【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第三十五話

 なんだ、これは……。

 

「ようやく見つけた。バタフライエフェクト……。いや――」

 

 やめろ……。

 それ以上、先を言うな!

 

「ミチル……。俺の、たった一人の妹……」

 

 ()()は見上げる程に大きかった。

 ()()はいくつものコードで繋がれていた。

 ()()は機械で接続されていた。

 

『僕の疑似セプティマ機関も感じてる……カラダが無くても、心が流してる……、ミチルちゃんの涙……ぼくのチカラの複製元(オリジナル)――電子の謡精(サイバーディーヴァ)のセプティマホルダー』

 

 () () は 正 し く ミ チ ル の い や ラ イ ズ の――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……悪魔のマシン…! こんな……、こんな姿にされて……。スメラギめっ! 絶対に許せないっ!!』

 

 ――そう、バタフライエフェクトとは、ライズの脳を生体パーツとして組み込まれた、神をも冒涜する、この世に存在する悪意の具現化その物。

 あのような状態なのは恐らく、俺の世界の皇神でも研究されていた、生命力(ライフエナジー)の研究の応用も含め、考えうるあらゆる方法によって無理矢理生かされているからなのだろう。

 そして、あれ程までに肥体化した脳。

 脳は頭蓋骨から開放されたまま生かされると、そのまま際限なく肥体化していくのだと言う。

 それを考えれば、どれほどの時を、あの姿で、ライズは――

 

「今、俺が楽にしてやる……」

 

 ――待てイクス、お前、何をするつもりだ?

 まさか、お前、お前は、ミチルを、ライズを……!

 

 

ア キ ュ ラ ク ン

 

 

 まだ、生きている。

 

 

ワ タ シ ヲ コ ロ シ テ

 

 

 ライズは、まだ生きているんだぞ!?

 

「ロロッ!! 光学迷彩を解除と同時にエクスギアを転送し、波動防壁を俺の全面に最大展開!」

 

 俺の行動は、条件反射であった。

 

『……ッ! りっ了解!!』

 

 本来ならば、イクスの行動が、正しい。

 あのような姿にされて、ライズはどれほど長い年月を生きてきたのか、その苦痛たるや……俺には想像する事も出来ない。

 あのような姿に変わり果ててしまえば、もはや死による幕引きこそが救いであると、いくら俺でも、()()()()分かっている。

 だが、それでも……。

 護りたいと思う気持ちに、嘘などつけるものか!!

 

「……ッ!? 何故だ!! 何故攻撃が防げない!!」

『アキュラ君、落ち着いて、この世界では僕達は……!』

 

 防げない理由も何も、この世界で俺達は干渉する事は叶わない。

 そんな事、ここに来るまでに散々試してきたのだ。

 出来ないのは分かっている。

 それでも、反射的に体が動いてしまうのだ。

 ロロも俺に落ち着けと言っているが、俺と同じように、現状持てる手段を全て用いてライズを護ろうとしている。

 そして、そんな俺達を嘲笑うかのように、この世界は俺達に悪意を突きつける。

 向こう側のロロが、ダークネストリガーを発動させ、その姿を変えた。

 その表情は元々の暴走の力で苦しんでいるだけでは無く、早くライズの事を楽にさせてあげたいと言う、確かな想いがあった。

 それに呼応するかのように、ライズを護る防壁が出現。

 それと同時に、電子の謡精由来であると思われる大量のモルフォが出現し、イクスを迎撃しようとする。

 それを、暴走の力で増幅されたスパークステラーによって防壁ごと薙ぎ払われる。

 それによる余波で受けたダメージが、瞬く間に修復される。

 それを見たイクスは、ライズを繋ぐ、恐らく生命維持に直結するであろう、束ねられた太いコードをロックオン。

 そこに暴走したロロによって力が増幅されたオービタルエッジが舞い散り、切断される。

 俺達は、そんなライズの前に、滑稽にも立ち塞がる。

 いや、最初から立ち塞がっていた。

 この世界に干渉出来ないと分かっていても、イクス達の行いが正しいのだとしても、俺達は立ち塞がり続けた。

 だが、そんな俺達を嘲笑うかのように、イクス達による攻撃、そしてライズによる迎撃すら、俺達をすり抜ける。

 

『こんなの酷いよ……。こんなのって無いよ! もうやめて!! やめてよぉ!!』

 

