Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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1-⑪

 

 

 

 

 

 

「いやマジでびっくりしたぞオイ! 」

急にぶっ倒れやがって!

ちゃんと目ぇ醒めたからよかったけどよぉ……!」

 

「そうだな……へへっ」

 

 すごく久々に感じた万丈の声を聞いからか、マスクの中で思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「……なに笑ってんだよ気持ち悪ぃ!」 

 

「あ、俺変身したままじゃん」 

 

「オォイ!?」

 

 全身を覆う慣れた圧迫感を確かめて

次に顔を撫でると、やはり独特の硬質間。

現実では変身解除されないままだったのか。

 

 変身を解除し辺りを見る。

……最後に受け止めた筈の巨大カマキリの頭部は見当たらない。

これは一体……

 

「あら正義のヒーローさん、よく眠れたかしら?」

 

 浮かんだ疑問は霧消し、声のした方を見れば、そこには身体中(すす)だらけになったアンジェとちせが。

しかし感覚が戻ってくるにつれてアンジェがじっとりとした視線をこちらに向けていることに気付く。

口は笑っているが目で怒りが伝わってくるようだった。

 

「あ、いやその……すみません」

 

 すぐさま起き上がり腰を曲げて謝罪。

わざとでなくても女の子を怒らせてしまったのだから詫びるのが筋というものなのだろう。とあるネットアイドルと揉めた時も、よく万丈と一緒にこうして頭を下げていたものだ。

 

「何が? 意図が読めないわね?」

 

「はぁ……桐生よ、これの意地の悪さに一々取り合わんでよいのだぞ?」

 

 やれやれ、と言った風にため息交じり。

疲れの見えるちせだがその舌は渇いてはいないよう。

 

「しかしまぁ、これもお主に多少親しみを持っておる証拠じゃ。アンジェは優しい男に弱いからな」

 

「……名誉毀損って言葉、知ってるかしら?」

 

「図星なら知っておる」

 

 眼にも止まらぬ速さでちせをホールドアップしようとするも逃げられるアンジェ。

そのまま手押し相撲に発展、結果はちせが僅差で勝利。アンジェの顔が六月の曇りのようにどんより陰った。

 

「ともかく、目が醒めて何よりじゃ」

見事な働きであったぞ、桐生」

 

「え?……あ、ハイ」

 

 ちょっとくらいフォローしてやれよ……

うぅん、でもこれが彼女たちの日常であるなら俺が変にツッコむのもおかしいな(俺もちせと同じような事よくやるし)。

 

 でも……なんかいいなこういうの。

平和の中にいるって感じがする

 

「二人とも、今日はありがとな」

 

「…………え?」

 

「? どうかしたか?」

 

「いえ、別に……」

 

 きょとんとするスパイ二人。

何か変なことを言っただろうか?

ただのお礼なのに

 

「……あ、そうだ。俺がいない間に何かあったか?」

 

 他愛もない話は打ち止めにして、ここはきちんと状況確認しないと。

 何か重大な見落としがあるといけないからな。

 

「あなたが倒れるカマキリの頭を抱えた瞬間、

謎の光が発生してあなたが倒れて動かなくなった後、突然、カマキリが頭部も体も斬られた脚も全て霧状に崩れて散ってしまったわ。」

 

「後に残ったのはお主とそこに寝かせておるマスクメイカーじゃった」

 

 万丈に確認を取る。……間違いないようだ。

 てきぱきと説明してくれる二人にまた礼を言い、ちせの視線の先を見れば横に倒れていたのは全身の所々が黒く汚れた俺と同じ顔――ショーンだ。

 

「ショーン」

 

「――う…」

 

「大丈夫か?」

 

「あ………君は……」

 

 無理に起き上がろうとするショーンに手を翳し、そのままゆっくり()せさせる。

彼は見下ろす俺たちを順々に見つめ、そしてゆっくりと口を開けた。

 

「その声は……そうか、君が『セント』か」

 

「おう、そういえばちゃんと名前言ってなかったな。

俺は桐生戦兎! 天才物理学者だ!」

 

 顔の横でひょいっ、と指を振る。

 

「今はあんま無理すんな。とりあえず横になっとけ」

 

「なんでそんなに……親し気になれるんだ」

 

