【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第三十一話

「……山に行くぞ、ロロ」

『いいの? ライズちゃんもノワも、あそこには行くなって言ってるのに』

「ああ。そもそも、本当に行って欲しくないなら俺達に対して情報操作をしたり、追い出しに掛かったり、もっとやり様があるはずだ。なのに、それを実行していない。そして、この世界はライズの世界だ。そんな情報を態々俺達に与えた理由は、ライズもまた、本当の事を知りたいのだろう」

 

 情報を整理し終えた俺は、この推測を信じ、山へと向かった。

 その山には予想通り、皇神兵の形をした黒い塊が居た。

 それだけでは無く、俺達の世界に存在する警備用メカの形をした黒い塊や、()()()()()()()()()()()()()黒い塊もまた存在しており、俺達はこれらを撃破しながら山頂を目指した。

 そうして山頂へとたどり着く寸前、そこで待っていたのは、やはりと言うべきか、ノワと、そしてライズの姿があった。

 

「……警告はしたはずですよ、アキュラ様」

「ならば、態々この山の事等話さなければいい筈だ。そう思わないか? ライズ。……分かっている筈だ、お前は真実を知りたがっているだろう?」

「……ッ! ふふ……やっぱり、アキュラ君には誤魔化せないよね。そう、私はこの世界の真実が知りたい。でも、その先に眠る黒い塊(記憶)の事も、その真実も怖い。でもね……それよりも、もっと怖い事があるの」

「……何?」

「それはね、アキュラ君とロロがその事を切欠に、私の世界から……ううん、私の元から居なくなる事が、怖いの。記憶の内容に、真実に幻滅されてしまうかもしれないって……」

『ライズちゃん……。そんな事で、僕達はライズちゃんを幻滅何てしないよ!!』

「あまり俺達を見くびってくれるな、ライズ。そんな事で俺達は止まるつもりは無い。……その怖いと思う気持ちは、今までの付き合いや禊ぎを通じて、少しは分かるつもりだ。だからこそ、俺達を頼って欲しい」

『そうだよ! 困ったらお互い様さ、遠慮なく頼ってもいいんだよ、ライズちゃん』

「……ありがとう、アキュラ君、ロロ。私、そう言ってくれるって信じてた。だから私、頑張るよ。二人が居てくれれば、きっと大丈夫なはずだから」

 

 こうして俺達は無事、ライズと意見を合わせる事が出来、山頂へとたどり着く……筈だった。

 

「その様な事、私がさせません。サセマセン。サセママママママママママ……」

 

 ノワが阻止の言葉を放つと同時に、言動が崩れ、身体が崩れ、その崩れた塊が肥大化していく。

 そうして、肥大化を終え、形が徐々に整えられ……その姿を現した。

 それは俺達の世界の無人戦車に近く、それよりも大型だ。

 だが、他の無人戦車とは決定的に違う特徴がある。

 それは――

 

『な……何これ!! ()()()()()()!()?()

「ノワ……!?」

「……どういう理由でその姿なのかは敢えて問わん。だが、正体は把握出来た。お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう?」

『……ソノトオリデス、アキュラサマ。ナラバ、ヤルコトハヒトツ……コノサキヲシリタケレバ、ワタシヲタオシテカラニシテモライマショウカ』

「来る……! ライズは下がっていろ!!」

 

 ――そう、その特徴は顔に当たる部分がロロであった事だ。

 要は戦車の形をした大きなロロ、仮に名前を付けるならば、「ロロ戦車」と言った所か。

 こうして俺達は、このロロ戦車との戦闘に入った。

 その直後、ロロ戦車の顔に当たる部分から、巨大な円月輪が射出される。

 それと同時に、身に覚えのある光の球も射出され、俺達に迫る。

 この二つの攻撃の内、光の球が着弾したと同時に、爆発を起こした。

 その規模は小さなものであったが、あれは正しく俺達が扱っているEXウェポン「ルミナリーマイン」であり、同時に放たれていた大きな円月輪も同じくEXウェポン「オービタルエッジ」であった。

 

「その姿をしていた以上予想はしていたが、まさかEXウェポンで攻撃を仕掛けてくるとはな!!」

『「オービタルエッジ」、「ルミナリーマイン」』

『こっちだって、甘く見ないでよね! 「オービタルエッジ」! 「ルミナリーマイン」! それに、機械である以上、こいつが効く筈、「ハイドロザッパー」! 「ワイドサーキット」!』

 