 ロロの悲痛な叫びも虚しく、イクスによる介錯が佳境を迎える。

 障壁を再展開した後、ライズから()()()()()()()()()()()()達が出現し、彼女達による大小織り交ぜられたビーム攻撃が巻き起こる。

 イクスはそれを回避し、障壁と黒モルフォに対し、それぞれロックオンレーザーによる攻撃と、増幅されたキスオブディーヴァによる攻撃がそれらを迎撃する。

 そして――

 

「終わりだ、ミチル……!」

 

 ――イクスから放たれた一閃のレーザーが、ライズの生命機能を止める致命的な一撃となって放たれ……。

 

「……ミチル、長い間……、辛かっただろう……。せめて兄の手で眠れ……、安らかに」

 

 バタフライエフェクトとしての活動を、停止した。

 

 

ア リ ガ ト ウ

 

 

 ライズの、イクスに対する感謝の文字と共に。

 

 

 イクスがこの場から立ち去った後の暫くの時間、この場を動けなかった。

 ……俺達は、心の何処かで甘く見ていた。

 この世界は、そんな俺達の甘さを指摘するかの様に、残酷に、その光景をまざまざと見せつけた。

 そう、俺達には、圧倒的に覚悟が足りなかった。

 俺達は、無力だった……。

 

『うぅ……。ライズちゃん……、ライズちゃん……』

 

 ロロの嗚咽がこの空間を支配し、取り残された残骸が、この世界でお前達に出来る事は無いと突きつける。

 既に引き起こされた悲劇を記憶した世界であるが故に。

 だからこそ、俺達が何も出来ないのは当然であり、必然なのである。

 そんな風に自分に言い聞かせ、この世界に干渉出来ないからだと、すでに起こった出来事だと、理屈で心を落ち着かせようとしても、俺の心の中は、様々な感情に荒れ狂う。

 もっと何か出来る事は無かったのか?

 何故このような悲劇が起きた?

 あのような、誰もが苦しむ世界を管理する為に、ライズは弄ばれたのか?

 憎い。

 許せない。

 納得が出来ない。

 それ以外の形容しがたく、言葉にも出来ない様々な感情が、俺の理性を押しつぶしかけている。

 ……そんな時であった。

 

「……? あれは、何だ?」

 

 イクスによって安らかな眠りを与えられた筈の、バタフライエフェクトだった物から、()()()()()()()()()

 それは、先の戦いでライズがイクスを迎撃する際に出現させた黒モルフォ。

 その表情は、この世の全てを呪わんと、言葉も無く語り掛ける程に憎悪に染まり切っており、その瞳からは血涙が止まる事無く溢れ出ている。

 そんな黒モルフォが両手を掲げると、その頭上に体中がズタズタに引き裂かれ、今にも消滅しそうなライズとおぼしき姿が現れ、天へと昇っていき……。

 

()()()()()……。この世界でも、貴女は……」

『そっか……、こうやってライズちゃんはマリィに救われて、デルタ達の世界で生まれ変わったんだね』

 

 その見るも無残な姿であったライズを抱きしめ、その傷を癒し、黄昏の女神は自身が持つ権能を行使する。

 その光景は、憎悪に塗れた黒モルフォですら、一時の笑顔を見せた程、安らかな物であった。

 俺達も、同じようにその光景によって、心渦巻く様々な感情が解きほぐされ、落ち着きを取り戻していく。

 そしてこの光景を最後に、徐々に回りの景色がぶれ始め、その形を失っていく。

 干渉出来ない世界が終わりを告げ、この世界「両翼蝕む暗黒郷(ディストピア)」の、本当の姿が現れようとしていた。

 その刹那――黒モルフォは笑顔であった表情を、再び憎悪に染まった物へと戻し、この場を飛び立った。

 まるで、何かに導かれるかのように……。

 そのような出来事の後、ライズの本当の世界が姿を現した。

 

「ここは……ッ! バタフライエフェクトが、()()()()()()()だと!?」

『えぇ!? じゃあ、今まで見てきた景色は何なのさ!?』

「……異なる世界のアキュラ様、ロロ、よくここまでたどり着きました。正直な話ではありますが、私も驚いております」

 

 そこには、復元されたバタフライエフェクトを護るかのように前に立つ、ノワの姿があった。

 

「ノワ……。お前が、何故ここに?」

「私は、()()()()()()を賭して、ライズ様をお守りしようといたしましたが、無力にも力尽き、倒れました」

『そんな! ノワもそうだったなんて……』

「……お前ならば、何だかんだと生き延びる事が出来ると思っていたのだが」

「……その当時、アキュラ様はライズ様が突如として電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力に目覚めた事が切欠で、その能力を取り除くために、持ちうる労力を研究に費やされておいででした。ですが、施設で療養していたライズ様は、アキュラ様が研究所に居て留守にしている所を強襲され……、最終的に、この様な結果となってしまいました」