 ほんの軽い挨拶に返したショーンのその言葉は、酷く重苦しい声色だった。

視線は俺たちの誰にも合わせられない方向へ向いていく。

 彼の問いに対する俺の答えは、

 

「お前の、自分の罪を認め償いたいという本物の意思を、お前の心の中で感じ取ったからだ。」

 

 はっきりと、真実を伝えることだった。

 訝しむように眉間に皺を寄せる万丈。頭上に?マークが浮かぶのが見える。アンジェもちせも同様だ。

 

 しかしショーンは違った。

ハッとした表情になり俺を見つめる。

どうやら彼にはあの世界で俺と戦った感覚が残っているようだった。

 

「おい戦兎、お前急に何の話してんだよ?

てかショーンってなんだよ」

 

「ショーン……それが僕の、"マスクメイカー"の本当の名だ 」

 

「なんと!?」

 

「!? まさか……」

 

 つかつかとショーンの方に歩み寄るアンジェ。

歩を止め身を屈め、懐から一枚の紙を取り出しショーンに突き付ける。

それには一つの樹形図のような物が端から端までを使い丹念に描かれていた。

 

「これに見覚えはある?」

 

「……よく持ち出せたな、そんなもの。

あの家はもう大分前に没落した筈だけど」

 

「『ショーン・ウェルキウス・シーモア』……あなただったなんて」

 

「……!」

 

 その名を聞いた途端、ショーンは怒りの形相を見せた。

しかしすぐに平静な表情となり、アンジェから視線を逸らす。

 

「でもなんで……」

 

「おい、いきなり何の」

 

「……忘れたの!? なぜ私たちがコイツを追っていたのかを!」

 

「…………」

 

 あの夜、初めてアンジェと出会った時に聞いたこと。 

 

 ショーンは貴族の出で貴族と繋っているある政治家の汚職の証拠を盗み出し、それを脅しの材料にして自分の悪事の数々を見逃させていた。

 

 アンジェたち"チーム白鳩"はその汚職の証拠を取り戻すため、ショーン……マスクメイカーに狙われていた俺と万丈に接触してきたのだった。

 

「君は警察ではないな……おそらく共和国のスパイか」

 

「……えぇ」

 

「そうか。

なら欲しいのはこれだろう?」

 

 ショーンは上着のポケットから一本の鍵を取り出す。

ファンタジーや時代小説で見るような柄の長いタイプの物だ。

 

「あの家の地下室に行け。そこに君たちが求めるもの全てがある。

シーモアの家長が代々犯して受け継いでいた罪の証。

アイツらも僕と同じ外道だったことがそれでわかる。……血は争えなかったってことだ」

 

 ショーンは俺の方を見て微笑する。そして遠い目でロンドンの夜空を仰いだ。

 

「……何かの罠としか思えないわね」

 

「違う、ショーンはそんなことはもう」

 

「しない根拠がどこにあるの?」

 

 ぴしゃりと、アンジェは鞭を打つような声で俺に反論する。

 

「そもそもなぜあなたはこの男の本名を知っていたの?

しかも罪を償いたがっている? 

初耳だわそんなこと。

あなたが宣う"救い"というのは、犯罪者を無条件に赦してあまつさえそれを他者にも強要するようなそんな偽善的で都合のいい物だったというの?」

 

 さっきまでの会話の流れで俺が記憶世界で行動している間の現実での時間経過はほんの数分でしかないようだった。並行世界間で時間経過のスピードが異なっていたように物質と意識の間でもそのようなラグが発生しているとしてもおかしくはない。

 だからアンジェがこのように俺に捲し立てる疑問は当然の物だ。今の俺の考えはショーンの凄惨な過去と狂気のままに犯してきた罪を償いたいという彼の本心を記憶世界での戦いを通して知っているからだ。

 

「……ショーンの、マスクメイカーの罪は確かに重い。

殺人の動機もそれを思いつくに至った喪失と過去を、俺は眠っている間にショーンの心の中に迷い込んで見たんだ。触れたんだ。

だから自分の事のように分かっちまったんだよ!

