【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第二十二話

――火と気と死と身と 素の 主は来ませり いざ 仰ぎ見て 負える重荷を

 

 俺達はデルタとキャスが動力システムの起動に向かった事を確認し、改めてこの世界のバケモノ…母胎想観をここに釘付けにする為の戦いを始めた。それと同時に、ロロの歌、「大祓(イグナイター)」が戦場に響き渡り、ABドライブとUSドライブの出力がオーバードライブ状態を越えて更なる領域へと突入した。この状態になるとウェポンゲージ及びブリッツのあらゆる消費が無くなり、更に多くのビットの制御や今回は出番は無いが、緊急発射用の「H(ハート)-ブレイザー」を安定して扱えるようになる。

 

 この際、ロロの衣装も白を基調とした服装に変化する。最近ではこの現象をロロ自身任意で発動させる事が出来るようになっていた。そのせいなのかもしれないが、ますます()()()()()なっている。その兆候…いや、切欠はガンヴォルトに以前「ロロの方がよっぽど人間らしい」と指摘された頃からだった。それ以来時折自問自答したり、ミチルやノワ、そして俺に対しても相談したりしていた。

 

 そして自身で答えを見つけ、今の人間らしくなったロロがある。今のコイツが俺の相棒である以上、どんな奴が相手でも負けるつもりは無い。そう、例え相手がガンヴォルトであったとしてもだ。そして、目の前に居るこのバケモノに対しては言わずもがなだ。奴は自身を生命の終着点だの「神」等と自称しているが…結局その実態は人の手で作られた悍ましいバケモノに過ぎない。あの時見た「神」を知っている故に、俺は余計にそう思った。

 

 その神…「黄昏の女神」もガンヴォルトが言うには人の手で作られたシステムの力によって神となっているらしい。だが、向こうは純粋な慈愛と幸せを願い、抱きしめ、優しく転生を促し、応援してくれている。彼女は奴とは違い人間の意思を尊重してくれている。正しく愛で世界を支えていると言っても過言では無い。俺も何度か話す機会も「触覚」とやらを通じて何度か有った。

 

 その時の彼女の語る理想は何よりも美しく思えた。この罪に塗れた俺が守りたい等と分不相応な想いを抱かせる程に。他の存在が同じ事を語れば俺は間違いなくそう感じる事は無いだろう。そう考えている内に、アリスが攻撃を仕掛けた。その攻撃内容は最近身に付けた物らしく、自身の能力である「夢想境(ワンダーランド)」所以のものでは無い。曰く「これもまた謡精の力の一端、一部に過ぎない」との事だが。

 

「足止めをさせて頂きます。「コンセントレイト」…「メギドラ」!」

 

 母胎想観を中心に俺が放った三発の「ルミナリーマイン」以上の大爆発が発生。それに合わせ、俺はこの世界に来る前に「エデン」や「人類進化推進機構“スメラギ”」から互いの同意を得て習得した第七波動のデータで新たに作成したEXウェポンも含めた斉射を試みた。

 

「ロロ、俺達が持つEXウェポンの同時斉射だ! 合わせろ!」

『了解! EXウェポンフルバースト!!』

 

「スパークステラー」、「レイジーレーザー」、「アロガントファング」、「ブレイジングバリスタ」、「ミリオンイーター」、「アイアンファング」、「ハイドロザッパー」、「プリズムブレイク」、「ワイドサーキット」、「ルミナリーマイン」、「キスオブディーヴァ」等の遠距離攻撃のEXウェポンの同時斉射。

 

 これを可能としたのはガンヴォルトの力を解析した事で扱えるようになった「波動の力」と呼ばれる物に加え、その力によって斉射時に俺の左腕に出現させた新型の「エクスギア」、謡精の力が込められた「US(アンノウン・セブンス)ドライブ」、それらの恩恵によって倍以上に増設されたビットの存在。そして何よりも、俺の相棒であるロロの力あってこそだ。だが、やはりと言うべきか…

 

