Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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1-⑫

 

 

 

 数日後、俺と万丈は激しい戦闘により見るも無惨な状態となってしまった店の片付けに奮闘していた。

 

 

「――つかマジなのかよ記憶の世界に行ってたってのは。……さすがに現実味なさすぎんだろ!」

 

「俺だってなんであんなことできたのか未だによくわかんねーんだよ。

でもこの目でしっかり見ちまったんだからしょうがねーだろ」

 

 汗と木くずでザラザラべっとりな額を拭いながら気怠げに答える。

両手両脇に薪となってしまったイスやテーブルの詰まった麻袋を外の台車に積んでいく万丈は『さっぱりわからねぇ』と言いたげに首を傾げた。

 

「それにアレは紛れもなく俺とショーンにとっては真実だ。 ショーンも最後の戦いを覚えてたしな」

 

「別に疑ってるわけじゃねーよ。

ただ、今までのビルドと違い過ぎるっつーか……『人間の記憶の世界に行く』なんて能力聞いたこともねーしよ」

 

「確かにそうだ。あの時持ってたボトルの組み合わせでそんな能力は発現しないはずなんだ。そもそもボトルの効果はドライバーを仲介しないと十分には発揮できないからな。

アンジェにはなし崩し的に誤魔化しちゃったけど、本当はビルドに人の記憶の中に入る機能なんてないん……だ!!」

 

 ギシギシと音を立てて薪の束が台車一杯に積み上がる。これだけあれば一週間は家族キャンプができるのではなかろうかという量だった。

 親しくしてもらっている家一件ごとに一束ずつ配る感じなら、丁度よく捌けるだろう。

 

「これ運ぶのかぁ……まぁまぁいいトレーニングになりそうだな!」

 

「流石筋肉バカ、思考回路がバトルマンガの主人公」

 

「へっ!鍛え方がちげーのよ!!」

 

 万丈お得意の胸筋をバシバシ叩いての筋肉アピール。俺はもうすっかり見慣れてしまって最早飽きを通り越して風景と同化してしまっていた。

 

「んじゃ早速配りに……」

 

「――頼もぉー!!」

 

「おん?」

 

 どこからか聞こえてくる勇ましい挨拶。

 この声は、

 

「お、ちせェ!」

 

「おぉ~、いらっしゃい!よく来たな」

 

「うむ、お邪魔するぞ。二人とも息災で何よりじゃ」

 

 この間の戦いを共にした者の一人。

ちせが牛車(!?)に乗ってやって来てくれた。

 

「うわすげぇな牛だよオイ牛!」

 

「おぉ~スゴイな……生で見るの初めてだ」

 

「うむ、私も初めて目にした時は驚いたものじゃ。

日本の文化をこの国に知ってもらうため、先ずは敢えて古風な方式をというのが大使館の考えの一つでな。

恐れ多くも私のような者の足で汚すことを許してくれているのだ。」

 

「へぇ~……あ、そっか今そういう時代だったな」

 

 明治になって日本は欧米を初めとした諸外国と盛んに交流を行い国際化を推し進めていた、というのを日本史でやったことがある。葛城の記憶からそれが引き出された。

 俺たちの世界の歴史と違い、ブリテン島を統治する国は『大英帝国』ではなくここ『アルビオン』だった。それでもこうしてちせのような日本人が遣いとしてやってきていることを考えれば、あまりこちらの知る歴史と違いはないのかもしれない。

 

「時代……か、そうじゃな。今の日本が海外の列強諸国と渡り合えるほど強くなるためには、その技術と文化を取り入れていかねばならぬ時代にあるのは確かじゃ。」

 

「ん?なんか聞いたことあんなそれ……あ、わかった『富国強兵』だ!!歴史の授業でわぶっ」

 

「あーー猫さんがいたと思ったらいなかったぁ↑ーー!!」

 

 万丈から失言が出るギリギリのタイミングで道路にダッシュ、わざとぶつかる。

 

(ベッタベタかよお前!!

