与太過劇フォロワースタァライトーオーバープレイー 作:ゆるり
外を吹く風は冷たく、12月下旬の例年通りの寒い日々が続く中、舞台少女達はその寒さに負けないように聖翔祭の準備を進めている。
本来であれば、街中がクリスマス一色になる頃合いだが、年が明ければ、すぐに聖翔祭の本番がある為に、学園ではクリスマスなどとは無縁の追い込みをかけていた。
「姫都さん!女神の衣装仕上がってる!?」
「出来てるよ!まだ、あったよね?」
「ごめんなさい!頼める?」
「・・・うん!頑張る!」
いつもは猫背気味で、聴き取りづらい声を出している姫宮 咲(ひめみや さき)も、舞台発声でB組の衣装係に答えて、別の裁縫に取り掛かっていた。
その様子を遠くから見ている長身の少女がいた。
顔の半分が覆い隠されるほどの長い透き通るようなアルビノ色の髪の毛を伸ばした少女である乾 恵真(いぬい えま)だ。
B組の教室を通り過ぎる際にたまたま姫都を見かけた恵真は
「本当によくやるなぁ~」
と呟きながら、熱心に衣装作りをする姫宮をもう一度チラリと見た後、その場を離れていった。
(咲、大丈夫かなぁ~クリスマスの事・・・)
先ほども言った通り、学園ではクリスマスの行事はしない。
しかし、やはり一年に一度しかない特別な日には変わりない。
クリスマスパーティーをしようとそれまでに修羅場を乗り切る為、いつも以上に気合を入れて準備を進める者も少なくはない。
いつもはやる気を出さない恵真も、クリスマスの予定の為に大好きなゲームや読書の時間を抑えて準備に専念していた。
今年は、同じ地味組としてシンパシーを感じている姫宮とクリスマスパーティーをする予定を立てており、毎年、家族としかクリスマスを過ごしてなかった恵真はその日を楽しみにしていた。
親元を離れて、好きな事を友達と一緒にしながら過ごすクリスマス。
割りとアウトドア系の姫宮とは若干かみ合わない事もあったが、クリスマスなら室内でする事に限定されるハズだと思っている恵真は、姫宮と一緒に映画のブルーレイを見たり、
先生に隠れてゲームを夜中までしたり、クリスマスプレゼントを交換したりと様々な妄想をしていた。
なので、ある日姫宮から言われた言葉に恵真は耳を疑った。
「え?」
「ごめんなさい。クリスマスパーティー行けそうにないの・・・」
しょんぼりとした声で、申し訳なさそうに言う姫宮に、恵真は驚きながら、
「そんな・・・でも、あんなに頑張って衣装作りしてたじゃん」
「急な変更点があったの。今のままじゃ、間に合わないから応援を頼まれて・・・」
それを聞いた恵真は、クリスマスパーティーが出来ない悲しみよりもB組への怒りの感情が沸いていた。
「おかしいじゃん・・・それはB組がしなくちゃいけない事でしょ!」
「でも・・・聖翔祭はみんなで作るものだから・・・」
「納得出来ない・・・B組の人達にちょっと言ってくる」
「待って!」
B組の教室に行こうとした恵真の腕を姫宮が掴む。
「私が・・・私が決めた事だから・・・!」
自分よりも遥かに小さな女の子なのに、恵真はその手を振り解けなかった。
それは姫宮の眼がとても強い意思を持っていたから。
「恵真さん、本当にクリスマスパーティーに行けなくてごめんなさい!でも、この舞台は妥協したくないんです!私に出来ることで良くなるならやりたいの!」
腕を掴むのをやめて、頭を下げる姫宮に、恵真は何も言い返すことが出来なかった。
「分かった・・・クリスマスパーティーは他の人を誘うから・・・頑張ってね」
それだけ言うと、恵真は姫宮から逃げるように教室へと向かった。
