【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
嘗て画面越しに見た心の内側の世界
それは世界の主ですら制御が出来ない理不尽、そして心の闇がまかり通る
対峙する
「ジェノメトリクス」
それは「アルトネリコシリーズ」における「コスモスフィア」……所謂精神世界。
但し、コスモスフィアとジェノメトリクスには明確な違いがある。
それは単一の精神世界か否かと言う所だ。
コスモスフィアの場合は一人のレーヴァテイルで世界が完結しているが、ジェノメトリクスは宿主とジェノムの共同生活世界だ。
何故このような違いが発生しているのか? それは単純に「ジェノム*1」……いや、ここは「シャール*2」と呼んだ方がいいだろう。
このシャールの生体が関係している。
シャールは精神世界内で、顕在意識下で他のジェノムとコンタクトが取れる。
とは言え、流石に名前も知らない相手とはそう言った事は出来ないらしい。
シャールの生体を教えてくれたサーリが言うには、現実世界において相手ジェノムのアドレス――つまり、誰の精神世界に宿っているのかを知った場合のみとの事。
何故このような話をしているのか? それは……
「……イオン、本当にいいの? 僕達が君にダイブをしても」
「うん。だって、もう皆はアーシェスを通じて私の精神世界を見てるでしょ? それに、そのアーシェスから流れて来てた波動のスペクトラム*3にはGVとシアンちゃんとモルフォちゃん固有の波動がちゃんとあったのを、サーリちゃんに確認してもらったんだから」
『そういえば、そんな本人確認の方法がこの世界にはあったの、すっかり忘れてたよ』
『アタシ達、まずそれを如何イオンに証明しようか悩んでたのに……』
「ふふ♪ 心配してくれてありがとう、モルフォちゃん。……それに、このスペクトラム解析のお陰でシアンちゃんとモルフォちゃんが同一人物だって事も判明したのには私も驚いたよ。だって、見た目が完全に違うし、こうやってコミュニケーションを取り合ってるんだもん」
『私も時々その事を忘れそうになっちゃうけど、こうやって証明されると、何だか不思議な気分だよ……』
「だけど、イオンとチェイン*4しているサーリやネイさん、カノンさんは大丈夫なのかい? 僕達がその気になれば、彼女達にもイオンを通じてダイブする事が出来るんだけど。最近ではレナルルさんや白鷹さんともチェインしたって聞いてるし……」
「それについても大丈夫だよ。貴方達がどういう人達なのか、ちゃんと時間を取って把握した上で、ちゃんとそう言った気遣いが出来る人達だから問題無いって皆言ってたし」
そう、「ダイブ」の話だ。
ダイブとはダイブ専門の店等を利用し、他人の精神世界に飛び込む事。
人間の精神世界は高度かつ複雑に階層化されており、奥深くに進むほどその人の核心へと近づく事となる。
そして、その精神世界の深階層では、時にその精神世界を持つ人物ですら気づていない本当の気持ちが現れる。
その為、他人を自身の精神世界に受け入れるには、相応の覚悟と信頼関係が必要不可欠なのだ。
特に、想いを紡ぐことで新たな詩魔法や、禊ぎ*5で使われるジュノメトリカ結晶*6を得ることが出来るのが大きな利点だろう。
だけど母胎想観も、プリムを操る干渉者も退け、シャールとも和解を果たした以上、このソレイルにはもう脅威は存在しない。
つまり、戦力的な意味でダイブする意味は無いと言ってもよい。
とは言え、それを差し引いても相応の利点も存在する。
より強い想いを紡いで心を通わせたり、心の傷を回復させたりと言った行為を言葉によるカウンセリングよりもずっと直接的に発揮する為、戦力の強化以外にも、ダイブの目的や利点は様々だ。
だけど、当然リスクも当然存在する。
例えば、アルトネリコシリーズの様に、精神世界内で事故が起こると、追い出された際の衝撃で精神的ダメージを負ったり、精神世界から帰還できなくなってしまう事がある。
当然、そうならない為にこの世界のダイブ専門のバイオス屋の人達が常にモニタリングしながらダイバーを監視してくれているのだが。
そもそも、何故僕達がイオンにダイブする事となっているのか?
