与太過劇フォロワースタァライトーオーバープレイー 作:ゆるり
赤ちゃんになってしまった葦海 シスア(あしみ しすあ)、布袋 瑠光奈(ほてい るみな)を元に戻すために、白川 鶴子(しらかわ るつこ)、九十九 猩陸(つくも しょうり)、黒丸 雪理(くろま せつり)、永久 千代(ながひさ ちよ)の4人は、白銀 望(しろがね のぞみ)の部屋に来ていた。
永久が一通りの説明をすると、白銀はため息をついて、
「それで、私のところに来たと」
「うん。でも・・・」
永久が白銀の部屋を見まわす。
彼女は発表会の台本のチェック中だったようなのだが、
部屋には件の台本の他に舞台衣装の資料。小道具、大道具の設定資料。舞台装置の進行表など、色々なものが散乱していた。
「前に来た時よりも、増えているような・・・?」
永久の指摘に、白銀は困ったような顔をして、
「昔のクセでね。つい、色々な事を引き受けてしまって・・・」
白銀は、永久の腕に抱えられている布に包まった布袋を覗き込む。
あーいと声を出しながら、小さな手を白銀に伸ばす。
「・・・とりあえず、この騒ぎをどうにかしましょうか」
「頼んでおいて言うのもアレだけど、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。それにこの騒ぎが大きくなる前にどうにかしないと先生の耳に入ってしまうわ」
「でも、具体的にはどうする訳?」
黒丸が会話に入ってくる。
「寮の中にある瑠光奈さんの研究室を知ってるのよ。そこに向かえば何か分かると思うわ」
「研究室?」
「瑠光奈さんが寮の空き部屋を買い取って作ったのよ」
「寮に何作ってるのよ・・・」
「案内するわ」
白川がそれを聞いて、
「じゃあ、1人シスアと一緒にお留守番をお願いしていいかな?」
「・・・そうね。最悪の場合を考えておく必要はあるわね」
「じゃあ、九十九さんお願いして良い?」
白川は、抱えていたシスアを九十九にゆっくりと手渡す。
「え?私ですか?」
「えぇ。私の代わりにシスアの事よろしくね」
「・・・分かりました!」
そうして、白銀の案内で、布袋の研究室を目指す。
そこは普通の寮の部屋の扉でこの先に研究室と呼べるものがあるとは考えられない。
「本当にここなんですか?」
「えぇ、鍵は開いてるみたいね。良かった」
そういうと、白銀は扉を開く。
中を覗くと、部屋の中は、明るい外とは対照的に薄暗く、実験台のような机がいくつか並び、部屋の壁には様々な薬品が入った棚が並んでいた。
「本当に研究室ねぇ~」
一升瓶を煽りながら、白川が感心したような声を出す。
「何、シレっと飲んでるのよ・・・でも、驚いたわ」
「ここに、何かヒントがあれば良いんだけど」
白銀が部屋を見渡しているといると、永久に抱かれていた布袋が声を上げる。
あーあーと声を上げながら、一つの机に手を伸ばす。
その机には、ピンクの液体が入ったビーカーと青い液体が入ったビーカーが置いてあった。
青いビーカーには中和剤という付箋が貼ってあった。
「中和剤って書いてあるわ!やったじゃない!これを飲ませれば解決よ!」
そういうと黒丸はビーカーを持って、早速永久の抱える布袋に飲ませようとする。
永久に抱えられる布袋は黒丸が近づけたビーカーを自分から掴んで傾ける。
青い液体を布袋は少し飲むとビーカーを押し戻す。
「あら?飲むのをやめちゃったわ」
そうすると、永久の腕の中で布袋の体が大きくなっていく。
「元に戻ろうとしてる!?」
永久は慌てて、近くの机の上に布袋の体を乗せる。
しかし、立ち上がれるほどの大きさになった所で成長が止まり、包まっていた布を纏って、布袋は立ち上がる。
それを見た白銀に、イヤな予感が過る。
その違和感の謎はすぐに解けた。
テーブルの上にあったピンクの液体が見当たらないのだ。
「2人共!離れて!」
瞬間、永久と黒丸の顔にピンクの液体が大量にぶっかかる。
「ぶっ!?」
「うっ!?」
