【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第十八話

 パンテーラが息を引き取ったのを確認した後、彼女からこの世界のシアンから得ていた電子の謡精(サイバーディーヴァ)第七波動(セブンス)因子がミチルへと流れ出そうとしていた。この能力は本来ミチルが持っていた能力。だから本人に戻るのは当然の流れと言える。だけど、このまま戻すのはマズイ。

 

 以前アキュラにも話した通り、ミチルにミラーピースと言う形で力が戻っていた時、健康を取り戻していた代わりにシアンの記憶が上書きされつつあったからだ。だけど、記憶を維持したまま力を戻す方法はある。以前、僕の居た世界でロロがミチルに対しての防壁の役割を果たした上で、力の供給を行っていたのを覚えているだろうか?

 

 アレが実現可能だった背景には、僕の世界に居たロロに搭載されていたUS(アンノウンセブンス)ドライブ…正確には僕のシアン達の力が込められていたガラス片を経由した事があった。つまり、なんらかの物質を経由し、そこから力を少しづつミチルに流せば問題は無い。それに、この方法を使えば以前この世界のシアンに供給した力も回収できる。

 

 この力の供給はあくまで不足分を補うと言う形だったからこそ上手く行ったのだ。もしこのまま戻してしまうとミチルに過剰に力が戻ってしまい、記憶所か下手をすれば彼女が生まれた時と同様に命に係わる。こんな事もあろうかと、僕の世界に居たアキュラから緊急時の対処法を聞いていた。

 

「優奈さん、それは…?」

「GV、これは「ヒヒイロカネ片」よ」

「ヒヒイロカネ片だと…そんな物、何に使うつもりだ?」

「パンテーラが倒れた影響で電子の謡精の能力因子がミチルに戻りつつあるのよ。それも急速に。だから、一時的にこれに能力因子を隔離しようと思って」

「何故隔離を……ミチルの記憶の為か?」

「そう言う事よ。このまま急速に力が戻ったらミチルの記憶に影響が出るのは間違い無いわ。だから、このヒヒイロカネ片を防波堤として機能させるのよ。早速だけど、始めさせて貰うわね」

 

 そう宣言しながら僕はパンテーラの亡骸から放出されつつあった電子の謡精の能力因子を波動の力でヒヒイロカネ片にかき集めつつ、この世界のシアンに供給されていた僕のシアンの力の回収も済ませた。とは言え、このままではこの世界に居たGVに残ったシアンの意思分の力が不足している為、帳尻が合わないだろう。だから、その分だけをヒヒイロカネ片に流し、帳尻を合わせた。

 

「……ふぅ、これで良し。後は…これを、ロロに組み込むだけよ」

「…何故そこでロロが出てくる?」

「ロロとミチルは、言わばモルフォと生前のシアンと同じような関係だからよ。つまり、ロロとミチルはそう言った繋がりがあるのよ。気が付ているかしら? ロロの人型形態(P-ドール)の姿って、彼女の理想の姿であるって事に」

『…僕のあの姿がミチルちゃんの理想の姿…なの?』

「何故、そう言い切れる?」

「…アキュラならミチルの服の趣味、何かしらの形で把握していると思ったのだけれど」

「…ミチルがファッション誌を読んでいた時があったな…言われてみれば、確かにあの時のミチルの趣味とあのロロの姿は一致している」

「シアンがまだ生きてた時、モルフォの姿は理想を形にした姿だって言っていたよね?」

「うん…」

 

 この世界のGVの台詞に対して返事をしたのは、実体化したシアンだ。彼女は電子の謡精の力をほぼ奪われつくし、掌サイズになった上に生前の姿へと戻ってしまっている。だけど、実体化した際はGVの力を多く流す事でサイズだけは生前の時に戻せている。

 

「ミラーピースは、言わば第七波動の塊だったような物。だけど、今私が用意したこれはちゃんとした物質を経由しているわ。だから、以前起こった記憶の混濁は起こらない筈よ…さて、いい加減話しましょうか。何故そう断言できるのかを」

 

 そう言いながら、僕は自身の経緯をアキュラに説明した。勿論、向こうのアキュラの事も。実際に説明が終わった後、僕はアキュラの前で蒼き雷霆(アームドブルー)の力を行使して見せた。

 