 ロロ戦車は俺達の予想通り、EXウェポンが攻撃手段だった。

 そうしてしばらく戦闘を進めている内に「キスオブディーヴァ」「ドラフトスパイラル」「クロスランサー」と、多種多様な攻撃方法で俺達を襲う。

 だが、それ以外のEXウェポン……先ほど放った「ハイドロザッパー」「ワイドサーキット」に加え、「テイルバンカー」「アバランチソード」等の攻撃が放たれる事は無かった。

 そのお陰で、手数と言う意味では俺達は圧倒していたのだが、問題はそれからであった。

 順調に攻撃を加え、ロロ戦車にダメージが蓄積していく。

 徐々に車体から火花も散り始め、追いつめつつあった。

 が、しかし――

 

『ウゥゥ……「ダークネストリガー」』

『何これ!! 突然、動きが……!?』

「俺の知らないEXウェポンだと!?」

 

 ――未知のEXウェポン「ダークネストリガー」の発動と同時に、ロロ戦車の顔に亀裂が走り、その顔が崩れた。

 その内部は悍ましき機械的なホラーを体現した姿であった。

 顔の部分の額に合った色は黒く染まり、そこから無数の黒いエネルギー弾がばら撒かれる。

 そして、その動きも攻撃も激しさを増し……

 

『「アンカーネクサス」』

「何ッ!?」

「『アキュラ君!?』」

 

 これは「編糸細工(クラフトウール)」の第七波動(セブンス)による糸状のエネルギーか……!

 ロロ戦車はこの攻撃を「アンカーネクサス」と呼んでいた。

 この名前は、奇しくも俺の持つEXウェポンである「アンカーネクサス」と名前が同じであった。

 俺が使う場合、発動時に赤い糸で繋がった相手に対して、ドリルに編み込まれた糸状のエネルギーを纏いながら、ブリッツダッシュを誘導しつつ体当たりによるダメージと同時にロックオンする効果を持つ。

 だが、このロロ戦車が放った「アンカーネクサス」は、それとはまったく異なる。

 そもそも、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()のだ。

 これによりカゲロウを無視し、俺は全身を糸状のエネルギーによって拘束され、絶体絶命のピンチに陥った。

 それでも俺は振りほどこうと足掻くが、俺の周囲には糸で編まれたドリルが一つ、また一つと増え、それらに貫かれるのは時間の問題であった。

 そんな時であった。

 歌。

 歌が聞こえた。

 その歌声の元を辿って見れば……そこには、P-ドール形態のロロ、そしてライズの歌声が響いていた。

 そう、これは正しく二人による詩魔法だ。

 それを認識したと同時に、糸で編まれたドリルは俺に殺到した。

 だが、それと同時に俺を中心に魔法陣が展開し、爆発を起こし、俺を無視したその衝撃で周囲にあった糸のドリルが吹き飛ばされた。

 これは詩魔法詠唱中による、サポート攻撃と呼ばれる物だ。

 それだけでは無く、詩魔法詠唱中の二人から、凄まじい程の追撃の光がロロ戦車を貫く。

 そして……。

 

『「これで終わり!! いっけぇぇーーー!!」』

『!!!!???!!!?!!』

 

 放たれた()()の光輝く一撃が、ロロ戦車を貫き、完全消滅させた。

 これで、ライズの「知りたくないという想いが具現化した存在」であるロロ戦車は姿を消した。

 これが正しければ、ライズはもう、迷う事は無い筈。

 いや、それよりも、言わなければならない事がある。

 

「済まない、二人とも助かった。……ライズ、ロロの補助があったとはいえ、初めて詩魔法を使えたな」

「あ……私はただ、アキュラ君が危ないって思って、それで、何も出来ない自分なんて嫌だって思ってて……気が付いたら謳ってた。今まで、謳おうとしてもずっと無理だったのに……」

『きっと、ライズちゃんがアキュラ君を護りたいって思ったから、謳えるようになったんだよ!』

「……ありがとう、私はこれで、勇気が持てる。詩を謳える。でも……それでも、まだ怖いって思う気持ちはあるの。でも、アキュラ君も、ロロも居る。他にも私を支えてくれる、大勢の人達が居る。だから、私は真実を、自分の記憶を知りたいって思う。私、強くなりたいから……アキュラ君の足手纏いに何てなりたくないから」

 

 そうして俺達は山頂へとたどり着き……ヒュムノフォートから、光の柱「エンブレイス・ロール」が出現した。

 あの光の柱はここにある山頂からも見えていた。

 あの光こそ、この世界の問題が解決した証。

 そして、ライズの心が成長した証でもあり、俺達との絆がより強固となった証でもあるのだ。

 そして、真実を知る扉と言うのも、アレの事なのであろう。

 

