【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第十話

 時間は僕が飛天から出撃したであろう飛行兵器…フェイザントを追いかける所までさかのぼる。

 

「あの機体…どうやらアスロックのパペットワイヤーで強引に動かしている様ね」

『だけど、私達が対処した時の完成したフェイザントと動きそのものに大差が無いみたいだけど…』

『込められている力が違うのよ、きっと。まあどちらにしても…アタシ達の敵じゃ無いわ』

 

 そう、フェイザントその物は敵では無い。実際にもうその背中へと取り付く事に成功しており、既にチェックメイトを済ませている状態だ。…この機体、真っ直ぐと向かっている様だけど…! あの人影…この世界のアキュラか! 装備を見るに、既に「ヴァイスティーガー」が、そしてロロが居る状態の様だ。

 

 だけどどうしてこんな所に? そう考えていた時、フェイザントはアキュラに対して

ミサイルを大量に放った。だけど、それは無駄な行為に終わるだろう。何故なら…

 

『やっぱり、「フラッシュフィールド」は搭載されているみたいだね』

「ええ…だけど、そろそろこのフェイザントを片付けてしまいましょう。このままではあらぬ誤解を受けそうだし」

『誤解が無くても、この世界のアキュラ、アタシ達に攻撃仕掛けてきそう。多分能力者の事、恨んでるままだと思うし…』

 

 アキュラの事は兎も角、フェイザントは始末しよう。僕は波動の力を拳へ込め、乗っていたフェイザントに叩きつけ、破壊を済ませた。それと同時に着地を済ませ、返す足で飛天へと戻ろうとした時、僕は()()()()()()。その瞬間、先ほど顔のあった場所に一筋のレーザーが通り過ぎた。

 

「…外したか。あれで仕留められると思っていたのだがな…能力者(バケモノ)め」

『惜しい! アレ絶対に当たると思ってたのに!!』

「…私は貴方に付き合っていられるほど今は暇じゃないの…退いてくれるかしら?」

「断る…ミチルを攫った輩に容赦をする理由など無い。ここで討滅する…!」

 

 ミチル…それはアキュラの妹の名前だ。そして、今、彼はミチルが攫われたと言った。もしかして、今飛天の中にミチルが居る状態…! やはりこの状況、仕組まれていたのか! そんな事を考えている僕の事等お構いなしに、アキュラは僕に襲い掛かかってくる。

 

 アキュラは高速飛行…ブリッツダッシュで高速接近してきた…あれはあのレーザーを必中させる為にロックオンするつもりの様だ。あれは特殊な方法でロックオンしているらしく、カゲロウでもこのロックオンを防ぐことは出来ない。だけど…

 

「…! ロックオンをすり抜けただと…!」

「生憎、攻撃をすり抜ける手段はあの有名なカゲロウ以外にも、色々とあるのよ?」

『嘘! アキュラ君、スパークステラーも通らないよ!』

 

 波動の力による疑似再現された邯鄲の夢の解法の(とう)の前では、それも無駄な事だ。当然、疑似再現された蒼き雷霆の力も例外では無い…世界を巡る以前の話に戻るが、()()()()()()()()()()()()()による言葉のお陰で、僕はもう邯鄲の夢を使用する事に躊躇いは無い。必要となれば、あの時ノワと相対した時と同じように終段も躊躇なく使用するだろう。

 

「私は貴方の言うミチルと言う子を攫ってはいないのだけれど…」

「仮にそうだとしても、貴様が能力者である事に変わりは無い。貴様はここで…どうした、ノワ…飛天が落下する…だと?」

 

 ノワからの通信で、どうやら飛天が落下する連絡を受けた様だ。それと同時に、落下のコースをたどっている飛天。確かにこのままでは…あの、超高層ビルへと衝突してしまうだろう。

 

『アキュラ君、どうするの? このままだとミチルちゃんが!』

「くッ! …なんだ? 強力な第七波動反応だと?」

『アキュラ君! アレを見て!』

 

 その光景は、この世界の僕が飛天を電磁場を利用した超電導磁気浮上によって、落下している飛天を支えている姿であった。だけど…やっぱり、シアンの歌で強化されている状態ならばもっと安定した状態を維持出来る筈だと言うのに、今のあの状態はかなり不安定だ…

 