「迸れ、蒼き雷霆よ! とまあ、こんな感じね」

『力の波動の性質がほぼガンヴォルトと一致してる…』

「…貴様はやはり、紛れも無く能力者(バケモノ)だ。どうやら貴様の世界の俺は随分と甘かったみたいだが、俺はそうはいかない…とはいえ、ミチルを救ってもらったのは紛れもない事実だ。今回だけはお前達の事は見逃そう。だが、次は無いぞ?」

「それに関しては大丈夫よ。私の憂いはもう大体晴れたから、この世界からは撤退する予定よ」

「そうか、ならばもう会う事も無いだろう……」

アキュラ君、バケモノだとか言ってるけど何か残念がってる様に見えるのは気のせいじゃないよなぁ…

「…それと、これは預けるわ。方法は伝えたから、後は貴方次第よ」

「………俺の気が変わる前に、早く撤退するんだな」

 

 そんな事も有り、僕は電子の謡精の力を封じ込めたヒヒイロカネ片をアキュラに預け、遺体が利用されない様にパンテーラの亡骸を僕の蒼き雷霆で灰へと返し、この世界の僕達と共にベラデンを後にした。

 

「それにしてもGV、シアン、本当に良かったの?」

『GVが私の事を守ってくれるから…私は助けに応えてくれる英雄(ヒーロー)が居るから、大丈夫。それに、こんな私でもそんなGVの事を支える事が出来るって分かったから…それに、元々電子の謡精の力は彼女の…ミチルの物だったんだよね? だったら、返さないといけないと思うの』

「それに電子の謡精の力は戦いに巻き込まれる要因です。アキュラには悪いけど、寧ろ僕達から離れて良かったとすら思ってますし…」

『それに、「モルフォ」の記憶も意思も、私の中に残ってるから…持ってかれたのは、純粋に力だけだったから、大丈夫なの』

「貴方達がそう言うなら、私は何も言わないわ」

 

 まあ、確かに紫電の時も、パンテーラの時も元を正せば「電子の謡精」が発端なのである。それに、今のこの世界のシアンはあの鎖…「比翼の鎖」によってこの世界の僕の蒼き雷霆の力へと完全に同化している。それはあの特殊な環境下で比翼の鎖を発動させた為起こった特殊な現象だった。

 

 これで彼女の完全な自由は果たせなくなってしまったけれど…彼女の「自由」はこの世界の僕と共に一緒に居る事だ。そう心から想っていなければ、そもそもあの鎖は発動しない。だからこそ、この世界の僕もこの事実を許容しているのだろう。そうして僕達はベラデンからオウカの屋敷へと帰還を果たした。そこでは帰って来た僕達を涙目になったオウカが出迎えた。

 

 その後、この世界の僕は波動の力を十分に扱えるまでに成長し、その身に宿したシアンとオウカの三人で互いに支え合いながらこの世界で生きていく事となる。シャオはそんな三人の邪魔にならない様に、僕達と別れを済ませていた。そして僕も元の世界に帰ろうとしたのだが…そんな日に別れた筈のシャオを僕は見かけたので、気になってこっそりと姿を消しながら後を付けていた。そうしたら、シャオは裏路地でノワと合流しており、何か会話をしていた。

 

「ベラデンまでの送り迎え お疲れ様でした。それで…これが「謡精の宝剣」…へえ、ペンダントの形にしたんですね?」

「ただの趣味です。私も女ですから」

 

 恐らく、能力をロロ経由でミチルに戻した電子の謡精をアキュラが再隔離しようとし、その器をノワが用意し、それに隔離したのがあの謡精の宝剣なのだろう。

 

「意外ですね。とても「傾国の誘惑者」とまでよばれた魔女のセンスじゃ…」

「私は()()()で、神園家に仕えるメイドです」

 

 …間違ってはいないな。うん、「あくま」でと言うのは嘘では無いし。それに、彼女の目線がこちらを一瞬向いた。やはり、僕の事に気が付いている様だ。

 

「あはは…何にせよ目的は果たせました。ありがとうございます。「ノワさん」」

「シアンさんから完全に引き剝がされた電子の謡精の第七波動誘因子を摘出…あなたはいったい、何を企んでいるのですか?」

「企むなんて人聞きが悪いなあ。「電子の謡精」は世界を変える大きすぎる力…エデンはもちろん…ガンヴォルトにだって渡すわけにはいきません。それに、こんな力を持ったままじゃ、ミチルさんは普通の人生を歩めない。こうやって宝剣――今はペンダントでしたか。因子を再隔離して、能力を完全封印すれば、ミチルさんも平穏(しあわせ)な毎日を贈れる。そう思ったからこそ、あなたも手をかしてくれたんじゃないですか?」

