Fate/EXTRA ニトクリスと行く月の聖杯戦争 作:くりふぉと。
更新サボり、申し訳ないです。
時系列通りにやるのが難しいと判断したため、書きやすいシーンをいきなりすっ飛ばしました。
書け次第、1回戦と5回戦の間の時系列のエピソードも挟んでいきます。
「私の宝具は既にお見せしました。
……改めて名乗りましょう。
私の真名はニトクリス。
「ニト……?!」
「そう……ですよね。私なんて英霊としてはとても未熟者で……」
確かに、その名前は他のファラオたちと比べるとマイナー過ぎる。
でも。
「────なーんて、前から知ってたよ」
「な!?」
予想外の答えだったのか、驚きの顔を見せる。
いちいち一喜一憂する彼女。
確かにこのやり取りだけを切り取れば、精神的に未熟さがあり女王としては疑わしいだろう。
古代エジプト、第六王朝のフォラオにその名を遺す女王。
後年の古代ギリシャ人、ヘロトドスの記録によると、ニトクリスの兄弟はエジプト王であったが、臣下たちは彼を殺し、妹であったニトクリスを王位をつかせた。
”たかが王の血を引くだけの女に何が出来る。自分たちの傀儡にしてやろう”という試みだったのだろう。
しかし、日々、未熟な人格ながらも魔術師として研鑽してきたニトクリスはそれを見抜いていた。ファラオ以前に大事な肉親を陰謀で殺された。それに対する敵討ちを企図した。
巨大な地下室を築いて落成式を行うとして多数のエジプト人を集め、秘密の管から水を流し込んでこれを虐殺した。
そして事が終わると報復を免れるために自ら灰の詰まった部屋に身を投じて自殺した、とされる。
「このネカフェ風の部屋、本棚があるだろう?
図書室から色んな文献があるけど、そのリソースを本という状態なら保管できるみたいなんだ。……SERAPHも粋な計らいをするよね」
彼女は驚きの表情を緩めるも、理解にはまだ至っていない、という表情だ。
「それを利用して、君のことを調べた。もちろん気づかれないようにね。そうしたら大体絞り込めたんだ」
あっけに取られるキャスター、もといニトクリス。
うん。今ならいけそうだ。
せーの……
「ええい!」
ニトクリスにもたれかかる。
「ひぁっ!?」
扇情的な声……!
もといエロい声を出すニトクリス。
ってかニトクリスって言いづらいな。
「な、ななななな……!」
ベッドの上で覆いかぶさる。
ぽふっという音が、布団に沈む瞬間に耳に入る。
「「!」」
その瞬間。
左腕が弾力性のある何かに触れ……?
何かって?
そりゃおっぱいだ。
ああ。
……ああ。
「何を……しているのですか」
一瞬、殺意を感じたが、それはすぐに消え、ただ疑問を孕んだ声が優しく響く。
「今まで、ただ座って見つめあって話すだけじゃ飽きたから、かな?
……でもさ、嫌がってないでしょ?」
「な、何を適当なことをっ……!」
「だって、本当に嫌だったら霊体になればいいだけの話でしょ?」
そう。
サーヴァントはNPCやマスターたちと違う。
このセラフに於いて、特定の状況下を除き、自分の意思で霊体化したり実体化できるのだ。
「こ! これはつい……動揺して霊体化し損ねたのですっ!」
「へえ……動揺、したんだ?」
「〜〜〜っ!」
断言する。
誰がどう見ても、彼女の様子は冷静沈着から180度、乖離している。
ぽんこつファラオ。
でもそういうところが好きだ。
「わっ」
流石に、羞恥心に耐えかねたのか、思い出したかのように霊体化する。柔らかい彼女の肉の感は消え去り、浮いていた状態からベッドに全身がぼふっとベッドに突撃する。
くう。
名残惜しい。
「なんと破廉恥な……!
