【完結】輪廻を越えた蒼き雷霆は謡精と共に永遠を生きる   作:琉土

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第九話

 僕はガウリの第七波動を利用した見事なダンスを見終わり、感服して互いに笑顔で握手を交わし終えていた。

 彼が言うには、僕の対応次第ではダンスでは無く戦いになっていたとの事であった。

 彼は最初から僕の実力を認めてくれていた。

 彼の行為は何も知らない相手にとっては、下手をすれば攻撃とも取れる行為。

 だからこそ、僕の心をこう言った形で測って見たかったのだと彼は言った。

 そして僕は彼の期待に応え、武器を下ろし彼のダンスに見入った。

 あの時の彼は殺気が無かったので、その自身の感覚を信じたのが功を奏した理由であった。

 そして僕は次の相手…テンジアンと対峙する事となった。

 彼についてアリスに聞けたのは能力の事、エデンを実質指揮している事、剣術が得意である事、そしてアリスの…いや、パンテーラの義理の兄である事の四点のみで、アスロックとガウリの時と同じく、過去の事について聞く事は出来なかった。

 彼も同じく、ここに至るまでに僕には想像も出来ないような経験をして来たのだろう。

 アリスが彼の過去について話す事が無かったのだから。

 ……彼の能力は超冷凍(オールフリーズ)と呼ばれる能力。

 その名の通り、あらゆる物を一瞬で凍てつかせるのだそうだ。

 能力の効果範囲が広い反面、その分取り回しが効きづらいのが弱点である様だ。

 だけど、それは大量の冷気を薄く束ね、刃に纏わせて取り回しを良くしている。

 これは彼が得意である剣術を生かす為でもあるのだろう。

 これに加えて宝剣による強化が加わった事で、更に強化されているとアリスは予測している。

 

「ガンヴォルト、君の海内無双(かいだいむそう)とも言える実力を、そしてガウリの意図を読み切り手を出さなかったその心を見せて貰った。……実に見事な物だったよ。正直、今すぐにでもエデンの同志として迎え入れたい程にね」

「……その気持ちは嬉しいが、僕はその誘いに乗るつもりは無い。フェザーはこれから新たな活動が始まろうとしている。だから僕は、その手伝いをしたいんだ」

「新たな活動? 僕としては興味津々(きょうみしんしん)たるものがある。是非聞かせてもらいたいものだ」

 

 僕はアシモフに目を向ける。

 アシモフは話をしても問題無いと首を縦に振った。

 紫電達もどうやら気になる様で、僕に興味を持った目を向けている。

 アシモフから許可を得た僕はそれをテンジアンに話す事となった。

 

「フェザーはこれまでのテロリズムをやめて地道に能力者の人権を訴える事、そして、能力者になりたい無能力者を能力者にする事、逆に無能力者になりたい能力者を無能力者に戻す事が活動のメインとなる」

「テロリズムを辞めるのは兎も角……驚天動地(きょうてんどうち)、無能力者を能力者にするだって? フェザーはその様な技術を得ていたのか。皇神にもその様な実験があったと知ってはいたが……」

「その通りだ、テンジアン。最も、僕もこの事を知ったのは最近になってからの事だけどね。この方法をこの場で詳しくは話せないけど……少なくとも、痛みも時間も取らない方法だ。このお陰で、もう千人ほど無能力者を能力者にする事に成功している。実際にフェザーには元無能力者の能力者が新たに多数所属してくれたお陰で、百人にも満たなかった人数も大幅に増えている。もっとも、テロリズムをやめる事が決まった事でさらに増える予定らしいけど。……この場にも実際に無能力者から能力者となった人が居たりするんだ」

「……能力者を無能力者に戻すと言うのはどういう事なのか説明して欲しい」

「そういう需要が少なくともこの国には存在しているんだ。今は少しづつだけど、この国において能力者に対する偏見が緩和されつつある。だけど、やはり能力者に対する差別は未だ多いのが現状……だからこそ、望まぬ能力を得た能力者は無能力者になりたいと望んでいるんだ」