「あの光がこの世界を完了した証か」

『やったねライズちゃん!』

「うん! 私、成長出来たみたい!!」

 

 俺達はその事を心から喜び、ヒュムノフォートへと向かった。

 だが、一つ疑問があった。

 こうしてエンブレイス・ロールが出現したのはいい。

 だが、どうやって承認の儀と呼ばれる物をするのか、分からなかった。

 その事を疑問に思いながら、俺達は再びフュムノフォートへとたどり着いた。

 そんな時だった。

 なんと、あの時戦ったロロ戦車が空から舞い降り、この場に姿を現したのだ。

 

「お前は……!」

『アキュラサマ、ワタシハモウ、タタカウイシハゴザイマセン』

『え、そうなの?』

「彼女はそう、私の「知りたくないという想いが具現化した存在」であり、この世界の主。「残滓に蝕まれる楽土」における、残滓その物なの。……私はこの残滓を受け入れていた。だって、私が危ない目に合っていても、皆は助けてくれていたから、私はそれに甘えていたの」

「なるほどな、通りでこの世界の住人が黒い塊に対して楽観視する訳だ」

『つまり、この世界の住人の楽観視は、ライズちゃんの心の甘えが形となった物って訳なんだね』

「ソウイウコトデス。トモアレ、コレデライズサマハ、アラタナウタマホウトシテ、ワタシヲコウシスルコトガデキルヨウニナリマス」

「……何? そうなのか?」

『ハイ、ウタマホウハカンリョウノギシキガオワッタアトニ、エラレルモノナノデスヨ、アキュラサマ。……デハ、ハジメマショウ。アキュラサマ、ライズサマ、テヲツナギ、アノドアヲイッショニ、アケテクダサイ。ソレデ、ショウニンノギハオワリ、コノセカイハカンリョウサレマス』

「分かった。ライズ、準備はいいな?」

「うん。……アキュラ君の手、(あった)かいなぁ」

『あ、そうだノワ……じゃないや、えっと……何て呼べばいいの?』

『ソウデスネ、ワタシノコトハ「ジャイアントロロ」トオヨビクダサイ』

『えぇ~……そんな安直な……。じゃ、じゃあ、ジャイアントロロ、僕もアキュラ君と手を繋いでも大丈夫? 出来れば、僕も一緒にこの扉を開けたいんだ』

『エエ、モチロン。ライズサマガヨロシケレバノハナシデスガ』

「私は大歓迎だよ、ロロ」

『やったぁ! じゃあ、手を繋ごう、ライズちゃん』

「うん!」

 

 ライズは俺、そしてロロと手を繋ぎ、三人で世界の入り口であり、出口でもあった扉の先へと進んだ。

 そして俺達は、見事にこの世界、「残滓に蝕まれる楽土」を完了させることが出来た。

 それと同時に――

 

 

――ライズのジェノメトリクス「残滓に蝕まれる楽土」を完了しました。詩魔法【ジャイアントロロ】をインストールしています。

 

 

 そして、俺達は現実世界へと戻り、ライズの様子を見たのだが……。

 負担が強かったのか、どこかフラフラとした様子で、彼女は出てきた。

 だが、何処かすっきりとした表情を俺に向け、明らかにダイブ前とは別物で俺達は無事ダイブが成功した事が確信。

 その後、そのまま俺達は禊ぎを行った。

 純水に溶け出した俺達の想いが、俺とライズの中で循環し、浸透する。

 何と言えばいいのか、ライズの精神世界が完了した影響が明らかに出ており、想いの純度と呼べばいいのだろうか? それが増しており、その心地よい想いが俺の中を駆け巡る。

 そして、ライズの方はと言うと……ダイブする前に行った禊ぎと比べて、明らかに表情が違った。

 力が抜け、かなり自然体に近づいており、何処か緊張していた物が解きほぐされている。

 その後、禊ぎが終わった後、ライズは疲れてしまったのか、そのまま眠ってしまった。

 

(……ライズ、お前にどんな秘密があるのか、まだ確証は取れない。だが、それが予想通りであれ、予想外であれ、俺達はお前の力になる。……次の世界からが本番だろう。だから、今はゆっくりと休むといい)

 

 そう思いながらライズを抱き寄せ、俺は物思いに更け揉むのであった。

 ……その様子を羨ましそうにロロとミチルに見られて、後で同じ事をねだられる事も知らずに。

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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