【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
世界に遍在する
「そうだGV君、君にどうしても聞きたい事があるんだ」
切欠は、白鷹のこの一言からだった。
彼の聞きたい事と言うのは何なのか?
僕は当然気になったので、「いいですよ」と答え、返答を促した。
その内容は、彼の趣味を考えれば予測できる範囲内の答えだった。
それは、僕の世界にも「MOE」が存在するのか? と言う物だ。
……こんな時、ジーノやパンテーラが居てくれれば助かったんだけど、生憎ここには僕と白鷹しかいない。
何とか、彼と話を合わせよう。
パンテーラにジーノ、シャオにテセオとの会話の内容を思い出せば大丈夫のはずだ。
「そりゃあ、ありますよ」
「なんと! やっぱり! そうッスよね! やっぱり俺の理論は間違ってなかった!!」
「どんな理論なんですか?」
「MOEとは愛! いや、愛をも超える普遍的なものっ! この世界は愛によって創られている。しかし! MOEは、外宇宙にも通用する、愛を越えた超的な想いの形だったんス!」
……確かに、彼の言う事にも一理あるのかもしれない。
が、ちょっと待って欲しい。
「……それと同時に、愛もまた存在しているよ」
「愛もっスか……。MOEはやっぱり、愛を越える事はできないんスか……」
自身の理論が否定されたのがショックなのか、白鷹は落ち込んでしまっている。
だけど、そう言った概念は超える超えないは問題では無いと思う。
「白鷹、僕はこう思うんだ。愛とMOEは互いに依存する比翼の鳥なんじゃ無いかって」
「比翼の鳥……っスか?」
「……今から、とある僕の持っている記憶の中の映像を見せようと思う。これを見れば、きっとその意味がわかるはずだよ」
そうして僕が見せた映像、そこに映っていた物は、「黄昏の女神」が降臨した時の映像だった。
その一目見ればわかる程の神性、尽きぬ愛によって世界を支え、愛そのものである彼女。
そんな彼女に、白鷹は瞬く間に釘付けになった。
そうして紡がれる彼女の祈り。
全てを抱きしめ、来世へと導こうと言う大いなる愛の化身。
それと同時に、その見た目麗しい姿に、彼ならば感じるであろうMOEの概念。
だからこそ、僕は「愛とMOEは互いに依存する比翼の鳥」と例えたという訳だ。
そうして映像が終わった頃には、彼はぽたぽたと涙の雫を落としていた。
泣き止み、落ち着いて話が出来るまで、僕は待った。
「GV君、俺は間違っていた。君のその理論の方がずっと正しかった。世界はやっぱ広いっスねぇ……」
「だけど、白鷹の理論も、半分は合っていたじゃないですか。そんなに気にしなくても……」
「……話は変わるけど、GV君。少し、聞いて欲しい話があるんス。イオンちゃんの記憶を見てきた、君に」
その話の内容を要約するとこうだ。
かつてまだ惑星ラシェーラがあった頃、白鷹は生まれ故郷である万寿沙羅を家出し、その間ろくに連絡もしないまま、家族全員がそこであった事故によってがれきの下敷きとなって亡くなってしまった事を。
それを今も悔いており、どうやって償えばいいのかとずっと悩んでいる事を。
「……聞いてくれてありがとうッス、GV君」
「いえ、少しでも楽になれたと言うなら、構いませんよ。……だけど、どうして今になって僕にこの話を?」
「ほら、君が愛とMOEが互いに依存する時の話に出てきた女神様の話を聞いて……ね。彼女は、輪廻転生を司っているんだろう? そして、その女神様の導きによって、君達は俺達の世界へと来ることが出来た。だから……親父とお袋、そしてプラムも、その恩恵に与れたのだろうかって気になって……。俺は、何も出来なかったから」
「……白鷹、僕はイオンの記憶経由でしか語れない。その時のプラムは、少なくとも白鷹の事を恨んではいなかったよ」
「…………」
「だから、
「え? それってどういう――」
突然話は変わるが、今シアン達が形成維持している集合的無意識は更に範囲が広がり、異世界を股にかけて偏在している。
その規模は少なくとも、ラシェーラ宙域どころか、アルシエルの宙域の全ての可能性軸、時間軸を掌握している。
僕はその集合的無意識内を
プラム達が事故にあった直後の時の可能性軸、時間軸を調べ上げる。
そして後は、終段の要領で、その時の彼らを呼び出す。
「あ……親父……お袋……プラム!!」
白鷹は僕が呼び出した彼らの元へと走っていった。
そこで、彼らは色々と積もりに積もった話を重ね……。
その後の話は、必要無いだろう。
何故ならば、家族に愛されていた事を改めて知り、迷いを断ち切った白鷹の姿を見れたのだから。
初めての二人きり
静かに音が鳴り響く。
ダートリーダーを分解し、メンテナンスをしている時の音が。
傍らにはイオンが、何処か微笑ましそうに眺めている。
因みに、シアンはこの部屋の近くにあるキャスの部屋で何やら話をしており、モルフォはその部屋に誰か来ないか見張りをしている。