こいつは狂気と優しさのせめぎ合う中で涙を流しながら戦っていたんだって!」

 

「……つまり、そいつの過去を眠っていた短い時間の中で実際に体感したとでも言いたいの?」

 

「あぁ」

 

「…………」

 

 アンジェはもちろん、ちせも何を言ってるんだこいつは、という目で俺を見る。

ただ一人、万丈だけはさっきまでの俺の発言の全てに納得がいったようでスッキリとした顔で頷く。

 

「彼の言葉は真実だ。

僕も彼と同じように自分の心の中にいたんだ。

彼のおかげで僕は……」

 

 ショーンが、言葉の中でおもむろに顔の皮を引っ張る。

 

「「「!?」」」

 

(おく)は、本当に大事な(おの)を取り(おど)せた。

忘れてはいけなかった(おの)を、忘れるべきだった(おの)を。」

 

 俺の顔を外し、ショーンはただ一つの"ショーン"の顔を見せる。

俺を除く三人は唖然として俺とショーンを見た。

 

「もう(おく)は何()隠さない。

()偽らない。

(すえ)てを曝け出しありのまま(ああ)の自分でこれからを生きる。

それが、彼の(みちい)いてくれたこれからの(おく)の人生だ。」

 

「罪を棚上げにして無責任にただ許す。

そんなことをしたいんじゃない。

俺はショーンに正しい裁きを受けて償う道を見せた。

そしてこいつはそこに進むことを選んでくれたんだ、自分の意志で!

それが、俺のやりたかったことなんだ」

 

「…………」

 

 アンジェは目を伏せた。

まだ何かを思案しているのか、指先でショーンから渡された鍵を弄ぶ。

 ちせが冷や汗を垂らしながら俺とアンジェを交互に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「――彼に任せてもいいんじゃないかしら?」 

 

 夜闇の奥より響いた声、その主は黒いベールから金色の髪を垂らした女性だった。 

 

「「プリンセス!」」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「ごきげんよう、みなさん」

 

 ベールを上げ、にこりと笑いかけたのは昨晩お初にお目にかかったプリンセス。正にその人だった。

 

「ドロシーとベアトも一緒?」

 

「二人は諸々の準備が整い次第合流するわ。

で、そのことなんだけど――」

 

 プリンセスの口から残りのチームメンバーについて俺たちが戦っていた間やってくれていたことについて詳しい説明がなされる。

 

「なぁ、ヒメさんなんつってんだ?」

 

「俺たちが戦ってる間に残ったチームメンバーでここら辺の人を避難させたり、入ってこないようにしてくれてたみたいだ」

 

「おぉ~! スッゲェ助かる!

プロの仕事って感じだな! テキパキしててよ」

 

 そのありがたい話に相変わらずの頭の悪い感想を漏らす万丈。でも全くその通りだ。ただ戦っていた身としてはとてもありがたいものだった。

 説明の後、プリンセスは続けてアンジェと会話と続ける。

 あれ、様子が少しおかしいな……

 

「――でもプリンセス、桐生戦兎は放っておけないわ。彼の力は……」

 

「大丈夫よアンジェ。」

 

 何かアンジェと俺の処遇について揉めているのだろうか。

 まぁ当然か。急に目の前で変身しちゃったもんな。

 

「だって……」

 

「だって?」

 

「あんなに頼もしい御姿をしてらっしゃったじゃない?」

 

 え……

 

「頼もしい姿だったって俺……」

 

「マジ? やべぇじゃん!」

 

「フゥーー!!」

 

 万丈と手を叩き感動を共有。

こういうのが堪らないんだよな。

ライダーやってると特にな!

 

「黙ってて!!」

 

「ハイ」

 

 怖い。

 

「……プリンセス、確かに彼の纏っていた"KAMENRIDER BUILD"はおべっか抜きで強力だった。

倍以上高さに差のある敵とほぼ無傷で戦えてしまう防御性。

俊敏性、ジャンプ力、掘削機型の銃剣、火球や強靭な鎖まで、変幻自在な能力で立ち回れる汎用性。

それに何より、これ程の戦力が拳銃のように個人単位で所持できるという携帯性。

悔しいけど、護衛していた筈の私たちが逆に護られる始末だった。」

 

「改めて聞くととんでもないな、お主……こんななのに」

 

「こん……!?」

 

 ……いや、ツッコむのは止そう。

そんなことよりアンジェの今言ったことだ。

 

