【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
先ずはジブリールを撃破出来た僕は、続けて次の相手…ニムロドと相対する事となった。
彼はエデンに加担しているが、海洋保全を掲げる環境保護団体にも所属しているという。
何よりも海を愛する男であり、その豪快で気風もいい性格もあり、多くのエデンの仲間から「アニキ」と慕われているのだそうだ。
但し、敵対する者には容赦が無く、「無能力者を排除して
これらの情報はアリスからの物であるが、これは彼の能力にも関わってくる。
彼の能力は「リキッド」と呼ばれる能力で、液体全般を操ることが出来る能力であり、僕もネームレスで活動していた際に、この能力の情報を得ていた。
但し、彼の場合はその海を愛する性格が反映されているのだろう。
操れる液体が水と海水に特化されており、それに限った場合、歴代のリキッドの能力者の中では最強と言える力を発揮している。
つまり、蒼き雷霆で相手をする際、極めて相性の悪い相手と言えるのだ。
何しろ海水を操れるのだから、電解質を含んだ水を雷撃麟展開中に当てられれば、立ちどころにオーバーヒートを起してしまうのだから。
そう言った弱点を突かれた経験は僕には無い。
いや、突かれそうになった経験ならばある。
第三海底基地にてメラクの張った罠がそれだ。
だけどそれはネームレスで潜入した際に突破しており、同時にメラクも撃破していた。
それがこう言った形で弱点を突かれる事になるのは何と言うか、運命めいた物を感じる。
……但し、今ではその蒼き雷霆の有名すぎる弱点は過去の物であるのだが。
「俺はニムロド、戦う理由はただ一つ、美しい海を守る事だ。……所でよ、突然で悪いがちょいと俺の質問に答えちゃくれねぇか?」
「質問? …あぁ、ひょっとして」
「察しの通りさ、お前さんの中に居る嬢ちゃん達の能力の歌でジブリールを治癒した際、
「いや、あれはあくまでジブリールの治癒のみが目的だ。さっきまでの戦闘痕や海が綺麗になったのは、彼女達の歌の余波に過ぎない」
「なるほどな…正直に言うぜ。俺はその嬢ちゃん達が欲しい、海を綺麗にする為にな」
「シアン達は物じゃない、その提案は拒否させてもらう。……だけど、海を綺麗にする事に対して協力すると言う形ならば話は別だ」
『アタシ達も無理矢理じゃ無ければ協力くらいするわよ』
『海を綺麗にするのは私も協力してもいいと思う。美味しいお魚もそうだし、泳ぐのだって綺麗な方がいいに決まってるもん』
「……それを聞けただけで十分だな。俺は今まで海を綺麗にする為には優秀なヤツが管理したり、陸の人間を減らしたりする事のみが正解だと思っていた。だが、こう言った直接綺麗に出来る選択肢を見つけた以上、其処まで過激になる必要も無くなった。……まあ、それでもあくまで急場凌ぎ程度なんだろうけどな。陸の人間が減らない限り、また海は汚れちまう」
「……陸の人間を減らしたければ、いっそ宇宙開発にでも力を入れて、そういった科学者を見つけて寄付でもした方がまだ現実味がある様に思える」
「…科学者ってのは正直好かねぇ、あいつらは海を汚す元凶だろう?」
「海を含めた環境を気にする科学者も存在するさ……現にこの国の下水処理施設は、他の国とは違って高度なお陰で汚染は最小限に抑えられてる。台風や地震なんかの自然の荒波に良く揉まれているからなのかもしれないけれど……結局の所、科学だろうが第七波動だろうが使い方次第だと僕は思う。やろうと思えば、逆に第七波動で海を汚す事も出来るはずだ」
「……大事なのは俺が何時も仲間に言っている海洋保全の心って事か」
「その心を広める事こそが、ニムロドの本当のやるべき事だと僕は思う」
