【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第三十三話

 ミチルの精神世界「三つ巴の歌姫(アイドル)達」。

 そこは、何やら大きな会場と呼べる場所が中心となった街で、正しく平和その物を象徴する街。

 おおよそ戦いなどとは無縁そうな世界である通り、この世界もまた、単純な事では済まなかった。

 まず、これまで出現していたあの黒い塊が姿を現さない。

 つまり、コーザルの言う様にライズの魂の輝きが増した事で、精神的な強さを得た事が理由なのだろう。

 そしてこの世界で完了する為の条件が、また変わった物であった。

 要約すると、この街で行われる「新人アイドルコンテスト」なる物で、ミチルを勝たせる事が条件と言う、ある意味俺にとっては鬼門とも言える条件だ。

 そして、この世界で厄介なのはそれだけでは無い。

 なんとP-ドール形態のロロがライバル役の一人としてこの世界で参戦しており、しかも演出に使うからとP-ビットまで没収される始末。

 お陰で俺はこの世界では、EXウェポン及びフラッシュフィールド、そしてエクスギア等の主力兵装が使用不能となってしまった。

 まあ、この世界では関係無いのかもしれないが……。

 幸い、この世界のシアンとモルフォは殿堂入りと言う形で、ライズ達と一緒に審査員を務めている。

 流石にこの二人が参戦していたら、俺達はどうしようもなかったであろう。

 何しろ俺達の世界では、現役の大人気のバーチャルアイドル「電子の謡精(サイバーディーヴァ)」なのだから。

 そしてもう一人、ライバル役が存在していた。

 それは、「イソラ」と呼ばれる存在だ。

 

(この娘は確か……アイドル活動の支援を条件にEXウェポン「キスオブディーヴァ」の開発に協力してもらった「分身(コンパニオン)」の第七波動(セブンス)能力者だったはず。彼女もまた、ライズの居た世界の関係者の一人なのだろうか?)

 

 彼女は自身の能力である分身を、ライブでのパフォーマンスに利用しており、それもあってか、ジャンルは違うが同じ様に自身の能力をパフォーマンスとして利用しているガウリとのコラボが実現し、それが切欠でそれなりの人気を得ている。

 ただ、ほぼ同時期にロロがモルフォ達のライブに飛び入り参戦し、その際の動画のアクセス数で大敗を喫してしまっていた為、ロロの事をライバル視しているらしい。

 俺の意見では「電子の謡精」人気に偶然乗りかかっただけだと思うのだが、向こうはそうだと思っていない様だ。

 まあ、その答えは近日開かれる予定のロロ単独のライブで結果が分かると思う。

 が、今は関係の無い話だ。

 それよりも問題なのは、俺にアイドルのプロデュース等のノウハウが全く無い事だ。

 ロロは飛び入りライブ以来、そう言った動画等のデータ収集を密かに行い、それを元に自身の超AIによる演算能力でシミュレートしていたり、ノワからもそう言った協力を取り付けている。

 イソラに関しては未知数ではあるが、この世界観を考えるに、そういったノウハウがあっても不思議では無い。

 それらに対してミチルも一度はロロと同様に「電子の謡精」のライブに飛び入り参戦した経験はあるが、ロロみたいにそこまで積極的では無かったり、そもそもアイドルと言うよりも、純粋に歌手としての方向に力を入れていた為、正直分が悪い。

 正直に言うが、ノウハウが無い俺ではそのフォローをするのは不可能だ。

 ならばどうするのか?

 足りないなら、足せばよい。

 この場合、その手の知識を持っている人達の力を借りればいいのだ。

 ……以前の俺では、こんな発想をする事等出来なかった。

 他人の事等信用できなかった筈の俺では……。

 そうか。

 俺自身もまた、ライズと共に成長しているという訳か。

 ダイブや禊ぎによる精神的な修行の成果。

 それを俺は、この時初めて実感することが出来た。

 

「それであたし達に協力を要請したって事ね」

「そう言う事だ、ネイ、サーリ、白鷹」

「本当はイオンちゃんにも手伝って欲しかったっスけど、審査員だから無理なんスよね」

「その通りだ。出来ればイオンにも必要な機材の作成に協力してもらいたかったが……」

「まあ、僕が居れば技術的な問題は無いさ。それに、指示さえあればアキュラも動けるだろうし、振り付けはネイさんに、演出は白鷹に任せれば大丈夫さ」

「そうそう。ミチルちゃんったら、イオンとは違ってちゃんと動けるから、正直教えるのが捗りそうだわぁ~。確か蒼き雷霆(アームドブルー)だっけ、それを扱えるってのが大きなアドバンテージよねぇ、実際」

「そうっスね、ネイさん。あれだけ身体能力が強化出来るなら、色々と無茶な事も安全に出来そうっスから。演出にも気合が入るッスねぇ!」

「あ……あの、お手柔らかにお願いします……」

「あ~ダメよ、ミチルちゃん。そんな萎縮してたら勝てる物も勝てなくなるわ。先ずは勝とうって気持ちを持たなくちゃ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 そうして行われた新人アイドルコンテストの為の準備は、特に邪魔も入る事無く順調に進んだ。

