8区のバケモノ達は隻眼の王と共に   作:傘あきさめ傘

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3話 羽化

東京8区 廃棄地下施設 二階フロア リビング

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「東京都20区、建築中高層ビルの鉄骨落下事故・大学生と女性の合わせて二人が重傷。

その後、大学生の青年は一命を取り留めるも、女性は安否不明……ほーん。」

 

ヤモリとの一軒から早々2か月余りが経っていた。

特にあれから、何もなく平穏な日々がとりあえずは続いている。

相変わらずのように、俺は地下にて(雪ノ下曰く)ゴキブリのように身を潜め、ゴロゴロしながら新聞を広げて、最近起きた一連の事件・事故等などに目を通していた。

そこで目についたのが、この20区で起きた鉄骨落下事故。

ただ普通の事故のように思われるが、なんでだろ。

なんでだろ~、なんでだろう~、なぜかなんでだろ~ぐらいのテ○&ト○並みにうさん臭い。

いや、別にその二人はうさん臭くないけど、全然。

どっちかって言えばおやじくs………ゲフン、ゲフンモルスファ!!。

ごめんなさい、失言です。でも、ボクは大好きです。はい。

ただホントなんでか知らんが、すごい違和感を感じる。

たぶん……恐らくだが、その違和感の正体は、20区にいる「奴」のせいだと思うのだが。

 

「確かにどこか、うさん臭い内容の記事ではあるわね。」

 

新聞を伏せて、その先にいる声の主に視線を向ける。

俺の座っているのとは反対側のソファで雪ノ下が紅茶を飲みながら、片手に単行本を持ち、

俺の読んでた記事の内容について言及してきた。

その隣では、由比ヶ浜がお菓子をもしゃもしゃ食べながら、スマフォをいじっている。

 

「なに。やっぱこの事故について、お前も違和感を持ってるんか?っというかよく俺が考えていることが分かったな。」

 

お前もこの記事を読んでいたのか?なんて愚門は聞かない。

だって膨大な博識の持ち主ユキペディアさん、はたまたユキエもんだもん。

なんでもしってるもんねー。わーすごい偏見。はちまんわるい子!

 

「あなたが、だいたい文字を声に出して読むときなんて、何かそれに対して疑わしく思っているってときだもの。」

 

まじですか!?俺にそんな癖があるの。

何気なくいつも口に出して読んでた自覚は多少なりともあったけど。

よく考えたら…っていうかよく考えなくてもそれって周りから見たらただの痛い人にしか映らないんじゃ…。

これからはもう声に出して、本なり新聞なり読むのはやめよう。特に人のいる前とかでは。

いや、でもこれやめたところで俺の痛さは抜けねぇな、うん。

あらやだはちまん、一生痛いまま人生を過ごすことになるなんて、なんて哀れなボッチなんでしょう。

あっ違った、痛いのはデフォルトなのね♪プークスクス(白目)

 

 

「それに………。」

 

と、一言付け加えて。

 

「もう何年、あなたたちと付き合っていると思ってるの。」

 

付き合う、って言い方には少し語弊があると思ってしまうが、確かにもう5年も経てば、それなりに相手の事は分かってくるようにはなる。

まぁ、分かったところで完璧に相手のことを理解したという事にはならんが……。

ただ、その言葉には、発した声以上の重みがある。

だからだろう。ついつい俺もこいつらとの今まで思い出を噛みしめつつ、その言葉には深く納得してしまう。

 

「確かにな…。」

 

「そうだね!!」

 

いつの間にか、携帯を見ていた由比ヶ浜も聞いていたのか、耳を傾け、笑顔で小さく相槌を打つ。

おそらくこいつも、今までの俺たちとのやり取りを思い出しているのだろうか。

あくまで、俺の勝手な憶測ではあるが、そういった感じに見えてしまう。

 

少しの間、余韻に浸っていると。

由比ヶ浜がおもむろに口を開き、疑問を投げかけてきた。

 

「でも、なんで2人はこの事故の内容について、疑問に思っているの?」

 

「俺の場合、この二人の患者の搬送先がどの病院になるか気になってな。重傷だった場合、なるべく大規模な病院へと搬送されるだろう。となると、20区で大規模な病院つったら、嘉納総合病院だ。ここまで言ったらお前でも分かるはずだ。その病院内で、最も医学の分野を専攻し、最高峰の医療技術を有している奴と言えば、一人しかしない…。」