それから、恵真は姫宮に会うと避けるように離れて、会話も無いまま、誰をパーティーに誘う事も無く、クリスマス前日になっていた。
「はぁ~~~」
教室の机に突っ伏しながら、恵真は深いため息を吐いていた。
「恵真ちゃん、どうしたの?ため息なんてついて」
そのため息を聞いていた、オッドアイの少女、湊 玖貴(みなと ひさき)が声をかける。
穏やかな声に、恵真はそちらに顔だけ向けて、
「慣れない事をした上に、喧嘩別れみたいになっちゃって、自己嫌悪中~」
「もしかして、咲ちゃんと?」
「わ~~・・・正解だよ~分かる?」
玖貴は、クスリと笑いながら、
「分かるよ。完全に咲ちゃんを避けてるもん」
「ですよね~・・・」
「仲直りしないの?」
「なんて言って良いか分からないんだもん。ネットなら冗談交じりに話して、またゲーム出来たりするんだけどなぁ」
玖貴は、う~ん・・・と考えて、
「私はきちんと咲ちゃんと話すべきだと思うよ」
「だって、忙しいみたいだし、明日だってクリスマスパーティーに来れないみたいだし・・・」
「そっか・・・衣装作り手伝ってるんだっけ?」
「B組に頼まれたとかさぁ、断れば良いじゃん。それって私との約束より大切な事なの・・・」
「恵真ちゃんは、咲ちゃんに約束を破られた事が許せないの?」
「違っ!?私はただ・・・!咲にっ・・・!」
そこで、恵真の言葉が止まる。
「ほら、言わないといけない事があったでしょ?人って忘れがちになっちゃうけど、言葉にしてちゃんと口に出さないと相手には伝わらない生き物だから。恵真ちゃんの本当の気持ちも咲ちゃんに伝えるべきだと思う」
「・・・・・」
恵真は静かに立ち上がる。
「どうにかなりそう?」
「らしくない事しようとしてる。クリスマスなんて部屋に引きこもってゲームしとけばいいのに」
「頑張ってね。恵真ちゃん」
「うん。ありがとう、玖貴さん」
クリスマス当日。
姫宮はB組の教室で、衣装作りに専念していた。
「姫宮さん、私達は帰るけどまだするの?」
「ごめんなさい。もう少しだけ詰めたいの。私は気にしないで、クリスマス楽しんできて!」
「そう・・・?じゃあ、鍵はよろしくね」
B組の面々に笑顔で答える姫宮に、遠慮気味にB組の生徒たちが教室から出ていく。
1人残った姫宮は、よしっ!と気合を入れて衣装作りの続きを始める。
姫宮は恵真のクリスマスパーティーに行けなかった事を後悔していた。
姫宮も親元を離れて不安だった頃、初めて声をかけてくれたのが恵真だった。
いつも猫背で声も小さい地味な姫宮に興味を持って接してくれた友達。
その友達から、2人でクリスマスパーティーをしようと誘われた時は、嬉しくて思わず大きな声で返事をして、恵真を驚かせてしまった事を思い出し、口元が緩む。
だけど、そのクリスマスパーティーを断ったせいで、恵真とは会話も出来なくなってしまった。
それでも、この衣装作りをやめる訳にはいかなかった。
この舞台は、特別なモノ。その舞台に立つ舞台少女達が身に纏う衣装を任された。
自分の納得の出来る物を作りたい。この衣装は、私の代わりに舞台に立ってくれる。
だから―――
「出来た・・・」
どれぐらい経っただろうか、それも分からない程に没頭していた作業が終わった。
渾身の出来に、衣装の前で茫然とする姫宮はふと我に返り時計を見る。
申請を出していた時間には余裕はあったが、もうだいぶ遅くなってしまっていた。
今から寮に帰っても、クリスマスパーティーなどは出来ない。
ましてや、あれから会話の一つも出来ていないのだ。恵真が待っているハズもない。
はぁ・・・と、ため息をついて、姫宮は帰り支度を始める。
そこに、ガラッ!と教室の扉が開く音が鳴り響く。
