【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
ライズの精神世界「残滓に蝕まれる楽土」の完了後、新たに得た詩魔法の試し打ちをする為に、ここ惑星ラシェーラの人気のない場所まで俺達は来ていた。
そこは何処までも広がる様な草原で、上を向けば吸い込まれそうな青い空。
俺達の居た世界ではもう見る事も叶わないであろう光景が広がっていた。
そんな場所で、精神的な成長を果たしたライズの詩魔法による歌声が響いている。
そのライズの詩魔法に使われている言語であり、ジェノム、シャールの公用語である「契絆想界詩」による歌声が。
俺も研究や調合の過程でこの言語体系を学ぶ機会があった為、それなりに理解は出来るようになっていた。
そのお陰で、今謳っている詩魔法の内容も、ある程度は把握出来ている。
その内容は要約すると、「発進! 進め~! ジャイアントロロ~!!」と言う、なんともコミカルな内容で、これでいいのか詩魔法と最初は思った物であった。
が、後にキャスの詩魔法「ニュロキラーZ*1」や、イオンの詩魔法「ちゅんぴ*2」を見た事で、俺の常識がまた一つ壊れる事になる。
……まあ、話を戻すが、肝心の詩魔法の効果は、どうやらこれまでの詩魔法とは性質が違うらしい。
簡単に言うと、移動拠点として運用する事も出来ると言う、なんとも変わった効果を持っている。
操作方法はライズの意思によって好きに操作できるらしく、同調している俺やロロの視点や感覚を借りる事で周囲を把握し、ライズ自身がジャイアントロロに乗りながら運用すると言った感じとなっている。
とまあ、気分転換も兼ねた詩魔法の試運転も済ませ、ライズの次の世界へと潜るべく、俺達はダイブ屋へと訪れた。
そして、いざ潜ろうとした時、デルタ達から待ったが掛かった。
何故待ったが掛かったのかと言うと、ライズの次の世界で動く事が可能になる為に必要な絆の強さ……所謂「
「DLvか……一応、3ある事は確認出来てはいるが……」
「DLv3か……。経験上、そのレベルでは足りないと僕は思う」
「そうだな……その辺りだと、まだ自身の本心をさらけ出すのを無意識では恐れているって感じだな」
「…………」
「……まあ、アキュラがライズの世界で何があったかは詮索出来ねぇから断定はしねぇがよ、そのレベルでの世界ってのは「表層世界」って言って、まだ本人の意思で制御できる範疇の世界なんだ」
「そして、
「なる程な……。では、どうすればいい?」
「そうだなぁ……ライズとチェインしてる相手の精神世界にダイブする事だな」
元々、チェインしている相手の精神世界にもダイブする事は可能であり、今回の場合の様にライズとチェインする際、そういったライズ経由で自身の精神世界に入られるリスクも織り込み済みと見做されていた。
実際、ライズにチェインしたロロやミチルを始めとした様々な人達はその前提を知りながらライズとチェインしている。
そういう訳なので、チェイン先の世界に黙って潜ってもあまり問題は無い。
そこを突いて悪用する事も出来るだろうが、そこはダイブ屋の監視が入っている為、そう言った事は直ぐに見破られるのでセキュリティ面は問題無いとの事。
「要はダイバーの修行も兼ねた信頼作りみてぇなもんだ」
「異なる世界を完了させる事で、チェイン経由でダイバーへの信頼が増し、絆を深める。一見すると他人をダシにしている様で悪い気分をするかもしれないけど、完了さえしてしまえば本人にも、チェインしたライズにも明確な利点はある。そう、詩魔法だ」
「なるほど……相応の利害が存在しているという訳か」
「そういうこった。……まあ、アキュラなら悪いようにはしねぇって事を皆分かってるから、こんな事が言えるんだけどな」
そういう訳で、俺はライズのチェイン先の精神世界へと潜る事となった。
まず潜る事になった世界はデルタとの世界「仁義無き戦い」。
要約するとここではマフィアとの抗争の話がメインとなっており、この世界では俺やデルタは攫われたライズとキャスを助けると言った内容の精神世界だ。
