【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第三十四話

 ライズの世界に突入した俺達を迎えたのは、見慣れない場所であった。

 その場所は、多くの瓦礫と老朽化した施設、砕けたアスファルト。

 さらに周囲をよく見れば、白骨化したと思われる人の骨まであった。

 

「ここがライズの深層世界か」

『何て言うか、昔のネットなんかで良く言われてた、世紀末ってやつをそのまま形にした世界みたい。……そだ、ねえアキュラ君、ここに居て考え込んでも何も分からないしさ、ちょっと高い所から周りを見てみよう? ほら、あのビルなんてどう? 老朽化してるけど崩れそうな気配は無いみたいだし』

「……そうだな。ここにはライズも居ない。この辺りの情報を集めるのに高い所から見下ろすのも悪くは無いだろう」

 

 そうして老朽化したビルを登って、その屋上へと俺達は足を運んだ。

 そこで俺達が見た光景は、俺とロロの予想をはるかに超える程の物であった。

 俺達がこの世界に来た直後に見た光景が、これでもかと広がっていたからだ。

 そして、それだけではない。

 

『なんか遠くにあるあのあの場所だけ、街並みが広がってるね』

「そうだな。……しかしこの惨状、何か過去にあったのか? それとも……」

 

 そう色々とロロと考察していた時、とんでもない光景が広がった。

 そう、空から無数の数のジャイアントロロが降り注いで来たのだ。

 それも、少なくとも俺の視界内の全てに。

 ……この分では、俺の背後の光景も似たような物なのだろう。

 流石に、この無数のジャイアントロロを相手にするのは分が悪い。

 それこそ、ガンヴォルト達の力が必要になる。

 

『えぇ!? ライズちゃんの詩魔法のアレが一杯落ちてきた!!』

「……流石に数が多すぎる。ここは一旦身を隠すぞ」

 

 そうして身を隠した直後、何処からともなく声が響き渡った。

 

『全テノ マイナーズ ドモニ 告ゲル。ワタシハ スメラギノ 全統括管理AI「デマーゼル」。オマエタチノ 生存ノ時ハ 今コノ 時二終ワッタ。スメラギハ 大規模攻撃ヲモッテ オマエタチヲ イジェクト スル。タッタ今 スメラギノ管理区画外()()()ニ ニューウェポンヲ 投下シタ。動キ出シタ ギアハ 止マラナイ……。最期ノ瞬間マデ 足掻イテ見セルガイイ……』

(スメラギの全統括管理AIだと? それに、あの声……)

『あ……ねぇアキュラ君、この近くで戦闘が始まってるみたい!』

「戦闘か。……()()()()を使う。展開を頼む、ロロ」

『様子を見に行こうって訳だね! 光学迷彩、展開するよ!』

 

 ガンヴォルトのデータを本人の許可を取ってから新たに解析し、展開可能となった光学迷彩を展開し、俺達はそこで繰り広げられている戦闘の光景を目の当たりにした。

 そこでは……。

 

『嘘……。()()()()()が如何してここに!?』

「……予想はしていたが、これでほぼ確定したな。やはり、ライズは並行世界のミチル本人で間違いない。()()()()を見れば、嫌でも把握出来るはずだ」

『う……うん……。あ、向こうの僕も、向こうのアキュラ君と一緒に居るんだ。……ふぅん、そういう所も一緒なんだ』

 

 そこでは、一体のジャイアントロロを相手に大立ち回りをしている並行世界の俺の姿があった。

 その姿は俺の姿とほぼ同じだが、ボーダーⅡとは違った形をした銃と、ヴァイスティーガーの一部のデザインが違う上に、エクスギアも所持していない。

 それを踏まえて考えれば、間違いなく今戦っている存在は並行世界の俺自身で間違いは無いだろう。

 ……それにしても。

 

『あんな速度で突っ込んだら、いくらアキュラ君でもバラバラになっちゃうよ!』

「ブリッツダッシュの速度が、明らかに俺より早い……。流石にアレでは、今の俺でも波動の力無しでは長くは持たん」

 

 明らかにその立ち回りは人間の限界を越えており、その上で俺が考えうる以上に最適化された動きであった。

 あのような動き、波動の力を使っているのなら兎も角、それを使っている様子も無い。

 特に、あのブリッツダッシュの速度。

 俺よりも明らかに早すぎる。

 あの速度ではいくら俺でも常用するとただでは済まず、波動の力で自身を保護しなければ、あの速度で運用するのは現実的では無い。

 それでいて、その速さに振り回される事も無くジャイアントロロを翻弄し、着実にダメージを蓄積するその姿は、一つの極限(X)であり、到達点とも言える。

 この世界が凄まじく荒廃した状態で、尚且つ生き残っているのだから、その技量も推して知るべしと言った所だ。

 こうして順当に、あのジャイアントロロは倒されると思われたのだが……。

 最初の精神世界の俺と同じように、アンカーネクサスによって捕らえられてしまった。

 

『アキュラ君!』

「チィッ……! 何だと!?」

『嘘! このままじゃ……!』

 

