【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第二十八話

 ……皆には悪いけど、今ならばレナルルさんの安全を確保できるはず。

 僕はレナルルさんの元へと駆け出し、話しかけた。

 

「レナルルさん、大丈夫ですか? ……大体の予測はつきますが、今のイオンは、どうなっているんですか?」

「……私は平気です。……彼女は、憎悪の塊です。今までずっと、心の奥底に押し込めて来た苦しみや恨みの、塊なの。私が……イオンの内心を恐れて、ずっとうやむやにして閉じ込めてきた、あの子の、心の叫びなの……」

「…………」

「だから、イオンは許せなかったのでしょう。自分はこんなにも酷い目に合って、誰も助けが来なかったのに、同じ境遇だったあの子には助けが来て、幸せそうにしている事が。だったら、私が貰ってもいいのだと、そう思っているのでしょう。……彼女に、幻滅してしまいましたか?」

「……しませんよ。レナルルさん。人間は……意志のある生き物は皆、そういった負の一面は必ず存在するのですから」

 

 そう、こう言った物は誰でも例外なく持っている物。

 普段は優しいイオンでも、こう言った側面は確かに存在している。

 寧ろ、普段優しい人程そう言った感情を表に出さない様にと、負の感情を心の底に押し込める。

 だからこそ、こんな風に深層領域にダイブすると、心の底に重畳(ちょうじょう)した負の感情と何らかの形で対峙する事となる。 

 そう、今のイオンの様に。

 そして、今回の場合はそれだけでは無い。

 これまでの情報を纏めると、この世界はレナルルさんとイオンの二人によって出来た世界。

 つまり、レナルルさんの、イオンに対する「自分を恨んでいるのではないか?」と言う心と、その元から持っていた負の感情が共鳴し、結果として彼女はああなってしまったのだろう。

 

「それで、どうするのですか? このままでは、イオンがシアンさん達に危害を加えてしまいます」

「……シアン」

『GV……うん。私達は大丈夫。GVの思う通りにしていいよ』

「ありがとう。……レナルルさん、今回は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()させます」

「……やはり、それしか無いのですね?」

 

 今のイオンを如何にかするには、彼女の負の感情を受け止められる存在が必要だ。

 それと、ぶつける明確な理由、大義名分が。

 その両方を満たし、()()()()()()()()存在は、シアン達だけなのだ。

 本当ならば、僕がイオンと対峙するべきであり、そうしたい。

 実際、あの負の感情を受け止めてやりたいと思っている。

 何しろ、僕だって彼女と同じように人体実験の苦しみは理解できるのだから。

 だけど、イオンから見て僕とぶつかる理由、大義名分が今のこの時点では存在しない。

 そしてレナルルさんの場合は、その両方を満たしているけれど、互いに依存する危険性が極めて高い。

 贖罪を求めるレナルルさんと、負の感情をぶつけたいイオン。

 これはある意味、一種の協力強制。

 一度嵌ってしまえば、抜け出すのは困難を極めるだろう。

 だからこそ、イオンの負の感情を受け止め、ぶつける明確な理由が存在し、彼女に依存しない存在は、この場にはシアン達しか居ないのだ。

 

『一つ言っておくけどイオン。私、詩を謳うだけで直接戦えないわけじゃ無いからね?』

『油断していると、痛い目をみるわよ?』

「知ってるよ。()()()()()()()()

 

 イオンの言うこの台詞は、先のレナルルさんが言っていた「俯瞰視点」と呼ばれる能力に基付く物だ。

 簡単に言うと、自身の次元よりも下の次元の全体を把握する力だ。

 基準としては、一般の人間は二次元――所謂、平面と呼ばれる物――までが普通である。

 それに対してイオンは、()()()六次元――過去から未来において、この宇宙全域における全ての可能性を一覧できる――まで俯瞰することが出来る。

 とは言え、あくまで理論上であり、実際は肉体の枷だったり、魂のレベル等による複数の要因によって、普段は僕達と同じように二次元までが普通だったりするのだが。

 しかし、逆に言えば特定条件を満たせばそれ以上の次元を閲覧する事が可能となる。

 これまでのイオンは、アーシェスとデルタのインターディメンドによって彼女自身の俯瞰視点の能力は大部分が使えなくなっていた。

 だけど僕達が直接赴いた事に加え、デルタも開放された為、その楔から完全に開放されている。

 その上、イオンは今までに複数の人達とチェインしている。

 そうする事で、チェインした相手の視野を借り受け、俯瞰視点の制限を緩和することが出来るのだ。

 そして、ここで重要になってくるのが、イオンはシアンともチェインしている事。

 もう一つは、シアンの能力で形成されている世界を越えた集合的無意識。

 つまり、イオンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 さらに言えば、今僕達の居るこの世界は精神世界。

