Fate/GrandOrder Arcade Real 作:ウータシリウス
「アイリーン・アドラー……キャスター?」
彼女の名前とクラスを改めて復唱する。
信じられない。彼女はサーヴァントなのか? 現実なのか?
オレの頭の中がゴチャゴチャになっていく。空想と現実が入り混じって、真実が見えなくなっているような気がした。
「コーヒーはまだかしら? 私、待たされるのは嫌いなの」
「え? は、はい……インスタントの奴でよければ……」
彼女の毅然とした態度に、オレは易々と言いなりになっていた。めったに出さないティーカップを取り出して、お湯を沸かし、インスタントのコーヒー粉を用意し、彼女の前に入れたてのコーヒーを差し出した。
「ふーん。香りは妥協点ね。味は……まぁ、素人が入れた物なら妥協点ね」
素人って、ただのインスタントコーヒーだけど。
「えっとそろそろ話してもいいかな?」
「あ、そうね。まだお互い何もわからないわね」
「まず、君はサーヴァントで合っているよね?」
「えぇ」
「それで、オレはお前のマスターで良いんだよね?」
「そうじゃないの? カードは持っているのでしょ?」
「カード……あ!」
この状況下でカードとなると、あれしかない。コナン・ドイル作品集の間に挟んでいたカードを取り出す。
「変わっている……」
真っ白だったカードに人物が映っている。それは目の前で紅茶を啜っている、アイリーン・アドラーと瓜二つ、いや本人そのものだ。
となると、彼女はこのカードから出てきたということになる訳?
「そう、それ。あなたが私のマスターの証拠。霊呪が後ろに刻まれているはずよ」
カードの裏側には、確かに赤黒い刻印が刻まれていた。3画の霊呪が。
「それが私とあなたを繋げる魔力回路みたいなもの。そのカードに念じれば、私を強制的に従わせることできるわ」
「マジでフェイトの設定が来ている。つまりは聖杯戦争が行われているってことなのか?」
「私が召喚された以上、この町で行われているはずよ」
つまり、セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、ライダー、バーサーカーの6騎が今この瞬間、どこかで戦っているのだろう。
「アイリーン……」
「聖杯戦争の最中で真名呼びするなんて、あなたは愚かね」
「あ、えっと……。キャスター」
「よろしい。今後は気を付ける事ね」
「キャスター、君は戦えるの?」
アイリーン・アドラーが戦える人物とはとても思えない。だって、シャーロック・ホームズに出てくるオペラ歌手なのだ。しかもただのオペラ歌手ではない。名探偵の彼を唯一出し抜いた事で有名で、一説によればあのホームズが唯一気にかけた女性とも言われている。
「そうね。サーヴァントである以上、戦えなくはないわ。ですが、あまり戦闘は期待しないでほしいわ。私、ただのオペラ歌手ですし」
わかっていたさ。彼女が戦闘向きではないことぐらい。ゲームの方だって音楽家(アマデウス)や童話作家(アンデルセン)も英霊として召喚されるんだから。彼女をFGOでの立ち位置に例えると、サポート役になるだろう。つまり、オレの手札は戦力となる力がないということになる。
「宝具はどんなもの?」
「そうね……。わかりやすく言えば、相手の戦意を削ぐといったところかしら?」
デバフ系でした。もしかしたら宝具は攻撃系と淡い期待をしていたけど。
「そういうわけだから、主な戦闘はあなたに任せるわ」
「任せられても困るよ! オレ、戦ったことないぞ!」
「戦ったことなくても、護身術の1つや2つ心得ているでしょ? 私の知り合いには、頭脳派のくせに戦う術を習得した男もいるし」
それはシャーロックホームズの事だろう。
「この世界で魔術師はいないの! 護身術って言っても不審者レベルの対応しか……!」
「はいはい、言い訳はそれぐらいでいいわ。今日はもう遅いみたいだし、続きは明日からってことで良いわね?」
マイペースに話を切り上げる彼女に、オレはため息を出す。だって、オレが知りたいことが半分もわかっていない物。
しかし、確かに今日はもう遅い。明日も平日だ。今は休息を取ることを優先させよう。
「ところで、私の寝室はどこかしら? それ以前に、あなたの住居はどこかしら?」
「住居って、ここがオレの住んでいる家だけど?」
「面白いことを言うのね。合格点よ。だってここは倉庫でしょ? こんな狭い家聞いたことないわ」
サーヴァントって召喚された際、現代の知識をインプットするんじゃなかったけ?
「ここは集合住宅のボロアパートの一室で。オレが住んでいる場所。一軒家とか高級マンションを期待しないでね」
「うそ……。こんな狭い所で人って暮らしていけるの? それじゃ、私もここで過ごすわけなの?」
ずいぶん失礼なことを言うな。これでも母と二人暮らしにはちょうどいい広さなんだ……。
「あぁぁ! しまった!」
「何をいきなり騒いで!? 驚いてこぼすところだったじゃない!」
「そうだよ! キャスターが家にいると、後々面倒なことになる!」
「私の存在が邪魔だと言いたいの!?」
思っているけど、口には出さない。
「そうじゃなくて、何も知らない人から見れば、オレは親がいない間に美女を連れ込んだ見ないなレッテルを張られるの!」
「何一つ間違っていないじゃない。実際にあなたが私をここに呼んだんでしょ?」
「好きで呼んでないよ! あ、そうだ霊体化だ! キャスター霊体化してみてくれ!」
サーヴァントには霊体化という見えなくなる技がある。これで母さんから見つかる心配は……。
「あなたが、魔術師のマスターならできたかもしれませんわね」
そうだった……。士郎とアルトリアの関係が確かそんな設定があった。
「なら、押し入れに閉じ込めておけば……。いや、万が一押し入れを見られたら、オレは拉致監禁の疑いがかかる! どうすればいいんだ!?」
こういう時、ラノベやゲームの主人公はどう切り抜けたっけ? 焦って思い出せない。
「私のマスターなら、少しは落ち着きなさい。『微睡みの歌(スリープソング)』
「あ……」
彼女が何か仕掛けたのはわかった。耳に入ってくるのは美しい女性の歌声。その歌はオレの思考を止め、体中の力が抜けていく……。瞼が徐々に視界を……閉じて……。
「ZZZ……」
「さて、私は……」
同時刻 某所
「え……? え……?」
少女は戸惑っていた。自室で勉強していた最中、いきなり部屋が光りだしたからだ。
「な、何よ! どうなっているの!?」
部屋の中は自分だけで、誰も答えてはくれない。それでも、今自分の目の前で何かが起きていることは理解できた。
光は部屋の中心に集まり、影が一つ降り立った。
「初めまして、貴女様が私のマスターですね」
「だ、誰?」