【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
ノワやミチル等も出てくるようになりますので、よろしくお願いします。
今回はデルタ視点となります。
第十一話
本音を引き出すプリン
プッツンプリン。
それは食べると文字通り「プッツン」する効果を持ったプリンだ。
で、何がプッツンするのかと言うと……
「私のデルタに近づく女はみんな死ねばいいのに。シアンなら分かるでしょ? この気持ち」
「もちろんだよ。私だって、私のGVに近づく女は死ねばいいのにって思ってるんだから」
理性がプッツンする。
そして、我慢していた思いをそのままストレートにぶちまけるようになる。
そう、俺がなぜこんな話をしたのかと言うと、この目の前の惨状が理由だ。
少しだけ開いた扉からおどろおどろしい雰囲気と共に心の底から楽しそうに物騒な会話をしている二人の様子を偶然見てしまった俺は、そのあまりの恐怖に体の震えが止まらない。
キャスはもう既にアレを食べた時の状態を一度見てたからある程度は分かってたけど、一見おとなしそうなシアンまで怖い事言い出してて辛い。
「ふぅん。シアンってGVにハーレム推奨するのに、そんな言葉が出るなんて意外よね。確かオウカにイオンも含まれてるんでしょ? それに、最近はネロも入ったって聞いたけど」
「うん。確かにそうだけど、でも大丈夫。これ以上は絶対に増やさないし、増える事も無いから」
「増える事も無いって……何か方法でもあるの? 私にも是非教えて欲しいわね。最近、私のデルタの周りに邪魔な羽虫がうようよしてるから」
これ以上は聞かない方がいいに決まってんのに、恐怖と身体の震えのせいで体が動かねぇ。
人間って、余りの恐怖に直面すると本当に動けなくなっちまうんだな……
って言うか、方法ってなんだよシアン?
大人しそうな顔して物凄く物騒な事言いだしやがって。
キャスもキャスだ。
なんでこんな物騒な会話を嬉しそうに聞いてるんだよ。
邪魔な羽虫って何だよ。
そう机の上に大量に食べられて空になった、プッツンプリンの器を見ながら俺は歯をガチガチ鳴らし、固まりながらそう思っていた。
「イオンとネロの俯瞰視点。これでそう言った塵屑共とこれ以上結ばれない可能性を手繰り寄せてもらうの。これはオウカも容認済みだし、私も納得してるよ。早く死ねばいいのにって思う気持ちは別だけど」
「なるほどねぇ……。それでイオンとネロも容認したって訳ね。でも、それでシアンはいいの? GVの事が独占できなくても。それに、イオンは確かハーレム展開嫌ってたわよね? そこの所どうなのよ」
「大丈夫だよ? だって、
「なら問題無いわね。でも……時間が解決? ちょっと詳細を聞かせてもらってもいい?」
「うん。具体的には――」
おいおい、遂に塵屑共って言い始めちゃったぞ。
っていうか、そんな密約交わされてたのかよ!
これ、少し離れた別の部屋に居るGV本人は把握してんのか?
ともあれ、これ以上この会話を聞くと、俺の精神が持たねぇ。
早くここから逃げねぇと。
『はいはい、今の会話は忘れて貰うわよ。デルタ』
俺の後ろから、モルフォのそんな声と同時に俺の意識は薄れ――
気が付いたら、何も覚えていない状態で意味深に微笑んでいるキャスの太ももを枕に横になっていたのであった。
車椅子ブースターvsショッキングカート
ショッキングカート。
それは一言で表せばジェットエンジンの付いたショッピングカートだ。
元々これは俺の失われていた記憶をショック療法で呼び覚ます為に出来たアイテムで、そのやっつけ感溢れる見た目とは裏腹に、凄まじい速度と安定性を持つ。
そして試してみた結果は……思い出したくない程のトラウマを植え付けられる結果に終わってしまった。
これ以外にも色々と俺の記憶を呼び覚ますアイテムは作られていったけど、インターディメンドが解除された事で記憶は戻り、これらはもはや無用の長物になる筈だった。
「では、改めてルールを確認します。一度目はデルタ様が
「僕としては問題無いよ、ノワ」
「……俺は問題大ありだよ! コンチクショウ!!」
切欠はサーリが、アキュラと彼の後続でいつの間にか来ていたノワと言うメイド服を着た女性に対してこのアイテムを見せた事が始まりであった。
その後、ノワも何処からともなく改造された車椅子――車椅子ブースターを取り出し、サーリと意気投合。
と、ここまでは問題無かったのだが、俺が出したとある話題が切欠で状況が変化した。
今にして思えば、本当に迂闊な事を言ったと心から反省したい。
端的に言えば、「どっちの方が性能がいいのか?」と言う物だ。
それを切欠に話は妙な方向へと加速。
ルール作りからコースの条件等があれよあれよと理詰められ、構築された。
その内誰がこの二つに乗って検証するのかと言う話となり……
気が付いたらこのザマとなっていた。
俺は周りに助けを求めていたが、キャスは知らない間にサーリとノワによって買収済み。
ロロも、そしてノワと同じタイミングでこちらに来ていたアキュラの妹のミチルもノワに言いくるめられていた。
そして、最後の良心とも言えるアキュラは最初は反対してくれていたが、この場に居た俺以外の全員に言いくるめられ……今の様な状況となっている。
「ゴメンねデルタ。骨はちゃんと拾っとくから」
「……すまん、後で埋め合わせは必ずしよう」
