なのはクローンのたくらみ   作:もぬ

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エピローグ1

 きっかけは、ヴィータ副隊長の一撃を脳天に喰らったその時だ。

 オレの頭の中を、雷鳴の様なひらめきが迸ったのである。

 

「お、おい……その、なんだ……大丈夫か、セリナ? ちゃんと防御できたのか?」

「……くだ……しょくだ……」

「ん? なんて?」

「寿退職だ!!!!! ウオオオオオオ」

 

 

 セリナ・ゲイズ二等空士には、人に言えない3つの秘密がある。

 

 1つ。前世で男性だった記憶があり、さらにここがアニメの中の世界だと覚えていること。

 2つ。自分が高町なのは一等空尉のクローン人間であるということ。

 3つ。本当はめっちゃ働きたくない。

 

 1つ目と2つ目は、まあよくある話である。今重要なのは3つ目だ。

 この機動六課で過ごした1年間を振り返る。エースオブエースのハードオブハードな訓練、24時間勤務、命を懸けた戦い。それらはやる気も使命感もない若者に転職を決意させるには十分なものだった。

 JS事件が終息してからの数か月間、一年期限の部隊である機動六課をキャリアとして同僚たちが進路を決めていく中、オレは毎日家でゴロゴロしているだけでお金が入ってくる仕事を探すなどしていた。

 そんな都合のいい話があるはずもなく。

 そうして、そのまま今日という日――機動六課が解散する日を迎えたのである。

 

 とりあえず、次に所属する部隊は対外的には決まっている。今回の事件を経てレジアス・ゲイズの養子というステータスはプラスからマイナスに変わってしまったものの、奇跡の部隊・機動六課のネームバリューと隊長陣の人脈は、進路決定の大きな助けとなった。我ながらしょうもない人材だが、大事件解決の中心にいた部隊の前線を1年勤めたのだ。他の部隊員たちと同じようにそれなりにお声はかかる。

 しかし、そうじゃない。そうじゃないのだ。こちとら働きたくないのである。武装局員はもちろん事務方も嫌です。

 そういうわけで、新部隊へ正式に配属される前にひとまず、しばらくの間休職することを申請した。この間に転職先を探すハラであり、働くのを先延ばしにする逃避でもある。

 

「――みんなと一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです」

 

 先行きに不安を抱えたまま、オレは機動六課隊舎で部隊長の挨拶を聞き流していた。

 

「次の部隊でも、皆どうか元気に、頑張って」

 

 八神部隊長の話が終わったのか、部隊員たちが一斉に拍手をする音で意識が引き戻される。

 前世の人生のいつと比べても、すごく濃い1年間だったのに。その終わりはなんだか、思っていたよりあっさりとしていた。

 

 

 

「スバル、セリナ。なによ辛気臭い顔して」

 

 今日で見納めになる隊舎の廊下で、ティアさんが言った。

 顔を上げてみれば、なるほど確かにスバルさんはいつもの元気さがない。

 

「ご、ごめん。なんか、いよいよ終わりかーって思うと、しんみりしちゃって」

 

 笑顔をつくるスバルさん。この人は表情によく考えていることが出るので、気分がこっちにも伝播してくる。ムードメーカーがしんみりしていたら、みんなしんみりするのだ。

 ティアさんが、あんたは? と問うように視線を向けてくる。

 

「わたしも、皆さんと離れ離れになるのがつらくて」

 

 なんてのは嘘だ。今後の人生に思いをはせていただけである。

 高町なのは11歳の顔のおかげか、出自がクローンの実験体だからか、機動六課の人々はオレに優しい。当たり障りのないことを言っておけば勝手に納得してくれるはずだ。

 でも、まあ少しだけ、本当に、命を預けあったみんなと離れる寂しさはあった。かもしれない。

 

「ああもう!」

 

 ティアさんがスバルさんの肩に腕を回し、反対の手をオレの頭にポンと置いた。

 

「今生の別れじゃないんだから、ちゃんと顔あげなさいっての」

「そうですよ。たとえば……休みの日にはきっと皆さんに会いに行きます。ね、キャロ」

「うん! それに通信で、顔だって見れますから」

「……そうだね。ごめん! 暗い顔しちゃって」

 

 たしかにその通り。大昔ならともかくこの近未来SFチックなミッドチルダである。人々の距離なんて無いようなものだ。きっと。

 エリオとキャロ、ティアさんにスバルさん。

 機動六課フォワードチームの少年少女は本当に良い子ばかりだ。この青臭いような、眩しいような会話も、今では心地よさを感じる。

 いけね、さっきまでなんとも思ってなかったのに……。

 

「あ、みんな、ちょっと」

 

 背後から、自分の声と同じくらい聴き慣れた声がした。

 

「なのはさん、ギン姉」

 

 そこにいたのは、高町なのは一等空尉。オレにとっては憧れの人で、恩師で、おこがましいことをいえば、二人目の姉のような人だった。

 一緒にいるギンガさんは……出向扱いの部隊員として、解散式にも顔を出していたようだ。

 