 肉体の枷からも解放されている状態だ。

 だからこそ、今のイオンは自身の持つ俯瞰視点の力をフルに扱える状態にあるのだ。

 これにより、詩魔法の精度も格段に上昇し、必勝のタイミングで発動させることが出来る。

 とは言え……

 

『見えてるから、何? まさか、そんな事で私達を止められると思ってる?』

「ううん、全然。ここまでやって漸く()()()()()()()()って認識かな。私は」

『分かってるならさっきの発言、早く取り消して欲しいのだけれど』

「嫌。それにこの世界は私のホームグラウンド。この事実も加えれば条件は五分と五分。退く理由なんて、無いんだから。……機甲艶姫ちゃん。準備はいい?」

「はい。――今宵この地に華が散る……赤い赤い悪の華……」

『最後通告もダメかぁ……GV、アタシ達の衝突の余波を抑えて貰ってもいいかしら?』

「大丈夫。()()()()()()()

 

 そんな事で如何にかなる程、今のシアンは甘くはない。

 元より精神感応能力を持っている為、精神世界は彼女のホームグラウンドでもある。

 それに、単純に()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 シアンは世界を越えた集合的無意識を形成、維持している。

 そんなことが出来る以上、少なくともこれらの力を上回っているのだ。

 つまりイオン本人の言う「同じ舞台に立つ」と言うのは、文字通りそう言う事。

 今は僕の身体に自分から喜んで憑依し、大人しくしているけど、仮に今の状態で僕の身体から開放され表に出た場合、それだけで()()()()()()()()()()()()

 今も現在進行形で力が増大し続けており、世界を守る意味もあり、もうシアンを僕から開放する事は永遠に叶わなくなった。

 それが不幸か幸福かと問われれば、僕達は迷わず幸福であると断言出来るのだが。

 ……話が逸れた。

 ともあれ、互いの渦巻く想いの力による周辺被害を完全に防ぎつつそうこう考えている内に、遂に互いに動きを見せた。

 イオンは詩魔法の詠唱を、シアン達はSPスキルを放つ体制に移行したようだ。

 つまり、互いにこの一撃で決着を付けるつもりなのだろう。

 想い(詩魔法)想い(第七波動)による精神世界での直接的な力比べ。

 互いの想いのどちらが上なのか、それを把握するにはこの上ない方法だろう。

 ……蓄積され、積み重ねられていく互いの想い。

 僕が障壁を展開して居なければ、とっくにこの世界に穴が開いて、周囲の精神世界も巻き込んで崩壊していても不思議では無い程の。

 そして、互いの想いが蓄積しきり、放たれた。

 先手はイオン。

 

「捕まえたぁ!! a-z-ne gu-dou ah=Adehime-nu beg-dai-ear(凡ての悪の 滅びを願って) N mud ah W co-za ah=Adehime xa-gan-uii;(艶姫よ戦え!) 今宵、悪の花が咲くなら 合点承知、臨空裂斬(りんくうれつざん)!」

「この世に蔓延る大悪党は、艶姫(あでひめ)の刃で浄化してやりましょう。――秘技、臨 空 裂 斬!!」

 

 手に持つ刀を引き抜き構え、赤いオーラを身に纏い、弾丸と化してシアン達に向かい真っ向から突撃する機甲艶姫。

 身構えたシアン達をそのまま通り過ぎ、一閃。

 その直後、シアン達の居た位置から凄まじい大爆発を引き起こした。

 

「全ての悪を倒すまで、艶姫の刃は血を求めるでしょう……」

 

 これによって悪は滅び去り、彼女の刃は次の得物を求め、流離(さすら)う。

 全ての悪を倒し切る、その日まで。

 ――但し、相手がシアン達で無ければの話だが。

 

「嘘!! なんであの一撃を受けて平然としてるの!?」

『……そんなこと無いよ? 実際、体中すっごい痛いし』

『ともあれ、次はアタシ達の番よ。……覚悟はいいわね、イオン?』

「……っ! 機甲艶姫ちゃん!!」

「御意!」

 

 イオンは機甲艶姫を前衛とし、防御を固めた。

 対するシアンは蒼き雷を身に纏い、雷の刃を形成するノーマルスキル「雷閃剣*1」を展開し、()()()()()()()()()()()()()()()()()S()P()()()()を発動させた。