「それは…」

「以前、彼女のお父さん――神園博士が手術を行った時は、皇神の裏工作で、摘出した誘因子が「生きた宝剣(シアン)」に移植されたせいか、あるいは博士の技術が当時まだ不完全だったせいなのか…ミチルさんの身体にも影響が出ていたようですが、今はその心配もありません」

 

 そう言いながら、シャオはノワから謡精の宝剣を受け取ろうとしていたのだけれど、ノワがそれに待ったを掛けた。

 

「煙に巻きますね。それは、私の目的です。あなたは、自分の目的を何ひとつ話していない…」

「すぐに判りますよ。心配しなくても大丈夫です。悪いようにはなりませんから。そう、これは言わば()()()ですから」

「撒き餌、ですか?」

「その通りです。ノワさんなら、()()()()()()()()()()()()()()()()

「…さて、何のことやら」

 

 …つまり僕は、誘い出されたという訳か…違和感はあった。この世界のシャオはフェザーの所属と言いながらジーノの事を知らなかったし、他にも違和感は所々にあった。それに、僕の世界に転がり込んで来たシャオから、元の所属について把握している。本当は、フェザーでは無く、皇神(スメラギ)に所属していたのだと言う。だと言うなら、この「彼」は紛れも無く…

 

「優奈さん。居るんですよね?」

 

 どうやら、シャオは気が付いている様だ。僕は「とあるSPスキル」を発動させた状態で姿を現した。

 

「…よく気が付いたわね」

「ノワさんの視線が一瞬だけ僕から外れましたからね。そう予想はしていたのですが…()()()()()()、それが貴女の本当の力…「蒼き雷霆」、そして「電子の謡精」を越えた力ですか」

 

 僕はシャオと対峙する形となったが、ノワはそんな僕達から離れ、傍観を決め込む構えの様だ。もしかしたら、今僕が展開しているこの翼の性質にあたりを付けたのかもしれない。

 

「だとしたら、如何するのかしら?」

「それは貴女の力を利用して…あれ? 何で能力が…」

 

 シャオの能力は既に把握している。それは時間操作能力。それに対抗する手段は僕の中ではいくつか存在している。一つは素粒子の謡精女王(クロスホエンティターニア)で形成した集合的無意識から「疾走する停滞」の力を「黄昏」を経由して借り受ける事。そしてもう一つは、今展開している蒼き雷霆と電子の謡精の二つの能力が必要な異能を否定するSPスキル、「謡精の羽(フェザーオブディーヴァ)」。

 

 僕はシャオが何かする前にその手に持っていたダートシューターの引き金を引いた…僕はてっきりノワ辺りから妨害を受けると思っていたのだが、彼女は完全に傍観を決め込んでいた。それを見て、僕は謡精の羽を解除し、彼女に近づき、話しかけた。

 

「…良かったの? 助けなくても」

「ええ、元々利害が一致したから協力関係であっただけの事です。それにこのペンダントの隔離先にはアホ天…他にも当てはありますので、そちらに向かえばいいだけの事です。それよりも、お礼を言わせてください。ミチル様を()()()()()()助けて頂き、ありがとうございます。私は最低ですが、記憶を失う事は、覚悟していたのです」

「…そう、アキュラは上手くやったみたいね」

「はい。本人には直接言うつもりはありませんが、アキュラ様は紛れも無く天才でありますので…では、私はこの辺りで失礼させて頂きます」

 

 そう言いながら、ノワは姿を消した。そうして僕は撃った筈のシャオへと顔を向けたのだが…倒れていた筈のシャオの姿が無くなっていた…この第七波動反応…これは僕達が会話に集中している間に並行世界転移を無意識に発動させたのだろう。何故無意識と僕は言い切れたのか。それは、あの放った弾丸には僕の能力因子を仕込んでおり、撃った相手の僕に関する記憶を文字通り消す効果を込めていたからだ。

 

 つまり、蒼き雷霆による簡易版の洗脳の応用だ。シャオはもし敵対した場合、最悪並行世界転移で逃げられる可能性を僕の世界に居た彼自身から聞いていた。だから、あの違和感を感じていた時から一発当てれば効果を発揮できるこの弾丸を用意していたのだ。まあ、逃げられてしまったとは言え、これでこの世界における憂いはほぼ無くなったと言っても良いだろう。

 