そして、この世界でもやはりと言うべきか、「残滓に蝕まれる楽土」でも現れた皇神兵や戦闘メカ等を形どった黒い塊、それ以外にも、マフィアとおぼしき黒い塊も出現していた。
その過程で色々とあったが、最終的にマフィアの潜伏先である場所へと向かい、俺達はそこに潜むマフィア達を倒す事がトリガーとなり、この世界は完了された。
だが、その時に相対したマフィアの施設とされた場所と敵に身に覚えがあった。
あの施設は廃棄されているように見えたが、アレは間違いなく皇神のデータバンク施設であり、相対した敵は「バクト」と言う名の
(バクト……俺のEXウェポン「ドラフトスパイラル」作成の際に協力してくれた能力者の一人。今は火星開拓の実働部隊の一員として活動をしている、
この世界の彼は
その後、無事エンブレイス・ロールによる光の柱が立ち上り、この世界を完了させる事が出来た。
ちなみにだが、この世界はデルタがキャスの事を護れなかった場合の恐怖が具現化した世界であり、マフィアはその恐怖の象徴。
これを見事乗り切り、デルタは無事成長を遂げ、俺達との絆をより強固に結び付けた。
そして、この世界の主は予想通り、バクトその物であった。
だが、この世界のバクトの話を聞く限り、どうにも話が合わない感じがしたのだ。
この世界のバクトが語る自身の成り立ちと、俺の知っている彼とは違う。
少なくとも、彼は
だが、それを解決すると思われるキーワードと情報を残してくれた。
「セプティマ」、「セプティマホルダー」、「マイナーズ」、「翼戦士」、「イクス」、そして……「人類進化推進機構スメラギ」。
この中に、俺の知りうる言葉が出てきたのだ。
そう、人類進化推進機構スメラギ……俺達の世界では、第七波動の意図的な発現や譲渡、及び消去を管理する組織であり、あくまで「皇神グループ」の一つと言う扱いだったはずの物。
だが、このバクトが語ったのは、それとは全く違う、別の事であった。
それを知った時、俺の予測が大分当たっている事を確認する事が出来、それらをこの世界から出た後に、ガンヴォルト達と情報を共有する事となった。
――デルタのジェノメトリクス「仁義無き戦い」を完了しました。詩魔法【翼戦士「獅子王旋迅」】をインストールしています。
「その世界で得た情報による言葉と、俺達の世界での言葉を照らし合わせると、
「だけど、得た情報の中で僕達が知りうる物の中で大きく異なった物もあるみたいだね。人類進化推進機構スメラギ――能力者達を全世界規模で管理、コントロールし、無能力者を殺処分する組織……か」
「何て言うか、ろくでもねぇ組織だって匂いがプンプンしやがるな」
「そうよねぇ……。話を聞く限り、能力者にも優しくない感じがして、見え透いた悪意を感じるわね、デルタ」
『もう! アタシ達の世界では殺処分なんて事はしないのに! 酷い風評被害じゃない!!』
『それに、管理は兎も角、コントロールって言葉がちょっと引っ掛かるかな……』
『……その世界のミチルちゃん、大丈夫なのかな……こういった世界って可能性の数だけいっぱいあるからキリがないって言うのは分かってるんだけどさ。それでも僕、心配だよ……』
「…………」
可能性等、本来ならば考えた所でキリがない。
だが、知ってしまったらそういう訳にもいかないだろう。
……まだ言うつもりは無いが、ここまで情報が集まった以上、確定してもいいのかもしれない。
皆はまだ俺に何も聞いてこないが、ここまで情報を出されれば、嫌でもある程度は予測が付くだろう。
それに、ロロもあんな事を言ってはいるが、ロロ本人だって分かっている筈だ。
そう、ライズが
そして、その時の死が想像するのも悍ましい、悲惨な結末であった事を。
……とは言え、まだそうであると決まった訳では無い。
結局は、次のライズの世界へと潜らないと分からないのだから。
その後、ライズと禊ぎや、これまでと変わらない、コミュニケーション等のやり取りをしつつ、ライズの容態を見る事となった。
その結果、記憶が途切れる事も、夢にうなされる回数も明らかに減り、大幅な改善が見られた事から、このままダイブは続行。
そのまま次の精神世界へと潜る事となった。
その世界は、ロロがベースの世界。
その名は「
そんな名前の世界だからだろうか?
