【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第九話

 あの全国規模の警報が解除されて、また少しの時が過ぎた。あの警報は優奈さんが言うには、「多国籍能力者連合エデン」が最終防衛結界「神代」の物理結界を解除した事から発生した物で、もう既にこの国に彼らは潜入しているとの事。

 

 彼らの構成員は無能力者に虐げられた者達で構成されていると聞いている。なのに、こうして易々と潜入をはたしたにも拘らず、未だ彼らは表立った行動を起こしてはいない。それは何故なのだろうか? 優奈さんが言うには、力を得たいが為に彼らは電子の謡精(サイバーディーヴァ)…つまり、シアンの力を狙っているらしい。

 

「私の居た世界でも、エデンは電子の謡精の力を狙っていたわ。だけど、その頃にはもう()()シアン達の力はエデンではどうしようもない程に膨れ上がっていたから、何とか対話に持ち込む事が出来たわ」

『所謂、抑止力ってやつよね』

『最初はGVを守る為にずっと訓練し続けてた事だったけど、結果的に大きな戦いを止める事に繋がったのは、今でも不思議な因果だなぁって思うの』

「…シアンが抑止力になる光景があんまり想像が出来ないな」

『私もだよ、GV…』

 

 ()()シアンですらそんな光景が想像出来ないらしい。まあ当然だろう。何しろ、僕達は優奈さんのシアン達がどんな風に戦うのかを把握していないのだから。まあ、そんな事があった事が切欠で、優奈さんの世界では能力者と無能力者の軋轢が僕の居る世界よりも大幅に緩和されているのだそうだ。

 

「…この世界でも、優奈さんの世界みたいに能力者と無能力者の共存の道は無いのだろうか…」

「正直、難しいわね。皆が皆、オウカみたいに分け隔てなく優しく接してくれる人は稀よ」

『うーん…共存とかそう言うのは、とりあえず置いとこ? って言うか、話が脱線してるわよ』

 

 そう言えばそうだった。大事なのは狙われているシアンをどう守るかだ。最も確実なのは、僕達が優奈さんの世界へ一緒に向かう事だ。だけど…彼らは、それで諦めてくれるのかが僕は疑問だった。

 

「一つ確認したいんだけど」

「何かしら?」

「優奈さんの居た世界では、この世界よりもずっと第七波動の研究が進んでいるんですよね? …率直に聞きます。第七波動で、世界を越える事は可能ですか?」

「…可能よ。実際、私が転移装置の実証実験の帰りは私自身、そうする予定だったから」

「…エデンは、僕達がこの世界から消えれば、諦めてくれると思いますか?」

「…難しいかもしれないわね。構成員の中に、凄まじい的中率を誇る占星術を扱う人が居るのよ…転移装置を完成させる為のデータ取りをしていた時に、同じようにエデンの居る世界から別の貴方を連れだした事があったの…今にして思えば、エリーゼを生かす事で実質紫電を生かす形にする事でエデンに対抗できる組織を残した事が、結果的に貴方の言う懸念の対処となっていたのね…」

 

 優奈さんも、僕の考えは予想外だったようだ…この世界ではエデンに対抗できそうな組織が無いと言ってもいい。何故なら、その中核を担う筈であった皇神に所属していた紫電を僕が倒してしまったからだ。

 

 つまり、先ほど言っていた優奈さんの方法を取るのは難しい。とはいえ、あそこで紫電を倒さなければ僕やジーノ達も含めた能力者全員が洗脳されていた上に、シアンが犠牲になる以上、選択肢は存在しなかった。

 

『まあ、最悪二人が私達の世界に来た事で彼等が乗り込んできても対処は十分できると思うわ』

「ですが、これ以上迷惑を掛ける訳には…」

「此処まで首を突っ込んだ以上、そう言う事も織り込み済みよ。だけど、そうなって来ると問題になる事があるわね」

『オウカと…「シャオ」の事だよね?』

 

 シャオとは、「神代」の物理障壁が解除された際にエデンと同時にこの国に乗り込み、エデンの侵攻を僕に伝える為に海を越えてやってきた、海外のフェザーに所属していた少年の事だ。シャオは故郷でフェザーの一員として活動していた。だけど、シャオの故郷の国がエデンの侵攻を受け制圧されてしまった際に、彼の所属していたフェザーも乗っ取られ、エデンの末端組織と化してしまったのだと言う。