その音に姫宮は驚いてビクッと肩を震わせ、そちらを見る。
そこには、赤いサンタの衣装を着て、大きな袋を持った恵真が立っていた。
「恵真・・・さん?」
「フォフォフォッ!ここかのぉ、良い子が頑張っておる教室は?サンタさんがプレゼントを持ってきたぞぉ」
恵真はサンタのおじいさんのような演技をして、教室の中に入ってくる。
それに最初は戸惑った姫宮だったが、恵真に向かって手を組み膝をついて、
「いいえ、サンタさん、ここには良い子はいません。プレゼントを貰うべきは私ではなく、心優しい私の友達です。私は友達との大切な約束を破ってしまった悪い子です」
「フォフォフォッ!・・・それを言ったら、私は友達の大切な想いを考えずに酷い事をしてしまった悪い子だよ。ごめんね。どうすればいいか分からなかったんだ」
「私の方こそ、ごめんなさい。約束守れなくて、あの後も、これ以上仲が悪くなるのが怖くて話せなかったの」
そう言って見上げる姫宮に、恵真は
「私と一緒だ。私も怖かった」
と笑って答える。
「一緒だね」
姫宮も同じように笑う。
「でも、約束は果たして貰おう!小さいけどケーキやチキンを持ってきたんだ。プレゼントもあるぞ~」
「だ、ダメだよ!先生に見つかったら怒られるよ」
「大丈夫、大丈夫。申請した時間までまだ時間あるでしょ?それに私達は悪い子だし」
それを聞いた姫宮は一瞬きょとんとした顔をした後、クスクスと笑いながら、
「私達、悪い子だったね!」
「そうそう、ほら、手伝って~急いでパーティーしちゃおう」
2人は、教室の一角に机を集めて、その上にケーキやチキンを並べていく。
恵真は袋から、ワイングラスを取り出す。
「オシャレなグラス・・・」
「入れるのはジュースだけどね~」
一通り、準備が終わって2人は姫宮が仕立てた衣装を前にイスに座る。
「綺麗に出来たね~」
「本当?」
「煌めいて見えるよ」
「はい・・・頑張りました・・・」
「あっ・・・!忘れてた」
そういうと、恵真はごそごそと袋を漁る。
姫宮が覗こうとすると、袋の中から、とある物が出てくる。
「わぁあっ!」
それは、白いポインセチアだった。
「えぇっと・・・クリスマスプレゼントってやつです・・・はい・・・」
照れて上手く喋れない恵真に対して、目をランランに輝かせる姫宮は
「ありがとうございます!あっ・・・!私何も用意出来てない!」
「良いよ、喜んで貰えたみたいだから・・・私、咲にクリスマスパーティーを楽しんで貰いたかったんだ。インドア派な私じゃあ、咲とあんまり話が合わないしつまらないんじゃないかって、いつも考えてて、クリスマスパーティーなら私でも咲を楽しませる事が出来るかなぁって思ったんだ」
「そんな・・・私、恵真さんと友達になれて凄く嬉しかったよ!私みたいな子にいつも気にかけてくれて、一緒にいてくれて・・・恵真さんの話はいつも面白いし、私の知らない事ばかりで驚かされて、今日だって!恵真さん・・・?」
姫宮の言葉に、恵真は顔を片手で隠す。
「いや、面と向かって言われると恥ずかしい・・・」
赤くなった恵真を見て、姫宮もつられて赤くなる。
「先に言ったのは恵真さんだよ!?」
2人はそこから黙ってしまって、お互いに顔をそらす。
「ありがとう・・・」
恵真がぽつりと呟く。
「私も・・・ありがとうございます」
それに、姫宮も答える。
落ち着いたのか、恵真は2人のグラスにジュースを注ぐ。
「とりあえず、乾杯しよっか。時間も限られてるし」
「そうだね。じゃあ」
2人はグラスを持って、お互いに合わせる。
「「メリークリスマス」」
この関係がいつまでも続くようにと願いながら。