「全ての攻撃が並みの詩魔法に匹敵する威力を持っているみたいだけど…それでも、私には無意味よ」

 

 そこには無傷の母胎想観が背中のキャノン砲を展開しながら爆発の煙から姿を現していた。そのキャノン砲から放たれた火線が俺達に降り注ぎ、丁度そのタイミングで各種施設に光が戻り、デルタ達がこちらへと戻って来た。どうやら、コンソールの操作が終わったようであった。向こうの表情から察するに、俺達の状況を見て焦っている様であったが、此方は全く問題は無い。

 

「三人共、あぶねぇ!! って、何だ? ()()()()()!?」

「攻撃、当たったはずよね? どうして無傷なのかしら?」

「「電磁結界「カゲロウ」。どの様な攻撃も私達には通用しません」」

「…態々説明する必要は無いだろう?」

『まあまあアキュラ君。これは所謂「お約束」って奴だよ』

「そう言う事です」

「「お約束」は守る物です。そうでしょう?」

「……なあキャス、向こうの世界の人達ってすっげぇんだな」

「アメーヴァRNA*1も無しにあんな事が出来るなんて…しかも痛みを感じて無いみたいだし…サーリが聞いたら原理の説明を要求されそう」

『……サラッと言ってるけど、此処の世界の人達の技術も凄いよねぇ』

「…そうだな。もっとも、話している本人達は原理を理解していないみたいだがな」

 

 まあそれは兎も角、デルタ達も俺達と合流したという事はコンソールの操作も終わってるという事。つまり、俺達の目的の()()()達成できたという事だ。

 

「くっ…仕方がないわ…こうなったら一度戻ってマイクロクェーサーのエネルギーを…」

「させると思うのか?」

 

――舞い踊るのは我が半身 討滅せしは狂った決意(殺意) 怨嗟断ち切る無尽の絶爪

 

――心からの愛を込めて 仲間たちよ、家族たちよ 私にどうか皆の愛を

 

――埋葬の歌を奏でよう 偽りの楽園を謀る哀れな神に 私の憎しみと憎悪を込めて

 

「行くぞ母胎想観…いや、ジリリウム・リモナイト! 天魔覆滅、ストライクソウ!!」

 

 俺達の放った絶爪が奴を捕え、その身をバラバラに砕いたが、当然の様に奴はその身を修復し何事も無かったかのように佇んだ。

 

「もう少し私達に付き合って貰います。レジデントオブエデン!!」

 

 パンテーラが俺達の世界の()()()()()から力を借り受け、それを余すところなく母胎想観に寸分の狂いも無くぶつけ、俺の時と同じ様にその身をバラバラに砕いた。が、やはり結果は変わらない。

 

「何故、この様な無駄な事をするのかしら? 貴方達の目的は達成されたような物でしょう?」

「理由ですか? ()()がここに来るまでの時間稼ぎです…私が貴女に有利な情報を出した理由はもうお分かりですね? つまり、これでチェックメイトという事です。楽園埋奏!!」

「くぅ…」

 

 アリスに宿る謡精の力の歌を攻撃に転用したSPスキルによって母胎想観はうめき声を出しながらその場に崩れ落ちる。そして、アリスがチェックメイトと言ったと言う事は…

 

「ふん…予想以上に早かったな、ガンヴォルト」

 

 俺の視線の先の星々が瞬く真っ黒な空に、蒼き雷と天使の羽を舞散らし、両腕にイオンと思わしき女性を抱きかかえながら真っ直ぐにこちらに向かっている姿を近くに捉えた。つまり、俺達の目的は達成されたという事だ。

 

「それなら急いだ甲斐があったよ。アレを逃すのは色々な意味でまずいからね。アキュラ、パンテーラ、アリス、逃がさないでその場に足止めしてくれて本当に助かった」

「奴の存在は俺自身気に喰わなかったかったからな。お前に頼まれなくてもそうしたさ」

「戦闘力その物は弱体化していたお陰で大したことは無かったのですが…」

「やはり、その耐久力は脅威です。今はまだ余裕がありましたが、対抗手段が無ければ根負けするのは私達だと言える程に」

「……アンタが、俺を、アーシェスを操っていた張本人、ガンヴォルトなのか?」

「……そうだよ、デルタ。その様子だと、無事にインターディメンドから開放されたみたいだね。先ずは君達に正式に謝りたいけど…先に母胎想観を如何にかしたい。イオンの事を、よろしく頼む」

