なのはクローンのたくらみ   作:もぬ

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まえがき
次回でおわり




エピローグ6

 いつものように、無限書庫へと通う。

 今日も仕事を手伝った後で、試験の勉強でもするつもりだ。無限書庫に正式に配属されるには、司書の試験に受かることが一番の近道。

 地球の日本とは問われる教養が違っていて大変……だろうと思っていたが、異世界の一般教養や時空管理局の法律なんて、オレにとっては面白いに決まっている。魔法の習得と同じで、この学びに関しては、言っちゃ悪いがゲーム感覚だ。学習活動においてこの感じ方は、有利にはたらく。

 また、あのフェイトさんが2回も落ちたという執務官試験に比べれば、司書資格試験の難易度や倍率は低い。

 今の気持ちがあれば、そのうち合格できるだろう。

 

「おはようございまーす」

 

 毎日のように顔を合わせて仲良くなった、受付の二人に挨拶をする。

 

「おはよう、セリナちゃん」

「今日はどんなご用ですか? なんてね」

「今日もお仕事を手伝って、お昼ご飯を……食べて、勉強して、って感じです!」

 

 平和だ。六課にいた頃もそうだが、目標があるとなんとか労働や努力もできる。この二人や司書の皆さん、それにあの人と、肩を並べたい。

 

「おー、今日はお昼ご飯、うまくできた?」

「相変わらず司書長のこと大好きだねー」

「あははは……は?」

 

 お昼ご飯なら常に会心の出来だが……いや、そうじゃない。

 

「司書長……の、こと?」

「だいすきだねー、って」

「………」

 

 これ自体はなのはさんやヴィータさん(を介した八神元部隊長)にもいじられたが。なぜこの二人にまで、オレがユーノさんを狙っていることがばれている……?

 ……まあいつものように、ごまかしておこう。本人の耳には入れないよう、お願いしなければ。

 

「ま、まあ、そんなことは、なくもない感じですね」

「お、認めたなー」

 

 二人は顔を見合わせて笑う。ぬう、なんか雲行きがあやしいな。

 

「いつも司書長といるとき、すごくいい顔してるもんね」

 

 心臓が、少し跳ねた。

 

「お弁当も作ってくるしね」

「よくついて回ってるし」

「司書長と話してるときは声音が違うしー」

「……な……え……!?」

「恋する乙女って感じ」

 

 左右から繰り出される攻撃に頭が追いつかない。その言い方だとまるで……、

 

「ちが……オレは、ユーノさんを……狙ってるだけで……」

「ふふーん、スタッフみんな知ってると思うよ」

「見てたらわかるからね」

 

 違う、そういうことじゃなくて。

 ずっとユーノさんを、自分の虜にしようとしているはずなのに、周りからそう見えるのなら。

 まるでオレの方が、ユーノさんのことを――

 

「うわ! 顔真っ赤だ」

「朝っぱらから、からかいすぎたかな。ごめんねー、セリナちゃん」

 

 その場を後にして、廊下を、早足で進んでいく。

 ……そんなわけあるもんか。オレのユーノさん攻略は順調にいってる。

 しょっちゅう持って行く弁当の反応もよくなってきているし、たまに勉強も教えてもらってる。手伝いをさせてもらうことも増えた。あと、この前だって、一緒にクロノ提督と戦って、スターライトブレイカーをぶつけてやったんだから。

 

「ゲイズさん、おはようございます」

「セリナちゃん、おはよー」

 

 資料部のみんなとすれ違う。

 なんだか、心の内を見透かされているみたいに感じて。

 入り慣れた、司書長室に逃げ込んだ。

 

「あ……」

 

 いつものユーノさんがいて安心したけれど、何故だろうか。いつもと同じに見えなかった。

 小走りでここまで来たからだろうか、心臓がバクバクとうるさい。

 ……後ろ手で、扉をロックする。

 こうなれば彼は袋のネズミ……袋のフェレットである。

 そうだ。きっと逃げ込んだんじゃなくて、攻め込んだんだ。

 

「ユーノさん」

「ん?」

 

 まったく、今日はおかしい。二人がおかしなことを言うせいだ。

 ユーノさんの姿を見ると、まるで現実感がない、不思議な感覚に頭が覆われる。

 

「わたし……ユーノさんのこと……」

 

 あれ? おいおい待て。今オレは何を言おうとしている?