 

 その際に、故郷と多くの仲間を失ってしまったらしく、その原因となったエデンに対して憎しみを抱いている節がある。だけど、それとは別に僕や優奈さん、そしてオウカとも親しく付き合ってくれる貴重な人だ。

 

「僕を頼って来てくれたシャオを放って逃げるのは…それに…」

「…GVが姿を消したら真っ先にオウカの事も調べ上げられて、最悪エデンの手に掛かってしまうかもしれない…か」

『オウカもシャオも、私達の世界に連れて行けたらいいんだけど…』

『それは無理な話よね。この世界のシャオはエデンの復讐を諦めないし、オウカはこの世界でちゃんとした生活基盤があるもの』

 

 短い間ではあったけど、オウカにもシャオにも世話になったのだ。そんな二人を放って逃げる選択肢は、僕には無かった。それに…

 

『私も、オウカやシャオを放って逃げるのは…嫌。だって、二人は私達の()()だもの』

 

 シアンが逃げるのを拒んでいる以上、その選択肢は無いのだ。それに、二人の事を「友達」と認識してくれたのが、僕には嬉しかった。最初はオウカに嫉妬していたのか強く意見を言う事が多かったのだが、実体化出来る様になってから、加速度的にそう言った自由奔放で我儘な所がなりを潜めてくれた。

 

 そして、シャオと出合った時点ではもう真っ当な…それこそ、生前のシアンの優しさを取り戻してくれており、彼ともちゃんとした交流が出来る様になっていた。それこそ、漫画の貸し借り等も普通に行ったりするくらいには。そして…そんなシアンと僕は心を通わせることが出来た。

 

 このシアンの一言が決め手となり、僕はエデンと戦う決意を決め、シャオにペンダントの修復やダートリーダーのオーバーホールを依頼したり、優奈さんとの組手を本格化したり、付け焼刃ではあるけど蒼き雷霆の()()()()()()を学んだりもした。シアンも優奈さんのシアン達から色々と能力の扱い方を教えて貰ったりしている。

 

「これがラムダ・ドライバ…「波動の力」、と言う物なのですか」

「ええ、蒼き雷霆の力で第一から第三の波動を増幅する事で発現する力よ。これの主な利点は目視されない事と、水中でも問題無く扱える事、そしてグリードスナッチャー…アキュラの扱う能力阻害の弾丸を防げる事にあるわ」

「…アレを防げるんですか、この力は」

 

 僕を瀕死に追い込み、シアンを殺したあの銃から放たれた特殊な弾丸「グリードスナッチャー」。この波動の力と言うのはそれを防ぐことが可能なのだそうだ…この力の事を、もっと早く知りたかった。そうすればあの時、僕はアシモフからシアンを守る事が出来たかもしれなかったのに…

 

「この不可視の力の使い方は兎に角イメージが重要よ。例えば拳に集中させて殴るだけでも…こんな風に出来るわ」

 

 そう言いながら優奈さんはジャンク屋から調達していた分厚い鉄板に風穴を開けていた。他にもダートリーダーに力を籠めて同じく鉄板を打ち抜いたり、蒼き雷霆による身体能力向上に上乗せして更に機動力を高めたり、自身の体重を殆ど無くしたりと言った芸当を披露してくれた。中でも驚いたのが…

 

「そしてこれが…光学迷彩ね。自身の第七波動もシャットダウン出来るから、隠密行動をする際にとても役に立つわ…波動の力は第七波動と同じく意思の力。自身のイメージ次第でやれる事はいくらでも変化するわ。雷撃やSPスキルに上乗せも出来るし、ハッキング能力の強化だって出来る。それに…習熟すれば、こんな事だって…」

 

 そう言いながら、優奈さんは僕の目の前で掌の上にリンゴを出現させた…この時、蒼き雷霆にはまだ見ぬ無限の可能性が眠っている。それをこの日、僕はハッキリと認識した。そして僕達がそう言った準備をしている間の最中、遂にその時が来た。網を張っていたシャオから遂にエデンが動き出したと思われる事件を察知したのだ。

 

「GV、優奈、大変だ! 皇神の大型自律飛空艇(ドローン)「飛天」が、原因不明の暴走を始めたみたい!」

「その慌てよう…もしかして、以前からシャオの言っていた…?」

「ああ。ついに始まったんだ。連中の…エデンの侵攻が!」

「…連中の事だから、真っ先にここを調べ上げてシアンの事を狙ってくると思っていたのだけれど…あの時と同じ様に、疑似宝剣を…? でも、完全に完成させる時間は調べた限り、あるとは思えない…」