「…分かったわ。貴方に言いたい事は一杯あるけど、今はそれで許してあげる」

「デルタ、キャスちゃん! 母胎想観に襲われてるって聞いてたから心配だったけど…無事でよかったよ」

「私達だってアーシェスが壊されたって聞かされて心配したんだからね!」

「本当、イオンが無事でよかったぜ」

 

 会話を終えた後、イオンをその場に降ろしデルタ達に託した後、ガンヴォルトは即座に母胎想観へと駆け出した。当然ではあるが、逃がすつもりは無い。ガンヴォルトは奴の不死身とも称する耐久力を削る手段を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事は事前に説明を受けていた。

 

『GV、こっちの準備は出来たよ!』

『マリィも「何時でも使っていいよ」って言ってるわ! 思いっきりやっちゃって!!』

「分かった! …黄昏の女神よ。()()()()()()()()()()、振るわせて頂きます!!」

 

 そう言いながら、奴の右腕からロロに搭載されていた計器が全て振り切れる程の力が収束し、()()()()()()()()()()()()()()()が出現した。それと同時に、雷速で母胎想観へと切り込み、()()()()。そう、たったそれだけの事であれだけの不死性を持った奴はうめき声も上げずに完全に沈黙したのだ。それと同時に、あの黒刃もその姿を消した。

 

「…ガンヴォルト、あの刃はまさか…」

「アキュラの考えている通りの物だよ。嘗て人間であった時の黄昏の女神を処刑した時に使われたギロチンの刃…彼女に今回の件を話した際に一度だけ使用許可を得たんだ」

『元々は私達の力を利用した終段で呼び出して使用しているから本当は許可を取る必要は無いんだけど…』

『仮にもアタシ達の世界を抱きしめてくれてる神様なんだから、ちゃんと使用許可を尋ねるのは自然な事よね?』

 

「それに、何も言わずに使っていれば僕自身の首が刎ねられても不思議では無かった」そうガンヴォルトは語っていた。奴が謡精の力で呼び出し振るった刃、その名は「罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)」。それは生前の「罰当たりっ子」であった黄昏の女神の首を刎ねたギロチンの刃。その最大の特徴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う物。

 

 この効果は黄昏の女神の持つ触れた相手を斬首する呪いと同一の物であり、むしろこのギロチンの刃が彼女に合わせていると言っても過言では無い。しかもこの呪いは凄まじく強烈であり、例え同じ「神」であってもその影響からは逃れる事は不可能。だからこそ、ガンヴォルトは対母胎想観に対する切り札として起用したのだと言う。

 

 後に聞いた話なのだが、これがダメだった場合の候補も存在していたらしい。曰く「幕引きの拳」と呼ばれる方法との事。他にも「バロールの魔眼」やアリスの謡精の力で得た力の一部を利用した呪言等が上げられていたが、これらは母胎想観が取り込んだ魂にも影響を与えそうだった為、あくまで保険と言う意味合いがあった。

 

「「首を刎ねた相手を」と言うのが重要なんだ。母胎想観に取り込まれている魂は別に首を刎ねられている訳では無い。だから巻き込まれる心配はない筈と考えたんだ」

『対象を限定しているって事が重要なんだね。確かに、助けたい人達も巻き込んだら本末転倒だからねぇ』

「俺達は他の世界から来た存在だからな。態々ここまで来ておいて余計な恨みを買う必要は無いだろう」

『第七波動は意思の力。厳密に言えば効果範囲は本当は違うのかもしれないけれど…』

『GVがそう思っている以上、実際にそう言った効果になるのは必然よ』

「それで私の力の起用を却下したという訳なのですね。「アレ(死んでくれる?)」は取り込まれた魂も巻き込みそうというイメージは私の中にありましたので」

 