この世界では完了する際の条件がこれまでとは違う。
その条件は、端的に言うとその世界の主である「ダイナイン」と呼ばれる秘書型のヒューマノイドと呼ばれる存在と、もう一人の世界の主であり、彼の主でもある「インテルス」と呼ばれる女性の恋仲を成立させると言う、俺の知る限りではなんとも変わった内容であった。
……この二人も、バクトの時と同じ様に俺達の世界にも存在している。
ダイナインの立場は基本変わっていないが、インテルスは確か、俺の知る限りでは
その理由が分からない以上、俺が気にしてもしょうがないのは確かだが……。
ともあれ話を戻すが、ロボットと人間との恋仲の成立とは、今にして思えばなんとも無茶苦茶な条件であると俺は思っていた。
実際にこの時の俺は、そんな恋愛等と言う物が理解できなかった為、この世界ではライズ達女性陣をダイナインも含めた俺達が、大多数の黒い塊から護る事に終始する事となり、目まぐるしく変わる展開に翻弄されるばかりであったが、最終的に世界の主であるこの二人が結ばれて、この世界は完了された。
ただ、この世界を完了させた際、ロロが俺の方を見ながら嬉しそうにしていたのが、何とも印象深かった。
この世界はロロの恋愛観が元となって出来た世界だと、世界の主である二人から聞いている。
それに最近、時折ライズやミチルと仲良くしていると、ロロから何とも形容しがたい視線を感じる事があった。
まさかロロ、お前は……いや、自惚れるのは良くないだろう。
もしそんな事を口走れば、無駄にロロにからかわれる口実を作る事となる。
……しかし、AIで、ロボットであった筈のお前が俺でも理解出来ない感情を得ていたと言うのは、なんとも奇妙な感じだ。
あまりそう言った事は意識してはいなかったが……俺も、何時か理解できるようになる日は来るのだろうか?
――ロロのジェノメトリクス「
『まさか、次に出てきたのが電機メーカー「ガルガンチュア」の社長のお嬢様と……』
『その子の御世話役で、アタシ達の世界でも珍しい初めて意志と第七波動を生まれながらに持ったロボットが出てくるなんて……』
「俺も正直驚いた。二人はEXウェポン「オービタルエッジ」、「クロスランサー」を開発した際の協力者だったからな。……だが、この事が分ったお陰で、ますます俺の予測の信憑性が増してきた」
「それを、まだ言うつもりは無いんだね? アキュラ」
「ああ。俺の中では答えは出ているが、まだそれを確定させるには、ライズの心の準備も含めて早いだろう」
「アキュラ君……私……」
「ライズ、お前の中でも予測は付いているのかもしれないが、無理に言う必要は無い。……お前がそれを言う勇気を持てたら、言うようにすればいい」
そう言いながら、俺はライズの頭を撫でる。
……ライズとダイブする様になって暫く経つ。
そのお陰で、記憶が途切れる事が大幅に減り、夢にうなされる事も無くなった。
実際に再びカノンに協力してもらい、コーザルにライズの容態を見て貰ったが、元々正常であった魂はダイブと禊ぎ、及び大勢の人達とのコミュニケーション等のお陰で、より強い輝きを放つようになった。
そのお陰で、深層意識に眠る記憶に対し、十分に対抗できる意思を持つ事が出来るようになったのだ。
そして、後は禊ぎを定期的に行えば、記憶が途切れたり、夢にうなされる事も無くなるだろうとコーザルからお墨付きをもらう事ができた。
だからこそ、こう思う事がある。
もう俺はライズにダイブする必要は無いのかもしれない。
そう、無理に記憶を掘り返したりするより、その方がいいのではないか?
実際、デルタ達にその事を尋ねても、そこで止めるのもまた選択肢の一つであると、言われているのだ。
だが、それを決めるのはライズ本人の意思。
だから俺はその事を、禊ぎが終わった後のライズに尋ねた。
「……私は最初、アキュラ君の言う様に、そう言った事が無くなるだけでいいって思ってた。でも、最初に潜った時みたいに、本当の事を知りたいって想いも、まだ残ってる。ううん、潜ってから、その想いはどんどん大きくなってるの。だがら……私は、続けていきたい」
「……辛い思をする事に
「
「そうか、……ライズがそう言うなら、俺はもう止めないぞ?」
そう言ったやり取りからまた少し時間が進み、今度はミチルとの精神世界「三つ巴の歌姫達」へと潜る事となったのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
・ライズちゃんについて2
簡潔に言うと、白き鋼鉄のX世界から黄昏の女神経由で転生してきたミチルちゃん本人。
詩魔法を謳うのが嫌であったり、魂がズタズタであったりした理由は、本編をプレイしていれば、把握出来るはず。
一応、プレイしてない人も把握出来る様にこの先の話を書く際に努力したいです。
後、今回習得した詩魔法の内容は、簡潔に言えばSPスキルです。
それと、前話でジャイアントロロを倒した藍色の光を放った詩魔法の名前は「インディゴデスティニー」。
元ネタは当然、ぎゃるガンヴォルトバーストでもシアンの攻撃手段として使われており、ガンヴォルト爪に収録されている歌である藍の運命。
キャスやイオンで例えるならば、最初から習得している詩魔法である「クァンタムノヴァ」や「ひかりのこころ」に該当する物です。