「そうみたいだな……ふぅ、俺の心の汚れが綺麗になったような感じがするぜ……感謝するぜ、ガンヴォルト……だが、この勝負の手加減なんて一切しねぇがな!」
そう言いながらニムロドは宝剣を取り出し、
その姿は人魚を思わせるような姿をしており、正に彼の海を愛する心を体現したかのような姿をしていた。
そうして僕とニムロドとの戦いが始まった。
こちらの弱点を把握しているのだろう。
開幕、大規模な水竜巻を僕の周囲や足元に展開して雷撃麟の展開を阻止する様に展開して来た。
……蒼き雷霆だけでも負けはしないと思うが、かなりの苦戦を予想される。
これは波動の力をメインにした戦い方…モード「ラムダドライバ」の出番だ。
僕は何時もの戦い方、モード「蒼き雷霆」からモード「ラムダドライバ」へと変更した。
この戦い方は今までの僕の戦い方と根本的に変化する。
雷撃を一切使用しなくなり、波動の力で強化した銃撃やアシモフ仕込みの格闘技術がメインとなる。
その序に、ダートリーダーも最近入手した「デュラハン」に固定した。
この戦闘形態はEPエネルギーの消耗が激しいのが欠点ではあるのだが、そこはエターナルヴォルトで補うことが出来る。
あの時のアキュラとの戦いでは出来なかったが、今回はこの手が使える。
……ニムロド、僕とアシモフが切り開いた蒼き雷霆の可能性の力、それを受けて貰おうか!
そのニムロドなのだが、こちらに向けてクラウチングスタートの構えをしており、今にもこちらに突撃して来る体勢を取っていた。
僕はそれに合わせて迎撃する為に先ずはエターナルヴォルトを用いて、EPを一時的に無制限に使用できる状態にし、波動の力をダートリーダーに装填されているダートに収束させた。
……アシモフがこちらを見て笑みを浮かべている。
どうやら、僕がやろうとしている事を把握している様だ。
そうしてニムロドは大きな水柱を後方に展開しながらこちらに突っ込んで来た。
僕はそれに合わせ、波動の力を収束させたデュラハンで強化されたダートを放った。
「迸れ!
「へぇ…生憎だが、そんなちゃちな針程度じゃあ……っ!」
このダートは、以前のカレラの能力に弾かれた時以上に強化された物。
この一撃は見事にニムロドのアーマーの一部を貫き、貫通させることが出来た。
その事に動揺して隙を晒したニムロドに僕は、全身とダートリーダーの強度を波動の力で強化した状態で突っ込み、ニムロドに対して近接戦闘に持ち込んだ。
「……僕の知ってるガンヴォルトの戦い方じゃない」
「メラクと同じく、僕も知らない戦い方だね、あれは」
「紫電、あれは蒼き雷霆を用いて第一から第三の波動を増幅し、それを用いてダートや身体能力を既存の強化も含めて、更に強化しているのだ。私とGVはこの力を波動の力、もしくはラムダドライバと呼んでいる」
「メカニズムは極めて単純だ…人体に電流を流す、これだけであの力を発現することが出来る。だが、蒼き雷霆の能力者でも無ければこんな事をするのは不可能だ。普通ならば、電流を体に流した時点で電気ショックで死んでしまうのが普通だからな」
『それを何とか出来ちゃうのがアキュラ君の凄い所なのさ。……最近のアキュラ君は、この力で何が出来るかの研究がメインになってるよね。どうせなら、ガンヴォルトに聞いてみるのもいいんじゃないの?』
「…奴と意見を交換するというのも、悪くは無いか。もっとも、俺との決着が付いた後の話になるだろうが…」
……アキュラ、波動の力は文字通り何でも出来る力だ。
その気になれば英雄や神様、伝説の武具だって呼び出せるんだから。
そう思っていた僕の思考の隙を突き、近接戦闘に移行した際にニムロドが手に取った槍が僕をかすめた。