2人は自分の顔に掛かった液体を服で拭うが、そうしている間に2人の体がどんどんと縮んでいく。その隙に、布袋は机の下へと姿を消す。
それを見た白銀は、入ってきた扉を塞ぐように移動する。
(まだ、瑠光奈さんは諦めてないの・・・?この部屋から出すのは防がないと)
「鶴子さん!気を付けて!」
「任せて~」
近くにいた白川は、布袋が入り込んだと思われる机の下を覗き込むが姿が見えない。
「いない・・・?」
いや、そんな訳がない。あの小ささで移動できる場所は限られている。
白川が顔を上げると、どう移動したのか、白川が覗き込んだ机に乗った布袋を見つける。
布袋はどこから引っ張り出したのか、身の丈ほどのランドセルのようなモノを背負っており、それにチューブが伸びており、チューブは布袋の両手の中に納まっている水鉄砲のような器具に繋がっていた。
勿論、ランドセルの中身はピンク色の液体だ。
「だーい!」
布袋は容赦なく、下にいる白川に向けて引き金を引く。
水鉄砲から勢いよく液体が噴射されるが、白川は持っていた酒ビンを手元で回し、液体を払って後退する。
「おっとっと!面白いモノ持ち出してきたわね~」
白川は素早く別の机の陰に入り、射線から抜け出す。
布袋は楽しくなったのか、だ~~~~~~~~いと声を上げながら、立っている机から、
部屋中に液体をバラまいていく。
白銀も、布袋に銃口を向けられる前に近場の机の下に隠れる。
そこに、机の影を移動してきた白川が合流する。
「これはマズイ事になったねぇ」
「・・・私達でどうにかするしかないわ。このまま、瑠光奈さんを外に出せば、
多分みんな赤ちゃんにするまで終わらないわ」
「じゃあ、デュエットと行きましょうか」
「余裕ね。小さくても瑠光奈さんよ。長期戦は不利になるわ。なんとか・・・」
白銀が机から顔を出し、周りを見渡す。
まだ液体をバラまいている布袋が見え、その時にあるものが白銀の眼に飛び込む。
素早く頭を引っ込めてた白銀は少し考えこむ。
「どうしたのぉ?」
「瑠光奈さんを元に戻そうとして飲ませた中和剤がまだ机の上にあった。
赤ちゃんになる薬はかかってから縮むまでに少し時間がかかったわ」
「なるほどねぇ。確かに中和剤があれば、あの薬がもし当たってもすぐに飲めば
元に戻れるかも知れないわね。それに、近づくチャンスが増えるわぁ」
「ねぇ、鶴子さん。お願いがあるんだけど―――」
布袋は撒き散らす行為に飽きたのか、部屋を一度見渡してから、
白銀と白川が隠れている机に射撃を開始する。
その瞬間、隠れていた2人が別々の方向に机から出る。
「鶴子さん、お願い!」
「はぁい!」
2人は勢いよく布袋に向かって走り出す。それを見た布袋は白銀の方に狙いをつける。
(やっぱり、何も持っていない私を先に・・・!)
「だーーーーーーい!」
布袋が引き金を引き、液体が飛び出す。
それを避けようと身を屈めようとした所で、何かに足を取られる。
それはさっきまで、布袋が部屋に撒き散らしていた赤ちゃんになる薬であるピンクの液体だった。
(さっきから、遊んでいるように見えていたのはこれが狙いっ!?)
「しまっ・・・!」
重心がズレてしまった足で踏ん張ることが出来ず、白銀は床に倒れこんでしまう。
先ほどの液体は当たらなかったが、布袋は倒れた白銀に向けて再び液体を打ち出そうとする。
「させないわ!」
白川は持っていた酒瓶を布袋に向けて投げつける。
「だ~~~~~~~~い!」
布袋はそれを隣の机に飛び移ることで回避する。
小さいながらも、意外な身体能力を見せた布袋に白川は臆する事無く距離を詰める。
その目は中和剤を捉えていた。酒瓶という武器がなくなった今、液体を防ぐものがない
白川は中和剤を手に入れる事で近づくチャンスを増やすしかない。
だが、それを許すほど布袋も甘くはない。
先ほどの2人の会話。布袋には中和剤を取りにくる所までは聞こえていた。
そう、この薬は赤ちゃんにはなるが思考能力はそのままなのだ。
(だから、私には中和剤を手に入れて、薬を無力化させる作戦が筒抜けでしてよ!)
