なのはクローンのたくらみ   作:もぬ

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エピローグのエピローグ

「スクライアさーん、また明日ー」

「へーい、また明日~」

 

 スクールバスを降りて、真っ直ぐに家へ向かう。

 今日は楽しみにしてた番組がある。ここから家まではすぐだけど、走って帰ることにした。

 

「ただいまー!」

「おお、おかえり」

 

 いつものように、おじいちゃんの優しい声が迎えてくれた。

 今日も頑張りました。これから優雅なおうちタイムが始まる。

 

「ミライ、おやつでもどうかな」

「んん~~お夕飯前だから我慢します」

「そうか……」

 

 おじいちゃんはいつものように、何やら難しい本を読みながらおやつを勧めてくる。断ると、しょんぼりした。明日はもらうか。

 うちで言うおやつというのは、その辺のお店で買ってきたやつではない。おじいちゃんが直々に焼いたお菓子だ。

 おじいちゃんは、よその星にいるっていう『クマ』って生き物みたいに、でっかくてもじゃもじゃしている。あとやさしい。

 しかも、料理はママの100倍うまい。

 総合的に見て、おじいちゃんのことは大好きなのだが、わたしの体重を増やすのが喜びらしいところが、ちょっと良くないと思う。

 

「テレビテレビーっと」

「録画してあるのだから、着替えてからにしなさい」

「はーい」

 

 言う通りにしようか。階段を上がって、自分の部屋へ。部屋着を引っ張り出してきて、一瞬で着替える。魔導師のバリアジャケット展開よりわたしの着替えの方がはやい。

 洗濯物は脱衣所に。リビングへと参上し、モニターのスイッチを入れる。

 

「おお……! ヴィヴィオお姉ちゃん、今シーズン絶好調だ!!」

 

 最近わたしの中で流行っているのが、格闘技の観戦。とくに魔法アリのやつが好きだ。

 推し選手はもちろん、高町ヴィヴィオ選手。一緒に遊んでくれるときは、ほにゃほにゃしたお姉ちゃんなのだが、仕事となると人が変わる。本人いわく、たぶん今が全盛期なので試合を見逃さないように、とのこと。

 才能ありきの世界で、センスと反射神経を磨いてトップクラス入りしているところが最高だ。渋い。わたしの憧れの人だ。

 

「すごいなー。わたしもプロ選手になってみたいな」

 

 腕を動かして、ヴィヴィオお姉ちゃんのフィニッシュブローを真似してみる。

 ジムに通わせてほしいって、パパやママにお願いしてみようかな。いや、その前に、もっと欲しいのがあるんだった。

 

「な……!? ミライ、管理局の地上部隊に入るはずじゃ……」

「それは第二しぼう」

 

 物が床に落ちる音に振り返ると、おじいちゃんが読んでいた本を取り落して、わなわなと震えていた。そんなにショックか……?

 そこまでわたしを局員にしたいのか。おじいちゃんへの脅し文句に使える情報として覚えておく。

 

「はー、面白かった。若い選手もやばいな。時代を塗り替える気概をかんじる」

 

 興業映像を一通り見終わって、わたしは適当に感想を言った。

 時計に目をやると、気付けばいい時間だ。

 

「ミライ、そろそろお父さんとお母さんを迎えに行ってあげなさい」

「うん」

 

 靴を持って階段をあがり、わたしの部屋の、となりのとなりの扉を開ける。

 この部屋には転移装置があって、パパとママの仕事場へと直接繋がっている。

 べんりなものは好きだが、これを買ったせいでうちは貧乏だとママは言い張る。ので、この装置には愛情と憎しみがある。

 

 靴を履いて、装置のスイッチをあちこちいじる。

 溢れ出す光を、目を閉じてかわす。

 光がおさまれば、そこはパパとママのいる場所。時空管理局の中の、無限書庫のあるところだ。

 

「こんばんはー」

 

 みんなにあいさつをしつつ、二人の姿を探す。

 ……ううん、探さなくてもあっちからきた。

 

「へーい! 娘!!」

「へーいママ」

 

 相変わらずテンションが高い、家だけにしてほしい。

 ママは顔はわたしに似て美人さんだが、表情の種類が豊富すぎるのもアレだなという感じの人だ。

 

「よくお迎えに来てくれた。ご褒美にそこの無限書庫で、無限高い高いをしてあげよう」

「そんなに子供じゃないんだよなー」

「な……!?」

 

 わたしの返答の何がそこまでショックだったのか、ママは脇に抱えていたカバンを落とした。

 反応がおじいちゃんと似ている……似た物親子だな。

 ところでこれは内緒の話だが、無限高い高いは二度とされたくない。あんな怖い経験この世にあるか?

 

「ミライ、まだ7歳のはずでは……?」

「7歳はもう高い高いで喜ばないんですよ。ご存知ない?」

「は、はあ……寡聞にして……」

 

 しばらくママと話していると、もう一人の待ち人がやってきた。

 

「ミライ、今日の学校はどうだった?」

「たのしかったよー。パパのお仕事は?」

「もちろん、楽しかったよ」

 

 パパもママも、無限書庫の仕事は楽しいらしくて、わたしも結構興味がある。本読むの好きだし。

 おじいちゃんには地上部隊が第2志望だと言ったが、あれはウソである。第3だ。

 まあ、それはそれとして。

 今日の晩御飯だ。

 今日はおじいちゃんの担当日。つまりそれは、お夕飯が楽しみで待ちきれないということになる。

 わたしは、急いで二人を連れて帰りたかった。

 まずはパパの手を取り、引っ張る。

 

