【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第二十六話

 イオンの精神世界を訪れた後、僕達はイオンが現実でチェインした相手の精神世界へと足を運んでいた。

 例えばカノンさんの「頑ななたまご」、「神と妖怪の浜」と呼ばれている二つの世界。

 この二つの違いはその「深さ」にある。

 それは「アルノサージュ」ではDLv(ダイブレベル)と表現されており、それぞれ「頑ななたまご」ではDLv1で、「神と妖怪の浜」ではDLv4と明確な差がある。

 これが深い程相手の心の核心に迫ったり、相手に与える精神的な影響も大きくなる。

 だからこそ、精神世界に突入するダイバーは相応に慎重な、そして時に大胆な対応を迫られる。

 他にも僕達は、ネイさんの精神世界「偽りの砂漠」や、ねりこさんの精神世界「けもけもの原」へと足を運んだ。

 とは言え、これらの精神世界は一度アーシェス経由で問題は完了されており、これ以上の進展は無い。

 それなのに、何故僕達は足を運んでいるのか?

 それは、僕達が画面越しで実際に成した事を目に焼き付けたかったから。

 そしてもう一つは、様々な精神世界の空気を体感したかったからだ。

 これから僕達は未知の精神世界へと足を運ぶ。

 これまではアーシェスの機能もあり、致命的な失敗をしてもやり直しする事ができ、僕達の安全も画面越しであると言う理由で保障される環境にあった。

 それが今や無くなってしまっている上に、精神世界では色々と混沌として、危険度が加速度的に増す目安となる「Dlv6」以降の世界へと足を運ぶ事となったからだ。

 その世界の名は「監視する丘」。

 最近イオンがチェインしたレナルルさんとの精神世界だ。

 この世界は「謳う丘」をモデルに構成されており、その周りがまるでテレビの画面みたいになっているような世界。

 但し、その画面は砕かれており、更に……

 

『GV、あの円みたいに並んでる沢山の「目」……』

「……なるほど、「監視する丘」の名前の由来はこの「目」なのか」

「GV、シアンちゃん、アレがどういう物か分かるの?」

『うん。私の第七波動「素粒子の謡精女王(クロスホエンティターニア)」の精神感応能力のお陰でね』

「ほう、精神感応能力とな? ……時折とうだいもりが端末から歌が聞こえてくる時があると言っていた事があったが、それを利用していたのじゃな?」

『うん。私達は画面越しにイオンにお願いする事しか出来なかった。だからせめて歌を届けたいって思って……』

『ねりこさん、シアン、話が逸れてるわよ。イオン、あれはこの世界全体を監視する為の「目」ね』

「この世界に入った瞬間、あの沢山の「目」は僕達を監視し続けているみたいだ」

 

 その僕達が「目」と呼んでいる物。

 それは言葉通りの生物の眼球。

 それが空中に浮いて円の形で沢山並べられており、この世界の不気味さを表現している。

 あの沢山の「目」は、まるで僕達の内面すらも見透かしているかのように僕達を監視している。

 特に、イオンを重点的に監視している様だ。

 ……この世界はレナルルさんが中心となって出来た世界。

 何故イオンを集中して監視しているのか知りたいのならば、この世界の彼女を見つける必要がある。

 その理由を探る為に、僕達はねりこさんと一旦別れ、この精神世界「監視する丘」へと本格的に足を踏み込んだ。

 