 心と思考が離れている。心臓から送り出される血の熱で、身体が動かされている。

 鼓動がやかましい。オレは、深呼吸をして、彼に――

 

「セリナさん、良いところに! ちょうど今、連絡しようと思ってたんだ」

「っ……!」

 

 他ならぬユーノさんの声で、世界の音が戻ってきた。

 オレは今、何を……言おうとしたんだろう。

 

「目をつけてた遺跡の調査許可が出たんだ! 今日は忙しくなるよ」

 

 やたらとテンションが高いユーノさんに詰め寄られ、さっきの数秒が夢だったかのように思えてきた。

 顔が近い。無邪気に目を輝かせる様子は、まるで少年のようだ。

 

「……え? 今日行かれるんですか?」

「もちろん」

 

 まじか。よっぽど気になってたんだろうな。彼は立ち上がって、慌ただしく出かける準備をしている。どうやら今すぐにでも出発したいらしい。

 ちゃんと今日予定していたタスクは記録しているだろうか。期限は問題ないだろうか。他の司書たちには、オレから知らせておこうか。

 ……やれやれ。ユーノさんの頭の中で、オレは考古学には勝てない。さっきはとんだ勇み足をするところだった。

 いや、勇み足どころじゃないだろ。だめだぞ、オレの方からユーノさんに――――だなんて。

 頭をふり、余計な考えを追い出す。

 

「お帰りをお待ちしています」

 

 いつかのヴァーミリオンアイズを真似た台詞を口にする。

 離れるのが嫌だ、なんて声色になってないかな。周りからそうみえるのだとしても、そいつはちがう。認めない。

 離れるのが嫌なんてことはとにかく全くないのだが、それはそれとして、ユーノさんが出かけるとなると……今日の予定、狂っちゃったな。

 

「え? 君も一緒に行くでしょ? ほら、準備準備!」

「………」

 

 今日の予定、狂っちゃったな。

 

 

 

 あれよあれよ。

 次元港から船でよその世界へ。現地の管理局支部に寄ったり、ガイドを利用しつつ、気付けばいかにも古代のもの! といった外観の、遺跡の前にいた。

 

「うーん、やはりベルカの系譜だな。しかしいつの時代のものだろう……」

 

 ユーノさんはあちこちに目をやりながら、考えていることを口から漏らしていた。いつものスーツやシャツ姿ではなく、動きやすく作業に向いた服装をしている。あとはハットでも被れば、見事な考古学者ルックになるだろう。

 あのスタイルは、遺跡の調査というより『発掘』だ。無限書庫の未整理区画の探索とは、また違った作業を想定しているのだろう。

 オレもまた、フィールドワークということで動きやすいように、六課時代まで使っていた訓練着とジャケットを着ている。

 せっかくユーノさんと二人で出かけているっていうのに、色気も何もない格好である。

 

 そう、二人だ。ユーノさんが声をかけて、ここに連れてきたのはオレだけだ。

 誰か連れや助手が欲しかったのなら、外部協力者の暇そうにしているやつに声をかけるのは道理だが……

 そんな理由じゃないといいなって、考えてしまう。

 ユーノさん、オレのことをどう思っているんだろう。気になって仕方がない。ほら、順調に日々の成果が出ているのか、知りたいからな。

 そんなことで頭がいっぱいで、あまり目の前の、古代文明の息遣いとやらにはそそられなかった。

 

「ほら、中へ行こう! 色んな人たちがすでに動いているはずだ」

 

 そうなると必然、彼だけに目がいく。

 チームのリーダーとして無限書庫を探索している時とは、また違った表情。子供みたいだ。

 スクライアという一族は遺跡発掘を生業にしているというから、こういう場所にいるときのユーノさんこそ、自然体といえるのかもしれない。

 そんな顔も、もっと見ていたくなった。

 

「――さん! お久しぶりです」

「ユーノ先生! おお……いいところに!」

 

 『先生』……未整理区画の調査チームにも、彼をそう呼ぶ人がいた。ユーノさんのいくつかある顔のひとつなのだろう。

 考古学に関して、彼はある程度名が通っているらしく、今もいろんな人たちと挨拶を交わしている。想像するに、あの若さでそれなりの実績を重ねている、学士会の期待のホープといったところだろうか。無限書庫の司書長という肩書も大きそうだ。

 

 ……あまり関心は無かったが。彼をあそこまで惹きつけているのだと思うと、少しだけ、考古学というのがどんなものか気になった。

 考えてみれば、人の住む星がいくつも確認されているこの広い次元世界だ。地球1個を調べるだけでも永遠の課題だというのに、あまりに遠大な学問である。世界の記憶が眠ると称される無限書庫が、人類の手にあってなお、だ。

