【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第四十一話

 眠りから目を覚ました後、俺達はダイブ屋で目を覚ましていた。

 あの精神世界の余韻は未だ残っており、目覚めた直後は頭があまり働かない状態だ。

 その事に気を効かせてくれたのか、ダイブ屋の店主がコーヒーを用紙してくれ、俺は有難くそれを少しづつ飲み、余韻を温かく、名残惜しむ様に散らした。

 それと同時にロロが目を覚まし、俺の傍にゆっくりと浮遊しながら近づいてくる。

 それに気を効かせたのか、ダイブ屋の店主はいつの間にか居なくなっていた。

 ライズの様子を見に行ったのだろう。

 

『アキュラ君。……僕達、やり遂げたんだね』

「……そうだな。とは言え、結局俺達が出来たのは、ほんの少しの手助けだけで、後は殆どライズ本人の手で解決したような物だがな」

「そんな事ないよ。途中でやめる事も出来たのに、危険を冒してでも私の根本的な心の闇を祓う手助けをしてくれた。私を……、導いてくれた」

 

 俺達の会話が聞こえていたのか、隣の部屋からライズが俺達の会話に乗りながら入室して来た。

 

『「…………」』

「……どうしたの? アキュラ君、ロロ? 私の顔を見てぼーっとしちゃって」

 

 ライズはそう言うが、呆けてしまうのは仕方がない。

 何故なら、ライズの身に纏う雰囲気がこれまでよりも、明らかに変化していたからだ。

 その雰囲気は何と言えばいいのか、従来のライズの雰囲気にミチルとシアンのを足して2で割り、それをそのまま足したと言えばいいのだろうか。

 とにかくその様な雰囲気を新たに纏っていた為、つい言葉を詰まらせてしまった。

 

「あ、あぁ、雰囲気が随分変わったと思ってな」

『そ、そうだね。何て言うか、ライズちゃんが本当の自分を取り戻した! みたいな? そんな風に感じちゃってさ』

「そっか……。私、今回のダイブで前世の事、ちゃんと思い出すことが出来たよ」

 

 深層意識に存在する精神世界を完了させたことが引き金となったのだろう。

 目を覚ましたライズ本人も、ミチルであった頃の前世の記憶を取り戻したのだ。

 だからこそ、ああいった雰囲気を新たに纏う様になったのだろう。

 だが、一つ気になる事がある。

 それは、ライズが取り戻した記憶を受け止め切れているかどうかだ。

 

「……辛くは無いのか?」

「……正直に言えば、まだちょっと辛いかも。でも、これ等の事をちゃんと受け止められるくらいには平気になれたよ」

『ライズちゃん……』

 

 弱音をこうして俺達に言えるくらいには回復してくれたか。

 どうやら、前世のミチルの記憶を何とか受け止める事が出来ていると判断してもいいだろう。

 序にこの後で禊ぎを済ませれば、その辛いのも少しは和らぐだろう。

 

「あ、そうだ。ちょっと皆と相談したい事があるの。皆を集めて貰ってもいい?」

「それは構わないが……、先に禊ぎを済ませてしまおう。今ライズの感じている辛さも、少しは和らぐはずだ」

 

 そう俺はダイブが終わった後いつも行っている禊ぎの誘いをしたのだが……。

 その反応は、これまでと少し違っていた。

 

「へぁっ……! え、えっと……。う、うん。いいよ! やるよ! 禊ぎでもなんでも!!」

「……? 大丈夫かライズ。顔が真っ赤だが。……シャールは体調を崩す事はめったに無いらしいが、今回は念のため禊ぎを休んで……」

「大丈夫! 私は、大丈夫だから! だから禊ぎしよう! ね? アキュラ君! うぅ……、ダイブが終わってから、アキュラ君と禊ぎをするって考えると何だか体が熱くなっちゃう。これも、記憶を取り戻した弊害なのかな……?

「……そうか。ライズが大丈夫なら構わんが」

 

 そんなやり取りを終えた後、俺達は禊ぎを済ませる事となった。

 その際、ロロから妙な視線を感じたのが気がかりではあったが……。

 

(ライズちゃん……。あれ絶対アキュラ君に惚れちゃってるよね? 明らかに今までと反応がおかしいし。……僕は別に、アキュラ君の一番になれなくてもいいんだ。アキュラ君とミチルちゃんが幸せだったらね。……でも、僕の世界のミチルちゃんと、前世がミチルちゃんだったライズちゃんの場合、どっちを応援すればいいのやら。……キャスちゃん辺りに相談したほうがいいかなぁ)

