…まさか追手!? …GVは、私が守るんだから!!』

 

 この状況で真っ先に立ち直ったのはシアンだった。僕を守るように前に出て、両手を広げながら相手を威嚇している。だけど、そんな彼女の姿を相手は把握していないだろう。何しろ、彼女の姿も声も、僕にしか見えないし、聞こえないのだから。

 

 相手の方も、僕の姿を見て硬直している。どうやら向こうからしても想定外の出来事だったらしい。だからこそ、僕は落ち着いて戦闘態勢に移行することが出来た。…突然姿を現した以上、何かしらの能力者なはず。とは言え、今の僕のコンディションは最悪と言ってもいい。相手の力量も、能力も、未知数だ。下手をすれば返り討ちに会っても可笑しくは無い。

 

 僕が戦闘態勢に移行した事に気が付いたのだろう。黒髪の女性も僕に対して戦闘態勢に…移行せず、その腰にある拳銃を構えもせずに、僕を見つめていた。そして、僕に対して敵意は無い事を示す為だろうか。あろう事か、その腰にある拳銃を真横へと放り投げたのだ。

 

「…どう言うつもりですか」

「貴方()と争うつもりは無い…そう言う事よ」

 

 貴方…達? まさか、この場に僕以外の誰かが居るのか!? 僕は気を張り詰め、周囲を見回したのだが…そんな気配は何処にもなかった。そんな僕の様子を見て、黒髪の女性は何所か可笑しそうに僕に対してこう指摘した。

 

「…私は兎も角、そんなに周りを警戒しなくても大丈夫よ。少なくとも、この場には私と貴方と、私の目の前で立ち塞がっている()()だけだから」

「……!? 貴女は…見えるのか? シアンの事が!?」

『GV! 油断しちゃダメ!!』

「…ええ。私はハッキリと、彼女を認識しているわ。 貴方がシアンと呼んでいる電子の謡精(モルフォ)の姿、そして声もね……突然出て来て、こんな事を言っても信じてはくれないでしょうけど…私は貴方と敵対する意思は無いわ。ただ、貴方達と話を…」

 

 黒髪の彼女の話の途中、少し遠い所から女性の叫び声が聞こえた。その声のした方向に目を向けた所…大分離れた位置ではあったのだが、一人の少女が暴漢に襲われていた。…こんな事件、この時代、世界の何処かでは何時も起こっているのだろう。

 

 それでもその光景を目にした瞬間、目の前の黒髪の女性の事等すっかり忘れたかの様に、僕の体は動き、駆け出していた。それと同時に、加速する血流と同調するかの如く、体の内側から電流が迸る。そして、そんな僕の真横に、いつの間にか放り投げた筈の銃を片手に持ちながら、黒髪の女性は並走していた。

 

 …どうせ僕には、全てを救う事何て出来はしない。何しろ、大切な存在(シアン)ですら守ることが出来なかったのだから。だから、目の前の人だけを助ける事に、どれほどの意味があるのか、分からない…もしかしたら、襲っている男達に理由(せいぎ)があるのかもしれない。

 

 ……でも。でも、だ。だからと言って、手を伸ばせば助けられる人を、見捨てる事何て出来なかった。気が付いたら、もう現場が目の前に迫っていた。同じように並走する黒髪の女性をちらりと見た。その表情は何所か焦っている様に見え、目の前で襲われている彼女を助けようと必死な様子が今の僕でも良く分かる。

 

「そこっ!!」

 

 顔をゆがめている彼女を拘束していた太い木の様な物を、黒髪の彼女はその手に持っていた拳銃から放たれた弾丸で撃ち抜いた。その瞬間、拘束から逃れ、崩れ落ちそうな彼女を僕は即座に支えながら抱き上げ、その場を離脱した。

 

「天使の…羽…?」

 

 彼女はそう呟きながら意識を失った…とはいえ、呼吸は安定していたので、命に別状は無い事は確認出来た。後は…

 

「■■■■!!」

「……迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)

 

 この場に居る暴漢達を止めるだけだ。――この時僕は、心身が疲弊しきり、ボロボロの状態なのにも関わらず、負ける気がしなかった。今にして考えれば、それは当然だったのかもしれない。何故ならば…

 

「どうやら相手は薬物を使って能力を強化しているようね…油断してはダメよ!」

『むぅ…! 貴女なんか居なくったって、GVは私が居れば十分なんだから!!』

「そうかもしれないけど、それでも頭数はあった方がいいでしょう?」

 