 次元世界における考古学とは、だいぶ巨大なジャンルなんじゃないだろうか。

 

「先生。この遺跡の奥に、古代ベルカの術式で封印されていたものです」

「……これは……!?」

 

 ユーノさんの斜め後ろから、話し相手のおじさんが指し示す先を、ぼんやりと目で追った。

 分厚いケース。発掘されたものを保存するのに使うものだろう。おじさんの助手らしき方が、ケースを開くと、中には赤いクリスタルが入っていた。

 

「……え!? これ、レリック……!?」

「さすがユーノ先生の助手さんだ。その歳でよく勉強しておられる」

 

 あっさりと肯定される。見覚えのあるこの赤い結晶体は、やはりレリック――機動六課と戦闘機人たちがこれを巡って戦っていた、超高エネルギー結晶体。捜索指定遺失物……ロストロギアに該当するものだ。

 調査許可の出たばかりの遺跡から、すぐにこんな危険なものが出てくるなんて。『海』の手も、人手不足では回りきらないということか。

 

「本当の名前は違う。これが興味深い話でね」

 

 ユーノさんが、オレに向かって語り始める。

 

「JS事件を終えて、ヴィヴィオが古代ベルカの王――聖王のクローンであるということや、聖王のゆりかご内部で起きたことの報告を受けて、多くのことがわかったんだ」

 

 レリック、聖王、聖王のゆりかご。スカリエッティの起こしたことは、思い返せば、考古学の世界にとっても非常に影響のある事件だったと言えるだろう。

 

「ベルカ諸王時代において、この結晶体は『聖王核』と呼称されていた。その機能は、聖王本人の力を拡張するためにある」

「聖王の……?」

「うん。この宝石は、聖王専用・高性能デバイス兼、魔力源兼、最終兵器の起動キーってところかな。いや、デバイスとは少し違うかな……」

 

 最終兵器……聖王のゆりかごのことだろう。アホみたいにデカい戦艦で、管理局の艦船が何機も出動してようやく消滅させられるものだった。

 あんなものを飛ばしていた時代の産物だ。この赤い宝石は、危険性のあるロストテクノロジーの塊……“ロストロギア”の定義通りの代物である。

 こいつらを相手に機動六課や協力者たちが成し遂げたことは、まさしく時空管理局がはたすべき使命を全うした例だろう。

 ……それは、それとして。

 元機動六課部隊員としては、割と見慣れた存在だ。六課の回収したものも、既に研究されているはず。今さら大した発見でもないのでは?

 などと、オレが失礼なことを考えたのを読んだのだろうか。ユーノさんは、すこし笑って、続けた。

 

「ドクター・スカリエッティから押収できたものも管理局に残っているが、このレリック……聖王核は、個体ごとに、内包された機能に差異があるんだ。歴代の聖王ひとりひとりに合わせて作られたものだから、という説がある」

 

 先に調査をしていた男性に向き直り、解説を締めくくった。

 

「こんなところに封印されていた個体だ。あまりに貴重な資料になる――すばらしい発見です」

「管理局や現地のチームによる調査では、みつからなかったようですからな」

 

 管理局や下請けチームの事前調査がダメだったのか、このおじさんたちのチームが有能だったのか。

 まあ、こうして、遺跡の発掘というのは丹念に、丁寧に、何回も何回も行っていくものなのだろう。しゃぶりつくすまで終わらない……というか、ずっと終わらないんだろうな。レリックの出土なんて序の口なのかもしれない。

 現にユーノさんも、はやく奥に行きたくて仕方ない様子だ。視線が遠くへ行っている。

 今日はせいぜい勉強させてもらおう。

 

「……ん?」

 

 大勢の人の足音に、振り返る。

 彼らは走って、遺跡の中に入ってきた。……どうも、雰囲気がおかしい。

 気になって表情を観察すると、どうやらユーノさんのように突如興奮し始める学者といった様子ではない。

 その中の、慌て切った女性が、声を振り絞ってオレたちに言う。

 

「た、大変なんです……みなさ、ひな、避難しないと……!」

 

 遺跡の入り口、いや、外が騒がしい。

 すぐに走って向かう。職業病だ。

 

「……な……!?」

 

 遺跡の外は、多くの機械兵器で埋め尽くされていた。

 ただの機械じゃない、完璧に見覚えがある。

 

「ガジェットドローン……!」

 

 スカリエッティが造り出した自律兵器。彼を逮捕し、一掃できたはずのやつらが、なぜここにいる!?

