【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
わたしが「座」に付いて、蓮達を見守るようになってから、暫くの年月が流れた。
人々は生命力に溢れ、文明を繁栄させ続けており、そんな様子を幾つかの宇宙で生まれたわたしの「触覚」経由でその行く末を見守り、抱きしめている。
そんなある日、ここでは無いどこかから、か細い声が聞こえてきた。
「どうか助けて欲しい」と言う、切実な声が。
その声の発信源は、驚く事に私の居る「座」の外からの物。
私は迷った。
素直にこの声を聞き届け、向かってもよいのか、つまり、その世界を掌握してもよいのかと。
私が直接向かえば、「座」の力によってわたしが来た瞬間、必然的にその世界を、私で染め上げる、いや、最悪、消滅してしまってもおかしくはないのだから。
そこで、わたしは方法を考えた。
それは、今新たに生まれそうだった触覚を、生まれたと同時にこの世界へと送り届ける。
向こうの世界にわたしが向かっても大丈夫か、確認する為に。
そうしてわたしは発信源へと触覚を送り込んだ。
それと同時に、その発信源から、一つの魂がわたしの元へとやって来た。
その魂は、ボロボロだった。
読み取って見れば、「第七波動」「迫害」「言われなき暴力」「虚しさ」、様々な感情が入り混じっており、向こうの世界は私が居るこの世界よりもずっと酷い状況である事が容易に想像出来た。
あの切実な声の訴えは、本物であった。
そこで、わたしは送り出した触覚を通じて、向こうの世界を調べ上げた。
わたしで染めても、大丈夫なのか?
それを確認する為に。
その結果、一応天使や悪魔と言った神霊と呼ばれる存在は居るらしいけど、わたしで染めてもこの世界その物にに影響は出ない事が確認出来た。
だからわたしは、その世界を染め上げた。
わたしの祈りで、愛で、ただ優しく、抱きしめた。
その後、この新たな世界群においても、新しい触覚が生まれた。
その触角を通じて、この世界の事を学び、統治する為の糧とした。
そうしている内に、わたしをこの世界に呼び出した子、パンテーラが新しいお願い事を持ち込んで来た。
曰く、ここからさらに離れた別の世界で助けを求めている人が居るので、それを手伝いたいとの事。
具体的には、彼らが向こうの世界へ行くと、色々と不具合が起こって、大変なことになるらしい。
その原因が、異なる世界法則の衝突、つまり、カリオストロの言ってた「せめぎ合い」が発生していると予測されている。
だからわたしがこの世界を抱きしめる事で、その懸け橋となって欲しいのだと言う。
私はこの提案に賛成した。
何故ならば、
それに、この新たな世界については薄々ではあるけれど、教えられる前からもほんの少しだけ、感じる事が出来ていた。
その世界の名前は「エクサピーコ」。
それは様々な波動で構成され、意思を持った世界。
この世界はそんな彼、或いは彼女の「愛」によって構成されており、今もこの瞬間、新たな宇宙が構成され続けている。
わたしはパンテーラから教えられた座標を元に、その世界へと向かい、エクサピーコと対面する事となった。
対面して事情を話してみれば、彼、或いは彼女は驚くほどに話の分かる、そして愛に溢れた世界であった。
そのお陰であっという間に意気投合をし、エクサピーコはわたしの「覇道神共存」を受け入れ、無事懸け橋となることが出来た。
そうしてしばらくして、一つの魂がエクサピーコから流れてきた。
その魂は、色々と研鑽を重ねていたけれど、所々擦り切れていたような魂だった。
この魂も優しく抱きしめ、来世へと導いたけど、この魂はエクサピーコには戻らず、わたしの中で生きる事を選んだようだった。
逆に、この事が切欠になったのか、わたしの中からエクサピーコへと向かう魂も当然出てきた。
わたしはこの事を、魂の交流が更に活発になったと見なし、心から歓迎した。