「二次会前に、フォワードメンバー……ちょっといいかな」

 

 訓練場に集合、とのことだった。なのはさんたちの後ろを追うように、オレ達は屋外へと向かって歩き出す。

 1年で歩きなれた道をいくうちに、見慣れない景色が目に入った。

 誰からともなく走り出す。

 

「うわあ……」

「この花、たしか……」

 

 訓練場の様子は、いつもと随分違っていた。

 陸戦を想定して森を再現したフィールドの、味気ない木々ではなく、視界いっぱいに広がるのは鮮やかな桜色。

 

「さくら、っていうの。私達の故郷で、お別れと、始まりの季節に咲く花だよ」

 

 こんなところで、こんな風景が見れるとは思わなかった。なのはさん達の故郷――地球の日本っていう国は、そう、前世のオレが生きていたところによく似ている。実際には違う世界だったんだけど……この景色に感じるのはやっぱり、郷愁というやつだった。

 

「フォワード一同、整列」

 

 ヴィータ副隊長が号令をかける。

 それからオレ達5人は、1年ずっと目をかけてくれた二人の教官から、最後の言葉を受け取るのだった。

 

「この1年、あたしはあんまり褒めることは無かったが……まあ、お前ら、随分強くなった」

「5人とも……もう立派なストライカーだよ」

 

 なのはさん達の言葉で、訓練場はまるで卒業式の日の教室みたいな雰囲気だ。フォワードメンバー達、そしてなのはさんとヴィータさんの目に涙が浮かぶ。

 オレも今までの日々を想うと涙が出る。つらさで。

 

「さて、せっかくの卒業、せっかくの桜吹雪――湿っぽいのはナシにしよう!」

「自分の相棒、連れてきてるだろうな」

 

 ヴィータさんが、シグナムさんが、次々と自身のデバイスを起動していく。しかも、グラーフアイゼンは何故かギガントフォームだった。

 えっ、なに?

 

「えっ? あの……えっと……」

「なんだテスタロッサ、お前は聞いていないのか?」

 

 対面でフェイトさんがあわあわしている。たぶんオレの顔も似たような表情になっているはずだ。

 戸惑うフォワード陣を前に、なのはさんまでもがレイジングハートを構え、さっきまでの涙を見せない勝気な表情で切り出した。

 

「全力全開手加減無し、機動六課で最後の模擬戦!!」

「ヒュッ……」

 

 一瞬で顔面から血の気が引き、のちに冷や汗。

 ちょっとまって。模擬戦って言った? しかも手加減無し? ……そういえばアニメでもそんなイベント、あったような、なかったような。

 他のメンバーたちは元気よく返事をし、なんだか盛り上がっている様子である。おい……マジなの……?

 な、なんとかしなければ。震える声で隊長たちに申し上げる。

 

「あ、あわ、わたしはちょっと、体調悪いんで……」

「嘘つけ。お前は強制参加だよ」

 

 パ……パワハラ! 自分より年下の女の子から!

 今可愛らしい声でオレを追い詰めたのは、スターズ分隊副隊長のヴィータさんだ。今になって振り返ると、なのはさんと同様に厳しくも憎めない、素晴らしい教官だった。

 まあ、憎めなさの半分は外見から来ている。この人は身体年齢11歳のオレよりちっちゃいのだ。

 なのはさんのクローンとしての身体がそうさせるのか、心の安寧を求め、自然とそのちょうど良い所にある彼女の頭に手が伸びてしまう。

 

「そんな……副隊長、そこをなんとか……」

「お~お~、今のうちに撫でておけー。始まったら真っ先にお前をぶっ潰してやるからな」

「………」

 

 その代償は重かった。

 鈍く光るグラーフアイゼンの凶悪なフォルムが目に入る。ベルカ式に物理ノックアウトされるのが一番怖い。オレは媚びるように笑顔をつくり、無言でヴィータさんから距離を取った。

 

「わたしとギンガは観戦してるよー。みんな、がんばってな」

 

 ズルい! これだから佐官は……!

 八神部隊長に恨みがましい視線を送ってみる。どこ吹く風だった。

 そうこうしているうちに、皆がバリアジャケットを纏い、デバイスを振りかざす。

 逃げられる空気ではないので、渋々自分も懐から赤い首飾りを取り出した。

 

「『ヴァーミリオンアイズ』、セットアップ」

 

 デバイスと己の間で魔力が循環し、戦うための杖と防護服を形成していく。

 一瞬で光が収まり、戦闘準備を終えた自分の姿を見下ろす。手にする魔導師の杖も、白いカラーリングの長いスカートも、やはりなのはさんと似ていた。

 最初にこれを着たときを思い出す。スターズの配置でなのはさんと似た魔力資質だからか、新しいデバイスもバリアジャケットも、彼女のものを模倣するように設計されていた。ツインテールと胸のリボンがどうしても恥ずかしかったので、そこだけ後でデザインを変えたらシャーリーさんに文句を言われたりもした。