 いや、ここにきた理由なら明白だ。ガジェットはレリックの回収を目的として設定された兵器である。この遺跡のレリック……聖王核とやらに引き寄せられたに違いない。しかし封印処理が杜撰だったとしても、偶然生きのこった残党が、偶然この世界のここに到達するってことはないだろう。

 ……よく観察する。敵は、カプセル状のⅠ型に、大玉のⅢ型。何度も相手にした編成だが……細部の形状が、今までこの目で見たものや、報告書・映像で確認したどれとも異なっていた。

 そうなると、例えば……スカリエッティがよその犯罪者に売りつけて、独自に改造されたもの……か? 犯人は盗掘・密輸業者かもしれない。

 

「っ、危ない!」

 

 逃げ惑う学者の人たちに、Ⅲ型がこれ見よがしに、ポインタで照準をつけている。

 性格の良いような、悪いような兵器だ。おかげで、やつがビームを放つ前に割って入れた。

 シールドで背後のみんなを守る。……大丈夫だ。破壊力は今までのやつと変わらない。

 

「管理局です! 皆さん、遺跡の中に避難して! わたしが守ります!」

 

 あちこちに逃がすより、頑丈な場所で一か所に集まってもらった方が守りやすい。見た感じ、古代のものにしては頑健な構えをしている。

 ……いや、失敗だったか。やつらの目的は遺跡のレリックだ。みんなのことは、うまく外へ連れ出すべきだったか。

 いいさ、最悪の状況じゃない。攻撃される前にこいつらをぶっ壊してやれば、失敗なんてチャラだ。敵はガジェットだぞ? 戦闘機人のみんなでも、六課隊長陣が立ちふさがっている訳でもない。よゆうだ。

 今日ここに、オレがいる。なら、最悪じゃ、ない。

 

「『ヴァーミリオンアイズ』、セットアップ」

《テンション上がりますね》

「何言ってんだこいつ」

 

 赤い魔力光が溢れ出し、バリアジャケットが身体を覆う。

 数が多いな。これだけの数を相手にしたことは……あんまりない。

 それに、六課のフォワードのみんなと一緒じゃなくて、アイズとオレだけで相手にするのは……ちょっとだけ、怖い。

 

「大丈夫。ここは絶対通さない。なのはさんの弟子なんだから――」

 

 言葉を口にして、自分を鼓舞する。

 だけど。機械の癖に痺れを切らしたのか、やつらがこちらに、射撃装置となる黄色い“目”を、一斉に向けてきたのがわかった。

 

「じゃあ、僕の孫弟子だね」

 

 ……オレが防御魔法を出す前に。

 翠色の障壁が、守ってくれた。

 

「なんてね。僕がなのはの師だなんて、おこがましいけど」

 

 ああ。そうだった。一人じゃないんだった。

 

「君の前では、ちょっとかっこつけさせてね」

 

 鈴鳴りの様な、清涼な音が聞こえる。魔法陣が広がる音だ。

 朱く焼けた景色――この世界にも、夕暮れがあるらしい――が、封じられた空間に包まれていく。

 位相をずらし、被害を出さないように戦闘用の空間を作る、結界魔法だ。

 

「ガジェットは全機閉じ込めた。管理局にも連絡して、念のためみんなや遺跡にバリアも張っておいたし――」

 

 すぐそばで、声がした。

 

「防御は僕がやる。セリナさんは、攻撃に集中して」

 

 ……もう、負ける気がしない。

 隣に、彼がいてくれる。

 

 

 

《全機撃墜を確認しました。やはりマシン相手ではつまらない》

「はー、多かった……」

 

 ガジェットドローンという連中はクソだ。ほんとうに嫌い。

 やつらが従来の自律兵器と一線を画す理由は、『アンチマギリンクフィールド』という魔法にある。1機ごとに、魔力の結合を阻害するフィールドを展開する機能がついているのだ。魔導師にとっては天敵だ。おかげで、ふつうのロボを相手にするより高い出力や、工夫した戦い方を要求される。AMF状況下を想定した訓練をしなければ、手も足も出ないだろう。二度とこんな敵は現れないでほしい。

 

「おつかれさま。大丈夫?」

「つかれました」

「僕もだ」

 

 ユーノさんは笑って……地面に尻もちをついた。

 一瞬心配したが、照れくさそうに笑うのをみて、安心する。

 ……オレも、今日は疲れた。どれぐらいかというと、なのはさんの訓練で一番きつかった日くらい。

 

