【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
普段見えない筈の物を見ることが出来るようになる機能「謡精の眼」。
それを用いて見たノワの姿は、その普段見せていた大人びた姿とは真逆の物であった。
「……ノワ、お前……」
『嘘! ノワの姿が、角と翼と尻尾の生えた小さな女の子の姿になっちゃった!』
「……ッ! な、何の事DEATHか? アキュラ様、ロロ。くろ……私は何もおかしくないDEATH。本当DEATH! 信じて下さいDEATH!」
謡精の眼を経由したノワの姿は、俺達と年齢が同じ位の少女の姿をしていた。
それだけなら、まだ俺達もなんとか動揺する事は無かったのかもしれない。
だが、それに悪魔を彷彿とさせるような角と翼と尻尾を持っていると言うのならば、話は別だ。
……ここで話が変わるが、元々俺の家系は退魔を生業とした物であったと、母さんから聞いた事がある。
今はそうでは……
思えば父さんの形見の銃であった「ボーダー」も「退魔リボルバー」と呼ばれる武器であったり、ミチルの髪飾りに付いていた鈴も「退魔の鈴」等と呼ばれていた、神園家に伝わる特殊な鈴であった。
つまり何が言いたいのかと言えば、ノワの姿は、古い書物にある禍々しい見た目では無く可愛らしい姿ではあるが、間違いなく
……まさか、ガンヴォルトの入れ知恵に乗った結果が、この様な事になるとは思わなかった。
あの入れ知恵は、遠回りにノワの正体を俺に教えたかったのかもしれない。
とは言え……。
「ノワ、隠さなくてもいい。今、俺とロロはある特殊な観測装置を用いてお前を見ている状態だ。つまり、いくら誤魔化そうとしても無駄だ。それに、仮にお前が、その見た目通り「悪魔」であったとしても、俺達はお前を害するつもりは無い。そうだろう、ロロ?」
『う、うん。僕達もノワには何時も世話になってるから、正体を隠してたって、今更だよ』
そんな俺達の言葉を聞き、ノワは……いや、
「アキュラ様ぁ……。ロロぉ……。うわぁぁぁぁぁ~~~ん!!
『ひ、百年以上!? ライズちゃんは、そんなに長くあのままだったの!?』
「そうなのDEATH! そのお陰で、くろなの世界のアキュラ様は、
『イクスがサイボーグだって!? あぁでも、そうなると今までのあんな無茶な動き方にも説明が付くけど……』
「……そうだな。もしイクスと同じ立場であったら、俺も同じ選択をしたかもしれん」
「ノワ」……「ノワール」……「黒」……「くろな」。
ノワの本当の名前はくろな。
彼女はれっきとした悪魔であったのだが、地上でまだ見習いであった頃に
その後は俺達が物心つく前から世話係を頼まれノワと名乗り……。
そして、今俺達の前に居るノワは、ライズを守る為に戦い、敗北した際に大幅な弱体化をしてしまった為、
そんなノワの全盛期の頃は、「傾国の誘惑者」と言う異名まで持つほどの悪魔であったとの事だが……。
「えぐ……、えっぐ……DEATH」
『ほらほら、泣かないで。ノワ……くろなちゃんは頑張ったと僕は思う。百年以上もライズちゃんの心を守り続けてきたんだからさ』
「……本当DEATHか? くろなは、頑張れたDEATHか?」
俺達の前に居にいるノワは、見た目もしゃべり方も、年相応の少女にしか見えない。
身体に精神が引っ張られる事はガンヴォルトにも聞いた事はあるが、ここまで変わってしまうと、普段のノワを知っている分、そのギャップで俺も戸惑ってしまう。
……いやむしろ、そんなノワに普通に接することが出来るロロの方に驚きを隠せない。
俺の方は、何とかその戸惑いを表に出さない様にするので精一杯なのだが。
いや、これもまた、ロロがより人間らしくなったと喜ぶべきだろう。
『そうじゃ無かったら、僕達はここには居なかった。くろなちゃんがそんなになってまでライズちゃんの心を護ってくれたお陰で、ライズちゃんの根っこの部分は守られて、オマケに向こうの世界の状況も知れたんだから』