 今の見た目は、エクシードモードのなのはさんを11歳に縮めて髪型をいわゆるサイドテールにした感じ。細部の意匠は違うが、一目で模倣だと分かる。

 憧れの人に近づけたこの姿は、正直気に入っている。スカートを着て空飛んだりするのはどうかと思ったりもしたが、今では慣れてしまっている自分がいてなんだか怖い。

 

「さて、お前達の成長、見せてもらうとしよう」

「こっちはリミッターも外れたことだし、最初から全力で来るこったな」

「えっと……ケガは無いように、無茶しないでね」

「ヒィ……」

 

 今情けない声を漏らしたのは誰だろう。オレだった。

 怖~~。圧がすごい。なのはさんなんて、JS事件の影響で無茶できない身体とは思えない迫力がある。全員が1つの部署でエースをやれる4人である。次元世界強い人ランキングの上から何番目までここに集まってるのかな。フフ。

 さて、今回もチーム戦。ティアさんの作戦では、オレのポジションはいつも通り『センターガード』だ。

 ティアさんと同じポジションということになるが、あちらが司令塔であるのに対し、オレは主にティアさんとキャロ、あるいは拠点を守る盾役であり、さらに前線を射砲撃で支援するという役割になっている。閉所だとあんまりできることはないが、今回の様な開けたステージならしっかり働けるだろう。

 だがちょっと待ってほしい。本気の隊長たちの矢面に立って仲間たちを守るとか、プロテクションより先に恐怖で心が砕けるんですけど。特にヴィータ副隊長のドリル。あんなもん人に向けていいはずがないのである。

 

「はあ~~」

 

 初動の位置取りを詰めるエリオとスバルさんの隣を抜け、開始位置について桜を眺めているとついため息が出た。

 カートリッジシステムに使う弾倉の数をチェックしていると、トコトコと目の前にヴィヴィオがやってくる。

 

「セリナおねえちゃん」

「ん?」

「がんばって」

「はあ~~~」

 

 さっきとは違うため息が出た。

 人間って、可愛い生き物に応援されると力が出るんだなあ。

 いつの間にかいたザフィーラの隣に戻っていくヴィヴィオに手を振って、気合を入れる。

 横目に、頼れる仲間たちを見てみる。

 すごいと思うのは、こっちのみんなも、負ける気は微塵もないんだって顔をしていることだ。

 チームの一人一人がこの1年でAランク以上の魔導師になった。そして全員が力を合わせれば、どんな困難な状況も打ち破れる。だからここにいるみんなは『ストライカー』なんだ。

 みんなと一緒なら、きっと――

 

「それでは、準備はいいですか?」

 

 ギンガさんの声に、全員が開始位置に着く。

 はやてさんと二人で、これから号令をかけるようだ。

 ……隊長たちと視線が交わる。

 今から見せるのは、あなたたちが育ててくれた力。一人前の魔導師になって、皆を守れるように。自分の我儘を押し通せるように。

 

「それじゃ、レディー……」

 

 というわけで、オレの答えはこれだ。

 

「「ゴーッ!!」」

「ディバインフラッシャーーーッ!!!」

 

 ――元の話通り、4対4でやればいいじゃない。私は逃げます。

 閃光と轟音。魔力ダメージのない目くらましの魔法だ。開始前からこっそり、相棒に発動させていたのである。

 全員にできた隙をついて、飛行魔法を使って離脱する。そのまま茂みに飛び込み地面に伏せた。

 

『セリナ~~~~~っ!!! あんた、どういうつもり!?』

『怖いので撤退します。あしからず』

 

 ティアさんから念話で罵倒が飛んでくる。他のメンバーからも困惑の旨が届いた。

 

『え~通信は以上です。かげながらおうえんしてます』

 

 そう締めくくり、通信を全遮断に切り替えた。

 切る寸前に入ったティアさんの怒号がこわい。

 

「こういうときのための魔法なんだよねー……っと」

 

 カートリッジを一発消費。ヴァーミリオンアイズに命令し、ティアさんから教えてもらった『オプティックハイド』を発動させる。視覚だけでなく、ある程度のセンサーも誤魔化す超すごい幻術魔法だ。

 身体を幻術スクリーンが覆うと、周りからは姿が見えなくなる。高度な迷彩である。

 精度を上げようとするとやたら難しい上に魔力消費が激しくなるのだが、処理を肩代わりするアイズが優秀なのと、魔力量だけはすごい身体なのでなんとか実用できているわけだ。今回はさらにカートリッジシステムを使い、光学迷彩の寿命を延ばしている。

 

『あー。参加者のみなさま、というか逃げた子にお知らせします』

「ん?」

 

 訓練場中にノイズ交じりの声が響き渡る。これは念話ではなく、オレに聞こえるようにこの一帯に放送しているようだ。

 八神部隊長の優しげな声が呼びかける。

 

『ただいまから、この模擬戦はチーム戦から個人戦に変更となります。バトルロイヤルです。わかったかな? みんなが血眼でセリナのこと探しとるよー。それじゃ、がんばってなー』

「は?」

 

 ムショにいるお義父さん、そして義姉さん。聞こえますか?

 わたしはもう、ダメかもしれません。

 

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