【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる 作:琉土
ガンヴォルトとアスロックとの戦いの後、流石に三連戦をこなした彼に対して、これ以上の連戦はフェアでは無いという理由で小休止を入れる事となりました。
実はもう彼の実力を皆は認めているのですが、せめて一矢報いたいと思っているようなのです。
だから私も、皆と作戦会議をしているのです。
但し、ニムロドは先ほど綺麗になった海で未だに泳ぎ回っているようですが……
確かにあのような綺麗な海を見たのは私も初めてではあったので、海を愛している彼の中の衝撃も相当な物であったと思います。
そして今までの戦闘の結果も、私の中では予想通りの展開でもありました。
これまでの彼の戦闘データと比べ、今の彼は以前私が対峙した時と同じ様に、明らかに第七波動の力が以前よりも増しています。
そしてその戦い方も含め、まるで今までの彼は、何かの枷を付けていたかのような印象すら与える程に落差が激しいのです。
それに彼の髪の色と瞳の色が、完全にシアンと同じ色になっていたのが気になります。
海を綺麗にしていたあの時、彼も
……彼は私が敗北した後、何らかの方法で
そう考えればこの事には納得が出来ますが……
何よりも重要だと思うのは、明らかにこの力は電子の謡精の範疇を越えている事です。
私の集めた情報を考えると、本来ならばあのような力など無いはずです。
もしかしたら、何かしらの理由で電子の謡精が成長し、あのような力を振るう事が出来るようになったと考えるのが自然だと私は思うのです。
「
「確かにそっスね、テセオさんが今まで見た中で、明らかに頭おかしいレベルで強いっスからねぇ。まあ、このテセオさん程じゃないですケドっつってーww」
「そうやって油断していると、俺みたいに足元を掬われるぞ、テセオ」
「油断大敵、アスロックの言う通りだ、テセオ。僕も油断をするつもりは無いが、彼の戦闘能力は未だ未知数。雷撃の能力がメインだと思っていたが、ニムロドとアスロックとの戦闘を見るに、彼は第七波動以外の未知の力を扱う様だ。気を引き締めなければ、僕らも敗北を喫するだろうね」
「…………」
「どうしたのですか、ジブリール?」
「……なあパンテーラ、俺…アタシ、おかしいんだ。あの戦いの後、ガンヴォルトの顔を見ると胸の高鳴りが止まらないんだ。あの雷撃の、雷の大剣の衝撃が、アタシの中で疼くんだ……これがお前の言う愛…恋って奴なのか?」
「WATTS!? ジブリール、彼の
「…それもまた愛ですよ、ジブリール。貴女はやっと、素直になれる相手を見つけたのですね」
「ジブリールは、彼ノ齎す
「っていうか、ガンヴォルトって雷撃以外の攻撃手段になるとてんでバラバラなんスよね。パンテーラの時も、ニムロドの時も、アスロックの時もそうっスけど、まるで漫画やゲームからアイデア引っ張って来てるって言うか……もし本当にそうなら、厨二病にゲーム脳まで持ち合わせた頭の可笑しい奴ww って煽ってやれるんすけど…でも、この線は正直微妙っスね。何しろ今ネットで
もしテセオの言う事が本当だとするのならば、私は神を呼び出す程の相手を敵に回していたというのですか。
…ダメです、やはりガンヴォルトに勝てるヴィジョンが全く見えません。
テセオ以外の皆も、この事実が堪えているみたいです。
「……大丈夫っスよ、このテセオさん、奴に対する秘策をもう用意してあるっスから」
「……秘策ですか?」
「半信半疑だけど、僕も気になる……詳細を教えてはくれないかな?」
「それはですねぇ……このテセオさんの能力を応用して、相手がトラウマに感じる姿を見せる事が出来るっスけど、これを更に応用して、
ガンヴォルトのトラウマですか……無難に考えるとあの時の私自身か、撃たれてしまったシアン辺りが出てきそうだと思いますが。
彼は私を見ても特に反応はありませんでした。
では、彼のトラウマはシアンなのでしょうか? もしそうだとしたら、勝ち目はやはり薄いと言わざるを得ないでしょう。
彼女の力は確かに私達に必要な力である事に間違いは無いのですが、彼女自身、戦闘能力は皆無に等しいはずです。
そう思っていたのですが……向こうの陣営の方の話をテセオがちゃっかり能力を利用して盗聴していた内容に、私は驚きを隠せませんでした。
紫電達はあの異空間の内部で、彼と同時にシアンと
しかも彼女達は彼の蒼き雷霆の能力を使いこなし、彼と共に紫電達を追いつめたのだとか。
……これが理由で彼は紫電達に勝利する事が出来ていたのですね。
あの異空間に行く前は、左腕を失った上に既にボロボロの状態であったと言うのに。