 

 その後、俺達は何時も通り禊ぎを済ませ、ライズの言う相談をする事となった。

 その内容は、次のダイブについてだ。

 元々ライズに対するダイブの目的は、突然意識を飛ばす事があったり、悪夢にうなされていた問題を解決することが出来た。

 そして、その過程で新たな目標となった前世の記憶も思い出す事も出来た。

 つまり、もうライズ本人の根本的な問題は解決され、ダイブをする理由は無くなったのだ。

 だが、ライズはダイブ屋から、ダイブ出来る新たな精神世界を伝えられたのだと言う。

 その世界の名前は「謡精の楽土」。

 そこは現段階のデルタとガンヴォルトが到達しているDLv7と言う深度を誇る世界。

 つまり深層世界にある以上、この世界も何かしらの危険がある可能性が高い。

 それに、幸いな事に俺は「両翼蝕む暗黒郷(ディストピア)」を完了させたお陰か、DLv7に到達している。

 つまり、ライズの言う相談と言うのは……。

 

「つまり、ライズはダイブして欲しいと思ってる。だけど、理由も無いのにアキュラを危険な目に合うかもしれない深層世界にダイブしてもらうのも気が引ける……。こんなとこか。俺だったら迷わずダイブしちまうけどな。まあ勿論、キャスがそれを望む場合に限るけどな」

「そうね。私とデルタだったら、そうするかな。GVとイオンはどう? それに、シアンの意見も聞きたいわね。()()()()()()()()()()D()L()v()7()()()()()()()()()()()?」

「……僕もデルタと同じ意見だね」

「私も、キャスちゃんと一緒だよ」

『同じように、私も皆と同じ意見だよ。……あ、どうしてって顔してる』

『そんなの簡単よ。ねぇライズ。ここまで来たらアタシ達みたいに、心の赴くままに素直になればいいの』

「そうだな。モルフォの言う様に、こう言った場合は素直になるのが一番だ。それにその世界の名前の傾向から、安全面で考えれば真っ当な世界だと思うしよ。ここは思い切ってダイブするのも手だぞ」

「と言うより、これまでの僕の経験から考えて、そこは現状における到達点と言える世界だと思う。一筋縄ではいかないのは間違い無いと思うけど、一番の山場だと思われる問題の世界も解決出来たんだ。……二人はもう、答えは決まっているんだろう? なら、素直にそれに従えばいい」

「……そうだな。ライズ、俺はお前の世界に潜ろうと思う。理由は無い。こう言った物は、己の心の赴くままにするのがいいのだろう? ただ強いて言うなら……、またダイブして欲しいと、深層意識の世界の主に頼まれたからな。あの様子だと、約束を果たさないと拗ねてしまうだろうな」

『そうなると当然、僕もダイブする必要があるよねぇ。アキュラ君の事は、僕が護る必要があるからね。それに、ライズちゃんの事も……ね』

「アキュラ君、ロロ……。ありがとう。本当に、ありがとう!」

 

 こうして相談を終えた後、俺達はDLv7の精神世界「謡精の楽土」へと足を運ぶ事となった。

 その世界は、一言で言えば正しく楽土の名にふさわしく、また別の言い方をすれば、「両翼蝕む暗黒郷」が浄化され、本来の姿を取り戻した世界その物であった。

 ただ唯一違う点として、この世界のいたる場所で小さな建物が立ち並び、そこでは笑顔溢れる人々が牧歌(ぼっか)的に生活を贈っている所だ。

 他にも、この世界の中心地に何かを祭る施設を思わせる、俺の視点で見れば、大昔の資料の中だけに存在している神殿とおぼしき建物が存在していた。

 俺達はあの神殿にこの世界の主が居るとあたりを付け、その場所に向かった。

 その道中は、ライズ本来の気質がそのまま表れたかのような、実にのんびりとした物であった。

 心地よい風が俺達を歓迎し、騒めく草花の音色が俺達の耳を楽しませる。

 踏みしめる大地もどこか温かみがあり、道行く人々も楽し気でありながら穏やかだ。

 そんな風に俺達の居た世界では感じる事の出来なかった風景を楽しんでいる内に、世界の中心に立つ神殿へと到達した。

 この神殿もどこかノスタルジックと言えばいいのだろうか?