自分を止める為に白銀と白川が動くことも、中和剤を狙う事も分かっていた布袋は、
幼児のように見せる為に薬を撒いていた行動を、進行ルートに薬を撒いて足元を悪くさせる作戦へと変えていた。
結果は先ほどの通り、白銀が起きてくる前に白川を赤ちゃんにすれば、数の有利はなくなる。
中和剤に手を伸ばす白川に布袋は引き金を引く。
白川が中和剤を手に入れる前に液体がぶっかかる。しかし、それでも手を伸ばす。
縮むまでのタイムラグ。その間に中和剤が間に合えば―――
だが、中和剤は白川が掴む寸前で布袋の射撃で吹き飛ぶ。
「あっ・・・!」
そこで白川の体が縮んでいく。
(さぁ!これで後は、白銀さんだけですわ!)
布袋は先ほどの立っていた机に飛び移り、白銀が倒れていた所を見る。
(・・・いないですわね。けれど、この部屋のどこかにはいるでしょう。今の内に補給を)
布袋は机の下に降りる。
そこには、ピンク色の薬のランドセルが並んでいた。
布袋はここで薬の補給を行っていたのだ。
そこで、布袋はある事に気が付く。
(補給管が一つなくなってます・・・?)
その瞬間、上から大量の液体が布袋に降り注ぐ。
「だぁいだぁいだばだばだばぁ!!」
布袋の体が再び赤ん坊の姿になってしまう。
ジタバタと体を動かすが、ここまで小さくなってしまうと水鉄砲を持つことも叶わなかった。
「どうにかこうにかなったわね」
そこに机の上で空の補給管を持って座っていた白銀が声をかける。
「瑠光奈さん、知能は下がってないわよね?あの時、私が見てたのは貴女よ。どうして、この机から動かないのか気になってね。無駄に薬を撒いてたのを見て確信したわ。ここに薬のストックがあるんだってね。後は鶴子さんに出来るだけ注意を引くようにお願いしたの」
白銀は水鉄砲をどけて、布袋を持ち上げる。
「転んだ時はヒヤッとしたけど、身を隠して近づくには有難いシチュエーションだったわ。良いアドリブだったでしょ?さぁ、みんなを元に戻しなさい」
「だぁ~~い?」
布袋は可愛げのある声を出し、首を傾げる。
「そう、とぼけるのね」
そう短く呟いた白銀を見ていた布袋の顔が、どんどんと恐怖に染まっていく。
白銀が一体今どんな顔をしているのか、それが分かるのは布袋だけだが説明するならば、
こう答えるだろう。――鬼がいた、と。
「戻しなさい」
「あぁ~ぃ・・・・・」
こうして、赤ちゃん騒動は幕を閉じたのだった。
騒動が収まった後日。
白銀が部屋で、B組から頼まれていた小道具のデザインの修正をしていると部屋の扉が開く。
そちらを見ると布袋が立っていた。
「どうしたの?先日の謝罪かしら?」
「いいえ、良い茶葉が手に入りましたのでお茶をしに来ましたの」
「・・・今は忙しいから後にして貰っても?」
「あ!ポットとカップをお借りしますわね~」
白銀の言葉を聞かずに布袋は部屋にあったポットを取り出す。
「皆さん、どうですか?」
「みんな、元に戻って喜んでたわ。九十九さんは少し残念そうにしてたけど」
「そうですか。ところで、何故私が知能はそのままだと思ったのですか?
バレないようにしていましたのに」
それを聞かれ、白銀はデザイン画から顔を上げ、
「貴女なら、どんな事があっても自分が作った薬で失敗しないと確信してたから」
「それは・・・買いかぶりですわ。私でも失敗はします。むしろ、失敗から学ぶことの方が多いですわ」
そう言いながら、布袋は紅茶の入ったカップを白銀に差し出す。
「・・・・・何も入ってないでしょうね?」
「どちらか当てて下さいな?」
白銀は紅茶を一口飲み、
「美味しい・・・」
「えぇ、飲んで下さると信じていましたので、想いを込めて淹れましたから。
さぁ、ティータイムに致しましょう」
(本当は、貴女に無理にでも休息を取って頂こうと思って作った薬でしたが、思考が残ってしまうのであれば、気が休まりませんわね・・・)
「ねぇ?どうして、あの薬を作ったの?」
白銀は紅茶を飲みながら、布袋にずっと気になっていた質問をする。
それに、布袋はん~~~と考えるフリをして、
「気分ですわ♪」
笑顔でそう答えた。