 なんと俺の持つディヴァイドⅡから放たれたレーザーが、ジャイアントロロを透過してしまったのだ。

 ……いや、ここは精神世界。

 ガンヴォルトとデルタも言っていた様に、何が起きても不思議では無い。

 つまり、俺達は少なくとも今、この世界その物に干渉が出来ない状態にある。

 それが一体何故なのかは不明だが、何か理由があるはずだ。

 そう思っている内に、向こう側の俺は、同じく向こう側のロロによる、コア目掛けた体当たりによってジャイアントロロを撃破し、事なきを得た。

 ……干渉出来ないという事は、光学迷彩も意味が無いと思われる。

 これを展開していると、EXウェポンが使用不能になってしまう。

 とは言え、現段階でEXウェポンを使っても意味がない上に、俺自身の機動力に影響がある訳では無いので、このままの状態を維持する事とした。

 そうしている内に、見慣れぬ男女二組の子供達が合流し、何やら話をしていた。

 その話を要約すると、この子供達が囮となり、その隙にあのデマーゼルの居る、そして「()()()()()()()()()()」なる物がある「スメラギ第拾参ビル」へと乗り込むと言った形だ。

 そして、この世界の俺達は行動を開始し、俺達はこの世界の……便宜上「イクス」としよう。

 丁度あの子供達――「コハク」と呼ばれる少女以外の「キョウタ」、「マリア」、「ジン」の三人は、この世界の俺の事をそう呼んでいるからな。

 話を戻すが、イクス達が行動を開始し、俺は後を追う事とした。

 その移動の最中、俺は考える。

 この世界のライズは何処に居るのだろうか?

 この世界は一体何故こんな事になってしまったのだろうかと。

 

『デルタの世界に居たバクトが、どうして能力を持たない人をマイナーズって呼んでたのか僕は疑問だったけど……』

「この光景を見れば嫌でも思い知らされる。それに、肝心のセプティマホルダーと呼ばれる能力者達の扱いも、バクトから聞いていた様に、あまりいいようには思えない。管理AIデマーゼルと言ったか……。なるほど、「両翼蝕む暗黒郷(ディストピア)」とはよく言った物だ」

 

 何故俺がそう判断したのか?

 それは俺がこの世界に突入する前に完了させてきた精神世界に居る世界の主である彼らの話の中で、彼らの居た世界の様子であったり、翼戦士に選ばれる基準の話等を聞かされていたからだ。

 彼らの話を総合的にまとめると、強力な能力者であれば犯罪者であったり、アイドルであったりしても選ばれ、場合によっては翼戦士にならざるを得ない状況に追い込まれて無理矢理と言ったケースもあるのだと言う。

 この世界の事はまだ正直良く分かっていないが、今の段階での俺の印象はこんな所だ。

 そうこう考えている内にイクス達は行動を開始。

 俺達はイクスの後を追い、スメラギ第拾参ビルへと乗り込んだ。

 

『アキュラ君! 急がないとイクスに置いてかれちゃうよ!』

「分かっている! ロロ、P-ドール形態に移行しつつエネルギーを機動力に回せ!」

『了解! 波動の力のコントロールは僕に任せて!』

 

 一度このビルを攻略した事があるからなのだろう。

 その動きに迷いがなく、それでいて敵を殲滅するのも忘れていない。

 EXウェポンの運用及び射撃の技量、俺の持つ研究データ上だけにある、理論上可能と言われている動きを、これでもかとイクスは俺達に見せつける。

 ここまで来るとまた一つ、この世界の正体を考察する為の「仮説」が浮かび上がってくる。

 そして、その仮説が正しい事であると証明するかの様な光景が、俺の前で展開された。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()が姿を現したのだ。

 名前は不明だが、性別は声や見た目から判断するに女性。

 その手に剣を携え、頭には面妖な仮面を被り、その幾つかの隙間から、流れるような纏めた金髪を靡かせる。

 そんな彼女の様子は明らかに操られており、その上、能力の暴走までしているのか、常に荒れ狂うような雷撃を身に纏っている。

 

「この「暴走」の力、これがジャイアントロロの持つ未知のEXウェポン「ダークネストリガー」の正体か」

『って事は、イクスの傍に居る僕は、あのEXウェポンを持ってるって事?』

「ジャイアントロロが、この世界のロロを解析して作られた量産品であると考えれば、その通りだろう。そんな不安定である暴走の力にも頼らなければいけない程、イクスを取り巻く状況は悪かったと考えると仕方のない一面は確かにあるが……。それにしても、そんな状態の彼女を制御しているバタフライエフェクトとは一体何なんだ?」

『アキュラ君……それの事なんだけど』

「……その答えが、この先に有るのだろう。ロロも何となく予測は付いているだろうが……。俺達に出来るのは、この世界がどんな結末であれ、ライズの事を受け止め、支える」

『そして、僕達で力が及ばなければ助けを呼ぶ』

「そう言う事だ」

 