 今ならアキュラの目は飛天へと向いている。動き出すなら今だろう。僕は即座にこの場を離脱し、空中に居るこの世界の僕と合流し、飛天を支えるバトンタッチを済ませた。その直後…アキュラの居た位置から、高出力のビームが飛天に向けて放たれた。あの位置は確か…

 

「あの位置…あそこには飛天の動力炉が存在している箇所だ!」

「…飛天の推力が弱まったのはそれが理由だったのね」

「じゃあ今の内に、飛天に居た女の子を助け出さなきゃ…」

 

 そう言いながらこの世界の僕は飛天へと戻っていった。恐らくアキュラの言っていたミチルの事だろう。だから僕はこの時、この世界の僕を止めるべきだった。

 

『…優奈、GVとシアンの繋がり、明らかに弱まってるわよ』

「なんですって…! さっき遭遇した()()()()の事も考えると…GVの言っていた女の子はやっぱり…!」

『となると…優奈、不味いよ! やっぱりエデンはこの世界の私の事を狙って…!』

 

 あの不安定な状態を見て予想はしていたけど、既に一度この世界の僕はミチルと接触してしまったらしい…今飛天はビルへの衝突は回避出来てはいるけど、僕がコントロールをして軟着陸をさせないと被害が大きくなると言う状態。それに、あの場を繋がりが弱くなった影響で限界を迎えつつあったこの世界のシアンの補助を受けた彼に任せる訳にも行かなかった。つまり、結果的にこの世界の僕がミチルを助け出すしかない訳で…

 

「飛天を軟着陸させた後、直ぐにGVと合流するわよ!」

『ええ!』

『お願い…二人共…どうか無事でいて…』

 

 …この世界のシャオに調達をお願いした()()()…早速、使う事になりそうだ。とは言え、あのパンテーラに通用するかどうかは疑問だけど…

 

――――

 

 

 僕は気絶している女の子を助け出し、優奈さんの手でゆっくりと軟着陸をする飛天を後にした。その着陸した先には、あの能力者を憎む復讐者…銃を構えたアキュラの姿があった。僕は助け出した女の子をそっと地面へと寝かせ、アキュラと対峙した。

 

「あのビーム、お前だったのか。アキュラ…」

「ガンヴォルト、その少女――ミチルを渡せ」

「ミチル? この子は一体…」

 

 その後の有無を聞かず、アキュラは僕に接近してきたため、僕は間合いを取る為にその場から離れた…その時だった。

 

「一挙両得。凍てつけ…「超冷凍(オールフリーズ)」!」

「なにッ!?」

「これは…!?」

 

 これは…氷か。く…足を取られたか…! 僕とアキュラが氷に足を取られた瞬間、僕達二人の中央から変身現象(アームドフェノメン)を起こしたと思われる男が出現した。

 

「量才録用。その子を連れ出した甲斐があったな…」

「その姿…皇神の能力者か」

「軽慮浅謀。違うね。僕は皇神の人間なんかじゃあない」

「彼の名はテンジアン。私を守る愛すべき七人の戦士「G7(グリモワルドセブン)」のリーダーさ」

 

 僕達の居る場所に、聞き覚えのある男の声が響いた。この男の声は…!

 

「その声は、パンテーラ!? やはり生きていたのか」

「おや、私の美声、覚えていてくれたのかい? 愛を感じるよ」

 

 パンテーラは幻覚を用いる能力を使うと以前のミッションでモニカさんから聞いた事がある。その能力を用いれば騙す事など容易い。優奈さんの言った通り、やはりパンテーラが首謀者だという事か…!

 

『やめてっ!! GVは私が守るっ!!』

「フハハハハッ! これだ! 謡精との結びつきが弱まる、この時を待っていた!!」

 

 あの男…シアンが見えるのか…! …優奈さんはミッション開始前、エデンは電子の謡精の力を狙っていると話していた…それに、あのテンジアンとか言う男の言動…やはり、この一連の事件の目的は…!

 

「シアン…! 出てきちゃダメだ! 奴には君が見えている!」

「さあ電子の謡精よ…我が愛の檻に囚われたまえッ!!」

 

 その瞬間、僕の目の前で、シアンが奴の第七波動と思われる鏡によって閉じ込められてしまった。

 

『何…これ!? GV!!』

「シアン!!」

 

 不味い…早く氷の拘束を解かなくては…! このままではシアンが…僕の大切な、シアンが…!