 そして、モルフォもシアンと合わせ鏡の如く同じ動きをし、同じようにSPスキルを発動させる。

 それは、あの戦いから更なる修行を経て習得した、「雷閃剣」と「雷縛鎖」を組み合わせ、応用、発展させたSPスキル。

 邪悪を滅ぼす不滅の刃。

 闇を払い、深淵を照らす三つの斬撃の軌跡。

 

――悪意照らすは雷刃(ヤイバ)の輝光 残忍なる邪悪を暴き その全ての雷光(キセキ)を刻み込め

 

『『迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)! 深層に眠りし憎悪に染まる刻神楽の悲しみと苦しみを祓い、不滅の蒼き雷光(ヒカリ)で浄化せよ! コレダーデュランダル!!!』』

 

 先ずは初撃。

 雷閃剣と雷縛鎖を組み合わせた蛇腹剣(じゃばらけん)を展開し、斬撃と同時にそれを呼び水に、複数の吼雷降(こうらいこう)を叩き込む。

 続いて二撃。

 展開した蛇腹剣に更なる力を籠め、電光石火の一振りで、真横に薙ぎ払う。

 最後の一撃。

 同様に力を込めた蛇腹剣を、下から上に雷速で切り上げる。

 この不滅の蒼き三つの雷光。

 逃れる術は無い。

 

「く……見事」

「機甲艶姫ちゃん!?」

 

 そんな一撃を受けてなおイオンを守り切った機甲艶姫は健在であるが、その姿はボロボロの一言に尽きる。

 これにより勝敗は……いや――

 

『頑張ったね、イオン』

「あ……」

『貴女もね、機甲艶姫。ほら、その傷を癒すからこっちに来て』

「……かたじけない」

 

 ――最初からその様な物は無い。

 イオンが今まで封じてきた感情を()()()爆発させ、それを受け止める事が本当の僕達の目的なのだから。

 とは言え、流石にあの発言はシアン達にとっては逆鱗であった為に、返す刃を振るう事となってしまったのだが。

 

「あの……私、私……」

『いいんだよ? 我慢なんてしなくて』

『アタシ達が受け止めるから、大丈夫……』

「うぅ……あぁ……うぁあああああああああん!!!!」

 

 そんなシアン達の言葉を引き金にイオンは二人に飛びつき、涙を流し、大声を上げた。

 そして、この場に居る全員に想いの丈を言葉に乗せ、ぶつけた。

 

「もう辛いの! 辛すぎるの!! この世界に連れてこられて、私ずっと独りだった! 痛くて辛い事ばっかりされて、毎日暗い所に閉じ込められて!」

 

 周辺被害を抑える事に専念していた僕もその力を解き、イオンの元へと歩み、後ろから黙って抱きしめた。

 それでもなお、イオンの言葉は続く。

 

「レナルルさんは頑張って励ましてくれたけど、結局はその組織の人だから逆らえないし……。私、ずっと泣いてたんだよ!?」

 

 僕に続き、レナルルさんもイオンの元へと歩みより、その頭を撫でた。

 そんな彼女の表情にはもう、恐怖の感情は無くなっていた。

 

「確かにお友達は出来たよ。でも、こんな話を理解してくれる訳でも無いし、話しても余計に、自分が辛くなるだけで……内心、毎日帰りたいって思ってたよ! 帰れないなら死んだ方がいいって、ずっと思ってたんだよ!?」

 

 いつの間にか居たねりこさんが、うんうんと頭を頷かせながら僕達の様子を見守っている。

 

「それでも! それでもずっと! この世界が救えるなら、それが自分一人にしか出来ないっていうなら、頑張ろうって! ずっと、ずっとそう思ってやってきた……。だけど、なんで……どうして私が、こんな、酷い仕打ちをされなくちゃいけないの!? 私はただ、自分の世界で、普通に生きていたかっただけなのに……っ!」

 

 イオンの独白は続く。

 

「そんな夢すらも……もう見る事すら叶わないんだよ……? それでもずっと頑張って……っ。それでも! この世界を潰してまで還るのは、良くないって思ってて!! だけど!! これくらいの事は、してもいいじゃん!! 心の底で、こうやって思うくらい、したっていいじゃん……」

 

 イオンの封じてきた感情が濁流の様に溢れ出す。

 

「それすらも、許されないの……? そんなにダメな事なの……? それじゃあ、私! どうしたら!! どうやって、この狂いそうな気持ちを鎮めたらっ……!!」

『ダメじゃないよ』

「じゃあどうして!! どうして止めるの!?」

 

 イオンのその疑問はもっともだ。

 だから、僕は言葉を紡ぎだす。

 