 この発想が俺の中で出来るようになった事が、これまでの精神世界での修行の中で、最も収穫があった事の一つだ。

 以前の俺ではそう言った発想等出来るはずも無く、下手をすれば貴重な協力者であるはずのノワの事も置き去りにして一人で突き進む事もありえた。

 この点だけでも、俺はダイブを許してくれた皆に感謝している。

 そして、あの二人の戦いも佳境を向かえる。

 

――煌くは雷纏いし魔剣 暗黒の暴虐よ命を貫け

 

 その動きは、以前モルフォ達の特訓を偶然視界に入れた際の動きと奇しくも同じ物。

 雷撃を纏い、命を喰らわんと振るわれる三閃放たれた雷刃(ヤイバ)

 だが、イクスはそんな彼女のSPスキル「コレダーデュランダル」による一撃を回避。

 それと同時に、返す双刃の一撃が放たれる。

 

――舞い踊るのは我等双刃 審判せしは千万無量 厄災断ち切る白熱の十字架

 

 ロロのビットが広がると同時にその衣装を変え、縦横無尽にビットをかく乱させる。

 そして、トドメに放たれるイクスとの寸分違わぬ、その名前を呼ばれるようになった由来とおぼしきX(イクス)を刻む。

 そんなイクスのSPスキル「クロスディザスター」の一撃によって、この戦いは終わりを告げた。

 その後、イクスがコハクから受け取っていたペンダントを落とし、その中身を偶然見た彼女……便宜上、戦闘中イクスがそう呼んでいた「ブレイド」と呼ばせてもらおう。

 そのブレイドがそれを切欠に正気を取り戻し、イクスは彼女を励ました後、先へと進んだ。

 

『イクスは止めを刺さなかったね』

「コハクの姉だと言うのならば、それは当然……と言いたい処だが、以前の俺であったならば、間違いなく止めを刺した。イクスもまた、俺とは違う経験を色々としてきたのだろう」

 

 そうしたやり取りが終わった後、バタフライエフェクトが存在する場所へと突き進むイクスを阻む存在が現れた。

 その姿は変身現象(アームドフェノメン)を引き起こした翼戦士の姿。

 編糸細工(クラフトウール)の能力者、リベリオが立ち塞がった。

 だが、そんなリベリオの様子がおかしい。

 イクスの言動から、以前撃破したリベリオが何らかの能力で再び立ち塞がっていると言う予測は付いているのだが……。

 

「意思を持たぬ幻影か。干渉が出来て情報を集めれば、この正体も予想が付くが……」

『……そういえば今更だけど、アキュラ君って、イクスの事をあまり心配して無いよね?』

「当然だ。初見ならまだ分からないだろうが……。一度撃破した相手に後れを取る事など無い。行動パターンも把握しているだろうしな。それに、ここまで来る際の技量を見せつけられれば、嫌でも納得する。……ロロは、どんな風に感じた?」

『えっとね、イクスは何て言うか……。どこか諦めてる印象があるんだ。それに、時折ガンヴォルトが見せる気配を出す事もあるし……』

 

 話は変わるが、俺の知るガンヴォルトは一度天寿を全うしてから俺達の世界に転生した存在だ。

 そのせいなのか、俺と肉体年齢は近い筈なのだが、時折年を重ねた人特有の気配を感じる事がある。

 他にも感じる相手と言えば、例えばシャールであったり、ネイであったりと様々だ。

 ……つまりロロが言いたいのは、イクスから()()()()()()()()()()()()()()()事を指摘したいのだろう。

 その事を考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()に、強く違和感を感じるのも当然と言える。

 それ以外にも、これまで見せつけた技量を発揮するには、相応の年月を要するはず。

 それなのに、姿形が今の俺と変わっていない。

 そして、見た目に変化が無いから分かり難かったが、向こうのロロの印象も何所と無く柔らかな物になっている。

 それこそ、長い年月を経てより人間らしくなったと言ってもいい程に。

 そうした考察を続けている内に、イクスは立ち塞がるインテルス、クリムの幻影を危なげなく撃破し、遂にバタフライエフェクトが存在すると思われる隔壁へとたどり着いた。

 

「……いよいよ、か」

『これまでの情報を考えると、この奥にミチルちゃん……、ううん、ライズちゃんが居るんだよね?』

「俺の考えが正しければな。……相応に年月を経たこの世界のミチルであるライズが、ここに捕らわれているはずだ。歌姫(ディーヴァ)プロジェクトが根幹をなしているのは間違いない以上、拘束され、何らかの機械に接続され、バタフライエフェクトと呼ばれている状態の形でな」

『そうだね。正気に戻ったブレイドも言ってたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて事、いくら何でも電子の謡精(サイバーディーヴァ)単独じゃ無理だよね。……まあ、僕らの知ってるシアン達だったら、そんな機械が無くても出来そうだけど』

「……あの二人は例外だ」

 

 こうして俺達はこの世界のミチル、もといライズの居る隔壁の奥へと足を運ぶのであった。

 その先に待つバタフライエフェクト、そしてブレイドの言っていた「悍ましいマシン」と言う言葉が、どれほど重い意味なのかも知らずに……。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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