「フェザーのやりたい事は理解したが、君の一念発起(いちねんほっき)が分からない。……君はこの世界をどうしたいんだ?」

「僕自身の最終的な目標は能力者と無能力者が手を取り合えるようにする事だ」

「…その様な無理難題、出来ると僕には思えない」

「流石に僕もその事は承知の上だよ。実際に目指そうとすれば、まず僕達が生きている内に成し遂げられるものでは無いのは間違いない。それに、目指した結果が望み通りである保証も無い。……この世界の現状、それが出来るのは極少数なのが現実だ。だから僕はその為の種を撒きたい。具体的には、能力者には能力者の居場所を用意したいと考えている」

「……それは無能力者の殲滅と言う形で成せばいいのではないのか? 奴らは僕達能力者を迫害して来た……。君程の力を持った能力者ならば分かるはずだ」

「僕はそれには反対なんだ。無能力者側の為だけじゃない、能力者側の為でもあるんだ。……恐らくだけど、元々エデンはシアンの力を何らかの形で利用して、世界中の能力者の力を引き上げて戦争を仕掛けようとしていたんじゃないのか?」

 

 僕のこの疑問に対して、テンジアンは目に見えて驚きを隠す事が出来なかった。

 どうやら、僕の予測は当たった様だ。

 何しろパンテーラが電子の謡精(サイバーディーヴァ)を狙っていたのだ。

 そしてエデンの目的は無能力者の殲滅。

 どうやって可能とするのかを考えればこの答えに行き当たるのは当然なのだ。

 

吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)、まさか殲滅の手段を把握されるとは」

「エデンの目的とシアン達の力を把握出来ているからこそさ、テンジアン。……話の続きだけど、仮にこの計画が上手く行ったとしてもだ。無能力者の殲滅と引き換えに、能力者の殆どが犠牲となるだろうと僕は考えている。その結果人類全体が最終的に滅びてしまう事も……ね」

「それは…パンテーラが生き残ってくれれば問題は無い。彼女の能力が成長すればどうなるか、アリスを知っている君にならば分かるはず」

「そのアリスから聞いた話なんだけど、彼女の能力で死んだ人を生き返す場合、彼女のイメージが色濃く反映されたまやかしに過ぎないらしいんだ。何故アリスが大事に想っていた殺されたお母さんを生き返らせなかったのか、疑問に思わなかったのか? つまりはそう言う事なんだろう。……アリスはとても優しく、賢い子だ。その大本であるパンテーラも、きっと同様なのだろう……。戦いが続いている最中は兎も角、戦いが終り、皆を生き返らせてしまえばその事に気がついてしまうはず。果たしてその時、彼女は彼女のままでいられると思うのか? 死んでしまった能力者(まやかし)に囲まれて、冷静でいられると思うのか? 僕にはとてもそうは思えないんだ、テンジアン」

「……だからアリスは、僕達エデンの目指す楽園の事を、彼女のSPスキルの詠唱にある偽りの楽園と比喩したのか! 当意即妙(とういそくみょう)、君の言う通りだ、ガンヴォルト。まやかしだと気がついてしまえば、パンテーラは…我が妹の心は壊れてしまう…!」

 

 この時のテンジアンは絶望をしたかのような表情をしていた。

 ……世界中を探せばエリーゼと似た能力者を探す事も出来るだろう。

 だけど、無能力者側だって馬鹿じゃない。

 そう言った能力者は真っ先に狙われ、最終的に暴走したり、殺されたりする。

 皇神は既に魂に乗って能力が拡散する事を把握しているんだ。

 生き残るために手段を選ばずそういった能力者を始末し、そして隔離するだろう。

 能力者の…パンテーラの手に渡らない様に。

 そして最終的に僕の言った通りの…アリスの言う偽りの楽園が完成するだろう。

 ……恐らくだけど、このまま戦えば僕はテンジアンに余裕を持って勝つことが出来るだろう。

 第七波動とは意思の力。

 その意思が砕かれる寸前に追いつめられている彼は相当にその力が削がれているはず。

 ……だけど、それではダメなのだ。

 