 

俺が問を言うのに間をあけていると、雪ノ下がその答えを口にする。

 

「嘉納昭博……というわけね。」

 

「でも、その人って確か……。」

 

「ああ、俺を『こんな体』に作りかえやがった元凶だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。だからその患者が奴の元に行きわたっていないのか否か考えててな。最悪の場合また新たな『俺やあの2人』が作り出されるんじゃないかと懸念しているってわけよ。」

 

嘉納が俺ら3人に仕出かしたこと。それは「人間の喰種化人体実験」

人間だった俺たちをある喰種の赫胞を植え付け、地獄ともいえる様々なプロセスの経て、喰種へと段階を踏んでいく過酷な実験内容。

俺はその時に、人間としての身体から喰種の身体へと変えられたのである。

しかも、その植え付けられた赫胞は、いずれも持ち主が元赫者であり、半喰種として実験プロセスを行った当時は暴走しまくり、同じく実験体として利用され、喰種化に失敗した多くの人間を俺たちは○した。

あの時の事は今でも鮮明に嫌になるくらい覚えている。

なぜ人間であるはずの奴が、そんな強力な喰種の赫胞を手に入れられたか詳しい経緯は分からんが、とある情報屋によれば、嘉納は昔、「CCG」に配属していたということらしいということ。

まぁ、奴のおかげで俺の人生は180℃大きく変わってしまったが、そんな中でもこいつらや戸塚に会えたことは唯一の救いだったといえる。

え、ざいもくざ?だれそれ?あ、ああ、あいつか…。

まぁ、いいやつだったよ。

と、過去の忌々しい記憶を思い返していると由比ヶ浜が首をかしげながらまたまた俺に疑問を投げかけてきた。

 

「でも、その喰種のなに?赫胞だったけ?がないと、ヒッキーみたいにはならないんでしょ?」

 

「ああ由比ヶ浜の言う通り、いくらあのマッドサイエンティストが半喰種にできる技術を要していたとしても、その材料がなければ成立することはない。だがこの状況を推測する感じ、どちらかが喰種である可能性が極めて高いな。」

 

「え?どうしてそう言えるの?」

 

「この記事に書いてある事故当時の状況を想像してみれば分かると思うが。普通建築中の高層ビルがあったら、その真下付近は必ずって言っていいほど立ち入り禁止区域になっているだろ。普段なら、絶対に近づかない場所に近づくって事はよっぽど他人に見られたくない奴が何かを仕出かす時にやる方法だ。しかも事故が起きた時刻は夜9時あたり。となると暗がりで人気のない場所でターゲットを狩る存在は何かと言えば……。」

 

「喰種、ということね。」

 

またまた雪ノ下が俺が答えを言う前に、正解を言い当てる。

う~ん、君こういったクイズ関連のことはほんとだいだい大好きですねぇ。ええ。

本当は由比ヶ浜に答えてほしかったんだけど、まぁいいや。

 

「そういうこと。以上から20区の事故から導き出される嘉納の存在、安否不明の女性=喰種説を仮説としてたてると、『第二、第三の俺たち』が出来る可能性があるってこと。いや、本当に可能性だけで現実に起きなければ、何も心配はないんだけど。」

 

ほんと、これがただの机上の空論で終わってくれれば、こちとら変に動くことも、警戒することもないんだけどなぁ。

と、それとなく楽観的に考えていると

 

「なら、その『可能性』はもしかしたらもうすでに現実として起きているのかもしれないわね。」

 

雪ノ下が手に持ったスマフォの画面を訝しげに見ながら、とんでもない事実を突きつけてきやがった。

え、まじで…。

 

「それはどういうことだ?」

 

俺がその真意について探ろうと雪ノ下に尋ねると、彼女は画面からいったん目を離し、姿勢を変え由比ヶ浜と正面から相対する格好になる。

 

「由比ヶ浜さん、上井大学で1週間前、一年の学生が事故で病院に運ばれたって、学内のポータルで連絡があったわよね。」

 

「うん、あったけど……。」

 

