【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
しばらくの間、僕を含めた皆が、綺麗な海を見続けていたその行為を名残惜しそうに止め、力の示し合いに戻った。
但し、さっきまで戦っていたニムロドは未だ戻ってこなかった。
あの時、「部下たちの土産話が欲しい」とか言ってはいたけれど、あれは間違いなく自分が泳いでみたいと思ったのが主な理由だと僕は思う。
今頃、彼はあの海の中ではしゃいでいる事だろう。
それにもう彼との力の示し合いも終わったので、このままでも問題は無い筈。
そう言う趣旨を僕はパンテーラに伝え、その次の相手、アスロックと相対する事となった。
彼の第一印象は、何処か嘗てのアキュラを…憎悪に捕らわれた彼を思い起させる物だった。
彼の情報について、アリスから事前に聞けたのはその能力……パペットワイヤーの詳細と、嘗て
その能力は、糸状のエネルギーを使い、機械の強化と操作を行う
あの憎悪に満ちた目は…アリスがその詳細を話すのを辞める程の理由があるのだろう。
それに「
恐らくだけど、彼があんな目をするようになったのは……
「では始めようか、ガンヴォルト…お前の腕前、先の二人の戦いで見せてもらったが、実に見事な
故に貴様を焼き上げる…
「生憎だが、簡単に僕を焼き上げる事が出来ると思わない事だ。それにこの力の示し合いは、あくまで話し合いをする為の物。エデンの目的の障害になるとは限らないぞ、アスロック」
『貴方のその目は憎悪に染まっている……私には貴方の本当の目的は、別の所にある様に思えるの』
『貴方には、アタシ達とは違った狂気を感じるわ。アタシ達もGVに対しての愛に狂っているから、そういう感情が分かるのよ。貴方の憎悪に満ちた……復讐と言う名の狂気をね』
「…俺の過去について、裏切り者のアリスから話でも聞いたのか?」
(謡精共、それにガンヴォルト……俺の
「…アリスは君の過去の経緯を語りはしなかった。だから、僕達には想像もつかない程の想いをしたと言う予測しか出来ない。そして、その想いを完全に消し去るだなんて傲慢も言うつもりも無い。僕が出来るのは、その衝動を受け止める事だけだ!」
シアン達が僕の中に戻ったと同時にアスロックは宝剣を取り出し、その姿を変化させた。
その姿は、彼が目指していたであろう菓子職人の姿を思わせるような外見だった。
そして彼は穴が開いていたその指先から能力由来であろう糸のような物を展開し、
菓子の家を思わせるかのようなロボットを操り、僕の前に立ち塞がった。
「……その言葉も今の時点では
そうしてアスロックとの戦いが始まった。
そのコンビネーションは正しく一心同体と言える程の物で、その巧みな攻撃は僕の予想を超える程の物だった。
彼にダートを狙い撃とうとしてもガレトクローネが盾となり、仮に撃破することが出来ても彼の能力で即座に復帰する。
その攻撃手段も、カゲロウの使えない今の僕にとって厄介な物であった。
ガレトクローネの両指から放たれる広範囲をカバーする機銃掃射に、地面を熱エネルギーを込めつつたたき割り、その熱が込められた破片による攻撃、そして半端に攻撃をして放置したガレトクローネから放たれる、戦場のほぼ全域をカバーする熱線と合わせ、「波動防壁」では相性が悪い。
正直、
しかし余程の事が無い限り、邯鄲の夢に頼るのだけは避けたい。
……今の処は対処出来ているが、更に手数を増やされたら、此方の手数が足りずに押し切られるかもしれない。
もしシアン達の歌があれば、これ以上手数が増えても余裕を持って、波動防壁のごり押しが通るのだが、この歌には頼ることは出来ない。
何か手数を増やす手段があれば……アキュラや今僕と戦っている彼のように、
(ガンヴォルトめ…思った以上にいい動きをする。だがあの様子では、更にこちらの手数を増やせば押し切れると見た。……飛天にはテセオが能力でコピーしていたあの皇神の新型や飛行兵器があったはず。それを使わせて貰い奴を磨り潰し、焼き上げる!)
(アスロック…飛天の方を見て何を考えて……っ! そうか! 恐らくだが、あの中にエデンの持ち込んだ兵器がある。それらを持ち出す気か!)