 そのような雰囲気を感じさせる物でありながら、この世界と調和した外観をしており、荘厳な雰囲気の中に、どこか温かみのある建造物として存在している。

 そこまでは良かったのだが、この神殿内部に居る人達は、この場に似つかわしくない程に、何処か雰囲気が暗い。

 そこで、何があったのか話しかけようとしたその時、神殿の中央から、この神殿の神官を扮するであろうライズが姿を現し、俺達を歓迎してくれた。

 その後、ライズの住んでいる部屋に案内され、そこでは俺達を歓迎する為だと思われる茶菓子等の用意を終えていた、メイド服を着ているノワの姿があった。

 但し、弱体化した状態である事と、俺達が既に正体を見破っている為、頭と背中に悪魔的な角と翼、そして尻尾が飛び出しているのだが。

 そこで行われた会話は、俺達が一度精神世界から離れた後の出来事が中心であった。

 それをかいつまんで説明すると、生まれ変わった世界に、穏やかな心を取り戻した人々はそれぞれ散らばり、そんな人々をライズ達が創造した詩魔法であり、この世界の主である「神園ミチル」は微笑ましく見守っていた、と言った所だ。

 ここまでは俺達も安心して話を聞くことが出来たのだが、その後の話で少し暗雲が立ち込めてきた。

 そう、この世界における問題の話、つまり、この世界を完了させる為に必要な話だ。

 それにライズが気が付いたのは、人々が口にするある言葉であった。

 

()()()()()()()……、か」

『え? でも、それだったらこの世界のミチルちゃんがそうなんじゃないの?』

「それだったら苦労はしないのDEATH(デス)。まあ、だから問題なのDEATHが」

「……まさか」

 

 思い浮かぶのはイクスとバタフライエフェクトとの決着が付いた後、しばらくしてその亡骸から出現したある存在。

 八つ裂きにされていたライズの魂をサルベージし、それを黄昏の女神へと託した存在。

 憎しみにに染まり、血涙を流し続ける堕ちた謡精。

 そう、ライズに見せられた記憶の最後に出てきた黒モルフォ。

 あの存在がこの世界の完了に必要な条件なのだとしたら……?

 

「今アキュラ様が考えている通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()黒モルフォがこの世界「謡精の楽土」を完了させるのに必要な条件なのDEATH。逆に言えば、それ以外に問題が無いのがこの世界なのDEATHが……」

『その肝心の黒モルフォが行方不明なのが問題って訳かぁ』

「……あの黒モルフォがライズから離れた後、地上へと飛び立っていたな。それも、当ても無く彷徨うと言った感じでは無く、何か当てがあると言わんがばかりに」

「多分だけど、黒モルフォは前世の私の時みたいに、()()()()()()()()を見つけたんだと思う」

『ちょっと待って、それって凄い不味くない? だって、その黒モルフォは今までライズちゃんと一緒に、ずっと苦しめられてきたんでしょ? もしそんな状態で適応する人に飛び込んじゃったら……!』

 

 下手をすれば、適応した宿主諸共世界の敵になる可能性が極めて高いという訳か。

 あの時のライズはまだ前世の俺であるイクスを認識出来てはいたが、そんなイクスに対しても迎撃を仕掛ける程に憎悪を蓄積させていた。

 そして、そんなライズの攻撃の中には電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力を利用した物も含まれていた。

 そう、イクスの攻撃を阻む強力な結界であったり、モルフォその物をぶつける攻撃であったりだ。

 ならば当然、電子の謡精その物もライズの持つ憎悪に染まっているのは間違いない。

 あの時見た憎悪に染まり、血涙を常に流している表情を見れば、そんな事は誰にでもわかる筈だ。

 ……これは完全に俺の手に余る可能性が高い。

 

「とりあえず、この世界の問題は分かった」

「……アキュラ様、何とかする方法でもあるのDEATHか?」

「いや、少なくとも俺達だけでは手に余る。だから……」

 

 そう、だからこの事に()()()()()()()()()()()()()と思う。

 元々俺はガンヴォルト達の目的に協力すると言う形で巻き込まれ、こうしてこのエクサピーコ宇宙を股に掛け、この世界に飛び込んでいるのだ。

 この世界の技術等、多くの収穫があったのは事実だが……、まあ問題はあるまい。

 根拠はないが、きっと彼らは喜んで力を貸してくれる筈だ。

 そうこの場に居る皆に説明した後、俺達はこの世界を後にした。

 その後、ライズの転生前の世界に取り残された黒モルフォの事を皆に説明し、俺は彼らに協力を求め……。

 

「なるほど、そのパターンか。だったら僕はアキュラに協力するよ」

「知っているのか? ガンヴォルト」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、似たような事があったのを思い出したんだ」