 

「それは我が第七波動が生み出した鏡…」

『…こんな鏡で閉じ込められたって、私は怖くなんて無いんだから!!』

「ふふ…君は実に健気な謡精じゃ無いか。本当は怖くて怖くて仕方がないだろうに、あえてそれを押し殺して気丈に振舞うなんて…実に深い愛を感じるよ…だけど、残念…少し黙っていてもらおうか。テンジアン、頼むよ」

「委細承知…はぁっ!!」

 

 この瞬間の出来事を、僕は決して忘れはしない。気丈に振舞う鏡に閉じ込められたシアンがテンジアンの手によって砕かれる。その瞬間を。この時、僕の脳裏にはオウカの屋敷で過ごした時の記憶が蘇っていた。優奈さんやオウカと出合い、日常生活を送り、少しづつ心を癒されていく事を感じた。実体化し、生前よりもずっとシアンと心を通わせることが出来た。その後にシャオとも出会って、シアンはますます笑顔を見せる様になり…

 

「そん…な…!?」

 

 そんなシアンが砕ける様を、僕は唯茫然と眺める事しか出来なかった。

 

「電子の謡精――その力を宿した鏡の欠片(ミラーピース)()()もあれば十分か。予定通り、回収完了。はぁ…ところでパンテーラ。その悪ふざけをいつまで続けるつもりなんだ?」

「ふむ…ここまでくればもはや皇神に潜入するためのこの姿でいる必要はないか。判ったよ…この美しき姿に別れを告げて、今見せよう! 真実の愛をッ!!」

 

 そうしてパンテーラが真の姿を現した…その姿は…まだ年端もいかない少女の姿であった。

 

「これが私の偽りなき姿…改めて…私はパンテーラ。「エデン」の巫女にして象徴」

「エデン…?」

「遥かに優れた力を持ちながらこの瞬間にも、無能力者たちに迫害を受け続ける能力者(どうほうたち)…能力者が安心して暮らせる世界を作ろうってのが、僕達「エデン」だ」

「フン…何かと思えば、フェザーと似たような連中か…」

「能力者の保護――彼らの志には共感しますが、それで救える者はごく僅か…私達が目指すのは旧き人たちを排除した能力者だけの理想郷です」

「過激派か…怖気が立つ」

「用心堅固。もういいだろう、パンテーラ。あまり君を危険に晒したくは無い。ミラーピースは回収出来た。ここは僕に任せて下がってくれないか?」

「テンジアン…判りました。この場はあなたに託します。けれど、貴方にも役目がある事を忘れないでください…」

「慎始敬終。何、君が手ずからスパイまでして持ち帰った皇神の技術――「宝剣」の力…もうちょっと、確かめてみようと思ってね」

「…また、会いましょう。全ては、愛に満ちた世界の――」

 

 その時だった。僕達の認識の完全な外から、超遠距離の狙撃による砲撃が、あの少女のパンテーラを捕えた。あの砲撃…あれはアシモフが使っていた対戦車用レールライフル「E.A.T.R.(イーター)」の狙撃! 確か、優奈さんがシャオに手配するようにお願いしていたのを見た覚えがある。つまり、この狙撃は…!

 

「何をボサっとしているの! 早くシアンを取り戻しなさい!」

「増援だと! …パンテーラ!」

「…大丈夫ですよ、テンジアン。この程度では、不覚は取りません」

 

 パンテーラが撃ち抜かれた瞬間、彼女の体はまるで鏡の様に砕け、その後、即座に無傷の本人が踊る様に姿を現した。この突然の事態を好機と見たのだろう。アキュラも動き出した。そして、僕も優奈さんに発破を掛けられ、停止していた思考を復活させ、即座に氷を粉砕し、テンジアンに肉薄した。

 

「今だ…! ロロ! チャージは済んでいるな!」

『当然! 僕に任せなさーい! このカケラ! 貰ったぁー!』

「シアンを…返せ!!」

 

 この隙を突いた結果…僕とアキュラはそれぞれ十枚あったミラーピースの内、それぞれ一枚づつ奪い取る事に成功した。

 

「…シアン!」

『…G……V……』

 

 奪い返したミラーピースから、シアンの声が聞こえた。

 