それは元々、まだ画面越しにダイブをしていた時に、精神世界内で約束をしていたからだ。
更なる深層へと足を運ぶ事に。
「とはいえ、画面越しなら兎も角、生身では初めてダイブする以上、いきなりあの時の……結構深い所の階層の続きからダイブするのは不味いと思う」
「そうかな? 私は大丈夫だと思うけど」
『流石にそれはアタシ達の事を信用し過ぎよ。イオン』
『イオンの事を考えると、先ずは浅い階層で事前準備位はした方がいいと思うの』
「ありがとう。私の事、心配してくれて。……そうだね、先ずはちゃんと経験しないとダメだよね」
そう言う訳で、僕達はイオンにダイブする事となった。
初めてのダイブで潜るのは、当然イオンの世界。
所謂「品質管理棟」と呼ばれている世界へと向かう事となった。
この世界はイオンの心の壁の厚さを実感した世界だ。
まだこの世界が完了する前、画面越しの僕達を試す為にあらゆる方法で試験が執り行われた。
それは画面越しの僕達の人格のテストと呼べる物から、中にはザッピングを利用した物まで様々だ。
その在り様はイオンをよく知るねりこさんからも「鉄壁の女」と比喩されるほどであった。
だけど、僕達からすれば、寧ろ安心した。
いくら「シェルノサージュ」の時の付き合いがあるとはいえ、画面越しの顔も知らない相手に対して、警戒心をちゃんと持っていてくれた事に。
そんな思い出のあったこの世界なのだが……
「ようこそ来てくださいました~。ガンヴォルトさん、シアンさん、モルフォさん。僕は……いいえ、僕を含めたこの世界は、貴方達を心から歓迎いたします~」
そう話しているのはここの世界の管理者とも言え、イオンが「アルノサージュ」の初期から扱える詩魔法である「ひかりのこころ」と呼ばれている存在だ。
彼はこの世界で試験官も担当しており、そのイオンと似たようなのんびりとした口調とは裏腹に、試験の合格ラインを下回ると容赦なくアーシェスをスクラップにしていた存在だ。
そんな彼が僕達の前に現れたという事は、やっぱり何かしらの試験があるのかと内心身構えながら、この世界で何をやればいいのか尋ねたのだが……
「貴方達のやる事ですか? 特にありませんよ?」
『え……ないんですか?』
『アタシ達、確かに画面越しではこの世界に来てるわよ?』
「だけど生身では初めてである以上、全く無いなんて事は無いと思うんだけど」
「ん~とですねぇ……一応僕やイオンが絶対に不可能と考えていた、所謂「第五試験」の存在があったんですが、その内容が……」
「『『その内容が?』』」
「
「そう。だから私は、まだ画面越しだった時の貴方達にはこの事を話さなかったの。絶対に不可能な事だって、思っていたから……」
そう言いながら、イオンは僕達の前に姿を現した。
その表情は、心からの歓喜を隠そうともしない、嬉しさに満ち溢れていた。
「だけどそんな不可能を、貴方達は覆して私にダイブしてくれた。ううん、それだけじゃない。貴方達は現実の私の事も気遣って、
「そう言う事じゃ。おぬしらは測らずとも「とうだいもり」の考えた試験を突破したという事じゃな。……ふむふむ、改めてよく見ると、大したイケメンでは無いか♪ じゃが恋人が既におる様じゃなぁ。……とうだいもりよ、失恋確定で残念だったのぅ」
「ね…ねりこさん! 突然出て来て、何言ってるんですか! 確かに私はGVの事、好きだけど、そんなハッキリ言わなくても……」
突然現れた褐色の肌と白髪の容姿に兎の耳のような飾りが付いた赤いフードを身にまとう、ジルそっくりの女性。
その名前はねりこ。
その正体はイオンの脳に寄生し、シャールを生み出させている「アストロサイト・モジュラトリ・ウィルス」。
イオンが現実世界に戻ると自らの存在が消えてしまう上にシャールの生産が止まってしまう為、まだ画面越しであった時に夢セカイを脱出しようとした際、彼女から妨害を受けた事も有った。
だけど、結局は僕達を見送った事で、当初はその存在が消えてしまったと思われていた。
それでも、イオンが現実世界へ戻った後もその人格や思い出はイオンの心に色濃く残っていた為、イオンのジェノメトリクスにおいて画面越しの僕達を導くナビゲータとなったり、詩魔法として活躍する等、その存在は寧ろ濃くなっていた。
因みに「とうだいもり」とはイオンの事であり、何故その呼び名なのかは、イオンが夢セカイで住んでいた家が灯台みたいだったからだ。
そんなねりこさんに、シアンとモルフォは話しかけた。
思えば、ここで二人を止めておくべきだった。
『ん~、案外そうでもないのよねぇ』
『そうそう、GVは私達以外にオウカって言う私達公認の恋人が居るからね?』
「シアン? モルフォ? 二人共何を言って……」
「なんと! 主らの世界は
「ね…ねりこさん~~……」
(あぁ……この流れはオウカの時と同じで、僕が何を言っても無駄になる流れだ)
オウカの時もそうだったけど、シアン達はどうにも、身内と判断した相手に対して凄まじく甘い所がある。
本当は僕の事を独占したいのに、こうやって自分から僕を差し出す行為をする事があるのだ。
……その理由は僕自身予測は付いてはいる。
それは絶対に僕がシアン達の事を捨てる事は無いと確信している所もあるだろう。
別世界から拉致され、自分と同じように人体実験で苦しんだイオンに幸せになって欲しいと言う想いがあるのも確かだろう。
オウカに関しても、何となくではあるけれど、普通に了承しそうな光景が目に浮かぶ。
そして僕自身も、シアン達三人が了承するなら問題は無いと考えてしまえる程に、イオンに対しての想いがあるのも確かだ。
だけど、本当の理由はそうでは無い。
その理由は……そう考えていた僕はその考えを止めた。
『それでね、GVったら夜になると色々とスゴイのよ?』
「ど、どんな風にスゴイの?」
『まず私達の身体全体を優しく弄んで……』
「ふむふむ……優しく弄んで、どうなるのじゃ? ホレ、早く言わぬか♪」
『えっとね、すっごく頭がフワフワって幸せになって……』
何故ならば、話がどんどん妙な方向にエスカレートしていっており、流石にここで止めないと色々とマズイ事になりそうだからだ。
と言うか、イオンの精神世界で話す内容じゃないだろうと内心シアン達に突っ込みながら、僕は彼女達の話を止める為に四苦八苦する事となるのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。