「その学生の名前は『金木研』。その比企谷君が見ていたのとは別の記事を今ネットで調べてみたら、こっちには名前が書かれていて同一人物だったわ。女性の方は名前は公開されていないようだけれど。そして、これがその金木さんの写真。」

 

【挿絵表示】

 

そう言い、雪ノ下は自身のスマフォの画面を俺たちに向け、Twitter上にアップされている金木の写真を見せる。

こいつが、金木研。なんともまぁTHE HU☆TU☆Uの大学生ではあるが、どことなく女性に狙われそうなほのぼのとした雰囲気を醸し出している。

もしどちらかが喰種だとしたら、まず間違いなくこいつはただの人間で被害者になるだろう。

 

「そして、その事故が起きたのが1週間前。私が記事に対して違和感を感じたのも、比企谷君と同じく嘉納のことが頭によぎったせいだけれど、もう一つはこの写真を見てその記事に書かれている『重傷』というワードにも疑問を感じたわ。ケガの度合いがどの程度によるか分からないけれど、重傷なら最短でも半年、最長で後遺症が残れば数十年費やす患者だっているでしょ。」

 

「まぁ、確かに。」

 

「そうだよね……。」

 

雪ノ下の説明に俺と由比ヶ浜は納得し相槌をうつ。それを確認して、再び彼女は話はじめる。

 

「それで、今見せた彼の写真を見て、この人何処かで見たことがあるわと考えていたら、今日たまたま大学に彼がいたことを思い出したわ。」

 

「え―――――!!」

 

「まじですか、それは…。」

 

うわぁ……これはもうほぼ確定事項じゃねーか。

 

「普通、重傷を負って1週間で退院して何事もなかったかのように過ごせる人なんていないでしょう?それに彼の傍にいた学生も彼の様子に心底驚いていたわ。最初はなぜあんなにビックリしていたのか不思議に思っていたけれど、この一連の内容で納得できたわ。恐らく、もう一人の女性の方が喰種だと断定すれば、間違いなく彼は嘉納の手によってあなたのような「半喰種」にされていると考えた方がいいわね。」

 

はぁぁ~…もう最悪だよ……最悪……。

どうしてくれんですかね、喜納さんよ。

つーか何がしたいかさっぱり理解できねーな、あの藪医者のやることは…。

 

あんたが前言ってた、この世界の歪んだ鳥籠を破壊するだっけかなんか知らんけど、自己満(理想だか野望だか計画かは分からんけど)のために、あんまり関係ない奴を巻き込むのはやめてくれませんかね。

いや、俺らももちろん関係ない奴の部類に属するんだろうが。

 

今直接あって文句の一つや二つ言いたいところではあるが、どうせ言った所で状況が改善することはないだろうし、それに多分面会させてくれねーだろ。

絶対裏で手を引いてる連中がいるだろうし、こっちも下手に姿を見せて、公(CCG)に露見される訳にもいかないしな。

ふ~む…どうしたもんかねぇ……。

 

仕方ない、最近顔を出していなかったし、ちょっくら行ってみることにしようか。

20区にある懐かしのあのお店へ。

久しぶりにあそこのコーヒーも飲みたいし。

もしかすると、芳村のじいさんなら、何かしらの有力な情報は得ているかもしれない。

それに一応あの方は、ある意味で俺たちの育ての親でもあるわけだから。

 

 

 

……………まぁいい、とりあえず行ってみるか。

そう意気込み、ソファに架けていたコートを掴み急ぎ早に羽織る。

 

「ちょっと、『あんていく』に行って、芳村のじいさんのところ聞きにいってくるわ。」

 

一声かけ、地下通路へ続く扉のボタンを押す。

この通路を駆けることによって、地上より早く一気に20区へ行くことが出来る。

また、俺の赫子の特性上、太陽の光のと届かない環境下で力を最大限発揮できるため、この赫子を使っていけば、あら不思議たった数分であんていくに到着つくことができるのである。

ただ逆説的に言えば光の届く場所では、本来の力を機能できないという裏付けでもあるが…まぁ、そんなことは適材適所だし、無理をすればどうとにでもなる。

 

「私たちも行かなくて平気なの?」

 

「もし大変だったら、一緒に行こうか。っていうか正直行きたい!」

 