「その声…シアン!? 無事なのか!」

『私…またGVに…助けられちゃったな…』

 

 そうして姿を現したのは、文字通り妖精サイズとも言える、シアンの姿であった。

 

『今の私じゃあこの姿が限界みたい…でも、こういう姿も…悪くないでしょ?』

 

 どう考えても、シアンは強がっている様にしか見えない。僕に心配を掛けさせない為に…

 

「テンジアン…パンテーラ…よくも…よくもシアンをこんな姿にしてくれたな!!」

 

 僕の怒りの感情から、蒼き雷霆の力がより強く引き出される。優奈さんも背後で油断無くE.A.T.R.を構えており、アキュラは既に目的を達成したとみて、あの少女を連れて撤退をしていた。

 

「く…してやられたよ…残り八枚。遺憾千万…宝剣の力を試してみたかったが…」

「テンジアン、此処は引きましょう。あの状態の彼らを相手にしては、私達の被害が拡大してしまう…」

「パンテーラ…了解した。二枚も奪われた以上、こちらも一旦退くしかないか。遠走高飛…」

「逃がすか!!」

「逃がさない!!」

 

 僕はライトニングスフィアを、優奈さんはE.A.T.R.による砲撃を放ったが、その攻撃は届く事は無く、あの二人には結局逃げられてしまった。後に残ったのは、僕達と、小さくなってしまったシアンのみであった――そんな飛天の暴走事件から数日後、僕は前回の潜入時の反省から、シャオに新しい戦闘服を用意してもらっていた。

 

「どうですか、GV? 新しいお洋服は…」

「「お洋服」って…一応それ、戦闘用なんだけど…耐久性の向上とか、軽量化とか 前着てたのよりも数段強化されてるんだから」

「着心地はバッチリだよ…似合ってる?」

「ええ、とてもよく似合ってますよ、GV」

「うんうん、前よりも、ずっとかっこよくなったよ、GV」

「ありがとう、シアン…それにオウカも」

「ふふっ、本当によくお似合いです」

「シアンにもこの戦闘服の良さ、分かってくれて良かったよ。用意したボクも似合ってると思うし……けど、本当に服だけで良かった? まだ他に必要なモノはない?」

「今はまだ大丈夫…必要になったらまた頼むよ」

 

 あの戦いの後、大半の力を奪われ、小さくなってしまったシアンだったが、それでも実体化させる事は問題無く出来た為、シャオも以前と同じようにシアンの事を認識できていた。

 

「GV? 新しい装備を身に付けた様ね…早速だけど、訓練を始めるわ」

「了解です、優奈さん。先ずはこの装備に慣れないといけませんからね」

「GV、優奈さん…シアンさんの事で大変なのは分かりますけど、余り根を詰め過ぎては…」

「大丈夫だよ、オウカ。僕はそんな軟な鍛え方はしてないから」

「オウカ、本当に不味い時は私も無理矢理にでも止めるから、その辺りは安心して。どちらかと言うと、今はシアンの方が気がかりなのよ。力を奪われて、あんなに小さくなってしまったのだから」

「優奈さん…私は平気だよ。それよりも私は二人に、あまり無理をして欲しくないな…」

 

 シアン…今は平気そうだけど…この姿になった事で、今後どんな影響があるかは判らない…一刻も早く、シアンの力が封じ込められたあの「ミラーピース」を奪い返して、元の状態に戻さなければ…そう思いながら、僕は優奈さんに何時も訓練所として使ってる場所へと向かい、そこで訓練を始めた。

 

 鈍っていた体も、これまでの訓練と前回のミッションも含めた経験によって、大分戻ってきているのを感じている。とは言え、まだまだ全盛期には程遠い。そんな感じに訓練を重ね、僕達は休憩に入った。その時、優奈さんが僕に話しかけて来た。

 

「…ごめんなさいね」

「優奈さん?」

「私がもっと早くエデンの罠に気が付けていれば、こんな事にならなかったわ…目的その物は既に把握していたと言うのに…」

「いえ、僕も優奈さんの話を聞かずにあの女の子…ミチルの救出を優先してしまった。それにあの時…シアンが砕かれてしまった時、僕は動けませんでした」

 

 そうお互い謝りながら暗い顔をしていると、シアンが僕達に話しかけて来た。

 