そして、しばらくしてエクサピーコからわたしの中に戻って来た魂の輝きが、一段と輝いていた事から、この事実は正解であったと確信できた。
そうしてまた暫くの時間が過ぎていった。
その間、日に日に輝きを増していく魂についてお話したり、触覚を通じてパンテーラ達とお話をしたり、楽しい日々を過ごし、見守り、抱きしめていた。
そんなある日。
正確には初めてパンテーラと接触してから、大体百年近く経ったか経って無いか位の時、見た事も無い程に傷ついた魂が、私の元へと流れてきた。
その傷付き具合は余りにも酷く、記憶の欠損も随分と酷い物であった。
だからこそ、まだ残っている記憶の部分に残された強い想いが、わたしには印象に残った。
『誰かを傷つけたくない』
『――――君の足手纏いになりたくない』
『健康な体で居たい』
『自由になりたい』
『もう謡いたくない』
これらの願いの強さは、わたしが「座」に至る前の出来事で対峙していた人達、或いは大切な仲間だった人達の事を思い起こす程の物であった。
そんな魂であったので、気になってわたしは来世に送り出した後、その先を天眼で様子を見させてもらった。
その先は、エクサピーコの中の、何やらのんびりとした人達が多く居る場所だった。
いや、よく見たらここは、身に覚えのある場所で……確かパンテーラが言うには、ソレイルって宇宙船だったはず。
この時期は、過去であるらしく、あのソレイルを覆うような大地が形成されていないみたい。
……ここなら、あの沢山傷ついた魂も、大丈夫。
まだ生きて行く環境としては辛いのかもしれないけど、近い将来、パンテーラ達が助けに行くのだから。
わたしはこの世界と、そしてエクサピーコを見守りながら、そう思うのであった。
身体を幽霊に
エクトプラズマン。
それは肉体を霊的なエネルギーであるエクトプラズマ化するRNA。
この効果は、あらゆる物理攻撃がすり抜けて効かなくなる。
更に、アメーヴァRNAとは違い、痛みが大分軽減されている為使い勝手は良好。
一応、この状態でも死んでいる訳では無い。
そんな戦闘面では使い勝手の良いRNAなのだが、思わぬ落とし穴があった。
それは……。
「あぁ……、何だろう。今俺、凄く安らかな気持ちで一杯なんだ。まるで、天に召されるような……」
「デルタ! そっち逝っちゃダメ! わたしを置いて逝かないで!!」
「あらまあ……」
「信じられない気持ちだけど、やはりと言うべきか、予想された結果となったね、GV」
「確かにそうだけど、オウカの霊感が、まさかこんな風に作用するなんて……」
今日、たまたまオウカを連れてクオンターヴの街を案内していた。
ジェットエンジンの区画だった箇所が長年の歳月を経て人が住み、街となった場所だ。
オウカは嬉しそうにこの街に居たシャールとも交流を深めたりして、楽しい一時を過ごしてくれていた。
そして、その途中でノエリア・ラボラトリーズへと足を運び、そこにはデルタ達が何やら話し込んでいた。
その内容は、サーリが作った新型のRNA、エクトプラズマンの事であった。
そして、この時デルタ達はオウカとは初対面であった為、挨拶を交わし、握手をしたのだが、ここで問題が発生した。
何やら、デルタの様子がおかしいのだ。
それはオウカと握手してから直の事だ。
初めはデルタの周りに居るようなタイプでは無かったオウカにちょっと戸惑っていたのかと思っていた。
それが、何でもデルタ曰く、オウカに触れた途端「すっげぇフワフワした感覚がした」そうだった。
この時、デルタはこのエクトプラズマンを装備しており、実質幽霊の状態であった。
それが気になったのか、サーリがオウカに色々と事情を聞く事となり、ある実験をする事となった。
それは、所謂除霊めいた物。
とは言え、本格的なものでは無く、簡易的なものであったのだが……。
それを試してみた結果が、先のやり取りであったのだ。