 その際、俺はやれる事が終わったので、ロロとイソラの様子を見に行く事にした。

 先ずはロロの方からだ。

 

『あ、アキュラ君! ミチルちゃんの方は大丈夫なの?』

「問題は無い。俺のやる事は終わったから、ロロの様子を見にちょっとな」

『そっかぁ……。ゴメンね、アキュラ君』

「どうした? 突然」

『だって、僕は本来、アキュラ君の手伝いをしなきゃいけないのに、僕の我儘で苦労してるみたいでさ』

「気にするな。たまにはこうやってハメを外すのも悪くはないだろう。別に、命が掛かっている訳では無いからな。それに、ロロが一度離れた事が切欠で、俺自身成長している事を実感することが出来た。もし仮に負けてしまったとしても、後悔は無い。幸いな事に、流れや会話から察するに何度でも挑戦できるみたいだしな」

『そうなったら僕もまた、こんな風に楽しく試行錯誤出来るって事かぁ。それだったら……遠慮なく勝ちに行けそうだよ』

「抜かせ、勝つのはミチルだ」

『ふっふ~ん! 勝つのは僕だよ!』

「ちがうよ? 勝つのは、このワ・タ・シ♪ ニワカのバーチャルアイドルや歌手なんかに負けないんだから☆」

『……ってええ!? 「イソラ」ちゃん!?』

「いつの間に……」

 

 俺達の会話に自然な形で加わった一人の女性。

 その名前はイソラ。

 特徴はピンクの髪をツインテールにまとめ上げ、その姿はいかにもと言えるアイドルの姿。

 俺では理解できんが、白鷹が言うにはイソラのその在り方は正しく「真摯なアイドル像」である……らしい。

 キメキメの作り口調や仕草、そして彼女自身が持つ分身の能力によるライブパフォーマンスは紛れもなくそんな努力の表れ。

 そう白鷹に説明された上で考えれば、なるほど。

 彼女は真摯にアイドルとして有り続けようとしているのが垣間見え、一見ふざけている様に見えても、その本質は真面目な性格なのだろう。

 ……話を変えよう。

 恐らくイソラはこの世界の主であるとあたりを付けていいだろう。

 これまでの傾向から、明らかにこう言った能力者がそうであると言う傾向が強かったからだ。

 だが、この世界はそもそも勝負の内容は戦闘によるものでは無いし、準備の妨害も認められていない。

 そんな訳で、此方から仕掛けない限り、この女が現れたからと言って戦闘が始まる訳では無いのだ。

 寧ろ、他愛の無い会話が繰り広げられており、友達にすらなれそうな雰囲気もある。

 その会話の最中、イソラの連れ……なのだろうか?

 二人の男が俺達の元に近づいてくるのを視界に収めることが出来た。

 

「やれやれ……ここに居ましたか、イソラさん」

「探したよ、イソラ。これからこの僕が君をアーティスティックに散髪する予定があると言うのに、ここで道草を食うのは、正直どうかと思うんだけどねぇ」

「あ、ごめんなさい。 ……そういう訳なんで~私、行くね? アイドルコンテストの際は、お手柔らかにお願いします☆」

 

 そう言いながらイソラはその二人を連れて去っていった。

 ……あの二人、イソラと同様に覚えがある。

 その片割れの一人である、心優しそうな男。

 確か、その名前は「リベリオ」。

 俺達の世界では火星にある高校に通っている学生で、EXウェポン「アンカーネクサス」開発の際の協力者であり、第七波動「編糸細工(クラフトウール)」の能力者。

 そしてもう片割れの男の名前は「クリム」。

 彼は火星にある有名な美容師であると同時に、自身の趣味である爆破を利用して火星開拓に力を貸してくれている、EXウェポン「ルミナリーマイン」開発の際の協力者であり、第七波動「起爆(デトネーション)」の能力者。

 この世界でのリベリオとクリムは、それぞれ護衛件イソラのパフォーマンスに必要な機材や演出、衣装の選別等も担当しているらしい。

 ともあれこの後、俺達は無事アイドルコンテストが始まる時期を迎えた。

 まず、事前審査で三人まで絞るとの事。

 何故なら、参加予定人数を上回った為だ。

 その結果、事前準備を済ませていたミチル、ロロ、イソラの三人が選考に残る事となった。

 そうして、いよいよ本格的にコンテストのパフォーマンスが始まる。

 ロロは自前の歌とP-ビットやEXウェポンを応用した物。

 イソラは自身の能力や、日頃からの努力が垣間見えるダンスや振り付け。

 そしてミチルは、蒼き雷霆使用時に発生する白い羽を舞い散らせ、ネイによる身体能力強化を生かした、その優し気な見た目とのギャップを生かした派手な動きによる白鷹が指示した振り付け。