つまり、僕とイオンは初めて二人きりと言う状況となった。
この間に、色々な話をした。
今メンテナンスをしているダートリーダーの構造についてだったり、僕の隣に置いてあるプロテクトアーマーの機能を見破って、僕を驚かせたり。
こうして話すと、やはりこう言った機械関連技術に真っ先に目が行くと言うのは、何ともイオンらしいと僕は内心微笑ましく思った。
だからこそ、そんなイオンに話を合わせる様に、こんな話題を出した。
「GVの装備の改良かぁ……。うーん、大体の基本構造を見る限り、
この手の話を始めると、この様に一度話し出したら止まらない。
だけど、そんな風に話をしている彼女の、これでもかと笑顔で語るその様はとても魅力的に映る。
……もし、先にイオンと出合っていたら、僕は彼女を選んでいたのかもしれない。
そう思える程、彼女は魅力的だった。
画面の向こう側でイオンと出合う前に、既に僕にはシアンが居た。
だからこそ、まだ画面の向こう側で告白して恋人になれる程に好意を持たれている事が分かっていても、僕はその選択を選ばなかった。
当時の僕はこの世界をゲームに思っていたけれど、それでもシアンが居るのに恋人になるのは、余りにも不誠実だと思っていたからだ。
画面の向こうに居るイオンがこちらの事など知る由も無いのに、そこに付け込んでその様な真似をするのは、僕には出来なかった。
そしてあのような中途半端な状態で接続を断たれて月日が過ぎ、彼女の事すら忘れ、一度目の死を迎え、思い出し、この世界が現実に存在していると確信したのはアスロックとの戦いが終わった後。
その時の戦いで僕はイオンに間接的に助けられたのに、なんとも無責任で、情けない。
だからイオンは、もっと文句を言ったっていいはずなんだ。
「何であんな都合のいいタイミングでこの世界に来たの?」
「なんでもっと早く助けに来てくれなかったの?」と。
それを僕が話した時、イオンはこう答えてくれた。
「最初は内心そう思った事はあったよ。でも、GVとお話をしている内に、画面の向こう側での旅の出会いや別れ、その時にした私達の色々な決断を尊重してくれたって事が分かったの。なかった事にしたくなんて無い。踏みにじりたくないって気持ちが……。勿論、苦しい事や辛い事だって一杯あったよ。でも、それ以上に楽しい事も、大切な人達との出会いも一杯あったし、学ぶこともたくさんあった。それに、何よりも――そんな私を、私達を助けに来てくれて、とっても嬉しかったんだからね」
「だけど、それが出来たのは大勢の人達の協力があったからだよ。僕自身は、あまり貢献できたとは……」
「ううん、そんな事ないよ。GVはそんな大勢の人達に頭を下げて、切欠を作ってくれたんだから。それに、異世界移動のデータ取りなんて下手をすれば二度共との世界に戻れないかもしれない危険な事を率先してやったって聞いてるもん。だからGVは、誇っていいんだからね」
……敵わないなぁ。
そんな彼女だからこそ、シアン達もオウカも、イオンの事を認めたんだろう。
何しろ、その時点で僕に対する包囲網が形成されていて、気が付いたらイオンと、そして同じようについて来たネロまで恋人になってしまったんだから。
だけど、僕とそう言った生活をする際、あるルールがある。
それは僕が不老不死で、尚且つ年齢の操作、そして時間移動や世界移動が出来る事で可能となる方法で、まだ話をまとめ切れていない為、詳細は語れないが――それはまた、別の話だ。
話を戻そう。
僕の装備について一段落付いたイオンが、また何やら構想を練っている。
どうやら、何か新しいゲームを作ろうと画策しているらしい。
それは「ペペンアットマーク*4」に「波動次元コンバータ*5」、後は「重力波振動通信機*6」を合わせて、何やらゲームを作るらしいのだ。
その内容は、「僕の世界であった出来事をゲーム化」すると言った物だ。
原理としては良く分からないが、これらを組み合わせて僕達の世界の座標を得ることが出来れば、後は勝手にその世界であった大きな出来事の部分をアクションゲームに変換することが出来ると言う、無駄に恐ろしく高度で複雑な理論で構築された物なのだと言う。
つまり、座標さえ習得してしまえば僕の居た世界だけではなく、別の世界も可能だという事だ。
一体、どの様なゲームが出来上がるのかとその当時は思っていたのだが、これが巡り巡って、アスロック戦の時に僕を助けてくれたアーシェスに繋がるなんて、この時の僕は知る由も無かったのであった。
悲しみを打ち消す奇跡のパーツ Take.4
僕達は今、シャラノイアにある「ほのかの」と呼ばれる場所にあるお店、薬師庵「くるりんてん」に居る。
そこの店主であるタットリアが、僕達が尋ねたタイミングで丁度良く、ある品物の調合を完成させていた。
それは一見すると、大きな葉にほんの少しの雫があるだけの様に思える外見。