 まず向かったのは「謳う丘」の最先端と言ってもよい場所。

 あそこからなら世界を一望できる為、僕達は真っ先に向かった。

 そこで僕達を待っていたのは、満天の星空。

 一見すれば間違いなく美しいと言える光景だ。

 だけど、この満天の星空には違和感がある。

 まるで、何か大切な物が無くなってしまったかのような……

 そう考えていた時であった。

 突然、見慣れぬ存在が目の前に姿を現したのだ。

 その外見は一言で表せば機械を身に纏った剣士と言うべき女性。

 顔を機械で出来た面と呼べる物で隠し、それとは対称的に赤と白を中心とした扇情的な衣装を身に纏い、腰に鞘に納まった剣を構えていた。

 僕達は即座に身構え、イオンの前に立ち塞がりながら様子を見る。

 改めて言うが、ここは精神世界。

 何が起きても不思議では無い場所だ。

 この目の前の存在が、敵か味方かの情報すら分からない状態で戦いに挑むのはある意味危険なのだ。

 この存在が、ただの敵であるだけならば問題は無い。

 だけど、後にこの精神世界を完了させる為のキーとなりうるかもしれないのも否定出来ないのだ。

 そうこう考えながら身構えている内に、目の前の存在は行動を開始した。

 

「第一種危険因子を発見。直ちに捕獲する」

「……え?」

 

 そう言いながらその存在はイオンに手をかざした。

 その瞬間、イオンは光に包まれ姿を消してしまった。

 それと同時にその存在も姿を消し、後には僕達以外何も残らなかった。

 あっという間の出来事であった。

 そう、こういった理不尽が罷り通るのが深層の精神世界。

 とは言え、あの存在の口ぶりからすれば、今すぐイオンが死に至るという事は無いだろう。

 わざわざ捕獲するという面倒な事をするのは、相応の理由があるはずだからだ。

 しかし……

 

『ライナー*1に、クロア*2、それにアオト*3はよくこんな理不尽に対処出来たよね』

「……今なら、彼らがどれだけ凄かったのかが良く分かるよ」

『ホントよね。……ここから先にイオンの気配がするわ。慎重に行きましょ?』

 

 その場所は薄暗く、汚い廊下。

 モルフォの言う通り、その先の扉の奥からイオンの気配を感じ取れる。

 その扉の奥では、イオンが泣き叫ぶように「ここから出して」と叫び声を上げていた。

 

「『『イオン!!』』」

「皆! 助けに来てくれたの!? お願い! 早くここから出して! もう嫌、こんな所! ……っ!! や、やめて! そんな事したら身体壊れちゃうよ!」

 

 僕達はその叫びを聞いた時には既に思考するよりも体が扉を破る為に勝手に動いていた。

 しかし……そんな僕達の前に、再びあの存在が立ち塞がった。

 

「この扉に干渉する者は、誰であろうと成敗致す」

「イオンが助けを求めているんだ、ここを通させてもらう!! シアン、モルフォ、同時にいく!!」

『『了解!!』』

 

 僕はダートを打ち込んだ後、雷撃麟による攻撃を。

 シアン達も雷縛鎖による鎖を放ち、僕と同じように雷撃麟を放った。

 それは完全に阿吽の呼吸で行われた完璧とも言えるタイミング、連携による攻撃であったのだが……

 

「効きません。危険因子として、貴方達を排除する」

 

 それがその存在に通用する事は無かった。

 その事に驚いている僕達に、あの存在による反撃が撃ち込まれる所であったのだが、思わぬ助っ人によってそれが阻まれた。

 

「間一髪だったわね」

『ネイさん、助けてくれてありがとう!』

「どういたしまして、シアンちゃん! それより、コイツには絶対勝てない。ここは一先ず逃げるわよ!」

 