……関係の無い話ではあるのだが、僕はアキュラから貰い受けた退魔リボルバー「ボーダー」を所有している。
この事を話せばきっと、サーリは嬉々として実験をしようとするだろう。
が、先のやり取りを見て、何となく嫌な予感がしたので僕はこの話を胸の奥へと仕舞った。
話を戻そう。
「ふぅ……、危ねぇ所だったぜ。危うく、本当に成仏しちまう所だった」
「本当よ! 全く、油断してるとすぐこれなんだから!!」
「すみません……、まさかここまで効果があるとは思わなくって……」
「気にしなくていいよ、オウカ。まさか僕も、こんな事になるなんて思わなかったからさ。それに、エクトプラズマトンの意外な弱点をこうして見つける事が出来たんだ。これが実戦だったら、デルタは完全に天に召されていたよ」
『……除霊が実戦に導入される事ってあるのかな?』
『って言うか、アタシ達は何ともないのに、どうしてデルタ達には効果があるのかしら?』
「……僕もそういったオカルトについては良く分からないから何とも言えないよ」
その後、デルタ達と皆でこの街をねり歩く事となり、オウカは新しく友達を増やす事に成功していた。
まあ、オウカの性格を考えれば、この結果は当然と言えるのだけれど。
デルタも彼女みたいなタイプの人が周りに居なかったせいか、少し戸惑っていたみたいだ。
ただ、キャスとサーリがオウカのある一部分、つまり胸を凝視していた時があったのが少し気がかりではあったんだけど……。
(デルタの奴……チラチラとオウカの胸ばっか見ちゃって! 後で覚えてなさいよ!!)
(大きい……それでいて、カノンと同じように体のバランスも取れている……。僕らが作った
僕はデルタを横目でこっそりと見た。
……これは、後でキャスが怒るだろう。
とは言え、これは男の生理現象みたいなものだ。
だけど、そんな事程度、制御出来ないのが悪い。
不可抗力もあるだろうけど、結局はデルタが撒いた種なので心の中で、ご愁傷様と唱える程度に済ませ、オウカを改めて見た。
その視線の先のオウカは、キャス達ににゅろきーの事を質問しており、その事で二人がにゅろきーファンとしての火が付いたようだ。
この事が切欠で話題はにゅろきーに染まっていき、オウカはそれを嬉しそうに聞いていたのであった。
ロロブーム
「ようこそ、天領みやげ「ちゅちゅ屋」へ。私はカノイール・ククルル・プリシェール。カノンと呼んで貰えると、助かります。貴方方の事はイオナサルや、キャスティ達から聞いております。歓迎しますよ。アキュラ、ロロ」
「ああ、よろしく頼む、カノン」
『よろしくね! カノン!!』
俺はこの日、ある用事でこの店を尋ねに来ていた。
その用事とは、簡単に言えば、ロロにまつわる何かの作成だ。
何でも最近、シャール達の間でロロの事がブームになっているのだと言う。
切欠は、以前に行ったロロの小さなライブ。
アレが切欠で、今では街行くシャール達がロロの歌を口ずさんでいる。
こう言った現象は俺達の世界では
一気に世界が平和になった後で、こう言った明るい話題が出来たという事も有るのだろう。
気が付けば、あっという間であった。
「そういう訳ですので、先ずはこのレシピをどうぞ」
『えっと、何々……「希望の歌姫」って、なんか照れちゃうなぁ……。僕、ここまで大それた事、やったつもりはないんだけどさぁ』
「いいえ、ロロは実にいいタイミングであのようなイベントを起こしてくれたのです。お陰で、シャール達も今まで以上に活気づいているのですよ。彼らは楽しい事が大好きなのですから」
「……そう言う物なのか?」
そう言った会話をしていた時、イオンがここに尋ねてきた。
彼女は俺と同じように、今回の調合における協力者だ。
彼女の技術力も、この世界で十分に通用する程に高い。
今回の調合でも、十分に力となってくれるだろう。