 つかれて、もう――自分の気持ちから、目を逸らすのも限界だった。

 

 足がふらつく。地べたに座るユーノさんに近づいて……

 座って、ユーノさんの背中に、自分の背中をくっつけた。

 

「ん、セリナさん。すこしここでクールダウンしよう。動悸が結構なものだよ」

「……はい」

 

 この鼓動は、戦闘のせいじゃないと思う。

 

「あ、なんか今、懐かしいことを思い出した」

「どんなことですか?」

「子供の頃に、今と同じように、二人で修羅場をくぐったときがあってさ」

 

 背中を合わせていると、ユーノさんの声が、自分の身体によく響くようだ。

 

「大事な友達でね。あの頃はよく連携していたんだけど」

 

 オレの心臓の音は、やかましくはないだろうか。

 

「大量の機械兵を前に、これからが大仕事だってときにね。『自分が戦えるのは、背中がいつもあったかいからだ』って言ったんだ。それが印象的でさ」

「詩的なことを言う人ですね」

「あ、わかる? その子、たまにそういうこと言うんだよ」

「む……女の子ですか?」

「え、あ、いや、まあそうだけど」

 

 というか……なのはさんだな、これは。言いそうだもの。アニメにもそんなシーンがあったような……なかったような。

 この雰囲気で他のひとの名前を出すなんて(出してない)、有罪ですよ? わかっているのかね、ユーノ被告。

 

「あ、いたた。な、何?」

「いえ」

 

 抗議の意を込めて、ひじで脇を小突いた。……大きなケガをしてるってことはないみたいだ。良かった。

 なのはさんとユーノさんが、強い絆で結ばれているのは知っている。だったら……

 ユーノさんにとってオレは、背中を預けられる存在になれただろうか。

 

「ユーノさんは、その……わ、わたしの……こと……」

 

 そんなことを思ったけれど、言葉にする勇気がない。これ以上は、声が出なくなった。

 ……帰ったら、またユーノさん攻略を再開しなきゃな。彼をメロメロにして、人生をオレのものにしてやるんだ。まずは試験に受かって、同じ場所で肩を並べて。それから――

 

「僕は君のこと……すごく……信頼できる人だって、思ってる」

「………」

 

 この人は、なんてことをいうんだろう。

 ユーノさんは悪い人だ。そうやって、オレの引き金を簡単に引く。

 ああ、もう。

 ここで、こっちのたくらみは頓挫だ。だってもう、想いを抑えきれないんだから。

 

「信頼できる人、じゃ嫌です」

 

 声が届くように、頭を彼の背中に預ける。

 空が見える。結界が剥がれていって、星の綺麗な夜空が現れた。

 

「わたし、ユーノさんのことが、好きです」

 

 ……言ってしまった。

 そうだ、もう認める。いつからかわからないけれど、オレはもう、ユーノさんとの勝負に負けてた。

 彼のことが愛おしい。働きたくないとか、そういう気持ちはあるんだけど、この人といられるなら、その話はもういい。

 

「………」

 

 数秒が経った。いや、数分かもしれない。

 ユーノさんからの返事は、なかった。

 ……目から、熱いものが垂れてくる。この世界に生まれ変わってから、本当の意味で泣いたのは、初めてだ。……これだから、女の子の身体は、困る。

 あれほどうるさかった心臓は、止まってしまいそうなくらい締め付けられている。

 それでも……背中は、温かかった。

 

「……?」

 

 背中がやたらあったかい。ポカポカだ。

 

「……すー……すー……」

 

 寝てるよこの人。うそでしょ。

 ここまで心を許してもらったと思うと、嬉しいけど……さっきの話、どこまで聞いてたんだろうか。

 このまま寝かせて、一緒に何事も無かったかのように無限書庫に帰るなんて。

 そんな鈍感ラブコメ主人公みたいなマネは、オレの前では許さん。

 

「……いだだだだ!」

 

 つねり起こして、正面から顔を覗き込んで、言ってやる。

 

「ユーノさんっ! わたし、ユーノさんのことが好きです。大好きです! ……け、結婚したいぐらい!」

 

 あ、顔が赤くなった。

 意外に可愛いところがある。そういうところも、いいなって思う。

 でも、今は、オレも同じような顔になってるはずだ。だって、こんなにも顔が熱い。

 それがなんだかおかしくて、照れくさくて。

 しずくをぬぐいながら、にっと笑った。

 

 

 




あとがき
魔力光でわかる性格占い
緑…控えめで思いやり深い
赤…情熱的でまっすぐ

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