一見すると無害に見えるかもしれないが、油断をしてはいけない。
この店では何気に危ない効果を持った薬が平然と作られたりしているからだ。
記憶消失薬であるアムネシアの雪だったり、そのまま飲むと只管相手をディスりたくなる飲み物である「ディスタリン」、飲むとあっという間に体中癌細胞だらけになる薬がすら含まれている「捕食戦隊ファージさん」など、危険が満載だ。
だけど、それでも純粋な危険度で言えば、これでもまだ二番目位だと言うのが恐ろしい。
因みに一番はサーリで、意外な事だがネイさんはまだ危険度で言えば大人しい方で、カノンさんはこのメンツの中では一番安全だったりする。
そんなカノンさんでも、永久機関をサラッと作ったりするから油断は出来ないんだけども。
「よっしゃー!! ロータスティア、完成したよ!」
「タットリア、気を付けて!! 雫がこぼれちゃうよ!!」
今タットリアに注意した存在は、動物型のジェノムであるヴィオだ。
とても小さくて愛らしい見た目をしており、タットリアとは長年の相棒を務めている存在だ。
そして、よく無茶をしたりするタットリアのブレーキ担当でもある。
「おっと、そうだったそうだった。これ、ちょー貴重品なんだから、こぼせないんだよ」
「それが、貴重品なの? 見た感じは葉っぱに乗った雫にしか見え無いんだけど……」
「へへっ、見た目はそうかもしれないけど、実はこれ、ちょー凄いんだよ」
『すごいって、どんな風に?』
「えっ? どんな風って、それは……」
『それは?』
「え、えっと……。ちょ、ちょー凄い効果があるんだよ! もう、その辺の薬何て足元にも及ばない凄い効果がさ!」
「えっと、だからその効果がどんなものかを教えて欲しいんだけど……」
「イオン、察してあげてよ。タットリアにもわからないんだ」
……それは、大丈夫なのだろうか?
時々こうやって、作った本人が効果が分からない、なんて事が割としょっちゅうあったりするのがこの世界だ。
ちょっと気を引き締めた方がいいのかもしれない。
「ちょー凄いってのはわかるよ?」
「レシピの時点で凄いものなんだから、そんなの当然じゃないか。っていうか、よくどんな効果があるのかもわからないのに、完成したとか言えるね?」
「レシピ通りに作ったんだから当然だよ。それ以上、何も出来ないんだし」
「……タットリアに作らせたのは、失敗だったかもしれないよ? イオン」
「う~ん……。でも、レシピ通りに作ったなら、きっと問題は無い筈だよ」
『効果はさっぱりみたいだけどね。まあ、アタシは別に気にしないけどね。真っ当な見た目で、ちゃんと完成してるみたいだし。そう思うでしょ? シアン』
『うん。見た感じ、ちょっとおしゃれな水薬って感じに見えるし、ちゃんと完成してれば、私は文句ないよ?』
「あ、あはは……。GVはこの薬、どんな効果を持つと思う?」
うーん……。
薬である以上、何かしらの効果はあるはずなんだけど……。
となると、作成難易度的に考えて……。
「どんな病気でも治す、とか?」
『なるほどねぇ。確かにそれ位の効果があっても不思議じゃ無いわよね』
「っていうか、そういう効果はあるよ」
「ちょっとタットリア! どういう効果があるのか、ちゃんと知ってるじゃ無いか!」
えぇ……。
いや、タットリアのあの真面目な表情、何か理由があるんだろう。
「そうは言うけどよヴィオ、わかるのは、ちょー凄いって事だけ。実際にどんな病気も治す強力な効果はあるけど、強力過ぎるせいでこれ単体で使うと人体に悪影響が出ちゃうんだよ」
「そっか……。強い薬を使えば、それだけ人体に影響が出るのは当然だよね?」
「そういうことだよ、イオン。薬であると同時に毒でもあるから、使おうにも使えないんだよ。だから、どういう効果があるのかはよくわからない、って事」
なるほど、それだと確かに良く分からないという結論になるのは仕方がないだろう。
使い方次第で毒にも薬にもなる……か。
『やっぱり、これ単体じゃなくて、他の材料と組み合わせなくっちゃどうにもならないってことなんだね、イオン』
「そうみたいだね。けど、本当に、これ等を組み合わせて、どんな物が完成するのかな? ふふ♪ 楽しみだね、GV」
ロータスティア。
それは一言で言えば、アルシエルで処方された未知の可能性を秘める水薬。
ラシェーラの人々にどんな効能があるのかは現時点で確認されて無いが、強力である事は間違いない。
少なくとも、直接の服用よりも加工材料としての可能性が大いに期待されている水薬と認識すれば、間違い無いのだろう。
……今頃、アキュラの方もサーリと一緒に別のパーツを完成させている頃だろう。
一体どのようなアイテムが出来るのか、僕は期待半分、不安半分の気持ちで出来上がった二つのパーツを携え、ノエリア・ラボラトリーズへと向かうのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。