「優奈、奴らの目的は分からないけど…実際に事件が起こっている以上、見過ごす訳にはいかないよ!」

「確かにそうね…じゃあ、私達で飛天に潜入しましょう」

「大型自律飛空艇と銘打っている以上、相応に内部構造は広いはず。ここは二手に分かれて原因を把握した方がいいだろうね」

「…罠の可能性もあるから、戦力の分散は避けたいのだけれど…時間が勝負である以上、そんな事は言ってられないわね」

「大丈夫よ、GV、優奈さん。私の歌がGVの翼になる限り、どんな罠だって突破出来るんだから!」

「だけど、久しぶりのミッションなんだから、油断をしてはダメよ?」

「それに、相手はあのパンテーラ…どんな手を使ってくるか分からないから、油断何て出来ないからね?」

 

 そんなやり取りを行った後、僕達は行動を開始した。初めはとても順調で、僕達は問題無く飛天へと潜入することが出来た。だけど紫電が居なくなったとはいえ、流石皇神。即座に僕達の…正確には僕の潜入が見つかり、気が付いた時には僕は皇神兵に囲まれていた。

 

「……ッ!」

「追い詰めた! 取り囲んだぞッ! 子ネズミめ! いい加減、観念して貰おうか!」

「われら皇神の大型自律飛空艇「飛天」! そのコントロールを奪い去り 飛天を暴走させているのは貴様だな?」

「ちがう…と言っても信じてもらえないんだろうね」

「当然だ! それにその服…知っているぞ! 我ら皇神の怨敵ッ! あのテロ組織「フェザー」のメンバーだろう?」

「フェザーか…とっくに辞めたんだけどな。これは、これ以上に便利な服が無いから、着ているだけなんだけど」

 

 流石に、これ以上は戦わずにやり過ごすのは無理だろうとそう思っていた時、愛しい謡精(シアン)の声が僕だけの耳に届く。

 

『もぅ、だからその服、変えた方がいいって言ったのに。優奈さんも言ってたでしょ? …それで、どうするの? 力、貸そっか?』

「シアン…いや、心配ない。このくらいなら…」

「なんだ貴様? 誰と話しているッ! 気味の悪いガキめッ!! ええい、撃てぇ!!」

 

 皇神兵の放ったエネルギー弾を僕はあえて動かずにその身に受け…()()()()()

 

「ざ、残像ッ!? 攻撃が…通り抜けたッ!?」

「電磁結界「カゲロウ」――どんな攻撃も、僕には通用しない」

「カゲロウ…? まさか…電子を操る最強の第七波動(セブンス)蒼き雷霆の能力…まさかお前はッ!」

『この人はGV――蒼き雷霆ガンヴォルト。ま、どうせ貴方達には()()私の声は、聴こえていないんでしょうけど』

「うわああっ!!」

 

 …僕の事を把握した途端、彼等は戦意を失ってしまっていた…紫電が居なくなってしまった事が原因なのだろうけど、こうしてしばらく見ないうちに皇神兵の質も落ちたと僕は実感していた。

 

『流石GV! 不殺の天使!』

「…あまり茶化さないで欲しいな」

『ふふ…でもGVは戦うのは避けてるでしょ? 私も出来れば関係無い人達の相手をするのは避けて欲しいって思ってるから…』

「シアン…」

 

 …とは言え、そのお陰で少なくともこの場は戦わずに済むと判断し、怯えている彼らを後目に、僕は隠密行動を辞め、本格的に動き出す事とした。その時、シャオからの通信が入った。

 

「GV、聴こえる? 平気?」

「シャオ。ああ、問題無いよ」

「ああ、よかった…君が無事で。いくら無敵の蒼き雷霆でも万が一って事はあるからね。それと、優奈の方はまだ見つかってないから、心配はいらないみたい。「陽炎」の二つ名は伊達じゃ無いみたいだね」

 

 優奈さんにはあの光学迷彩がある以上、先に僕が見つかるのは織り込み済みだ。寧ろ僕が見つかって目立てば、彼女はより行動しやすくなる。そう思っていた時、シャオの通信から意外な人の声が届いた。

 