「いや、いいって別に。そんな大変な用事じゃねーから。それとも何か、お前らそんなに俺といたいの?もしかして俺のことが大好きなの。」

 

冗談交じりでとぼけて言う。こういえば、嫌がってついていく事はないだろう。

しかし、今いった事を、俺はすぐに後悔するはめになる。

 

 

「何バカなこと言っているのかしら。もしかしなくても、そうなのだけれど。」

 

「うん!!どんなになってもヒッキーのこと大好きだよ!」

 

「………………………………そ、そうですか……。」

 

そんな〇川の火の玉ストレート並みの直球で言われても困るのだが…。

いや、確かにあの約束の日にお前ら2人からの告白はもらいましたよ。

ええ、もらいましたとも。

でもなに、なんて言うの…ちょっときみたちこういう方面に強くなりすぎやしませんかねぇ。

いや、そもそも俺がヘタレすぎるのか。告白の返事もしていないで、キープしっぱなしみたいになっちゃってるし。つーかなってるし!(逆ギレ)

なにその、どこぞのハーレム主人公みたいな展開。

そんなの俺得じゃねーし、誰得でもないんですけどぉおお。

そもそも陰キャの代表格である俺が学内トップクラスの美女二人から告白されるとか、地球一周回るどころか、太陽系一周して逆回りするレベルでおかしい話である。

だって、そうだろ。

捻くれ ボッチ ひきこもり ゴキブリ ゾンビ 黒歴史 

以上が俺を司る上での重要なファクターであるが、これらを並べてモテる要素がどこにあるのって話。

モテモテになるのは〇ト先輩だけで充分である。

 

だが本当におかしい。前までこういった場合、雪ノ下なら

「何寝言をほざいているのかしら、この自意識過剰谷君は。そもそも私があなたに好意を抱く理由がないのだけれど。確かに奉仕部としてのあなたのこれまでの行動は、私の中で最大級の評価に値するけれど、それがわたしがあなたに対して好意を抱くことには直結しないはずよ。そもそも、あなたは……クドクド」

 

みたいな長ったらしい文句をしゃべり続ける羽目になり、由比ヶ浜なら。

 

「ヒッキーキモイ!マジキモイ!死んじゃえ!!」

みたいな小学生レベルの文句言われる羽目になっていたが、いや、それはそれで傷つく。

 

だけどなぁ……ほんと変わり過ぎだろ。

それとも俺が変わってないだけなのか……・。

 

やばい。なんかさっきから心臓バクバクするし、顔が熱くてしょうがないんですけど。

落ち着け、ここは平常を保つために落ち着いて一首読むとしよう。

病気かな 病気じゃないよ 病気だよ 恋の病も 病気となりけり(病気)

これは病気ですね、うん

。まず一首読んでいる時点で、俺の頭がもう病気(白目)

 

「あらあら、顔が少し赤いわよ。変な風邪でも引いたのかしらね、恋煩い君。」

 

超満面の笑顔で俺の表情を心底楽しむ雪ノ下。

うるせ、ほっとけ。お前ぜってー分かってて言ってるだろ。

しかも最後もはや原型留めてないんですけどそれは。

 

「ヒッキー、可愛い。」

 

対して、えへへっと、照れ笑いを浮かべながら、俺を見つめる由比ヶ浜。

いや、お前は俺に可愛さ求めてんじゃねーよ。俺が可愛いとか誰得だっつーの。

確かに最近、「キモ可愛い」という造語があった気がしたが、あれ主に深海生物とかその他の気色悪いけどなんか愛嬌のある生物に使われることが多いんだっけ、いや知らねーけど。

ただ俺とそいつらを同じカテゴリーに入れるのは、ナンセンスすぎやしませんかね。

まぁ、もうどうでもいいか。

 

「あーもう……もういい分かった。そんなに付いていきたいなら、勝手に付いていけばいいだろ。その代わり物騒な喰種に遭遇しても、知らねえからな俺は。」

 

あー分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。

連れてきゃいいんだろ!!みたいなどこぞの団長のように悪態をつく俺氏。

こうでも投げやりにならんと、気持ちの整理がまじでつかなくなる。

ベッドがあったら、今頃悶えて「俺はどうすればいいんだ―!!」とか言いながら、アイデンティティクライシスに陥るレベルで今物凄い荒れている。

 

「ええ、それでかまわないわ。」

 

「とか言いながらヒッキー絶対あたしたちのこと守ってくるくせにー。」

 

あーあーなにいってるのか、きこえないなぁ。いまのボクのみみはミュートモードでーす。

ばじとうふうでーす。よってなにもきこえませーん。はい、ざぁんねん!