 更にサーリと俺が作成した機材による演出が、見事な調和を呼んだ。

 その結果、見事ミチルはコンテストで一位を獲得することが出来たのであった。

 が、その差は本当に僅差であったらしい。

 イソラとロロの差は無く両方二位と言う扱いで、一位との差はほんの僅か。

 その差が何なのかは不明だが、敢えて言えば運なのだろう。

 何しろ、準備期間は沢山用意されていた上で、その間、この三人は努力を怠らなかった。

 つまり、誰が勝っても不思議では無かった。

 そうなると、それ以外の要因を追求しようとすれば、それ以外にあり得ないのだ。

 ……それにしても――

 

『これでアタシ達が居なくなっても、その後のバーチャルアイドルは安泰ね、シアン』

『そうだね、モルフォ。これで私達が引退しても――』

 

 ――あの二人の言動にほんの少しだけ引っ掛かりを覚えた。

 もしかして、あの二人はこの世界における「役」を演じている訳では無いのでは……そう考えようとした時、エンブレイス・ロールの光の柱が立ち上がった。

 

『あ、アキュラ君、エンブレイス・ロールだ! これで、この世界も完了出来るね!』

「……そうだな。俺も、この世界で学ぶ事が多くあった」

「良かったぁ。アキュラ君も、この世界が気に入ってくれたみたいで、嬉しいよ」

「うんうん。アキュラ君って、こういうのに興味無さそうだったから、そういう点ではちょっと心配だったんだ」

「ミチル……ライズも来ていたのか」

「それだけじゃ無いよ☆」

「僕達の事も……」

「忘れないで欲しいなぁ!!」

「お前達も来ているという事は……やはり、この世界の主はお前達という事か」

「そう言う事! つ・ま・り……私達を詩魔法で呼び出せちゃうの☆ 凄いでしょ?」

 

 この精神世界は、ミチルが自信を付けたいと願った想いに加え、俺に対して戦う以外にも別の道がある事を教えたいと言う想いによって出来た世界であった。

 その想いに、異なる世界のミチルの転生体であると予測されるライズも同調し、結果として、ここまで平和な世界が構築されたのだ。

 ……今にして思えば、俺からロロが没収されたのも、その一環だったのだろう。

 その後、俺達は軽く話を済ませた後、ミチルとライズの二人と手を繋ぎながらヒュムノフォートにある扉を開き、この世界を完了させた。

 

 

――ミチルのジェノメトリクス「三つ巴の歌姫達」を完了しました。詩魔法【翼戦士「翼戦士系★アイドル」&「夢の熟練者(クラフトマンズドリーム)」&「素晴らしき起爆剤(ファンタスティックデトネイター)」】をインストールしています。

 

 

 その後、俺達はこれまでに得た詩魔法の試し打ちをする事となった。

 翼戦士「獅子王旋迅」、翼戦士「復撃のアルタイル」&「重力井戸のスダルシャナ」、そして最近習得した翼戦士「翼戦士系★アイドル」&「夢の熟練者」&「素晴らしき起爆剤」の三つの詩魔法。

 これらはキャスとイオンが扱うような詩魔法と同じような挙動を示し、無事に実用的なレベルで運用できることが確認することが出来た。

 そして、これは当然の事であるのだが、人数が多い程サポート攻撃や追撃の頻度が多い。

 だが、逆に詩魔法発動時の威力は、人数が少ない方が高い。

 つまり、威力重視ならバクト。

 状況を選ばずに居たいのならダイナイン達。

 サポート攻撃、追撃重視ならイソラ達と使い分けるのがいい。

 この中で何を選択すればいいのかは、その時の状況と、ライズを護る守護者の判断によって委ねられる。

「これで私も、アキュラ君の力になれそう」と、ライズは嬉しそうに俺に微笑んだ。

 ……元々、ライズの記憶が飛んだり、悪夢を見ない様にと精神的な成長、及び転生前の世界の記憶が目的であった筈だったのだが、それに比例する様に戦う力も獲得している。

 その際、ライズの力を引き出すのは俺の役目となるだろう。

 もっとも、そんな風にライズの力を使う機会等無い方がいいに決まっているのだが、それでもまったく無いかと聞かれると、それもまた疑問に残る。

 ならばこそ、俺もライズの力を引き出す為の戦い方を本格的に学び、()()()()()()()()()()()()を運用する必要があるはずだ。

 これに関して、戦い方はデルタ達から学び、装備はサーリと相談し、既に実践が出来る程の完成度を持ったプロトタイプまでは完成している。

 ともあれ、これで俺とライズの精神的な修業は終わり、いよいよ俺は再びライズの世界へと潜る事となった。

 その世界の名は「両翼蝕む暗黒郷(ディストピア)」。

 そして、この世界で動く為に必要なDLvは、「6」。

 いよいよ深層意識の領域にまで、俺は足を運ぶ事となったのである。

 あの時のデルタ達の懸念通り、あの時の俺がもしこの世界にダイブしても、門前払いを喰らっていたのは間違い無い。

 俺はデルタ達の忠告を内心感謝しながら、俺はライズの真実が眠る領域へと足を運ぶのであった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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