 僕には出会ったばかりで警戒していたのに、ふとした切欠で人命救助を優先し、()()()()()()()()()()警戒を呼び掛ける僕から見てもお人好しな名前も知らない黒髪の女性と、そんな彼女に文句を言いながらも、僕に揺精の歌(ソングオブディ-ヴァ)を奏でる()()()が居るのだから。

 

 

――――

 

 

 正直、転移直後に鉢合った時はどうなる事かと思った。何しろ、最悪この世界の僕と敵対する可能性だってあったからだ。だけど、この世界のオウカを一緒に助けた事が切欠で何とか悪い印象を与える事を回避する事が出来た様だ。

 

 あれから僕達はこの事が切欠でこの世界のオウカの屋敷へと転がり込む形でお邪魔している。僕自身はその気になれば拠点の構築をする事は造作も無い事なのだが、かつて見た寂しそうにしているオウカを思い出した事と、同じく僕達と同じようにお邪魔しているこの世界の僕達の事が気がかりだった為、拠点の構築は行っていない。

 

 そして、明らかに僕達が転がり込んだ形で迷惑を被っている筈のオウカなのだが…一人暮らしによって寂しかったのと、ああ言った事もあり、僕達の事をとても歓迎してくれていた。当然、この世界のシアンの事も。

 

「…オウカ、君も優奈さんみたいにシアンの事が見えるの?」

「はい。丁度GVの後ろの方で、少し怒った様な顔をしていますね」

『むぅ~~!』

「そう怒らないの、オウカは明らかに怪しい私達をここに置いてくれているのだから」

『それは…そうだけど…』

「今の心身共に疲れ切っているGVに必要なのは、仮初でも安心できる居場所なのよ」

「ふふ…この広い屋敷が、一気に賑やかになってしまいましたね…少し待っていてください。簡単な物を作りますので」

 

 …オウカのこの包容力の高さや、シアンが見える霊感も、この世界でも健在の様で何よりだ。これなら、心身共に疲弊しきったこの世界の僕を癒してくれるはずだ…とは言え、如何してあんなにもこの世界の僕が…蒼き雷霆ガンヴォルトが疲弊しきっていたのか、僕は理解が出来ていなかった。

 

 そこで何日か間を開け、ある程度回復してきた所で、オウカが学校で留守にしている間に腹を割って話をする事としたのだ。どういった経緯でそんなにボロボロになってしまったのかを。とは言え、それを僕の方から聞くのは、まだ早い。だから先ずは、僕自身が何者で、どういった経緯であそこに転移したのかを話す必要があった。

 

「さて…GV、何日かをここで過ごして落ち着いてくれたと思うから、そろそろ私が何者で、どういった経緯で貴方の前に転移したのかを話したいと思うの」

「……優奈さん」

「まあ、私が何者であるのかは…百聞は一見に如かず…迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)

『え…嘘! この第七波動(セブンス)は…!!』

「蒼き…雷霆…!!」

「そうよ。私の能力は蒼き雷霆…そして、シアンなら気が付いたでしょう? 私の第七波動が、GVの物と全く同じである事が」

「シアン…」

『間違いない…間違えるはずなんて無い…この第七波動は、紛れも無くGVの物と同じ…波動の流れも、色も、全く同じ…! でも如何して…()()()も同じ能力だったけど、そう言った部分は違っていた筈なのに!』

 

 僕の蒼き雷霆を見て二人は困惑を隠せない。当たり前だ。全く同じ能力だけならまだしも、波動の流れと言った物すら完全に一致しているのだ。混乱するのは当然だ。

 

「…並行世界と言う概念を、知っているかしら?」

「並行世界……まさか…! でも、そんな事があり得るのか?」

『え? どういう事なの、GV?』

「シアン、並行世界と言うのは、簡単に言うと「もしもの世界」の事だ。そして彼女は…恐らくだけど、そのもしもの世界から来た、蒼き雷霆ガンヴォルト…つまり、別の可能性を持った僕って事なんだ…そうですよね? 優奈さん」

『優奈が…GVだって言うの!?』

「ええ、その通りよ。理解が早くて助かるわ…信じられないと言われても仕方のない事だけど、あの時私があの場所に転移したのは、丁度()()()()()()に作成を依頼したある目的に必要な転移装置の実証実験をしたからなのよ」

「転移…装置…ですか」

「ええ。ちょっと世界を越えた先に、どうしても助けたい人が居るのよ」

『助けたい人…』

「……それは、貴方の居た世界のシアンの事ですか?」

「いいえ、全く別の人よ……序だから言っておくけど……」

「……?」

「私も、シアンの事を守り通す事が出来なかったわ…出て来ても大丈夫よ、()()()

 

 そう僕が合図をした為、電子のサイズとなっていた僕の世界のシアンとモルフォが元のサイズへと戻り、その姿を現した。

 