『あぁ、そう言えば確かに。今回のパターンは「星読」に「澪の巫女」のソレに近いパターンだよね』

『それに、憎悪に染まったアタシが居るなんて知った以上、放っては置けないわ』

「救出タイミングを考えると、その世界に飛び込むタイミングも考えないと不味そうだ。少なくとも、前世のライズの介錯が済んだ直後に転移するのでは、黒モルフォを捕捉するのに間に合わないかもしれない」

「だからと言って前世のライズが介錯される前に飛び込んでしまえば、ガンヴォルトやパンテーラ達が能力者である以上、デマーゼルに察知されて面倒になる可能性もある」

「あの時の私の能力は、地球全土を覆うくらい強化されてるから、少なくとも地球上に転移すると直ぐに気が付かれると思う」

『だったらさ、転移先は地球上じゃ無ければ問題無いんじゃない? ほら、僕達ってネイさん達から厄介払いも兼ねてソレイルを譲渡されたんだからさ』

 

 そう、俺達は少し前にソレイルを譲渡されていた。

 将来の憂いを断つ、解体する予算や書類仕事を減らす等と言う様々な都合でだ。

 そんなソレイルなのだが、様々な要因も重なり、結果数千年単位で稼働した影響で一部老朽化が深刻だった。

 が、その辺りは替えの聞く部品のみで構成されていた為、整備に関しては予想よりもずっと早く終わる事となる。

 どちらかと言えば、正しく動作するかの検査に必要な時間の方が長かった位だ。

 ともあれ結果として、俺やサーリを始めとした技術屋を始め、パンテーラ達等の力もあり、問題無くソレイルは全盛期の状態へと戻す事に成功。

 それに加え、俺達がこの世界に来る為に必要だった転移装置を組み込む事で、文字通り世界を股に掛ける生物圏(バイオスフィア)を持った宇宙船へと進化した。

 よって、ロロの言う様に地球外からの転移は可能だ。

 前世のライズによる能力が及ぶ範囲や、世界中に点在しているであろう人々の所在も、スペクトラム解析を行えばそれらの把握も容易だろう。

 

「つまり、事が起こる前の早めの時間に転移して、情報収集や準備に専念すればいいって事か」

「その通りなのだが……、いいのか、デルタ? それに、皆も」

「問題ねぇさ。元よりアキュラ達にはソレイルだけじゃすまない位でっけえ借りがあるんだ。しっかりと返さねえと、俺達の気が済まないんだよ。キャスもそう思うだろ?」

「そうよね。何だかんだ、この惑星が出来るまで世話になりっぱなしだったし」

「一部を除いて荒廃した世界だって聞いてるけど、やっぱり異なる技術がある世界は興味があるからね」

「ですが、この世界では能力者と無能力者との溝が余りにも深いと予想されます」

「ですので、能力者の方は私達エデンが引き受けさせて貰います」

「んで、そういった物を持たない人達は、あたし達の惑星に引き入ればOKよね。今全然人手足りてないし、レナルルもOKしてくれるでしょ。イオンもそう思うでしょ?」

「うん。それが手を伸ばせる範囲なら、それでいいと思う」

「でも、それでもこの世界に残りたいって思う人もきっといる。だって、どんなに荒廃していても、そこは自分たちの世界である事には変わりは無いんだから」

「まあでも、その辺りは一度あたし達の惑星に来てから判断して貰いましょう。復興するのにも色々と物資なんかが入用だろうし」

 

 それに加え、デルタ達や、引き続きパンテーラ達の協力も取り次いだ。

 他にも、前世のライズによる監視、コントロールが解けた能力者達の統率、そしてライズの前世の世界の座標の把握にパンテーラ達が名乗りを上げた。

 そうして統率を済ませた能力者達は、俺達の世界へと導かれ、そこでエデンとして組み込まれる事となる予定だ。

 それ以外にあの世界の座標に関しては、パンテーラ経由で黄昏の女神の協力を仰ぐ予定との事。

 そして無能力者(マイナーズ)側の人々はデルタ達が、正確に言えばネイ達が引き受けてくれる事となった。

 今、惑星ラシェーラは土地が多く余っており、人手は常に求められている状態だ。

 つまり、大昔の惑星アルシエルの時の様に人々を迎え入れることが出来る。

 とは言え、無理に移住してもらう必要も無いだろう。

 何故ならば、無理矢理攫われた人達(イオンとネロ)がどうなったのか想像すれば、それも容易いからだ。

 だからそういう人達は、先にネイが言った通りの対応をすれば大丈夫だろう。

 こうして話を纏めた俺達は、ライズの前世の世界で起こりうる出来事に対応する為に、様々な準備を整えるのであった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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