「あの、GV…」

「その声はオウカ? なぜそこに?」

「ごめんなさい、GV。貴方の事、心配で…」

「オウカがどうしても君の無事を確認したいって言うからさ」

「確かに久しぶりのミッションだけど、優奈さんも居るし、僕は平気だよ。だから心配しないで。オウカ」

『そうそう、オウカは私達の事、心配する事は無いんだからね』

「GV…シアンさん…判りました。帰ってきたら、お夜食作っておきますから。なにがいいですか?」

『あ、じゃあ私…』

 

 オウカとシアンの会話のお陰で、すっかり和やかな雰囲気となってしまった…この会話も、先ほどの皇神兵に対しての態度も、以前のシアンからはとても想像出来なかった光景だ。以前の彼女だったら、間違いなく今の会話でオウカに嫉妬して拗ねていただろうし、あの皇神兵に対しても、特に何も感じる事は無かっただろうから。

 

「はははー…今は作戦行動中なんだけど」

「ご、ごめんなさい。それじゃあ、GV、シアンさん。適当に用意しておきますね。だから…無事に戻ってきてください」

「オウカ…」

『大丈夫だよ、オウカ。終わった後の夜食、楽しみにしてるから』

 

 この会話の後、僕達は本格的に行動を開始した。突然何者かに――十中八九エデンの仕業だろうけど――ジャックされた皇神の大型自律飛空艇「飛天」。僕と優奈さんの目的はこのジャックされ、暴走を開始している飛天を止める事だ。これが僕達を誘う罠の可能性は十分にある。だけど、これを見過ごせば多くの人達が巻き込まれてしまう。

 

 そう考えながら、僕達は先へと進む。時には非常事態で降ろされたシャッターを蒼き雷霆でハッキングしてこじ開けたり、道中の皇神兵を気絶させたり、やり過ごしたり、シャオからEPエネルギーの使い方を注意されて、アシモフの事を思い出したりもした…アシモフの事を、簡単に考える事が出来る様になった自分に驚いた。どうやら僕は、あの出来事のトラウマを、僕の予想以上の速さで消化出来つつあるようだ。

 

「けど、よくこんな巨大な飛空艇が浮かんでいられるよね。大陸所か、世界のどこにだってない技術だよ」

「皇神は独自の秘匿技術を持っているからね。眉唾な話だけど、重力制御だって出来る…なんて噂も聞いたよ。実際、優奈さんもそう言った芸当が出来てる以上、本当に眉唾なのかの方が怪しいくらいだけど」

「うーん、確かに優奈のあの芸当…折れそうな枝の上に平然と立ってる光景、見ちゃったし…確かにありえるかもしれないね。それに、皇神は第七波動の分野では世界でも独走状態…科学の域を超えた技術(オーバーテクノロジー)を持っていても不思議じゃないか」

『それにしても…私はこうしてGVのミッションに参加するのは初めてだけど…警備、きつくない?』

「そうだね、シアン…確かに、なかなか警備が手厚い」

「だけど、「連中」…エデンはその手厚い警備を掻い潜って飛天をジャックした事になる。多分何らかの第七波動を使って…」

「エデンの第七波動能力者…か」

「あ、そうそう、その下を進むと、格納庫(ハンガー)だ。皇神は飛空艇内で試作兵器の運用実験をしているなんて噂もあるみたい」

「皇神の事だから、そんな噂が事実だとしてもおかしくは無いね」

 

 そういえば、優奈さんの方はどうなっているんだろうか? そろそろ連絡の一つくらい来てもいい頃だと僕は考えていた。その頃には、僕は飛天の格納庫へと到着していた。その時だった、その格納庫にあった謎の飛行兵器が一人でに動き出し、勝手に出撃してしまったのだ。

 

「あれは…? さっきのは、皇神の飛行兵器? 追いかけるべきか? それに一瞬だけだけど、何か糸の様な物が纏わりついていたような…」

 

 判断に迷っていた時、優奈さんから連絡が届いた。

 