「な! ユ、ユーノさんの手を……」

 

 空いた手でママの手を引こうとすると、何やら変なことを言い始めた。

 

「小娘~、パパの1番はこのわたしだぞ!」

「もー、はいはい」

 

 このお母さん、あろうことか娘に対抗してくる。あまりにめんどうくさい。

 いつものことだが、あまりお外ではやらないでほしい。恥ずかしいから。

 

「あとミライの1番もわたし!」

 

 わがままか。

 やっぱりこの人、わたしやパパがいないとダメっぽいな。

 

「わかったわかった」

 

 両手で、大好きなふたりの手を取る。はやくみんなで帰りたくて、わたしは歩き出した。

 

 

 

 家族でテーブルを囲む。

 やはりおじいちゃんの料理はサイコーだ。若いとき美味しいものばっかり食ってたとか言ってただけある。

 

「いつもありがとうございます、お義父さん」

「父さん、これくらいわたしに任せてくれていいのに」

「いいさ、これが老後の趣味なんだよ」

「ママの料理はマズいしね」

「えっ」

「………」

「………」

《………》

 

 しまった。食卓を静寂が支配し、ママが泣きそうな顔になっている。

 しかたない、おだてるか。

 

「そういえばママ、この前超大型のガーディアンを倒したんだって? 司書の人がすごい成果だって騒いでたよ」

「……ま、まあね? わたしとパパが組んだら、無敵だからね、あれくらいはね」

「ユ、ユーノくん。新しい区画の調査はどうかね?」

「はい、順調ですよ。時空管理局も人材繰りがうまくなってきました」

 

 うまくごまかせた。

 しばらくの間、大人しく料理に舌鼓を打つ。

 ママの機嫌が良さそうなタイミングを見計らって、わたしは重大な話をすることにした。

 

「おねがいがあります」

「なんだね」

 

 おごそかにママが答える。

 

「自分のデバイスがほしいです」

「えー、だめ」

「はやい」

 

 やはりだめか。調べたところ、競技用に使えるデバイスというのはある程度の性能が必要らしく、最低限のものでもけっこうお高い。さらにいいものに手を出そうとしたら、わたしのお小遣いでは貯めるのに何年かかることか。

 

「うーん、どうだろうね」

「お前もこのくらいの歳のときに与えたはずだが」

「あれは今思えば過保護ですよ、いきなりハイエンドどころか違法改造されたやつ寄越すなんて……」

「いや……あれは、スカリエッティが勝手に……」

 

 ママは今のわたしくらいの歳でデバイスをもらったらしい。ずるい……と思わなくもないが、管理局員として戦うなら必要だったんだと思う。

 

「うーん。ヴァーミリオンアイズじゃだめ? おさがりになっちゃうけど、超高性能だよ」

「えー、アイズって性格がなんかママに似てて、口うるさいんだもん」

《心外ですね》

「わたしもだよ……ママはこんなに凶暴じゃないよ……」

 

 なにより、アイズはママの相棒だ。譲ってもらっても、ふたりみたいにはなれないと思う。

 

「基礎基本ができるまで自分のデバイスとかいらないって。もう少し、じっくり成長しなさいな」

「……はーい」

 

 ヴィヴィオお姉ちゃんが自分のデバイスを貰ったのは、10歳の頃だという。それよりあまり早くにもらっても、デバイスに振り回されるだけだとママは言う。

 ならばしかたあるまい……座して待つか。

 でもお小遣いも貯めておこう。そのときがやってきたとき、足しにするのだ。

 

「そういえばなんでデバイスほしいの?」

「格闘技選手になりたいから」

「え!? そうなの?」

「え、司書になるんじゃ……」

「地上部隊に入るんじゃ……」

《デバイスマイスターになるはずじゃ……》

 

 最近おもうことがある。妹か弟が欲しい。あと3人くらいいないとこの家族に対応できない。あとふつうに兄弟姉妹のいるお家がうらやましい。

 

「弟か妹がほしいな……」

「は!?」

 

 なぜか顔を赤くするママを見つつ、おじいちゃんのシチューを口に運ぶ。うーん……おかわりするか。

 ……わたしの家は、いつもこんな感じ。たまにオーリスおばさんや、ママとパパのお友達も遊びに来てくれて……大好きなみんながいるここが、わたしの一番おちつく場所だ。

 これを言うと調子に乗る人たちなので、言わないようにしている。

 

 

 

 

「じゃあいってきまーす」

「「いってらっしゃい」」

 

 あの子……ミライが、玄関を出るのを見送る。

 さて、我々も出勤だ。

 最近、ついに一家に一台転移ゲートを実現したことが嬉しくて、どうも毎朝テンションが上がってしまう。

 

「セリナさん、いくよー」

 

 あの人の声を聴いて、ふと昨日のことを思い出す。

 ……この頃は、あんまり手を繋いだりしてないな。娘成分はきっちり摂っているが、旦那分がエンプティかもしれん。

 二階で待っていた、彼の横に立つ。そっと、その左手をとった。

 

「わ、えっと……どうしたの?」

「たまにはいいでしょ?」

 

 光を放つゲートを前に、彼の手を引いた。

 ……うん、やっぱり、たまにはいいと思う。

 

「ちょ! いい歳して、こんなところ人に見られるのは……!」

「だいじょぶだいじょぶ。最初に誰かとエンカウントするまでです!」

 

 行き先はいつもの場所、無限に広がる世界だ。

 さて。今日はどこまでお仕事進めるかな。

 それと――ユーノさんを、どんなふうにからかおうかな。

 

 

 

 なのはクローンのたくらみ……おわり

 

 


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