「テンジアン……エデンに居る能力者達は、皆パンテーラの事を慕っているのかな?」

「……当然至極(しごくとうぜん)、僕を含めたG7も、そしてここには居ないポーン達皆も、パンテーラを心から慕っているよ」

 

 エデンにはやって欲しい事がある。

 無能力者の殲滅では無く、能力者の居場所を作ってもらう事を。

 だから僕は希望を与える。

 力を得るのに、その様な事(シアン達を得る事)等する必要は無いとエデンに伝える為に。

 

「……宝剣を展開してくれ、テンジアン。この戦いの中で、エデンに新たな道を示す事が出来そうだ」 

瞠若驚嘆(どうじゃくきょうたん)、ならばその新たなる道を僕に見せて欲しい。行くぞ、ガンヴォルト!! 如何かその言葉がまやかしで無いと僕に示してくれ!」

 

 テンジアンが宝剣を出現させ、変身現象(アームドフェノメン)を引き起こした。

 その姿は、貴族の騎士を思わせるような外見をしていた。

 その両肩にはショーテル等の独自の形をした剣がマウントされており、アリスの予想通りに、その能力は強化されている様だ。

 僕が希望を与えた事でテンジアンの意思が復活し、その闘志を燃え上がらせている。

 そうして僕とテンジアンとの戦いが始まった。

 彼は真っ先に戦場を超冷凍の能力で氷漬けにし、僕の立ち回りを制限してきた。

 それと同時に、彼は後方に氷の刃を発生させつつ僕に切りかかる。

 だけど、そうやって僕の立ち回りを制限して来る事は予測していた。

 僕は波動の力を足に込め、滑りを防止しつつ彼の攻撃を回避し、ダートを打ち込みつつ氷の刃を破壊する為に雷撃麟を展開した。

 それに対してテンジアンは両肩の刃を即座に組み合わせ、円月輪の形にして僕に投げつけた。

 僕の雷撃を受けている筈なのに、全く怯みもせずに攻撃を果敢に仕掛けてくる……。

 油断しているとあの氷の剣で真っ二つにされてしまうだろう。

 そしてその剣の斬撃の軌跡も氷の刃として設置される。

 これを放っておいたら僕の行動範囲を大幅に制限されてしまう。

 僕は雷撃麟を展開しつつ回避行動を取りつつこの氷の刃を破壊していく。

 ……彼の斬撃は波動防壁をも両断するようだ。

 これを考えるに、彼のあの氷の刃は最低でも絶対零度。

 もしかしたら物理法則すら無視してそれ以下の超低温をも実現しているのかもしれない。

 一応波動防壁で彼の斬撃を拮抗させる事は出来るが、何時もと比べて当てには出来ないだろう。

 もし受け止めるのならば、SPスキルで受け止めるしかないか?

 だけど、受け止めるだけならばルクスカリバー所か、スパークカリバーですら過剰すぎる。

 もっと小規模に、効率良く力を籠める必要がある。

 ……このイメージは転生前の僕の居た世界ではポピュラーな物だ。

 恐らく、この世界においてもそうだと思う。

 僕はダートリーダーの銃口から雷撃の刃を展開し、テンジアンの氷の刃を受け止めた。

 名前は雷閃剣とでもしておこう。

 僕は左腕からも同じような雷撃の刃を展開し、テンジアンに切りかかった。

 この不意打ちの攻撃に対してテンジアンは虚を突かれ、浅くその胸に傷跡を残した。

 これを切欠に、戦況は徐々に僕に傾いてきた。

 だが、それと同時に彼の攻撃も激しさを増していく。

 そして、その戦況は最終局面に突入しようとしてた。

 僕自身は致命傷を避けつつ所々傷を掠らせている状態だった。

 これは新型のプロテクトアーマーによって、強度等を変化させる事で上手く氷の刃を受け流す事が出来たからだ。

 対するテンジアンは大分僕の雷撃を受けている様で、正に満身創痍と言ってもいい状態であった。

 ……あのテンジアンの事だ。

 ここまで追いつめれば間違いなくSPスキルを使ってくるだろう。

 それも全身全霊を、決死の覚悟を込めた意思による必殺の一撃を。

 