「……そうだな、
「ありがとうDEATH……、アキュラ様、ロロ……。黄昏の女神……DEATHか。その事で一時期、魔界も天界も大騒ぎで、最終的に無害所か有益だったから放置が決定した、概念化した愛そのものである女神様の事DEATHか」
『て…天界に魔界って……。それに、さっきはスルーしちゃったけど、天使も本当に居るんだね』
「その通りDEATH! 神園家に居る侍女長も、実は天使なのDEATH!」
まさかあの侍女長が天使であったと言う事実に驚きを隠せないが、このままでは話がズレてしまうので、何とか軌道修正する事を試みた。
「……ノワの口ぶりでは、まるで黄昏の女神は外部から来た存在であると言っている様に聞こえるが」
「その通りDEATH! あの女神様は天界の存在でも魔界の存在でも無く、外から来た存在なのDEATH。天使も悪魔も関係無く抱きしめる、我儘な「抱きしめたがりの女神様」なのDEATH!! きっと、しのぶ様も真夜様もあのアホ天使も抱きしめられて、幸せな来世を贈っているDEATH。……くろなはそれを、ライズ様の深層意識の中で、見届けていたのDEATHから」
「そうだったのか……」
俺はノワの話を聞いて、てっきり天界辺りからパンテーラが呼び出した存在であると思っていたのだが……。
まあ、俺の考えが及ばぬほど尊敬できる存在である事に変わりは無いのだ。
気にしても仕方がないだろう。
「それにしても、まさかアキュラ様とロロが、くろなの事を見破るだなんて思わなかったDEATH……。これでも真夜様にも太鼓判を押してもらえるくらいの変装術を、苦労して身に付けた筈なのDEATHが。もしかしてその観測装置、天使の力とか退魔の力でも入ってるDEATHか? そうじゃなきゃ、くろなの変装術が見破られる事何て無いはずDEATH」
『くろなちゃん。そんな力、見た事も聞いた事も無いのに入ってる訳ないでしょ?』
「嘘DEATH! 真夜様はくろなが今まで見てきた悪魔ハンターの中で、天使が直接見えるLvの、最強の退魔の力を持ってるDEATHし、しのぶ様はそうでも無かったDEATHが、それを重火器で補って退魔の力を込められたサブマシンガンとか、ロケットランチャーをぶっ放してたDEATH! 天魔覆滅とか叫んでいたDEATH! きっと、向こうのしのぶ様や真夜様の入れ知恵が入ったに違いないDEATH!」
「母さん、叔母上…………。この観測装置はれっきとした科学的なものだ。入れ知恵が入ったのは認めるが、それはガンヴォルトからであってだな……」
「またガンヴォルトDEATHか! そもそもアキュラ様はセプティマホルダー……能力者を憎んでいた筈DEATH! まっ……まさか向こうの世界では恋人なのDEATHか!? 禁断の愛なのDEATHか!?」
「何故そうなる!? 俺が奴の第七波動のデータと運用方法を解析して、それを再現しただけだ! ……まあ、確かに俺は奴を憎んではいた。だが、ミチルが能力者と知った事を切欠に色々あって、その
『その後は何だかんだで、戦闘訓練で互いに競い合ったり、ガンヴォルトから色々と無茶振りされたり頼られたりして、いい友達の一人になってるよ』
「友達……。アキュラ様に、友達DEATHか!? 凄まじい快挙DEATH!! あの不器用で研究バカなアキュラ様に友達が出来るだなんて! それも能力者の! 向こうの世界、どうなっているのか興味が出てきたDEATH!」
ノワ、お前、心の中でそんな風に俺の事を考えていたのか。
……これまでの会話で、俺の中のノワに対するイメージが完全に崩壊してしまっている。
これでは、俺の世界のノワに、これからどう接すればいいのか分からなくなってしまうでは無いか。
黙っていた方がいいのだろうか?
それとも、思い切って話をするべきなのか?
ガンヴォルト辺りに相談してみるか?