「こちら優奈よ。今さっき飛天から何かが発進したみたいだけど…そっちで何か分かった事は無いかしら?」

「優奈さん…こっちで丁度その発進した飛行兵器を目撃したんだ。それで追いかけるべきかどうするかで迷っていて…」

「この進路…GV、優奈! 大変だ! 暴走した飛天は皇神の超高層ビルに衝突しようとしている!」

「なんだって?」

「なんですって?」

「予想される被害は甚大! 皇神だけじゃない。このままじゃ、被害は大勢の民間人にまで及んでしまう…!」

「…シャオ、確か飛天には緊急時用のコントロールルームがこの辺りにあったはずよ。私は今この位置だけど…GVとどっちが近いかしら?」

「ちょっと待って…この位置情報から判断して…GVの方が近いよ!」

「じゃあ私は飛行兵器の方を担当させてもらうわね。この位置、シャオなら分かると思うけど、丁度飛天の外壁に近い位置だから」

 

 そう優奈さんが言い終わった後、爆発音が聞こえた。恐らく外に出る為に外壁の一部を突き破ったのだろう。

 

「分かったよ。優奈も気を付けてね…GV、衝突まで時間が少ない。優奈の言ってたコントロールルームまでのナビゲートは僕がするから、急いで向かって! 君の蒼き雷霆ならそこでコントロールを奪えるはずだよ!」

「了解…シアン」

『ふふ…分かってるよ、GV。私の力を貸してあげる。このままだと大勢の人が犠牲になっちゃうんでしょ? 放っては置けないし…そして何よりも、他でもない、貴方の為なら…!』

 

――私の歌が、必ず、大好きな貴方を守るから…

 

 シアンの第七波動、精神感応能力「電子の謡精(サイバーディーヴァ)」――彼女と精神的に交わり(リンク)し、高められた僕の第七波動ならば強化された電磁場の力で空中を自在に移動する事だって出来る。今のこの時間が切迫している今、この機動力を頼りに先を急いでいく。そうして急いでいる内に、僕の通った後の通路から、知らない間に()()()()が迫って来ていた。

 

『何…あの光…? 凄く嫌な感じがする』

「僕も感じるよ。あれは危険だ…」

 

 あの光からは、僕やシアン、そして優奈さんの力に近い波動を感じる…あれに触れればただでは済まないだろう。だけど、幸いこの光は進行方向から来ている訳では無い以上、無視すれば問題は無い筈だ。そうして先へと進んでいる内にコントロールルームへとたどり着いた。

 

「あれがコントロール装置…急いで蒼き雷霆でコントロールを掌握しなければ…!」

『…! いけない! とても純粋な第七波動だわ! 気を付けて、GV!!』

「シアン…何か来るのか!」

 

 そう思っていた時、何処からともなく見慣れない紫色のロボットが現れた…その見た目はあえて言うならば、第九世代戦車(マンティス)に近い。

 

「プラズマレギオン!? そんなまさか!?」

「知っているの、シャオ?」

「試作第十世代型戦車「プラズマレギオン」…皇神が開発中の新型自律戦車だよ。だけどあれは、まだまだ完成にはほど遠かったはず…」

『そんな事、関係無いよ! GV、私の歌が貴方に届く限り、貴方は死なない…ううん、死なせない! 私が…私が、貴方を守るから――!』

 

 プラズマレギオンから放たれるミサイルの雨と地を這うプラズマ弾。そして敵の能力なのだろう瞬間移動を駆使して僕を追いつめようとしているが、この程度では手加減状態の優奈さんの方がよっぽど手強い。故に…

 

――天体の如く揺蕩え雷 是に到る総てを打ち払わん

 

「シアン…大丈夫、この程度の相手なら…! 迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)! いかなる障害も貫き払う、轟天の(いかずち)たれ! ライトニングスフィア!!」

 

 これに加え、シアンの力も借りている以上、負ける道理などあるはずも無かった。

 

「撃破完了…急いでコントロール装置に向かわなければ…!」

 

 そう思いながら僕はコントロール装置へと向かい、ダートを撃ち込んでハッキングを試みるが…

 

「これは…? プロテクトがかかっていてデータを書き換えられない…! 電子を操る蒼き雷霆以上の…ハッキングに特化した第七波動…?」

「そんな!このままじゃ沢山の人の命が…!」

 

 確かに今のままでのハッキングでは無理だろう…だけど、僕には優奈さんから教えて貰った力がある!

 

「シャオ、諦めるのはまだ早い…迸れ、蒼き雷霆よ…!」

 

 僕は体内にEPエネルギーを集中させ、優奈さんが扱うあの力…波動の力を行使する。正直今の段階では付け焼刃ではあるけれど…諦める道理は、無い!