「では早速始めましょう。先ずはこの「クラスチェンジパック」に、ロロの衣装を盛り込みます」
「えっと……、人型の姿をしたロロちゃんの衣装になるようにすればいいんだよね?」
「ええ、それもありますが……それ以外にも、ジェノムの方々から、球状の姿にもなれるようにと、お願いをされているのです」
『えぇ~~!! 僕の衣装の事は兎も角、どうして僕のこの姿になれるようにだなんて……』
「そういう物なのですよ、彼らは」
「多分だけど、ロロちゃんが良く小さなビットを操ってる姿も見てたからじゃないかな? あの姿を見て、ヴィオまで真似したくなったって言ってたから」
『そっかぁ。だったら、僕もしっかり協力させてもらうからね!』
そうして作り出された新たなカソード「クラスチェンジパックver.RORO」が完成した。
見た目はロロの姿に接続端子のコードが伸びていると言う、この世界において、極めて真っ当な外見をしたカソードだ。
そう、極めて真っ当なカソードの筈だ。
何故ならば、中にはクリームソーダを材料にしたり、クリームコロッケの形をしたカソードが存在しているのだから。
……話を戻そう。
これはシャール、及びジェノム用のカソードであり、これを装備すると、シャールの場合はロロの衣装の姿となり、ジェノムの場合はロロの姿に加え、殺傷能力の無い小さなビットを簡単な操作によって楽しむ事が出来るようになっている。
つまり、衣装チェンジ機能と玩具の機能を一つにしたカソードだ。
だが、それだけでは収まらず、そう言った機能を加えた結果、元々考慮されていなかったはずの武器を強化する性能がこちらの想定をはるかに上回った。
これは恐らく、完成度が高かったからその様な現象が起こったのだと思う。
他にもロロクッションであったり、何故かP-モードのロロのフィギュアが作られたりと色々な物が物が調合され、これらは販売される事となった。
その結果、シャール達の間で空前絶後のロロブームが巻き起こった。
その火付け役となったのは、ロロのシャールにおいて最初の友達となった「ライズ」と呼ばれる存在であった。
見た目は女性型のシャールで、行動や言動その物は一般的なシャールとあまり変化は無いのだが、その見た目と、俺とロロに対して気になる目線を向ける時があるお陰で、少し気になっているシャールだ。
その肝心の見た目なのだが、明らかにミチルと酷似している。
とは言え、ミチル本人と引き合わせても特に反応が無く、普通に仲良くしてくれるので、傍から見れば姉妹を思わせる様で、微笑ましい。
だが、先にも話した通り、時折俺とロロに対して気になる目線を向ける時がある。
まるで、何かを訴えかけるかのような、そんな目線なのであるが……。
しかも、その時の目線を向けてる時の記憶が無いと、本人は訴えているのだ。
これについてカノンに相談してみたのだが、一度そのシャールの精神世界へと潜って見たらどうかと言う提案を受ける事となった。
まあ、この話はライズともっと気を許せる関係になるまで関係の無い事だ。
話を戻そう。
シャラノイアの至る所で飛び交うシャール達は皆、ロロの衣装を身に纏い、ジェノム達もロロの姿と言う、俺としてはなんともコメントに困る光景が広がっていた。
まあ、ロロの姿で変に暴れまわるという事が、この種族間の間ではありえないと言うのが、不幸中の幸いだが。
話は変わるが、このクラスチェンジパック、ロロ本人が装備すると、P-ドールが実体化すると言う、なんとも珍妙な現象が発生した。
しかも本人は食事をとる事すら可能となっており、ロロ本人だけでは無く、ミチルもノワも喜んでいたので、それは別に問題は無いのだが……。
まあ、今回はこの理不尽な世界に感謝するとしよう。
そう思いながら、この何とも言えない光景を生暖かく見守るのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。