戻ってきた時、傷が癒えていたのも彼女達の能力による物だと考えれば納得です。
ですが、彼女達はあの時紫電に取り込まれていたはず……それに対しての答えは、余りにも現実味の無い内容でありました。
あの時紫電達と戦っていたシアン達は、未来から来た存在であるという信じられない内容でした。
……どうやらその事実を確認する為に、シアンはアリスと勝負をする流れになったみたいです。
丁度いいので私達もその内容を見ていたのですが…決着は一瞬でした。
始まると同時に、流れる様に彼のSPスキルであるあの雷の大剣を、アリスの喉元に突きつけたのです。
その事に驚いている彼女を後目に、その四肢を時間差で発生させていた鎖で拘束し、あっと言う間に彼女は戦闘不能となっていました。
『私の勝ちだよ、アリス』
『私、何も出来ませんでした……』
『アリスの能力はGVの横から見てたから分かるけど、使わされると物凄く面倒になりそうなんだもん。だから封殺させてもらったよ?』
『未来から来たシアン達は、今の僕よりもずっと能力の訓練や模擬戦を続けていたんだ。それに、僕自身の戦闘もずっと横から見ていたからね……だからこう言った直接戦闘能力は僕よりもずっと高いんだ。僕自身、時折時間を作って彼女達の模擬戦を見たり、手合わせをお願いしたりした事もある。ただ、その時は互いに触れられなかったから本格的な手合わせは出来なかったけど。その手合わせの内容は、情けない話だけど何時も僕は負けていたんだ。それ故に、アシモフ以外の僕の能力の師匠でもあるんだ、彼女達は』
シアンのあの流れるような動きは、お兄様も唸る程の見事な物でした。
それに、あのガンヴォルトの能力の師匠でもあるだなんて。
これならば、テセオの作戦も上手く行くかもしれません。
……それにしても、一体どうしてシアン達は、あそこまでの研鑽を積もうと思ったのでしょうか?
『モルフォも同じくらい強ええのか……これじゃあアリスの事笑えねえぞ』
『鎖で繋がれる事は無かったけど、アリスのあの負け方は僕の最初の負け方でもあるんだ、ジーノ』
『私も頑張れば、シアンみたいに強くなれるのかな?』
『ミチル様が望むならば、私がアキュラ様と同様の稽古を付けさせていただきますが』
『ミチルが望むなら、アタシ達も手伝うわよ?』
『ありがとうノワ、モルフォ、機会が合ったらよろしくお願いします』
『私、折角
『確かアリスは私達の第七波動の力の余波が混ざったお陰で、パンテーラから独立出来るようになったんだったよね? もしかして
『ええ、この事を以前からアシモフにも相談して、最近やっと物に出来るようになりました。 オノゴロフロート戦ではエデンが来る事を警戒して温存していたのですが…』
『なるほどね…実際、初めて使ってみてどうだったんだ、アリス?』
『始めて使った時、専用の服を用意せずに好奇心で使った結果、服がはじけ飛んでしまいました。……幸い周りに人は居なかったので、即座に服を私の能力で再構成しましたけれど、正直、あの時はかなり恥ずかしかったです』
『モルフォと同じミスをしてたのね、アリス』
『そうえば、私も電子の謡精以外に何か違和感があるのを感じるの。もしかして、私もアリスちゃん達と同じ事が出来るのかな?』
『ミチル様、先ほどの話を聞く限りでは、今それを試すのは宜しくないかと思われます』
『……ミチルはそのままでいてくれ』
アリスのあの力の秘密、それがシアンの力の余波が混ざった事だったなんて……それにアリスの言っているアレと言うのが気になります。
始めて使った時、服がはじけ飛んだとも言っていましたけれど……その事を聞いたお兄様が一瞬険しい表情をしましたが、誰も見ていなかった事に安堵して元の表情に戻っていたのが何所か可笑しかったです。
ですが……電子の謡精とシアン、そしてミチルが会話をしている、そんなあり得ない光景が問題なのです。
テセオの情報通りならば、あそこまで接近していれば間違いなく、あの三人の間に何かしらの反応が起こり、私の力で容易くその力を確保出来るはず。
それなのに、何も反応を示さずに居るのです。
それに、力の余波だけでアリスがあそこまでの力を身に付けたと言うのも問題です。
シアンの第七波動の力がそれ程までに高まっていると言う事も、そして、その事を私が感知出来ていない事もです。
ガンヴォルト…彼が彼女の力を今までずっと隠蔽していたと言うのですか。
そして彼は何らかの方法を用い、シアン達をミチルによって引き剝がされるのを防いでいるのですね。
そう思っていた私達を後目に、アリスがこちらの方を見ているのが気になります。