共に聖杯戦争を叩い抜く仲にも関わらず、性の欲に溺れるなど……!」
やばい。
結構怒ってらっしゃる。
「ち、違うんだ! キャスターは言っただろう? 絆を深めることが必要だと。それにただ(物理的に)寄り添って休憩しようとしただけじゃないか」
必死に言い訳する。
ここは何とか乗り越えなければ……!
「俺はキャスターと共に闘いたい。その気持ちに嘘偽りは、一切ない」
すると。
しばらくの沈黙の後「キィン」という、霊子が一点に収束する音と共に彼女は再び姿を表した。
「……分かりました。信じましょう」
「よかった。じゃあ仲直りの印に一つお願いがあるんだけどさ」
「仲直りしたら、貴方の要望を聞く……なんだか凄く都合のいい話ですね……」
「何言ってるんだ。あくまで2人にとって必要なことだよ」
「なんだと言うのです?」
半信半疑の表情を見せるキャスター。
それでも、怪訝な顔をしながら、今の言葉で半分信じてしまう彼女を目の前にして再び胸に飛び込みたくなる。
そんなことを考えながら、さも重要なことを言うかのようにもったいぶって間を取る。焦らしすぎてもアレなのでちゃんと言おう。
「……キャスターのことを名前で呼ばせて欲しい」
「ま……また突拍子のないことを。真名を隠すためにクラス名で偽装しているというのに、貴方の頭の中にはタランチュラでも詰まっているのですか」
「照れなくていいよ、キャスター。もちろん聖杯戦争に於いて情報戦の重要性は痛いほど分かってる」
情報マトリクスの多さで死闘の勝敗を分かつことは、これまで何度も経験したことだ。
それでも。そのリスクが1%でも多くなろうとは言え、これは実現させたい。
絆を深める……というものは都合のいい言葉だ。
ただ単純に、キャスターとより心理的に近づきたいという願望。
記憶を失っている中、自分は何が好きで何を望むのか、ということも知らない。
そんな中、キャスターとの(色んな意味で)やり取りする時間こそ、自分にとって大事なことなのだ。
単純な思考かもしれないが、近づけば近づくほど、離れてしまうリスクは減る。
だから、もっと近づきたい。
下らないことかもしれないが、こんな自分にとっては凄く大事なことなのだ。
それはそれとして。
ニトクリス……あまりにも長いし呼びづらい。
ここはニックネームで呼びたい。
ニト……ニトクリス。
「クリちゃん?」
「……なんだか下品味を感じるのですが」
うん。それは自分も思った。
それにいろいろ後ほど色々アウトになりそうだからやめとこう。
それなら。
「じゃあニトちゃん」
「え」
「ニトちゃん」
大事なことなので、2回言いました。
ニトちゃん。妥協策、というかもうこれしかない。
彼女は、なんだか納得がいかなそうな抗議の色を帯びた、そんな複雑な表情をしつつも、自分も真剣度が伝わったのか。
「むぅ〜……いいでしょう。この際下品味を感じる呼ばれ方よりはまだマシな気がします」
「決まりだね」
やったぜ。
了承の言葉をもらって心の中でガッツポーズをする。
「それと」
そう。重要なことを伝え忘れそうになった。
いけないいけない。
「別にニトちゃんがファラオとして実績と挙げられてない、とか自殺することで逃げたから、とかどうでもいいんだ。他の英霊に劣るとか全然気にしてない」
「それはいったい……?」
「単純に、手を伸ばして生きようとしている俺に手を差し伸べてくれた。
それだけで十分だ。俺はニトちゃんと一緒にこれから先も戦いたい」
聖杯戦争だから、敗北して消えるまでは行動を共にすることは当然なのだ。
それを互いに承知の上で、言葉に出して伝えたかった。
……それは彼女にとって大ダメージだったのか。
彼女は再び、ぽふっとベッドに顔を沈めてそっぽを向く。
彼女の魔術触媒(と主張する)の両耳は本人の意思とは関係なく無造作に揺れている。
そんな彼女の仕草は愛らしく、どうにかなりそうだったが。
同時に眠りに陥るのにも十分な充実感が、自分の中を支配していた。
そっぽを向く彼女の背から手を回したまま、意識は途絶えていく────