「別の方法で鎮める……いや、()()()()()()()()()。僕達が来た今なら、それが出来る」

「別の……方法?」

「そう。イオンは、普段からこうやって心に想いをため込み過ぎてる。だったら、それを僕達に言えばいい。辛いって、苦しいって、助けて欲しいって。初めて僕達が直接顔を合わせる前に助けを求めた様に……ね」

「……ずるいよ。そんなの……何とでも言えるもん……」

「そうだね……。そちらの事情を安全な所から見て、それを把握している僕達は確かにずるいさ」

『だからこそ、それが嫌でこうやってここまで来た私達に頼って欲しいの』

『アタシ達はイオンの事、ずっと見てきたんだからね』

「こうして、直接この世界に乗り込んで助けようって想えるほどに」

「…………あり……がと……」

 

 たどたどしく僕達に礼を言うイオン。

 そして、その溢れ出ていた涙が、再び溢れ、零れ落ちる。

 が、その涙はもう悲しみに冷えた物では無く、喜びに温められた涙であった。

 

「ありがとう……っ。うっ……うわあぁぁぁん!! ずっと、ずっと寂しかったの! お友達は出来ても……っ、ずっと、スキマがあったの……でも、でも!! 今、皆から貰った想い……凄くて……っ、……凄く温かくて……もう忘れかけた、自分の世界の温もりがあって……っ、とっても嬉しい……。今、全身で……私の全身で、皆の想いを感じてるの……。ありがとう……ありがとう……っ」

 

 そうしてしばらくの間、イオンは僕達に囲まれながら、その涙を流し続けた。

 そして……

 

「レナルルさん……ごめんなさい……私、八つ当たりしてた。レナルルさんだって、ずっと私を気遣ってくれていたのに……」

「ううん。違うの。私の方こそ、ごめんなさい」

「どうして……?」

「私の思い込みが、貴方に悪い影響を与えてしまったから。私、ずっと、貴方がもっとこの世界を恨んでると思ってた。だから、貴方と本音で話をするのが怖くて、ずっと貴方と言う存在を、閉じ込めてた。そんな「私の中の貴方」が、鬼の様な存在になっていて……それが、貴方自身に影響して、貴方をより過激にした」

「……例えそうであっても、私の中にそう言う想いがあったのは一緒です。レナルルさんの影響だけじゃありません。だから……おあいこ、です」

「……そうね、おあいこね。ふふっ……」

 

 そうしてイオンとレナルルさんとの和解が完全に成立し……

 僕達がこの世界に最初に降り立った場所「ヒュムノフォート」から、この世界の問題が完了し、承認する為の光であり、更なる領域へと足を運ぶ為の扉でもある「エンブレイス・ロール」が出現した。

 

「ああっ、エンブレイス・ロール。まだ深い所へ進めるんだね」

『やっぱり、まだあるんだ……』

「もうこりごり?」

『まさか』

「僕達はイオンが望むなら、この先にだって潜るさ」

「えへへ♪ ありがとう。……でもね、皆の想いが通じたから、私、成長出来たんだと思う。こんな深い所まで心を繋げる事何て、ずっと隣に居る人とだって、出来ないよ……皆とこうして出会えて、本当に良かった」

 

 そう、まだ先があるとはいえ、Dlv6と言うのはイオンの言う通り、それ程の領域なのだ。

 因みに、仲睦まじい恋人同士や夫婦でも、普通はDLv5であると言えば、理解できるだろうか?

 その後、僕達はヒュムノフォートへと向かい、そこで合流したレナルルさん達と軽い談笑をしつつ、この世界の主である機甲艶姫からイオンとレナルルさんの二人の絆が承認された。

 その後、僕達が更なる精神世界の深層領域へと足を運ぶ事となるが、それはまた別のお話である。

*1
本編第九話で登場した所謂ライトセイバー、ビームサーベル、ゼットセイバーに該当するオリ設定のノーマルスキル。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。






・コレダーデュランダルの詠唱翻訳について
今回は一度グーグル先生に翻訳してもらった後に、それぞれの単語の意味を調べた上で、厨二的に加え、蒼き雷霆的ニュアンスもぶち込んだ上で、こう解釈出来るのでは? と文章を弄った結果こうなりました。
なので、この訳し方が正しいという事はありません。
私が言うのもアレですが、訳し方がおかしな事に間違いなくなっている筈です。
ちなみに、グーグル先生に尋ねた結果は以下の通りです。

Wicked blade agleam 邪悪な刃の輝き
Barbarous and bathed in darkness 未開の暗闇を浸す
Cleaving all in its path すべてをその道に刻む

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