……この事は後にして、今はライズの事を考えるべきだ。
話を戻さなくては。
その後、色々と苦労はしたが、何とかライズの話に軌道修正することが出来た。
ノワがここまでお喋りであったとは思わなかったが……。
いや、百年以上も話相手の居ない状態で、ここでずっとライズを護っていたのだ。
そう考えれば、こうなってしまうのも、仕方が無いのかもしれない。
「……まあ、これでくろなの居た向こうの世界で話せる事は全部DEATH。ここからは、この世界「両翼蝕む
「ああ」
『うん! 詳しく教えてね、くろなちゃん』
この世界は要約すると、能力者も無能力者も苦しんでいる……、いや、
その理由は能力者、無能力者双方からライズが苦しめられた事……正確に言えば、そう思っている
だから、この世界のライズはこう考えている。
「私を苦しめる能力者と無能力者は、皆苦しめばいい。簡単には死なせない。私みたいにジワジワと無理矢理、もがき苦しむ様に生かされ続ければいい。だって、もし死んじゃったら、女神の抱擁で救われてしまうじゃない? そんなの絶対に許さない。せめて私と同じくらい長く苦しんでくれなきゃ納得できない」と。
「それじゃあ、くろなはここで待ってるから、気を付けるDEATHよ? この世界は、いくらアキュラ様とロロでも、迂闊な行動をするとライズ様に天魔覆滅されるDEATH。具体的に言うと、無理矢理この世界から追い出されるDEATH」
『くろなちゃんは付いて来てくれないの?』
「無理DEATH。この世界では時々反乱がおきて、ここに乗り込んで来る人達が居るDEATH。くろなはそんな人達から、ライズ様を護る使命があるのDEATH」
「そうか……。ノワは大丈夫なのか? 大分弱体化しているのだろう?」
「大丈夫DEATH! くろなには、これが……「悪魔の槍」があるDEATH! これの力のお陰で、
俺達はノワにそう言われ、この世界の外へと繰り出したが、そこは一言で言えば三途の川の河原である、賽の河原で繰り広げられる石積の光景。
もしくは、地面に穴を掘り埋める等と言った物だ。
通常、そうした無意味とも言える行為を続けていると、精神的に死んでしまうと言われているが、そこをこの世界の主であるバタフライエフェクトに身をやつしたライズが、憎しみと憎悪によって、現実以上の精神感応能力を行使。
その結果、この世界の能力者と無能力者達は、精神的な死すら許されていないのだ。
そんな光景が、ライズの居た場所を中心に、先が見えない程に広がっており、この世界の在り様を、俺達にまざまざと見せつける。
そう、正しくこの世界は、能力者と無能力者双方が等しく苦しめられている暗黒郷。
……だが、俺は正直に言えば、こいつらがここで苦しんでいるのは自業自得であり、ライズの行いに寧ろ俺は、最初は納得していた。
元居た世界でアレだけの事をされたのだ。
寧ろその場で殺し合わせても良い。
ここは精神世界なのだから、意図して死なせない様に調整する事だってできるはずなのだ。
寧ろそれどころか、心の中の八つ当たりで済ませているだけ、ライズは優しいとまで思っていた。
だが、そうなると一つ疑問が浮かび上がってくる。
何故ノワは、反乱してライズの元に乗り込んで来た人々を
寧ろ殺した方が確実であるし、簡単で、労力もかからない。
ここに居る人々はライズにとっての敵であり、数を減らした方が確実に護れる筈だと言うのに、何故かそれをしない。
……まあ、この世界の全ての人々を、ライズは監視しているのだから、殺してしまったらその意思に反するという事になってしまう。
それに、あの状態のノワでは、そんな事は出来ないと言ってしまえばそれまでなのだが……。
それでも俺は、この疑問を元に世界を巡って考察していたのだが、ある一つの可能性に気が付いた。
それを考えればなる程、この世界の在り様は確かに問題であり、ノワが追い払う程度に済ませていた理由も納得が出来る。
「……問題、だな」
『え、どうして? こいつらはライズちゃんを苦しめてきた人達なんだよね? だったら、こんな風になるのは当然だと僕は思うんだけど』
「……あそこにいる連中が、本当にライズを苦しめていた人々であったなら、俺も止めはしなかっただろうが……。ロロ、ここはライズの世界だ。つまり、
『あ……。そっか、だからくろなちゃんも、ライズちゃんの所に乗り込んだ人達の事も、追い払うだけで済ませてたんだ。そうしないと、ライズちゃんの心を護る事が出来ないから』
「そう言う事だ。……ノワはそれを、百年以上続けているんだ。弱った体に活を入れながらな。それにライズも、同じように苦しみ続けている。心の中で、元居た世界の人々の事を恨み、呪いながらな。……やるべき事は定まった。ノワの所に戻るぞ、ロロ。一度情報を共有し、対策を考える」
こうして俺達は、ノワが守護するライズの元へと戻るのであった。
この世界の悲しい在り様を、救って見せると誓いながら。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。