『嘘…モルフォ…!?』

「…髪の長さや身長は違う…でも、あの髪の色や顔立ちは紛れも無く…!」

『ずっと見てたよ、()

『後、GVの事もね…今更アタシ達の事を紹介する必要は無いかもしれないけど…改めて、アタシはモルフォ』

『私はシアン。私の居た世界でも色々あって、こうやってモルフォを表に出したり、瀕死だった優奈の事を助けて、こんな風に常に傍に居るの』

「……貴女も、同じだったんですね。僕と同じように、シアンを…」

「ええ…これで、私が話せる事は話したわ。今度は貴方の事を教えて欲しい…だけど、話せないなら話さなくても構わないわ」

「いえ、話を…させて下さい。貴女は僕にこうやって話をしてくれた。だから、このまま僕自身の事を話さないのは、良くない」

 

 そう言って、僕達はこの世界の僕の経緯を聞く事となった。その内容は…余りにも壮絶で、救いが無かった。紫電を倒した後に現れたアシモフに二人は撃たれ、この世界のシアンはこの世界の僕を助ける為に生体電流と一体化する事でそれを成し、その力によってシアンの仇であるアシモフを討った。

 

 その後、冷たくなったアシモフに泣き崩れるモニカさん、引き留めようとするジーノを後目にその場から何も言えずに立ち去り、結果として皇神だけでは無く、フェザーからも追われる事となってしまい…あのような、心身共にボロボロな状態となってしまった。更に、自身に宿ったシアンの変貌もまた、拍車を掛けた事が容易に想像できる。何しろ、話し終えたGVに対して、この世界のシアンは明らかに負い目を感じているのが分かったからだ。

 

「話をしてくれて、ありがとう」

「いえ、此方こそ、話を聞いてくれて、ありがとうございました。お陰で、少し気が楽になりました」

「いいのよ…そんな状態では、モニカ達に話をしようにも出来ないでしょうし、自分にしか姿や声が聞こえないシアンの事も信じられなくなってしまうのは理解できるわ」

『GV…私…』

「でも、もうそんな事は無いわよね? …だって、私やオウカはシアンが見えているし、声だって聞こえるわ。それに、知ってるかしら? 人間と言うのはね、体が変化すると精神性も変化したりするのよ。だから、肉体から解き放たれたシアンが自由奔放になってワガママになるのは自然な事よ。そうでしょう? ()()()

『うん…この体になった最初の頃の私もそんな感じだったよ』

『あくまで、シアンがそうなっちゃったのは「開放された~」ってのと、「これでGVをずっと守れる」って潜在的に思ってて、それではしゃいでしまっているだけよ。だからこうやってアタシ達と交流していけば、その内落ち着いてくれる筈よ』

「だから二人共、互いに自身を責めてはいけないわ。GV? 貴方は確かにシアンを守れなかったわ。だけど、私と同じように心を守る事は出来た。これは誇るべき事よ…そしてシアン? 貴女は自身の振る舞いがGVを苦しめていた事に本当の意味で理解した。なら、次からは気を付ければいいのよ」

『「優奈さん…」』

 

 これでこの世界の僕は大丈夫だろう。とは言え、この世界のシアンをこのままには出来ない。今の彼女は僕達には見えているけど、他の人達には見えていないし、料理も出来ない体なのだ…この世界の僕は、辛かった胸の内を語ってくれた。それは僕の想像以上にきつい物であった。何しろ、嘗て僕が考えた「もしも誰にも縋る事が出来なかったら」と言う形が、そのまま出て来たからだ。だから…

 

「…じゃあもう、こんな辛気臭い話は止めて、明るい話をしましょうか…ねぇGV、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ」

『…え?』

「実体化…!? 本当に、そんな事が出来るのですか!」

「ええ。これは嘗て私のシアンが生きていた頃に、モルフォを実体化させた方法なのよ…GV、蒼き雷霆はね、貴方が考えているよりもずっと、多くの可能性を秘めているのよ」

 

 この時を境に、この世界の僕に宿ったシアンが、もう二度と得られないと考えていたであろう肉体を得ると言う奇跡を果たしたのであった。そう、嘗て僕がモルフォを実体化させる為だけに開発したSPスキル「謡精の物質化(マテリアライズオブディーヴァ)*1」を、この世界の僕に教えた事によって。

*1
モルフォの電脳体を実体化させる為の、モルフォの為だけに開発されたGVによる蒼き雷霆と「協力強制」を利用したSPスキル。モルフォとシアンは同一人物である為、このスキルはシアンの事も結果的に対象となっている。詳細は前作第二十六話の後書き参照。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。




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