 とは言え、これで俺達がこの世界に来た最低限の目的を果たす事が出来た。後はこの世界の人々と交流し、俺個人の目的を果たすのも悪くは無いだろう。そう、この世界の技術に触れると言う目的を。そう俺は考えながら、未だに母胎想観があっけなく沈んだ事に唖然としていデルタとキャスと、それを心配しているイオンに対して顔を向けるのであった。

 

 

――――

 

 

 僕はイオンを助け出し、母胎想観を倒し切ると言う目的を果たした。そして、未だに唖然としているデルタ達とその心配をしているイオンに顔を向けた…どうしてこの場にイオンを連れて来たのか、そして、ネロ達は如何したのかと言う疑問もあるだろう。時間は少し遡る。先ずはイオンなのだが、プリム達との会話を思い出し、デルタ達が心配であると言う理由で僕に抱きかかえられる形でついて行く事となった。

 

 何しろ今は動力源が停止しており、この船全ての施設が使用不能なのだ。ここまで来るのに使った乗り物である「スペースバス」も使用不能であり、今からデルタ達の場所まで行くのには、僕の能力を用いて自力でデルタ達の居る星読台まで行く必要があった。そしてネロと気絶していたプリムなのだが、流石にこのまま置いて行くわけにはいかない為、この二人は一度実体化したシアン達に抱きかかえてもらい、一度「スペースバス」のあったエアポートまで戻り、そこに二人を一時的に置いてから改めて星読台を目指す流れとなった。

 

 そこには丁度シャール達の救出が終わっていたサイドテールの青い髪が特徴なこの世界における皇帝、「天統姫」ネィアフラスク…ネイさんと、眼鏡をかけ、水色の長髪に猫耳みたいな装飾が特徴なPLASMAの専属メカニックで「光明陵子」サーリ・プランク…サーリ、そして一部の解散したはずのPLASMAの隊員に加え、助けられたシャール達の姿があった。

 

 それだけでは無く、そんなネイさんと一緒に会話をしていた人物…威厳のある姿と鋭い眼とは裏腹に、穏やかな優しさを持ったシャールの王、コーザルの姿もあった。どうやら彼はシャールを助けたネイさん達にお礼を言っている様であった。彼は以前、明確にネイさん達とはとある事情で敵対していたのだが、どうやら今回の事が切欠となり、それが解消されつつあるようだ。

 

 そんな状況下の中、僕達はその場に降り立った。その瞬間、PLASMAの隊員達がネイさん達の前に守る様に立ちはだかり、戦闘態勢へと移行した…よく訓練されている。何しろ見知らぬ顔をした僕達の姿があるのだ。警戒して当然だ。だけど、僕が腕に抱えていたイオンの姿を見たのだろう。ネイさんがそんなPLASMA隊員達に対して待ったをかけ、自身が前へと歩みだした。

 

「イオン、無事でよかったわぁ! …で、イオンを腕に抱えているそこのアンタ、何者?」

「僕は…」

 

 簡単な説明をしようと僕は口を開きかけたが、それよりも早くイオンが捲し立てるかのように説明した。それはもう嬉しそうに、喜びを隠そうともせずにだ。

 

「ネイちゃん、この人はアーシェスを外の世界から操っていた人で、名前はガンヴォルトって言うの。ここに来た切欠は、私が動力元を切り替える歌を歌っている間にアーシェスが壊されちゃったからなの!」

「何だって…アーシェスが壊された!? 誰にだい!?」

 

 驚きの声を上げたのはネイさんと一緒に前に出ていたサーリであった。その驚きは当然だ。アーシェスは高性能で戦闘力の高いガーディアンロボット。それに、向こうの世界から見た感じでは、アーシェスはソレイルの重要施設へのアクセス権限を持っているように見えた。それが破壊されたという事は、破壊した対象がアーシェスを奪い取り、悪用しようとした可能性だってあったのだ。サーリのこの反応は当然と言える。