 そう、両腕に大きな円月輪を持ったネイさんが僕達を助けに来てくれたのだ。

 僕達はそれを了承し、あの場から全力で撤退した。

 どうやらあの存在は、この少なくともこの精神世界において絶対の存在である事が分かった。

 その名は「機甲艶姫(きこうえんき)」。

 曰く、この世界における最強のガーディアン。

 この機甲艶姫を何とかするには、レナルルさんを何とかしなければならないらしい。

 僕達はネイさんにその経緯を尋ねられたため、事情を話し、協力して貰える事となった。

 そうしてこの世界を彷徨っている内に、レナルルさんを発見することが出来た。

 僕達がどうしようかと悩んでいたら、ネイさんが「知りたければ……本人に聞くしか無い!」と無策で突っ込んでしまった。

 それを見た僕達は更に頭を抱えてしまったのだが、今回はネイさんの行動が正解であった。

 レナルルさんが言うには、あの部屋の扉は「誰にも」開けることが出来ない。

 そう、この世界の主であるレナルルさんも例外では無い。

 これだけでもかなり重要な情報であるのだが、他にも気になる事があった。

 それは、レナルルさんはイオンの事を「あれ」と呼んでいる所だ。

 そんなイオンを監禁しているのは、「この世界を守る為に必要」と言っており、もしそれが為されれば、この世界に災厄が降り注ぐからだと語っている。

 それなのにネイさんがレナルルさんにイオンの事をモンスターか何かのように言って、おかしいのではと尋ねたのだが、「あれ」は愛すべき存在であり、あのようにして護っていると言う返答が帰って来たのだ。

 常識的に考えれば、このレナルルさんの言う事は支離滅裂と言ってもいいだろう。

 だけど、ここは精神世界だ。

 僕達の認識している「イオン」とレナルルさんの言う「あれ」は大本は同じなのは分かる。

 つまり……レナルルさんはイオンの持っていると思われる「何か」を恐れていると考えられる。

 現に、自身の失態で惑星ラシェーラが滅んだと同時に「あれ」が生まれたと言っていた。

 私が護れなったばっかりに……と。

 そう考察していた時であった。

 

「機甲艶姫……私の過ちをどうか、お許しください……」

「許す事はできません」

「……分かりました。それでは、やって下さい」

「承知致しました」

『……え?』

『嘘、レナルルさん!?』

 

 シアン達が驚くのも無理は無いだろう。

 何しろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 これには僕もネイさんもシアン達と同様に驚きを隠すことが出来なかった。

 

「はぁ!? ちょっ……ちょっと!! 何やってんのよ!」

介錯(かいしゃく)致しました」

「……な、何? 何で……!?」

「……君はもしかして、これが理由で生み出された存在なのか?」

「それはご想像にお任せ致しますが……少なくとも、この世界が出来てから彼女は毎日、死んでいる。自らの罪の為に、毎日。私はそれを手助けしているまで」

『……そんな!?』

「それでは私はこれで失礼する。だがしかし、「あの扉」に近づくようであれば、容赦なく切る故、そのつもりで」

 

 そう言いながら、機甲艶姫は姿を消した。

 こうして僕達は色々と情報を得る事は出来たが、肝心のイオンを助け出す方法は分からず仕舞い。

 ならば如何しようかと僕達は改めて作戦会議を行い、色々と話し合った結果、あの円の形に展開されている複数の「目」を何とかしたらどうかと言う結論を出すに至った。

 そう言う訳で、この世界を監視しているであろう「目」に対して僕達は雷撃麟で地道に一つ一つ潰して回り、その目を閉ざす事に成功した。

 予想が正しければ、これであの機甲艶姫の監視も鈍る筈。

 僕達は再び急いでイオンの居る部屋へと向かい、扉の前まで迫り、その扉を叩く事に成功した。

 これにより、やはりあの「目」は機甲艶姫による監視に必要な物だったと確信。

 イオンも僕達の叩いた音に反応してくれ、無事である事が確認できた。

 そこでイオンも含め、色々と話し合うことが出来、この扉を開ける方法も把握する事が出来たのだが……

 単刀直入に言うと、その方法は、「イオナサル・ククルル・プリシェール」の身体が必要らしいのだ。

 最初はこの意味が良く分からなかったのだが、()()()()()姿()()()()()()僕達はハッとした。

 つまり、この扉を開ける為には……と、僕達が考えていた時、ネイさんは覚えがあるのだろう。

 複雑な表情をしながらその場を立ち去ってしまった。

 その理由に僕達は心当たりがあり、僕達はネイさんを追いかけた。

 そして息を切らしている所を見つけ出し、落ち着いた所で話を聞くことが出来た。

 