「ごめんなさい。あんなに楽しそうなノワを止めるのはちょっと出来なくて……」
『僕もだよ。あんなに楽しそうなノワ、初めて見たよ』
「では、そろそろ始めましょう。デルタ様、お覚語は宜しいですか?」
「宜しくねぇよ!」
「では、始めようか。エンジン点火!」
「おい、人の話を……! うぉああああああああああああぁぁぁーーーーー……」
車椅子に特殊な紐で縛られた俺の後方にあるジェットエンジンに火が灯り、車椅子ブースターは陸を、悪路を、空を駆ける。
っていうか、これ
そう思いながらも何とか意識を保っていたのだが、やがて俺はその恐怖に意識を失って――この対決その物を忘れていた。
俺はこの記憶の空白についてその場に居た全員に尋ねたのだが、皆は沈痛な面持ちをしながらノーコメントを貫いていたので、結局俺は分からず仕舞いなのであった。
悲しみを打ち消す奇跡のパーツ
今俺の居るこの場所は「ネィアフランセ」と呼ばれる場所で、一言で言えば料理店だ。
そこで俺達はアルシエルに居るアヤタネから貰ったレシピの一つを作成していた。
そのレシピは四つの「パーツ」に加え、それを組み合わせて出来た完成品が記載されていた。
そこで、俺達はその四つのパーツの内の一つを作成する為に、ここに来ているという訳だ。
それで、色々と試行錯誤を繰り返し、その過程で
そして、出来たそのパーツが、今俺達の目の前にある。
そう、目の前に、あるんだが……
「ネイさん……そりゃねぇよ」
「な、何よそれ!! もっと何か言う事無いの!? 出来立て熱々の、こんな完璧な
「いや、それがおかしいんだよ! 何で
「確かこれって、
「さあ? それはサーリとアキュラの作業だから、私には分からないわ」
「二人共ぜってぇ困ると思うぞ? こんな普通の肉じゃがを渡されたら……」
そう、これは「とある物」を作成する為に必要なパーツなのだ。
材料だって滅茶苦茶色んな素材を多く使ってるし、アルシエルでしか調達できない材料「銘菓オボンヌ」だって使ってるって言うのに。
それなのに、出来た代物が肉じゃが。
しかも普通の。
意味分かんねぇ。
見て見ろ、アキュラとロロも完全に固まっちまってるじゃねぇか!
最近手伝いに来てくれるようになってネイさんの調合で出来た代物に耐性ができ始めたと思ったらコレだもんなぁ。
気持ちは嫌と言う程良く分かるぜ。
『……え? 何で? 何で材料にお菓子が含まれてるのに肉じゃがが出来るの!? おかしいよ、アキュラ君!』
「しっかりしろロロ! そもそも、パーツの材料に食べ物が含まれている事に疑問を持て! 大分この店に毒されてきているぞ!!」
途中からパーツ作成の手伝いに来ていたアキュラとロロも、この惨状に混乱しているみたいだ。
気持ちは分かる。
嫌と言うほどわかる。
何しろ、最初に手伝ってくれた時もおもいっきり頭抱えてたもんなぁ。
……それは兎も角、あれだ。
「しっかし、いい匂いだな。何か、腹減ってきちまったよ」
「せっかくだし、味見して見ない? 冷めたら勿体無いでしょ」
「……おい、「それ」を食べるのか? それが出来るまでの過程で出来た代物が何であったか忘れたのか!?」
「そうだな。ほら、キャスも食おうぜ」
「そ、そうね……。それじゃ、いただきまーす」
『ためらいも無く逝っちゃった!?』
俺達は肉じゃがを口に含み、丁寧に咀嚼した。
「……美味しいわね」
「ああ、ご飯が欲しくなってくるな」
「後、味噌汁もあれば完璧ね。いい感じに芋に汁が染みこんでて、凄く美味しいわ」
……うん、普通の肉じゃがだ。
あの食えるか食えないかが分からない料理をよく作るネイさんが作った物とは思えないほど普通だ。
『……アキュラ君、この人達、何であんな材料で出来た肉じゃがをそのまま食べれるの?』
「……何でだろうな。少なくとも、俺には分からん」
……?
アキュラもロロも何言ってんだ?
ネイさんの出す料理でちゃんと食える代物何て貴重なんだから、喰えばいいのに。
まあ、不満が無いって訳じゃあねぇんだけどよ。
「……でも、飛び抜けて美味しいってレベルでもねぇよな?」
「そうね、普通の肉じゃがって感じね」
「何言ってるのよ。肉じゃがは高級料理じゃ無くて、一般家庭の料理なのよ? そんな料理が驚く程美味しかったら食卓で一品だけ浮いちゃうでしょ?」
「……言ってる事はまともなのは間違い無いのだが……お前達、分かっているのか?」
『完全に頭から抜けてるけど……そもそもそれ、パーツの一つだよね!? 何普通に食べてるのさ!』
そう言えばそうだった。
いやぁ、ネイさんが真っ当な料理作るのって久しぶりだったから、つい忘れる所だったぜ。
ともあれ、無事にパーツの一つが出来上がったんだ。
後は、これをサーリに渡すだけだ。
一体どんな代物が出来上がるんだろうなぁ。
アキュラも手伝ってくれるって言うし、楽しみだぜ。
『サーリちゃんとアキュラ君、間違いなく苦労しそう……。この世界、ガンヴォルトから聞いてたけど、絶対変だよ。僕の
「……俺はこれを材料にしなければならないのか……。この世界の物理法則は一体どうなっている……。答えてくれ、神よ……」
そう言いながら途方に暮れているアキュラとロロを見ながら、俺達は半端分の肉じゃがの残りを頂くのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。