それは反則だ等とは言えない。
何しろそれを持ち出したのだとしても、その兵器は彼の能力によって制御されている物。
それ相応の能力による制御技術や負荷も当然あるだろうからだ。
……やはり手数を増やす為の方法を構築する必要がある。
蒼き雷霆によるハッキングを使う手もあるかもしれないが……彼の能力を打ち破りつつそれを成すのは多大なる隙を相手に与えるという事であり、そのリスクは高いと言わざるを得ない。
そう、あの時のアキュラとの戦いの様にはいかず、そしてあの場所から回収した、今持っているアキュラの銃にあった簒奪の弾丸も既に撃ち尽くされている。
何か、何かないか? 僕が見た事のあるロボットのイメージが。
それさえあれば、奴が持ち出す兵器の一部をSPスキルで破壊して、それを材料に「波動の力」で再構築出来ると言うのに!
そう僕が思いつつも応戦をし続けていたら、遂にアスロックが行動を起こした。
「まだ焼き上がらないか、ガンヴォルト…ならば更に火力を上げ、手数を増やす。テセオ、お前の用意した機械群の内の二機を使わせてもらう。別に問題は無いだろう? お前の能力で既に何機も用意出来ているのだから」
「構わないっすよアスロック、やっちまえーつって~ww」
(やはり来たが、幸い僕の想定以下の数だ……だけどもう時間が無い、今すぐにイメージを構築しなくては……!)
この時の僕は正直焦っており、実際に時間も無かった。
もう最初に思い浮かんだイメージを元に構築するしかない。
……そのイメージを僕はギリギリの所で構築することが出来た。
だけど、このイメージが最初に思い浮かぶとは……確かに操作もした事があるし、動きのイメージも出来る。
僕の中の「彼」のイメージは心優しい人格を持っている。
そんな彼の
あの二つの作品は、実によく出来たゲームだと転生前の当時の僕は思っていた。
ただ、僕がこの二つの作品をゲームだの作品等と言う度に、シアン達の怒っている想いが伝わって来たのが当時の僕には不思議であったが……
アスロックとの戦いが終わった後に、この事を尋ねてみよう。
僕は実際に転生と言う物を体験し、異世界と言う物が明確に存在している事を知っている。
もしかしたら…あの画面の先の出来事は、ここでは無い何処かで実際に起こっており、シアン達はそれを察知していたのかもしれない。
そう思っていたら、アスロックが飛天から出て来た飛行兵器「フェイザント」と見慣れぬもう一機……いや、あれのデータは身に覚えがある。
確かあの兵器は、試作第十世代戦車「プラズマレギオン」と呼ばれていた物だったはず。
あれは既に完成はしていたが、量産する時間が無かった為、
それを量産済みだと……あの会話の様子では、どうやら何らかの手段で鹵獲され、テセオの能力によって量産されたのだろう。
やはりアリス達の言う通り、テセオの能力は厄介極まりない。
このプラズマレギオンのデータは既にあるが、パペットワイヤーによる強化も加わるのは厄介だ。
「さて、こちらの手数は揃った……流石にこれ以上はさばき切れまい、ガンヴォルト! 今度こそ貴様を磨り潰し、増した火力で焼き上げて見せよう」
……あわよくばアスロックを直接仕留めるのも手だったが、あの三機の守りが手厚い。
確実に仕留めるのならばあの三機の内、フェイザントを狙う方がいいだろう。
制空権を取られるのが一番厄介だし、空を飛ぶ分、装甲も薄いだろうから撃破もしやすい。
アンリミテッドヴォルトからのルクスカリバーで、確実に撃墜させて貰う。
そうすれば再構築する為の材料も揃う筈。
「迸れ!
