与太過劇フォロワースタァライトーオーバープレイー 作:ゆるり
ウニのアクセサリーがついたスマホに目を落としていた眼鏡少女、大宙 海荷(おおぞら うみか)は深いため息をついた。
スマホの画面には、舞台のオーディション結果が表示されているが、海荷の役は少女Aと書かれていた。
(イケると思ったんだけどなぁ~・・・やっぱりダメだったか~)
授業の一環として、学園でする発表会のオーディションで、海荷にはやりたい役があったのだが、結果は話の本筋とはあまり関係がないモブの役であった。
勿論、海荷はこの役もなくてはならない大切な役である事は分かっているが、狙っていた役が出来ない事実にため息が出てしまっていた。
(まぁ、私の実力じゃあ、あの役は無理だよねぇ~)
やれやれと、そんな事を考えていた海荷の鼻に香しい匂いが入ってくる。
海荷がその匂いに釣られるように寮の台所に向かうと、
そこには、胡見辺 梨那佳(こみなべ りなか)が小さな土鍋でお鍋を作っている最中だった。
「ん?」
海荷が台所に入ってきた事に気が付いた胡見辺は、そちらに笑顔を向ける。
「どうしましたか?」
「あ、いや、良い匂いがしたもんで、覗いてみただけです・・・」
無言で入った事がバレて、少し気まずくなった海荷は顔を背けながら返事をする。
それを見て、胡見辺は、
「新しい味のお鍋を作っていたのですが、良ければ一緒にどうですか?」
「え、良いんですか?」
「えぇ、一人で食べるつもりでしたが、味見して頂けるなら嬉しいです」
そういうと、胡見辺は鍋を入れる皿を海荷に渡す。
「用意を手伝って貰っても良いですか?」
「あ、うん」
海荷は皿を受け取り、机に運んでいく。
「残念でしたね。オーディション」
「え?」
胡見辺の言葉に、海荷はドキリとする。しかし、すぐにいつものように笑って、
「うん。でも、私じゃあダメだったよ」
「そんな、ヒロインの最終選考まで残ってたじゃないですか。凄いですよ!」
海荷は胡見辺の賛辞を素直に受け取る事が出来なかった。
いつもそうなのだ。
いつも、運は良いのか、良いところまで行くのに、最後の最後で自分の手をすり抜けていく。
自分の実力不足は分かっている。
だから、頑張ってもいる。
でも、勝てない。
慣れたものだ。
「そんなの、運が良かっただけだよ・・・私の実力なんてタカが知れてるんだし」
だから、こんな自虐的な言葉が出てくるのだ。
「運が良かっただけ・・・?」
ほら、心配してくれてる胡見辺さんだって戸惑って・・・
「海荷さん。私がなんの役をするか知ってます?」
戸惑って・・・・・?ん?
「え?確か、ヒロインの友人役だよね。ヒロインを陰で支える良い役だよね?」
「そうです。私はこの話のこの役に凄く心惹かれました。だから、この役をする為に
やれることを全部しました。やれる事を全部です」
「あの~・・・なんか怒ってますよね?胡見辺さん?」
「えぇ、怒ってますよ。私の役は、やりたいという人が多く、最終選考に残るだけでも難しい事でした。足りないモノを埋める為にやれる事をやりました」
海荷は胡見辺が言わんとしている事がいまいち分からなかった。
「だけど、ヒロイン役ほどじゃありませんでした」
胡見辺は土鍋から目を離し、海荷を見詰める。
「あのオーディションはただの運で最後まで残れるものじゃありません。謙遜であっても許されない言葉です!」
「ご、ごめん!そんなつもりで言った訳じゃ・・・」
怒りの声色に、ビクつきながら謝罪する海荷を見て、胡見辺は、はっとなり、
「すいません・・・言い過ぎました・・・」
「いや、私の方こそ、ごめんなさい・・・」
2人の間で沈黙が流れる。
それが、耐えられなくなった海荷が口を開く。
「胡見辺さんって、見かけに寄らず、熱い人だよね?」
「え?そうでしょうか?」
「なんか、こう・・・他の人を倒してでも上に行こうとする凄みがあるっていうか・・・」
「・・・よく見てるんですね」
「怒ったなら、ごめんなさい!ほら、私ってモブ気質じゃん?頑張っても勝てないキャラっていうか、だから、途中で諦める私には無いものだから、羨ましいなぁって」
あわあわと手を振りながら、早口になる海荷を見て、
胡見辺は、また謙遜をと心の中で呟く。
胡見辺は、自他の評価を正しく行える少女だ。
武器の少ない自分では演技だけを磨いても先が見えていると感じた胡見辺は、進学を機に
人当たりが良い自分を演じて他人の足を掬い取る道を選んだ。
恩を売るべき相手や弱みを握っておくべき相手を判断出来るようになろうと努力をした。
今回の役もその努力の賜物で掴んだものだ。
だが、胡見辺でも海荷という少女を見抜くことが出来ないでいた。
人から聞いた話でも、自分が見た感想も、実力は本人が言うようにまだまだ発展途上というところだが、彼女が狙ったオーディションでは、いつも上位に食い込んで後一歩のところで落ちている。
それが、胡見辺にはどういうことなのか分からなかった。
だから、彼女の事をもっと知りたかった。
運もあるだろう。けれど、それだけではない。彼女の力を胡見辺は知りたかった。
手段を選ばなかった胡見辺だからそこ、そんな甘い世界ではない事を知っている。
彼女には何かがある。そして、それを掴めなければ、いつか海荷に足下を掬われる事を
胡見辺は確信していた。
(けれど・・・)
未だ胡見辺が怒っていると思って、弁解している海荷を見て、
(そう簡単には分かりませんね)
「もう、怒ってませんよ」
「ほ、本当に?」
「えぇ、それより、お鍋が出来上がりました。仲直りに一緒に食べませんか?」
優しく微笑みながら、胡見辺は鍋掴みを手につけて、鍋を持つ。
「そ・・・そうだね。手伝うよ」
2人は準備を済ませ、鍋を一緒に食べ始める。
「美味しい!これ、凄く美味しいよ!」
鍋をつつく海荷は、胡見辺の鍋を絶賛する。
「それは、良かったです!」
喜ぶ胡見辺を見て、海荷は、湯気が上がる取り皿をおいて、
「・・・胡見辺さん、ありがとうね。私を元気付けようとしてくれたんでしょ?」
頬をかきながら、慣れないお礼を言う海荷は続ける、
「私、もうちょっと頑張ってみるよ。今度は運だけでなんて言わないように」
その言葉に胡見辺は肯き、
「そうですか。では、その時は教えて下さいね。貴方の煌めきを」
少女達は、日々、成長していく。
今は見えなくても、必ず見つける事が出来るだろう。その何かを。