 

「よし…プロテクトを食い破り出した…!」

「本当に!? 凄いよ、GV! …っ! GV、何かがこの部屋に向かって来てる!!」

 

 シャオの連絡を受けたと同時に現れたそれは、丸いフォルムが特徴的なロボットと思わしき存在だった。そして、そのロボットは腕にこの場に似つかわしくない女の子を抱えていた。その時だった。

 

『ちょっと待ってGV! …これ…何か…おかしい…っ』

 

 シアンがそう叫んだ途端、シアンの力(ソングオブディーヴァ)が解除されてしまった。

 

「シアン!?」

『そんな…私とGVの繋がりが…弱まった…?』

 

 それだけならばまだ何とかなった。だけど、そのロボットがこちらに対して攻撃を仕掛けてくるアクションをしたのが不味かった。

 

「くッ! やらせるか!!」

 

 僕はとっさにロボットに対して即座に接近し、先ほどまで使っていた波動の力を腕に集中し、腕に捕まっていた女の子を掻っ攫いながらロボットを殴り飛ばし、そのロボットを沈黙させた。今僕の腕に収まっている女の子は…呼吸は安定している。どうやら気絶しているだけで、無事な様だ。しかし…

 

「この子は一体…いや、それよりも…!!」

 

 即座に僕はコントロール装置へと戻るが…やはり、先ほどのやり取りの間にプロテクトが修復されており、今から食い破っても先に飛天が超高層ビルへと衝突してしまうだろう。

 

「そんな…もう少しだったのに…」

 

 シャオが意気消沈していたが、それよりも僕はシアンが気がかりだった。一応コントロールが無理だった場合の第二の案があるのだが、それをする為には彼女の助けがどうしても必要だったからだ。

 

「シアン、大丈夫? あのロボットが現れてから調子が悪いみたいだけど…」

『GV…多分原因はあのロボットじゃなくて、その子だと思う…何て言うか、その子を見ていると、何だかザワザワするの…』

「…飛天を止めるのに、今はシアンの力が必要なんだ。まだ調子が悪いだろうとは思う…少しの間だけで構わない。僕に力を貸してくれないか?」

『少しの間だけなら…まだなんとかなるよ…でも、大丈夫なの?』

「大丈夫。僕にはシアンだけじゃない。優奈さんも居るんだから」

 

 そう、第二の案、それは…

 

「ちょっとGV! 一体どうするつもりさ!?」

「ビルに直撃しない様、外から持ち上げる!」

「そんな…無茶苦茶だよ!!」

「無茶でもやるしかない…行こう、シアン」

 

 僕は女の子を安全な場所へと寝かせ、その後シャオのナビゲートで外へと飛び出し…

 

「迸れ、蒼き雷霆よ! 地に堕つ要塞、その雷撃で包み込め!!」

 

 僕の雷撃による電磁場による電磁浮遊、それを転用して直接持ち上げる事だった。だけど…

 

『ううっ…ダメ…! …力が…安定しない…! なんで…!?』

「シアン…! もう少しだけ持ちこたえてくれ…! そうすれば…!」

『あ…GV! この波動…優奈さんだよ!!』

 

 シアンが限界を迎えようとしていた時、優奈さんがこの場に駆けつけてくれた。

 

「遅くなってごめんなさい! 後は私が変わるわ! …はぁぁぁぁぁ!!」

 

 僕は優奈さんへとバトンタッチをし、ビルへの直撃コースを避けるはずの飛天に残した女の子を助け出そうとした時…突如地上からの高出力のビームが飛天へと突き刺さった。幸い優奈さんや僕は巻き込まれる事は無かった。確かあの位置は…

 

「あの位置…あそこには飛天の動力炉が存在している箇所だ!」

「…飛天の推力が弱まったのはそれが理由だったのね」

「じゃあ今の内に、飛天に居た女の子を助け出さなきゃ…」

 

 僕はそう言いながら残してしまった女の子を助ける為に飛天へと戻った…後にして思えばこの時、僕は優菜さんの会話をよく聞いておくべきだった。

 

『…優奈、GVとシアンの繋がり、明らかに弱まってるわよ』

「なんですって…! さっき遭遇した()()()()の事も考えると…GVの言っていた女の子はやっぱり…!」

『となると…優奈、不味いよ! やっぱりエデンはこの世界の私の事を狙って…!』

 

 この会話を聞き逃していなければ、僕はシアンをあのような目に合わせる事は無かっただろう…と。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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