『帰りましょう。GV』

『帰ろう、GV』

「ん…ちょっと寄り道してもいいかしら?」

『寄り道?』

「ええ」

 

 そうして僕はこの世界から姿を消し、元の世界へと帰還を果たす…前に、少し寄り道をする事を提案した。そう、僕がまだ「優」であった世界へと。この世界は僕達のこの世界から見れば紛れも無く異世界だ。だけど、僕自身の魂の情報を読み取り、この世界への座標を無意識に把握する事が出来ていた。そうして僕はこの世界から姿を消し、転生前に居た世界へと足を運ぶ事となった。

 

 その転移先は、あの街を一望できる、とある山頂だった。そこから見える街並みは…まだ僕が大学生だった頃で、モルフォを呼び出していた頃と一致していた…本当に、懐かしい光景だった。第七波動が無く、温かく、シアン達と会話を交わす事は出来なかったけど、間違い無く平和であった、あの街並みだった。僕達は、折角なのでシアン達を実体化させて変装しながらこの懐かしい光景を、日常を思い出しながら街へと繰り出した。

 

「やっぱり、この街はいい所よね」

「ええ。そうね」

「のどかで、温かくて…私達の居た場所も、何時かこんな風になれるかな?」

「その為に、私達やパンテーラ達も頑張っているのでしょう?」

 

 そう言いながら、僕達は街を散策していたのだが…とあるゲームショップにあったモニターで、「アルノサージュ」が宣伝されていた。それを僕達は、何処か不安げに見つめていた。

 

「イオンの事、必ず助けようね」

「ええ。必ず」

「そろそろアタシ達も帰りましょう? もう暗くなってきて、丁度いいし」

 

 そう僕達は決意を固め、僕達の世界へと戻った。そうして待っていた…いや、向こうからすれば行ってすぐに帰って来たように感じたであろう…まあ、アキュラに転移装置は無事に稼働した事を伝えた。

 

「そうか…転移は無事、上手く行ったみたいだな。それとガンヴォルト、幾つか問題が浮上したんだが…」

 

 その問題とは、調べていた座標がこの世界基準では無く、この携帯ゲーム機があった世界を基準にしていた事、そして以前から把握していた通り、向こうの世界の法則の違いによる空間の歪みだ。この時、一つ目の問題は僕達が寄り道していたまだ「優」であった世界を見つけていた事で解決していた。

 

 しかし、もう一つの問題はそうはいかなかった。何しろ、イオンが今いる世界へとこのまま足を運ぶと、向こうの空間が歪んでしまうからだ。だから僕達は色々と考えながら意見を纏めていたのだが、そこで一つの可能性が浮上したのだ。

 

 そう、黄昏の女神のとある特性…「覇道神を共存させる」と言う可能性だ。今、僕達の世界はこの黄昏の女神の法則下にある。そして、イオン達の居る意思を持った世界であるエクサピーコは詩を唄い続けて世界を存続させている。屁理屈かもしれないが、この在り方は覇道神に限りなく近い。

 

 だから、僕達はこう考えた。黄昏の女神が覇道神共存の能力を…エクサピーコを抱きしめれば、僕達もイオン達の居た世界に影響を与える事無く行けるのではないかと。そう言う訳で、僕達はパンテーラ達へと協力を要請した。幸いにもパンテーラ達も僕が世界転移をしながら人材をちょくちょく集めていた事も有り、完全に開発も落ち着いていた為、暇を持て余していたようであった。

 

 とは言え、暇になったとはいえG7達は立場上留守にする訳にもいかず、実質パンテーラとアリスだけが協力者だった。そして、パンテーラに予め伝えていた座標を教え、それを黄昏の女神へと伝え、そして…それが無事成功した事が、パンテーラ本人が呼び出していた黄昏の女神の触覚によって伝えられた。

 

 曰く、物凄くお人好しな世界(ひと)だったとの事。突然自身が出て来た事に最初は驚いていたのだけれど、ちゃんと波動(ことば)を交わし、話し合った結果、それを…抱きしめられる事を受け入れてくれたのだと言う。それ所か、既に友達にまで発展しているのだとか。

 

「いい世界(ひと)に会わせてくれてありがとう」と逆に僕達はお礼すら言われてしまった。最初に頼んだのは僕達だと言うのに…まさかこうしてお礼まで言われる事になるとは思わなかった。ともあれ、これで全ての準備は整い、僕達はあの世界へと…イオンの待っている世界へと向かう事となったのであった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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