 

「じゃぁ、ここで待ってるから、今すぐ準備してきてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「了解~。」

 

そう言って一旦自分たちの地下部屋に戻る。

一応、あいつらはここの地下施設の隣にあるシェアルームのアパート生活を送り、そこからいつも大学へ通っているが、ここにもあいつら専用の地下部屋を設けており、こちらでの生活も可能にはしている。

まぁ、本人たちがここでも暮らしたいっていうんだから、俺には止める権利は全くないが、それにしても、さっきは調子づきやがって、ったく…。

 

そう心で文句をボヤキながら、拗ねてぼすっとソファに顔を埋めていると、地上階段へ続く入り口から美しい声が響き渡る。

 

「ただいま~。八幡帰ってきたよ。」

 

こ、この声はマイグレートスイートハニーエンジェル、トツカエル!

久々の声にやばい。さっきの精神的疲労のせいか、うっすらと涙がでてくる。

 

「と、戸塚―!会いたかったよぉ!お前がいなくてめっちゃ辛かったんだから。」

 

急いで1階へと飛び降り、戸塚の前に全速力で行くと、俺はおよよ、およよと泣き崩れる。

 

「あははは。大袈裟だよ、八幡。たかだか1週間じゃない。そういう事は僕じゃなくて雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに言ってあげなよ。」

 

「いや、戸塚と1週間会えなくなったってことは、俺が死ぬまでの間に戸塚に会える時間が1週間分縮まったってことだ。これ以上の大問題があってたまるか!なんならこの世界と天秤に架けてでも、俺は戸塚との時間を大切にする。」

 

「もう、すぐそうやってふざけたこと言うんだから。嬉しいけど、もうちょっと真面目になってよね。」

 

そう言って戸塚はぷくっと頬を膨らまし、フンと顔を横にそむける。

やばい、なにそれめっちゃ可愛い。その膨らんだあわよくばほっぺをぷにぷにぽよぽよしたい。

そうやって戸塚のほっぺをを触れる機会を伺っていると、今度は騒音レベルの煩い声がフロア全体に響き渡る。

 

「とっぅ!!けぷこんけぷこん!材木座義輝!これにてアジトに帰還!」

 

「…………あー材木座。帰ってきちゃったかー。」

 

「久しぶりだな、八幡。それにしてもお主何故そのような如何にも、うわーどうでもいい奴がかえってきたよ……みたいな顔をしているのだ?流石の我でも傷つくぞ。」

 

「いや、別にそんなことねぇけど。ただ、なんでもう少しまともな時に帰ってこないのかなーコイツは、みたいには思っているけど。ほら、前言ったヤモリの時とか。あん時お前が相手してくれれば、俺ずっと一日中ゴロゴロできたし、たまにガキの面倒見るくらいで終わったのによお。まぁ別にいいけどよ。」

 

【挿絵表示】

 

「それについてはかたじけない。あの日はちょうど奴の出身地の13区にいてな。我も早めに調査を終わらせて、アジトに帰ろうかしていた時に荒くれ集団の喰種に大勢で囲まれてしまってな。致し方なく力を抑えて相手をしていたら、翌日まで掛かってしまったわけよ。」

 

「あっそ、そうだったのね……どうでもいいけど、ごくろーさま…。」

 

そんな奴ら無視して、さっさと帰ってくりゃいいものを。

ただそれらの荒くれものの挑発に乗るのが、材木座と言う男である。

コイツは俺と違って短期戦を好まない。

別に短期戦が苦手だからとかそんなのじゃない。

ただ、コイツが赫者化して、早期に相手を倒そうと考えたら、辺り一面火の海になること間違いなし。だから、コイツはあえて力をセーブして、相手と同等の力量で戦う事を望むのだ。

 

「それしてもそのヤモリとやら。我も区を回るうちに色々喰種に尋ねてみたが、聞けばあやつ、数か月前まで13区を仕切っていたリーダーらしいではないか。そのリーダー格の強さ、ぜひ我も受けてみたいところであったぞ。」