『もう、二人共! 過ぎた事を悔やんでも仕方が無いでしょう! 私は力の大半を奪われちゃったけど、こうやって二人に助けれて無事だったんだから! あの時、内心私はもうダメだって思ってた。でも、優奈さんが隙を作って、GVは私を助け出してくれた。私、とっても嬉しかったんだから…』

「「シアン…」」

『これ以上の訓練はやめた方がいいわね』

『もう帰って、オウカの屋敷に帰ろう? 今は頭を冷やして、体を休める事の方が大切だと思うの。それに…一つ、試してみたい事があるの』

「試してみたい事?」

『うん。もし上手くいけば…この世界の私の事、元に戻せるかもしれないから』

「…それは、本当なのか!?」

『そんな事、出来るの?』

『…あぁ、なるほどね。アタシもそれ、試してみてもいいと思うわ』

 

 優奈さんのシアンに何か打開策があると言われた為、僕達は一度オウカの屋敷へと戻り、元に戻せるかもしれないと言う方法をお願いする事となった。

 

『行くよ、()。気をしっかり持ってね』

『うん。お願いね、()

 

 今、優奈さんのシアンの手のひらに僕のシアンが佇んでいる。そして、彼女のその手のひらから凄まじい…今まで感じた事も無い程の膨大な第七波動が溢れ出した。

 

『んぁ…! 何これ…凄い…力が、溢れてくる!』

「この方法…私の居た世界のミチルが電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力を得た状況を疑似再現しているのね!」

『そう言う事。あの時は力が垂れ流しだったから、本来ならミチルに悪影響を起こしそうだったけど、ロロが防波堤になってたのよね。それで、今やってるのは…』

「優奈さんのシアンの力を、僕のシアンに流しているんですね?」

『そう言う事。私もあの頃よりもずっと力の制御、上手くなったから出来るんじゃないかなって思ったの』

 

 そして十分も経たない程の時間で、僕のシアンはあの小さな姿から、元の姿へと戻った。

 

『わぁ…本当に、元に戻れた。やったよGV! 私、元に戻れたよ!!』

「シアン…! 良かった…本当に、良かった…」

 

 僕はシアンを実体化させ、お互いに抱き合う事で喜びを表現していた。互いに触れ合い、体温を感じ、鼓動を感じる。ここに居るのは間違いなく、あの時感じた時と全く同じ、僕の大好きなシアンだ。

 

「これで当面の問題は回避は出来たけど…」

『だからと言って、奪われたシアンの力、回収しない訳にはいかないわよね?』

『そうだね…どんな風にこの世界の私の力を使うつもりなのかは分からないけど…きっとろくでもない使い方、すると思う』

 

 …僕は優奈さん達が抱き合っている僕達を見ながらこのような会話をしていたのを聞いて、慌ててシアンから離れた。シアンの方を見て見た…顔が真っ赤になっている。僕もきっと、同じように顔が真っ赤になっているんだろう。

 

「「………」」

「今は、そんな話は野暮ってものね。続きは明日にしましょう」

 

 そう優奈さんに言われた後、僕達二人を置いて、優奈さん達は部屋を出て行ってしまった。どうやら、気を使われてしまったようだ…

 

「シアン…」

「GV…」

 

 この日、この部屋で、僕とシアンの影が重なった。その後は…語るのは野暮と言う物だろう。

 

 しかし、あれだけの第七波動…本人曰く、あれで()()()()()()()()()()のだと言う。優奈さんのシアン…文字通りけた外れの第七波動だ。彼女が抑止力として機能した理由の一端を測らずとも知ることが出来てしまった。だけど…この膨大な第七波動、下手をしたらエデンに察知されてしまうのではと僕は危惧していたのだが…

 

「大丈夫よ。あの時、事前に波動防壁で第七波動を遮断して隔離していたから」

 

 あの時、優奈さんは事前に手を打っていた。考えてみれば、光学迷彩の時点で第七波動を遮断出来ていたのだ。純粋に第七波動を隔離する為の空間だって当然作れる。ともあれ、元に戻ったシアンがオウカとシャオに「心配を掛けてゴメンね」と謝りつつ、元に戻った事を伝えている光景を見ながら、改めて僕は心の底から安堵した。そして、必ずエデンからシアンの力を取り戻す。彼女の力を利用した悪事を防ぐ、その為に。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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