が、直撃は避けれているので問題は無い。
僕は引き続き格闘術や強化されたダートによる近接戦闘を続行した。
そして、僕の青き雷霆と波動の力での身体強化に加え、強度を強化されたダートリーダーのグリップの一撃がニムロドの顎を捉えた。
この一撃によって意識が混濁しているのだろう。
これによって、彼の能力が一時的に収まった。
今が決着を着けるチャンス。
僕はニムロドを全力で足払いをし、馬乗りになって波動の力を込めたダートリーダーを突きつけた。
「…勝負ありだ、ニムロド」
「参ったぜ、
「使っていたさ、ただそれを目に見えない方法で運用していただけに過ぎない。僕自身、蒼き雷霆の明確な弱点は把握していたから当然、克服だってするさ。……もう勝負はついたから、怪我の手当てをしよう。それと……シアン、モルフォ、頼みがあるんだ」
『分かってるよ、GV』
『ここら一帯の海を綺麗にしようって事でしょう?』
「ああ、僕はニムロドに協力をする事を約束したからね。その約束を果たす為の第一歩として、この付近の海を綺麗にする。……シアン達だけじゃない、僕も歌うよ」
『うん! GVも一緒に歌おう!』
『こうやってアタシ達三人で歌うのは久しぶりよね。だけど、GVって詩魔法が扱えるのかしら?』
「ああ、シアン達が目を覚ます前に確認だけはしたんだ。そして実際に扱う事が出来るのを確認できたから、大丈夫だよ、モルフォ。ニムロドの傷の手当ても僕がやるから、見ていて欲しい」
僕はニムロドの傷を
そして、彼との約束を果たす為の第一歩として、僕達三人は協力強制をしつつ、海に対して
僕達三人から流れ出す癒しの光が、遥か地平線の先までの海を浄化していく。
ジブリールの治癒の時でも余波程度で見違えるほどに海は綺麗になっていた。
それが、明確に海を対象に
その結果は見事に澄み切り、生命力溢れる大海原という光景だった。
……こんなに綺麗な海を見たのは、前世の時も含めて初めてだった。
「すげぇ……これが俺の夢にまで見ていた本当の大海原なのかよ……」
「海をこうした張本人である僕達が言うのもアレだけど、こんなに綺麗な海を見たのは初めてだ」
『GV、海の底があんなにハッキリ見えてるよ!』
『泳いでる魚影もハッキリと見えるわね』
「こうやって奇跡の海域が出来上がったって訳か。……あのエリーゼの記憶の映像の裏付けが図らずとも取れちゃったか。まあ、面倒が無くて楽出来たからいいけどね」
「あの時も思ったが、もう
「ガンヴォルト、お前さんの約束を果たそうって想い、確かに伝わったぜ。……っと、こうしちゃいられねぇ! ちょいとこの海を泳がせて貰うぜ! ベラデンに居る俺の部下達の土産話も欲しいからな!!」
ニムロドは変身現象を解かずにそのまま泳ぎに出かけてしまった。
海を愛する男が、こんな今まで見た事の無い様な綺麗な海を目撃したのだ。
その嬉しい気持ちを爆発させ、ああやって行動に移してしまうのも仕方が無いと僕は思う。
何しろ、僕やシアン達だってこの力の示し合いを中断して泳いでみたいと思える程なのだから。
この僕達の生きる時代は近未来だから、既にこうした綺麗な海を見られる場所がもう無いか、或いは貴重なのだろう。
G7の皆やパンテーラも、そしてアシモフや紫電達も、この海が綺麗になった光景に目を奪われていた。
(この力、確かに凄マジイ…手ニ入れるコトが出来レバ、パンテーラの望ミヲ叶えるコトも容易イはず…それなのに、何故星ノ光は、
僕はこの海を見ていたニケーがこう思っていた事等露知らず、次の戦いの事すら忘れ、この光景を皆と共に見続けていたのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。