……彼女の大本は私なので、テセオの能力による盗み聞きに気がつかないとは思えません。
『所で…盗み聞きは感心しませんよ、テセオ? 随分と前からしていたみたいですけれど…』
「ヒェッ…テセオさんの事バレてるし…」
「コピーとはいえ、元は私でもあるのです。気がつかれて当然ですよ? それにアリスのあの反応……どうやら今の会話を私達に聞かれても問題は無いと判断したのでしょう」
『無能力者の殲滅を語っていた皆が、話し合いと言う選択肢を取った……今の皆ならば問題は無いでしょう。これは独り言なのですが……私がこうなってしまった根本的な原因、それは
素粒子の謡精女王…ですか。
予想はしていたのですが電子の謡精はやはり成長していたのですね。
この第七波動は呪いと狂気が力の根源であり、それの力の余波を浴びた事が理由で、アリスは私とは違う自己を確立できたという訳ですか。
ですが、この情報は本来私達に伝えていい物では無い筈です。
……貴女は私の事は兎も角、未だG7の……エデンの皆を大事に想ってるのですね。
そうで無ければ、この様な情報をこちらに流すなんて事は無いはずです。
私達がもし彼女達を手に入れ、何も知らずに
「…………アリス、貴女は……」
「
「パンテーラ、何故星の光がエデンの滅亡ヲ示したのカが分かった気がします。彼女達ノ電子の謡精……いえ、素粒子の謡精女王の力ノ根源が呪いト狂気だから。そんな彼女達ノ魂ヲパンテーラが普遍化した場合、呪いと狂気ニ犯されてアリスと同じ……
或いは、ソレ以上に悲惨な結末ガ待っていたのかもしれませン」
「つまりガンヴォルトは、内部にヤバイ
「アリスが俺の過去の事をガンヴォルトに話さなかったのは、まだ俺達に対する甘い
「あの野郎、そうなら最初から言えってんだそう言う回りくどいとこばっかパンテーラに似やがって! ……まあ、あいつの元はパンテーラのコピーなんだから当然か」
「俺は最初から信じていたぜ、
そうしてガウリはガンヴォルトと対峙する事となりました。
そうして始まった試しなのですが、どうやらガウリは戦うつもりは無く、エデンに所属した後も何時も研鑽を重ねている彼の第七波動「プリズム」とダンスの融合を、彼の前で披露するつもりの様なのです。
ですがそれは私達であれば兎も角、何も知らないガンヴォルトからすれば、下手をすると攻撃していると思われる行為です。
……ガウリは自身の行動に対し、ガンヴォルトがどう動くかで試すつもりなのですね? だからこそ、「心を試す」という訳なのでしょう。
ガウリは早速宝剣を取り出し、
その姿はダンサーとしての彼の形を体現した上で、大きなガラスの靴を履いているかの様な脚部が最大の特徴です。
そうして彼独自のダンスが披露される事となりました。
ガウリは早速戦場全体をプリズムの能力による水晶でコーティングし、自身が最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整え、規則正しく水晶の柱を創造し、楽しそうな表情でガンヴォルトに向かって滑り出しました。
ガンヴォルトは向かってくるガウリに対して銃を構えようとしたみたいなのですが、殺気を感じなかったのが理由なのでしょう。
ガンヴォルトは構えを解き、発砲をしませんでした。
そんな彼を見て、ガウリは更に笑みを浮かべ本格的なダンスを彼に披露したのです。
ガウリのダンスはお兄様も気に入っているほど見事な物なのです。
それをあんな間近で見れると言うのは、ある意味羨ましい事だと私は思います。
……もうこの時点で、ガウリの試しは終わっているのでしょう。
彼はもう自身の想うがままに今まで磨いて来た研鑽を披露する事に専念する様です。
時には踊りながら水晶を粉の様に規則性を持たせて散りばめ、私達の目を奪いました。
またある時には最初に作り出した水晶の柱の天辺に、れぞれ違うパフォーマンスをしながら飛び移り、見ている皆を魅了したりしました。
そんな彼の動きを見てガンヴォルトは、何処か感心したかのような表情を浮かべながらガウリの動きを追いつつ見続けていました。
そしてガウリのダンスが終わりポーズを決めた時、その場にいた全員から拍手が巻き起こった後、それと同時に、まるで魔法が溶けたかのように水晶が砕け散り、ガウリは元の姿へと戻りました。
そんなガウリにガンヴォルトは近づきながら笑顔を浮かべつつ手を差し伸べました。
ガウリはそんな彼に同じく手を差し伸べつつ眩しい程の笑顔を浮かべ、
互いに握手を交わし、私はこの光景に新たな愛を見出したのでした。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。