 

またコイツはヤモリと違った意味で戦闘凶でもある。

自らを腕試し(笑)と称し、各区の強力な喰種を相手に常々と決闘申し込んでは、完膚なきまでに叩きのめし(無論殺しはしないが)、自身の強さに酔いしれているだけのただのアホ。

もう出会ってから5年の月日が経過したが、未だコイツから中二病が抜ける気配は一切感じられない。

こいつにとって、各区の喰種に関する調査、CCGの動向調査は二の次でしかない。

 

「まぁ、あいつ。一応生かしておいたから、また何処かで会えばそのうち戦えるんじゃねえの。知らんけど。たぶん、もう関わることはないと思うが。つーか俺この後雪ノ下達と20区にある『あんていく』に行く事になってくるから。詳しい報告ははまた後で教えてくれ。」

 

「なにデートか?己八幡…。ついにリア充への道を駆け上りおって、ぺっ!」

 

「頑張って、八幡!」

 

「ちげーよ、まぁ一言で言えば『俺たち』の後輩が出来るかもと言った具合だ」

 

俺の一言に、今ので言ったことを全て理解したのか表情が強張る。

 

「今なんと!」

 

「それって、僕たちと同じ「半喰種」が新たに誕生したってこと?」

 

「そういうこと。詳しくは帰ってから説明するわ。お前たちは悪いけどここで留守を頼みたい。それでまぁ、疲れてるとこ悪いけど今昼寝をしているガキたちの面倒を起きたら見てやってくれなると助かる。」

 

「うん、わかったよ。じゃぁ、気を付けてね八幡。」

 

「あいや承知した。必ず生きて戻って参れ、八幡よ!」

 

「言われなくても分かってるよ。っていうか別に今日はあんていくへの聞き取り調査だけだから物騒な事にはならん。おっと、あいつらが戻ってきたからそろそろ行くわ。」

 

雪ノ下達と合流し、一応、戸塚達との一連のやり取りを伝えておく。

二人とも了承したようで、戸塚と材木座の方に振り返る。

 

「それじゃあ、戸塚くん、廃材くん。帰って来て早々疲れているところ申し訳ないけど、お留守番の方よろしくね。」

 

「じゃあね、彩ちゃん、中二。行ってくるよ!」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

「ほむん。行って参れ!時に雪ノ下殿と由比ヶ浜殿。そろそろ本当に我の名前をいい加減覚えて欲しいのですが…。」

 

材木座の返答はスルーして、地下通路に続く階段を降り続ける。

地下のトンネルに到着すると、足から赫子を発生させ、雪ノ下と由比ヶ浜に声を掛ける。

 

「じゃぁ、お前たち悪いけど嫌かもしれんが、俺の近くに来てくれない。」

 

「わかったわ。」

 

「は~い!よろしくね。ヒッキー。」

 

「はいよ…って、ちょっと待て。近い近い近い、近いから。頼むからもう少し離れろ。」

 

いや、ほんと近いから。まじで。なんかいい香りするし、こそばゆいし、なによりめちゃくちゃ恥ずかしい。

あとそんなに近くにいると俺の菌が移っちゃうから、比企谷菌に。

 

「えへへ。ヒッキーあったかい……。」

 

「別に減るものじゃないでしょ。こんな可愛い美少女2人とくっつけるだけでありがたく思いなさい。」

 

「自分で、可愛いとか美少女とか言うのかよ。まぁ、そうだけど。つーか、お前らからくっ付いてきたんだろうが。」

 

「…………はぁ、もう降参だ、好きにしてくれこの際。」

 

「ええ、そうするわ。」

 

「えへへへ。」

 

くっそ、今日は本当に精神がゴリゴリ削られる。

取りあえず、さっさと20区に到着して、芳村のじいさんのところに行くとしようか。

 

そうして黒い赫子が瞬く間に俺らの周りを取り囲み、辺り一面は真っ黒になる。

俺らを包み終えた赫子は、そのまま猛スピードで20区へとつながる通路へ直行し始め、あんていくへと進み始めた。

 

 

 

あっ、そう言えば店長もだけど、あのクソガキもどうしてるのかしらねぇ…。

 

 

 

 


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