僕は波動の力を用いてフェイザントへと跳躍し、その間にアンリミテッドヴォルトで僕の第七波動の潜在能力を開放、そして即座にルクスカリバーを呼び出し、
両腕でそれを持ち上げフェイザントを叩き切り、僕の思惑通りに一撃で仕留めることが出来た。
「GV…ヴォルティックチェーンを使うのを躊躇ったか。あの場面ではそれを使うのが正解だと思っていたのだが…」
「無理も無いわアシモフ、基本スペックのデータはあるけれど、実際の戦闘データの無い相手にそれをやるのはリスクがあるもの」
「あのフェイザントを確実に撃ち落として、今みたいに先ずは制空権を確保するって手も悪くないと思うぜ? ほら、実際に落下の衝撃も利用して、あのプラズマレギオンに雷の大剣で切りかかるみたいだしよ」
「ですがジーノ、あのプラズマレギオンは確か……あぁ、やはりバリアで威力を殺されましたか。あのバリアを把握していたからこそ、GVはヴォルティックチェーンを使わなかったのですね。ですが、フェイザントを撃ち落としても、このままではアスロックの能力で直ぐに復帰してしまいます」
「…あの堕としたフェイザントで何かをするつもりなのだろう、アリス。今この状況、ガンヴォルトは手数が足りない状態だ。そこでアレにあの力を利用して何かをするんじゃないのか? そうすれば手数も増えるし、相手の虚を突けるはず」
『「波動の力」って何でも有りだもんねぇ。あ、ガンヴォルトの奴、プラズマレギオンを踏み台にして撃墜したフェイザントに接近してる。アキュラ君の言う通り、アレに何かしようとしてるみたい』
それの大本は、かつてのシアン達みたいな想いによるやり取りを再現したかのような……そんなコミュニケーションによる機能を持っただけの機械だった物。
それを元に戦闘用に開発された黄金に輝くボディに、二丁拳銃を扱うだけでなく、スナイパーライフル、パイルパンカー等の多種多様な武装を兼ね備えたロボット。
僕は波動の力を乗せ、このイメージを撃墜したフェイザントへと流し込んだ。
そしてこの世界に、
(GV!? このロボットって…!)
(アーシェスだね、モルフォ…GVも、やっと理解したんだね。
(やはり、本当に存在していたのか。僕がゲームと言う度に怒っていた想いが伝わって来ていたから、もしやと思っていたけれど…どうやってその事を察知したのかは後で聞くよ、二人共。今はアスロックとの決着を着けないと)
「……っ! 俺の知らないロボットだと!? だが、そんな小さな
「隙を見せたな、アスロック!! それにこいつの力は、見た目通りの物では無い!」
ここからの決着はあっという間の出来事であった。
アーシェスはまるで何度も試行錯誤をした最適解を一度に出したかのような動きで、プラズマレギオンを何処からか転送されたスナイパーキャノンで、既に割っていたバリアの穴を的確に打ち抜き行動不能にし、ガレトクローネへと即座に張り付き、瞬く間にアスロックへの障害を取り除いた。
そして僕がアスロックへとダートを撃ちながら雷撃麟を展開しつつ接近し、ガレトクローネの横をすり抜けようとした時、僕とアーシェスの目が…いや、僕達三人とアーシェスの目が合ったように感じた。
その時、僕達三人は確かにアーシェスからその想いを感じたのだ。
「あなた達三人が来るのを待っている」と言う、「彼」の…いや、「彼女」の確かな想いが。
そうしてアスロックに対し、止めにダートで誘導した
この戦いの決着が付いた直後、アーシェスはその姿を崩し、塵へと返った。
僕の想いに応え、文字通りあの瞬間だけ力を貸してくれたのだ。
「見事だ、ガンヴォルト。どうやら俺はお前を焼き上げる所か、逆にお前によって焼き上がってしまった様だ。……何か希望はあるか? 俺は敗者だからな、ある程度の事なら要求を呑もう」
「……この力の試し合いが終わったら、君の作る菓子を僕達に振舞ってくれないか? 材料と場所はこちらで用意させてもらうし、僕もシアン達も、本場の菓子職人を目指していたアスロックの菓子には興味があるし、アリスも君の作る菓子の事に未練があるみたいだしね」
そうしてアスロックに対して手作りの菓子を振舞ってもらう約束を取り付けた。
そしてこの戦いが終わった後、アーシェスの事について皆に質問攻めにあったりしたが、僕は適当にはぐらかしつつ、この世界の厄介事を片付けたら、いつか必ず彼女に…「イオン」に会いに行く事を僕達三人は決意しつつ、次の戦いに臨むのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
この話の更新に伴い、サージュコンチェルトシリーズがクロス先に追加されます。
因みに、GV達三人で会いに行くお話はこのタイトル内でやるつもりはありません。
というか、まだ本当にやるかどうかも不明です。
8/31 追記
色々と考えた末、会いに行く話をやってみる事としました。