 

「私の後ろで彼と同じようにこの世界に来てくれたモルフォちゃんに抱えられてる子、プリムちゃんにだよ。だけど、この子はデルタと同じようにインターディメンドされてたみたいなの。因みに、これがその破壊されたアーシェスのアバターコアだよ…」

「…なる程、あの時のプリムの行動と言動のちぐはぐさはデルタの時と同じだった。そう考えれば辻褄は合うね」

「その通りよ、サーリ。実際にプリムは私のバスを使ってインターディメンドを施されたのだから」

「…ネロ」

「大丈夫よ。貴方達の邪魔はしないわ。もう私はこの世界から確実に帰還する手段を得たのだから」

 

 そう言いながら、少し顔を赤らめながら僕の方を見つめていた…その背後に居るシアンの視線が心なしか痛く感じる。それと同時に、彼女のテレパシーが僕に直接伝わってくる。

 

(全くGVは…イオンは私達が言いだした事だからしょうがないけど…)

(…助けること自体は問題無いんじゃ無いの? ネロだってイオンと同じ…いや、明らかにそれ以上に悲惨な目に合っているんだし…)

(それはそうだけど…まあ、故郷に送り返しちゃえば問題は無い…よね?)

(多分、それで大丈夫なはず)

(…そう簡単に上手くいくかしら? アタシ、心配だわ)

 

 自然な形でモルフォもテレパシーに参加し、僕達の間でやり取りをしている間に、どうやら話は纏まったようであった。僕に対してネイさんが改めて話しかけて来た。だけど、あの時の警戒は無くなっており、何処か新しい玩具を見つけたかのような表情をしていたけれど…

 

「へぇ…よく見たらかなりのイケメンじゃない。イオンも隅に置けないわねぇ」

「ちょ…ネイちゃん!?」

「まあそれは置いといて…」

「置いとくの!? むぅ…」

「アーシェスやデルタからこっちを見てただろうから分かると思うけど改めまして…私はネィアフラスク、通称おネイさんよ」

「僕はサーリ・ブランク。気楽にサーリと呼んでくれると助かるよ」

「僕はガンヴォルト、親しい人達からはGVって呼ばれてる。嫌じゃ無ければ気楽にそう呼んでくれると助かるよ」

『私はシアン。えっと…こっちの世界風に言えば、GVに宿るシャールみたいな物だよ』

『アタシはモルフォ。同じくGVに宿るシャールみたいな物って認識が分かりやすいと思うわ』

「GVにシアンにモルフォね。しっかし私が言うのもアレだけど、よくもまあこんな危険な世界に飛び込む気になったわよねぇ」

「イオンが助けを求めていて、シアン達もそれを望んでいたからね。それに、この世界に来るのに様々な障害があったんだ。世界移動の手段の確保や、そこに至るまでの座標、そして、僕達が突入する際に発生するであろう世界の歪み対策とかがね…それよりも、僕達はこれから星読台に向かいたい」

「星読台へかい? デルタ達がそこに居るのは君も知っていると思うけど…デルタの視点で、何かあったのかい?」

「ええ、実は…」

 

 僕はデルタが母胎想観に現在進行形で襲われている事を話した。それと同時に、僕と協力してこの世界に突入したアキュラ達三人の事も話した。今頃、彼らは母胎想観の足止めの多面戦いを繰り広げている筈だ。

 

「なるほどねぇ…私の知らない間にデルタ達の事も助けられてたかぁ…」

「母胎想観は通常の方法ではどうしようもないのはデルタやアーシェスの視点を経由して把握しています。だから、その対抗手段も用意してあるんです」

「対抗手段…ですか。それは是非一度見て見たい物ですな。ガンヴォルト殿」

 

 そう話かけて来たのは、コーザルであった。

 

「貴方はあのロボットの視点で私の事を把握していると思いますが…改めて、私はコーザル。シャール達を束ねる存在です」

「僕はガンヴォルト…シアン、大丈夫そうかな?」

『ちょっと待ってね……うん、見せるだけなら大丈夫だって』

「そこの少女は…何やら高位の存在と会話をしているみたいですが…」

「その存在から借り受けた()()()()使()()()()()なんですよ……離れていてください。出現させますので」

 