「……あぁ、まぁそうだな」

 

 父さんが設計し、葛城巧()が完成させたこのビルドシステム。

 恐れられ疎まれ続けたこの力をここまではっきりと他人から評価された経験はほとんどなかった。

 でも俺が真に評価してほしかったのは力そのものではないのだ。

 ……複雑だな。

 

「でもそれは戦闘に限っての話よ。国を、人心をどうこうできるような代物じゃない。

力だけでは人々を真に導くことはできない。むしろ生半な力は扱う者をその周囲も巻き込んで破滅へと進ませる。

力を与えられ、その意味を深く考えることもない人間がどんな行動に出るか……あなただってわかるでしょ?」

 

 アンジェとプリンセスの瞳が潤んでいく。

 二人にだけ通じるものが、アンジェの言葉にあったのだろう。

 

「そうね……うん。

本当にそう思うわ……

でもねアンジェ、ミスター・キリューはきっとそんな人じゃないわ」

 

「……え?」

 

 意外な言葉だった。

 

「ミスター・キリューはショーン氏のことを真剣に考えてくれていた。

誰かの人生の為に一所懸命になれる人が罪のない誰かを傷つけるために力を振るったりはしないわ。

あなたみたいにね?」

 

「…………でも!」

 

「おぉ、そういえばアンジェ! 一流のホラ吹きと言うのは人が嘘を吐いてるかどうかがすぐにわかるらしいのだが……お主はどうなのだ、黒蜥蜴星人?」

 

「ちせ、あなた……!」

 

「人間味が増してくれたのは()いが、その分融通の利かなさも増したのが玉に瑕じゃな。

まぁだが、私はそんな今のお主の方が好きじゃ。ふふん、可愛げがある」

 

「……な!!」

 

 ぽっ、とアンジェの頬に赤みが注す。

 

「…………もういい、わかったわよ

まぁ、信じるって言ってしまったものね

信じるわ。あなたも……そこのショーンも」

 

 そう肩を落としながら俺の方に視線を合わせアンジェがぼそりと呟く。

 

「いいのか?」

 

「そう言ってるでしょ。

そこの彼の心の世界に入ったとかどうとかも、おそらくBUILDの能力なんでしょうし。」

 

「……優しい女の子だな、へへっ」

 

「全く口の減らない……

はぁ……なんだか今日だけで一生分驚いた気分だわ」

 

 こめかみを抑えながら溜息をつくアンジェ。

それを見て、憑き物が取れたようにショーンが安堵していた。

 

「……ありがとう」

 

「殺人鬼からの礼なんていらないわ

そんなことより自分の心配をしてることね。きっと死ぬよりも辛い目に遭うわよ、あなた」

 

「あぁ、それだけのことをやって来たんだ。

報復や中傷は全てこの身だけで受けきる。

それが、人の命を奪ったことの当然の償いだから。」

 

「……その通りね」

 

「それと……セント、バンジョー」

 

「ん?」

 

「んだよ」

 

「いつか絶対、あの店の店長に謝罪しに行くよ」

 

「おう、待ってる(万丈、↑だってよ)」

 

「(……おう。)お前絶対くたばんじゃねーぞ……店のリフォーム手伝ってもらわなきゃなんねーからな」

 

 ショーンに万丈の言葉(エール)を通訳する。

 

「………そうか。

あぁ……わかった!!」

 

 

 その言葉が聞こえてから少しして、遠方より車のエンジン音が聞こえてきた。

 

 

「大丈夫かお前らぁ!?」

 

「……あぁ、皆さんご無事でしたぁ!!」

 

 ベアトとドロシー。

それにその奥からぞろぞろと悪い意味で見慣れてしまった黒服の警官たちもやってくる。

ショーンを逮捕させに二人が連れてきたのだろう。……正直早く帰ってほしい。

 

「おぉ、来たか二人とも」

 

「いやいやちせお前落ち着きすぎだろ!

町は怪物の噂でえらい騒ぎだったぞ!?

ホント大丈夫だったのかよ!?」

 

「まぁなんとかね」

 

「はぁ~~~、心配してたんですよもう……

ってそうですあのシ」

 

「セント・キリューがいたぞ!!