「ノワ……」

「その気になれば、ライズ様を見捨る事も出来たでしょう。ですが、私はライズ様の行く末を見守ると決意しているのD()E()A()T()H()。なので、その選択肢は初めから私の中には存在し無かったのDEATH(デス)

 

 そうか……。

 ノワならば、あの世界でも生きていたのかもしれないと思っていたのだが。

 ……いやちょっと待て、ノワの語尾に違和感があった様な……。

 それに、「力尽き、倒れた」と言ってはいるが、「死んでいる」とは一言も言っていない。

 俺の質問もさり気無く無視しつつ話を続けているのも、少し引っ掛かる。

 つまり、ここに居るノワはもしや、元々精神世界内で構築された存在では無いという事になる。

 

「それでもせめて、攫われる寸前のライズ様の御心を護ろうと願い、私の力の残滓をかき集め、それを用いて私は深層意識に乗り込んだのDEATH。その後、私はライズ様の心の中を経由して、魂の根幹である深層意識の領域を護りつつ、その行く末を見守る事としましたDEATH」

『力の残滓って……。え、ちょっと待って? 話が急におかしくなったような……?』

「ロロ、その事についてはまた後で説明させてもらいますDEATH」

(先ほどから語尾がおかしいのも、それに関係しているのだろうか?)

「では、話を続けさせて貰いますDEATH。……その後、かつてフェザーの頭目であり、スメラギを手中に収めた「アシモフ」主導の元に、()()()()()()()()()を用い、ライズ様はバタフライエフェクトと言う、恒久平和維持装置と呼ばれる、悪魔すら恐れ(おのの)くのマシンへと姿を変えてしまわれたのDEATH」

『アシモフだって!? で、でも、僕達の知ってるアシモフならそんな事するはずが……』

「……いや、アシモフの過去を遡れば、その位やってもおかしくはない。彼は当時の皇神による、父さんが主導で行った人体実験の犠牲者だ。それを考えれば、こう言った事を仕出かしても違和感は無い」

「……アキュラ様、知っていたのDEATHか?」

「ああ、俺達の世界に居るガンヴォルトのお陰でな」

「ガンヴォルトDEATHか。……私達の世界での彼は当時、まだ皇神と呼ばれていた頃にあった施設「アメノサカホコ」にてアキュラ様との遭遇戦を最後に、姿を見せる事はありませんDEATHた。後にアキュラ様は、()()()()()()再びこの場所に潜り込んだのDEATHが、()()()()()()()()()()()以外、何も分からず仕舞いでした。その状況から考えるに、紫電と相打ちになったか、或いは……」

「アシモフの手に掛かったとも考えられるな」

 

 ともあれ、ライズの世界における必要な情報は集まり、おおよその俺達の疑問は晴れる事となった。

 だが、別の疑問が浮かび上がってくる。

 そう、ここに居るノワの事だ。

 深層意識に乗り込むだなんて事、デルタ達の居る世界でも、シャールのような特殊な存在でもない限り、ダイブ屋を経由しなければならない。

 それなのに、その当時瀕死であった筈のノワが、それを成している。

 それに、先ほどから一部、語尾の発音がおかしい。

 ノワ……、お前のそう言った、何所かおかしいと感じていた違和感を、俺はあえて無視してきたが、ここで向き合う必要があるようだ。

 ……そう言えば、ガンヴォルトが言っていたな。

「ノワの事で何か気になる事があったら、「謡精の眼」を用いて見てみればいい」と。

 

「……ロロ、波動の力を、俺の目に収束させてくれ。「謡精の眼」を使う。お前も観測モードを「謡精の眼」に変更してくれ」

『……? 別にいいけど』

「アキュラ様? ロロ? 一体、何をするのDEATH……」

 

 こうして波動の力を目に収束させると、普段見えないはずの物が、見えるようになる。

 ガンヴォルトはこの現象を、ノーマルスキル「謡精の眼」として扱え、俺も研究課程で、この効果を確認していた。

 例えば、光学迷彩を施したガンヴォルトであったり、実体化を解いたモルフォであったりと、その観測能力には目を見張る物がある。

 そんな「謡精の眼」を用いて、ノワの姿を見た俺達は、その姿に驚愕する事となる。

 側頭部に黄色い螺旋状の角を生やし、背中に黒い……、そう、まるで悪魔の翼を生やす、ノワの姿を直視した事で。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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