――形成(Yetzirah) 時よ止まれ おまえは美しい

 

 そうして僕はコーザル達の前で罪姫・正義の柱を僕の右腕の肘あたりから鎌のような形の黒刃を出現させた。

 

「うわぁ…」

「綺麗で引き込まれそうだけど…何処か怖い雰囲気があるかも…」

「これは…鎌みたいな形をしているね…それに、僕でも凄まじい想念を感じ取れる」

「この武器から、穏やかでありながら、計り知れない程の熱量を、魂の強さを感じ取れますね…なる程、確かにそれならば、母胎想観を打倒する事は可能でしょう」

 

 そのコーザルの台詞と共に、僕は罪姫・正義の柱の展開を即時解除した。これは仮にも「聖遺物」である以上長く展開するのは危険極まりない。何しろそれを制御する為の魔術、「永劫破壊(エイヴィヒカイト)」が無いからだ。その代用品として波動の力を用いてはいるが、十全に扱えるのは僅かな時間だけだろう。

 

 そうなって来ると、何故「創造」を僕が扱えるのか疑問に思う人達もいるだろう。それは簡単な事であり、聖遺物を直接呼び出して力技で制御しているのではなく、謡精の力で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。だからこの様な逆転現象が起こるという訳なのである。

 

「じゃあ僕達は、急いで星読台へと向かいますので…」

「ちょっと待って欲しい、この船は今動力源が停止している状態だ。一体どうやって星読台へと向かうつもりなんだい?」

 

 サーリが当然の疑問を僕に尋ねた。

 

「大丈夫だよ、サーリちゃん」

 

 その質問に対して答えたのはイオンだった。

 

「だってGVは、向こうの世界では無敵の雷を操る能力、蒼き雷霆(アームドブルー)の能力者なんだから!」

 

 そうイオンが答えたと同時に、僕は蒼き雷霆を最大展開し、イオンを抱きかかえた。

 

「きゃあ! あぅ…もうGVったら、大胆だよ…

「僕はイオンの言っていた通り、雷を操る力を持っていますので、大丈夫…行こう、シアン、モルフォ。そろそろ星読台に向かわないと…」

『そういう訳だから、アタシ達は行くからね~』

『ネロとプリムの事、よろしくお願いします』

「僕達はデルタ達と合流した後は「天領沙羅」へと向かいますので、そこで合流しましょう。では、僕達はこれで…」

「あっ、ちょっと!」

 

 ネイさんが何かを言いかける事に気が付く事も無く、僕は蒼き雷霆と波動の力を機動力と宇宙空間における生存域の確保に全振りした状態で星読台へと文字通り飛びだった。

 

「もう見えなくなっちゃったか…文字通り、最低でも雷速で移動してるみたいだね。これは実に興味深い。後でGVには能力について是非詳細を尋ねたい」

「そうよねぇ…GVが言うには、後三人ほど協力者が居るっぽいし。その三人も何かしらの能力を持っているのかしら?」

「アレが異なる世界特有の力…ですか」

 

 サーリ、ネイさん、コーザルの三人がその様な感想を送った事等僕は露知らずに星読台へと向かい、アキュラ達と無事合流し、インターディメンドの影響から逃れることが出来たデルタを確認することが出来、そして…母胎想観を仕留め、冒頭へと戻る。

 

「とりあえず、此処から降りて「天領沙羅」へと向かおう。そこでネイさん達と合流する事になっているんだ」

 

 そう言いながら、僕はやっと唖然としていた状態から再起動したデルタ達に話しかけるのであった。

*1
体を軟化させ攻撃を透過する事で防御効果を得るアルノサージュにおける防具に該当する物。但し、痛みはそのままなので場合によっては痛みによるショック死をする場合もある。逆に耐えることが出来れば永遠に戦っていられる…らしい。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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