ヤツがマスクメイカーだ!!捕縛しろ!!」

 

「……え、俺!?」

 

「大人しくしろ!!」

 

「違う違う!!こっちこっち!!

俺は無実だっつーのー!!」

 

 だからなんでこうなるんだよ!!

おいィ何口抑えてんだアンジェ!!

笑ってんのか!?笑ってんのかお前!!

 

「おい待てよお前ら!!

こっちが本当のマスクメイカーだろうーが!!

よく見ろよオイ!!」

 

「そうだ!僕がマスクメイカーだ!!

僕の恩人に不当な扱いをしないでくれ!!」

 

「なんだお前ら……

うわぁああああ!?同じ顔が二人!?」

 

「……ショーン!万丈!」

 

 うあぁ感動……!

やっぱ持つべきものは戦友だ……!

おい目を逸らすんじゃないよ、そこの女子

 

「……なるほど、事情は分かった。

しかしあの悪名高い連続殺人鬼のこの落ち着きようはなんだ?んん?」

 

 あぁこの期に及んでまたこの下りか……アンジェみたいには説明できないけどどうしようか

 

「間違いなくその人がマスクメイカーですわ。」

 

「む、お嬢さんこんな夜に何……!!??」

 

「通りすがりのなんとやら……よろしくお願いしますね?」

 

「…………はぃいいいいい!!!」

 

 おぉ、プリンセスナイスゥ!!

すげぇな話が一瞬だよ。

王女直々に事実上の命令されてまぁこの人も大変だな。言っちゃなんだけど冤罪にされそうになった身からすれば少し腹の虫が収まったかな。

 

「よし、捕縛完了!」

 

「…………セント」

 

「どうした?」

 

「これを、君に渡しておこうと思う」

 

 そう言ってショーンが懐から取り出したのは、

 

「…………あぁ!」

 

 彼の姉が弟に託していた、あの大きな蒼い指輪だった。

 

「どうしようもなかった僕に、君は未来を創ってくれた。君に持っていて欲しいんだ。」

 

「ショーン……」

 

「姉様も、君にならそうしろって言うと思う。」

 

「……大切にする!!」

 

「頼む」

 

 そう言って、彼は警官達に連れられ、夜のロンドンの町へと歩き出した。

 

「……また会おう!」

 

「あぁ!……()た!」

 

 俺の仮面を外しありのままの顔で笑うショーンに、俺は見えなくなるまで手を振り続けた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、そうだ戦兎ォ!言い忘れてたんだけどよ!」

 

「ん?なんだよ」

 

 

 

「――お前、髪ハネてんぞ」

 

 

 

 え…………?

 

 

 

「あ」

 

「しかも二つ」

 

「…………」

 

 

(……っ!……っっ!)

 

(これ笑うでない!

でも……ぶふっ!)

 

「…………おい」

 

「あら気付いてなかったの?てっきり

わかってると思ってたけど」

 

「うそーん……」

 

「おっちょこちょいな男性って、可愛らしいですよね」

 

「プリンセス!?」

 

「え……これ何時から!?」

 

「朝餉の時からじゃな」

 

「なんで今まで誰も言ってくれなかったの!?」

 

「なぁ……俺今スッゲェ言いてぇセリフがあんだけど」

 

「イウナ。ゼッタイイウナ」

 

「『自分で気づけバーーーーーーカァ!!!!』」

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

「ぎゃははははははははははははは!!

いつものお返しだバーカ!!」

 

「何やってんだアイツら……」

 

「さぁ……はぁ、まるで子供ですね」

 

「ベアトには言われたくないだろ」

 

「ドロシーさん!!」

 

 

 

 

 ――こうして、俺達の長い一日は終わった。

 

 ショーンの肉体はなぜ鎌まみれの凶悪な姿になっていったのか。

 あの記憶世界の正体に、その中で見た謎の黒い液体。

 そして黒い煙となって消えた巨大カマキリの鎧。

 まだよくわかってない疑問点も多く残っていたが、今は置いておこう。

 

 

 それに、

 

 

「でもまぁ取りあえず全員……生きててよかったわ」

 

「うむ!」

 

 

 狂おしいほど大切なことを、成し遂げられたのだから。




 次回、第一章エピローグです。
 よろしくお願いします。
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