「GV、シアン、モルフォ、諦めよう。ううん……お願い、諦めて」

『ネイさん……』

「アンタ達のその様子……理由は分かってるみたいね。って言うか、イオンの記憶を治したの、アンタ達だもんね。察しは付いているわよねぇ」

『ええ、流石にあそこまでヒントを出されたら……ね』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ネイさん自身が鍵という事なんだろうね。間違い無く」

「そうよ。でも以外。てっきりあたしはアンタ達、イオンの事を優先すると思ってたわ。なんかすっごい嫌そうな顔してるし」

 

 そう、ネイさんはこの世界――精神世界では無く、外の世界の事だが――に魂だけと言う形で拉致されたイオン(結城寧)の魂の(身体)の本来の持ち主、「イオナサル・ククルル・プリシェール」本人なのだ。

 ネイさんは魂だけの状態で専用の容器に収められ、廃棄される運命にあった。

 だけど、それを見かねた「フラクテル」と言う女性によって「ヒトガタ」と呼ばれるシャールの体を得て、色々と複雑怪奇な経緯を経て、最終的に天統姫と言う皇帝になっている。

 つまり、ネイさんは結果的にイオンに名前と体を奪われた形となっているのだ。

 本人達の意思とは関係無く、周りの投げ捨てられた倫理観によって。

 こう言った事情を僕達は把握していた為、無理にネイさんにお願いする事等、出来るはずも無かった。

 

「……ネイさん、貴女の事情は把握しているつもりです。流石にこれ以上は僕達に付き合う必要は無い。あの扉は、僕達が何とかする」

「ふぅん、優しいのねぇ、GVは。……なる程、こりゃああのイオンが惚れる訳だわ。……あたしも、腹を括るかねぇ。……あーもう、仕方ないわねぇ……。本当に、今回限りだからね?」

『ネイさん?』

「アンタ達について行くって言ってんのよ! あたしの気が変わらない内に、早く向かいましょ!! ……っと、この姿じゃあ不味いわね」

 

 そう言いながらネイさんはその姿を変えた。

 そう、「イオナサル・ククルル・プリシェール」の姿へと。

 その姿形は僕達の知るイオンの姿その物であるのだが、その不敵な表情や仕草は、ネイさんを彷彿とさせる。

 

「どお~? 似合う~?」

『……思った以上に違和感が無いわね』

『うん。もっとこう、凄い違和感を感じると思っていたのに』

「寧ろしっくりくる感じだ。……似合っていますよ。ネイさん」

「ありがと。……それと、約束して欲しい事があるんだけど」

「約束?」

「あたしにもしもの事があったら、ちゃんと助けてね?」

『勿論!』

 

 こうして僕達は改めてイオンの元へと戻ったのであった。

*1
「アルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女」における主人公。正義感が強く曲がったことが嫌いな熱血漢だが、恋愛には鈍感な上に優柔不断な性格とされる。グラスメルク、所謂この舞台における調合をすぐに習得するなど優秀な頭脳を持つが、それを活かして思慮するということが少ない。代わりに身体能力は抜きん出ており、俊敏で、剣士としての腕前は達人級。

*2
「アルトネリコ2 世界に響く少女たちの創造詩」における主人公。大鐘堂の下っ端騎士だが地位相応以上に実力は高く、周囲からはエースとして期待されている。戦闘では槍と銃が一体化した武器を使い、銃撃と槍術を使い分けて戦う。とあるエンディングルートでは自身の(ヒュムノス)をそのルートのヒロインに披露したりと情熱的な一面もある。

*3
「アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く」における主人公。元気で向こう見ずな性格。腕っ節が強く、また情が深く、自分のことや世界の命運といった大儀よりも、仲間や愛する異性といった身近な人物のことを第一に考えて行動する。手先が器用で、徐々に高度な調合やおよそできるとは思えない調合も可能となっていくが、デザインセンスが悪かったり原理不明のアイテム等が多々出来上がるため、調合したアイテムが散々な評価を受けることが多い。武器は大剣やドリル、ハサミなど複数の形態に変形する工具。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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