「テンジアン、決着を付けよう。……僕は逃げも隠れもしない、小細工は不要だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()

「…()()()()()()()()()()()()!() 僕はこのままやられる訳にはいかない……。極寒の空に瞬くアルコル……七刃が描く斬撃の軌跡……雪溶けの後に残る者は無し! 僕の全身全霊を、乾坤一擲の一撃を受けて貰おう! 羅雪七星(らせつしちせい)!」

 

 テンジアンはこの時、決死の遺志により能力の対象範囲を拡大させ、空間、時間、魂と言った概念すらも氷の中に閉ざし、凍てつかせた。

 そうして存在事凍てついた敵を七本の剣によって叩き割る、概念殺し・確殺の剣。

 ただし、余りにも強大な第七波動は使用者をも凍てつかせ、その身を破滅させる。

 それが羅雪七星()()()

 僕は彼の氷に閉じ込められていたが、事前にテンジアンと協力強制をしていた為、

その意識を残す事が出来ていた。

 もう既に六連撃を受けており、上空からの一撃を受ければ、僕自身粉々に砕け散るだろう。

 僕は既にチャージングアップでオーバーヒート状態を回復しており、即座にテンジアンとの協力強制によって強化された雷撃麟によって、概念諸共凍てつかせた氷を打ち破り、雷閃剣でテンジアンの上空からの一撃を受け止めた。

 

「馬鹿な! 僕の氷は、君と言う概念諸共凍らせたはず!」

「……迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)! 新たなる道を示す、希望の雷光となれ! 煌くは雷纏いし聖なる大剣…新たなる蒼雷の暴虐よ、敵を叩き切り、射し貫け!! ……テンジアン! これがエデンに示す電子の謡精に代わる力だ! ルクスカリバー!!」

 

 彼は驚愕の表情で自身の一撃を受け止めた僕を見ていた。

 僕の放つ雷の聖なる大剣の一撃は彼の持つ剣を破壊し、その衝撃で倒れ、無防備となったテンジアンにその切っ先を突きつけた。

 その時のテンジアンは茫然としており、何が起きたのか分かっていない様子だった。

 

「僕は、負けたのか……。それにおかしい、何故僕自身凍てついていないんだ? あの時の僕の覚悟は、間違いなく僕自身の事を考慮していなかったはずなのに」

「……それは僕自身の力も利用する事が出来た事で、自身の第七波動の余波に対する防御に回せる余裕が出来たからなんだ、テンジアン」

「ガンヴォルトの力を…だと?」

「そして僕自身、そんなテンジアンの力を利用する事で、あの概念諸共凍てつかせる氷に抵抗することが出来たんだ。君があの決死の一撃を放つ前に、僕はこう言った。『真っ直ぐに打ち込んで来い、テンジアン!』と。そして君は『良いだろう、ガンヴォルト!』と同意した。こうやって互いの同意を得る事で、相手の想像力や想いの力を利用し援用することで、自分にとって有利に事が運ぶよう、相手諸共「場の流れ」そのものを誘導する高等技術。これを僕は「協力強制」と呼んでいる。これは敵同士以外にも、味方同士でも扱う事が出来るし、巻き込める人数も制限が無い。……僕がエデンに示す新たな力、新たな道を目指す、その為の前提の力だ」

「協力……強制……このような力があるとは……」

 

 そうして僕はテンジアンとの決着を着け、エデンに新たな道を目指す為の力をその身をもって示す事に成功したのだった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




※雷閃剣について
所謂ライトセイバー、ビームサーベル、ゼットセイバーに該当する物。
もしゲーム内で存在していた場合、使用すると一定時間雷の刃を展開し、
ダートを打ち込む代わりにこの雷の剣による近接戦闘が可能となる。
SP消費は0であり、雷の刃を展開時に再度使用すると仕舞う事も出来る。
リキャストは仕舞った時に発生する。

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