なんだよ授業で聞いたって! 

正体がバレたらどーすんのよ!!)

 

(いってー……あー、悪ぃ。そういやここ過去の時代だったっけ。あんま実感湧かねーけど)

 

「む、どうした?

どこか痛めたのか?」

 

「あー、何でもない何でもないっす。

あ……そうだ、今日は何か用があって来たのか?」

 

 変にツッコまれる前に話を軌道修正する。

何が原因で俺たちの素性がバレる分からないからな。安全を期して悪いことはない。

 もちろん、ちせを信頼してないわけではないが俺たちの素性を明かすということは明かした人間にも危険が及ぶ可能性があるということだ。どこの誰がライダーシステムを武力として奪いとろうとしてくるか分からないからな。彼女たちを護る意味でもまだ秘密にしておくのが賢明だろう。

 

「おぉ、そうじゃった。

お主ら、今日は暇か?」

 

「え? あぁまぁ急ぎの用事は無いけど」

 

「この薪も別に今日配んなくていいしな。

ちょっとくらい仕舞っといても腐んねぇだろ」

 

「店長もまだ入院してるからどのみちまだ店開けないもんな……というわけで今日はもう暇になりました」

 

「うむ。それで実はな、今日はお主たちにこれを渡しに来たのじゃ。」

 

 そう言ってちせが懐から取り出したのは、時代劇で偉い人が読んでるような上下の端を山折りされた手紙だった。

 

「……これは?」

 

「日本大使館への入館許可証じゃ。」

 

「日本大……日本大使館!?」

 

 え、これ貰っちゃったってことは……え、いいの!?

 俺たちただ日本人ってだけで実質身元不明の根無し草なんですけど!?

 

「つーことは……あ、まさか!!」

 

「ふっふ。万丈よ、約束を果たすぞ!」

 

「……マジか!」

 

「先日の感謝も込めて、お主たちを最高級の食事でもてなそう!!」

 

「……!!」

 

 日本大使館で食事……てことはつまり!

 

「……米!」

 

「味噌!!」

 

「醤油!!」

 

「やった日本食イィイイイイヤッホオオオオオイ!!!」

 

 万丈とジャンプ&ハイタッチ。

ついに、俺たちにも春が来たのだ!!

 

「おぉお、そんなに喜んでくれるとは……!!こちらも用意した甲斐があったというものよ!

ささ、乗ってくれ。時間が惜しかろう!」

 

「うーすお邪魔しまーーす!!」

 

「うわ中も豪華じゃん!ウルシだウルシ!!」

 

 テンションマックスで牛車にイン、久方ぶりの日本食に思いを馳せる俺たちを乗せて牛車がごとりと音を立てて走り出した。

 

 

 道中、現代でも有名なタワーブリッジやビッグベンなどが横窓から見えてちょっとした観光気分を味わっていると、不意にちせから質問を投げられた。

 

「ところでお主ら……結局あの"仮面らいだぁびるど"とやらは何だったのだ?」

 

「「!?」」

 

 ……あぁ、そういやあの後チーム白鳩全員から質問攻めに遭ったのを今度ゆっくり話すからと言ってはぐらかしたまんまだったな……

 いや、きちんと必要な所だけ話すつもりではあるけども。うぅんどうしたものか……

 

「……ちせ」

 

 突然、万丈が真っ直ぐな目でちせを見据え、その質問に答えた。

 

「前にも言ったろ、"正義のヒーロー"だよ。

困ってるやつがいたら助けるし、ワルがいればぶっ倒す。目の前の誰かのための戦士、それがビルドだ。」

 

 ――そうだろ?

 

 そう問いかけるような万丈の視線に、余計な考えで大切な物を見失いそうだった自分に気付かされる。

ビルドの、仮面ライダーの本質は何も難しいことはない、ただそれだけの事だったのだと。

 

「……そうか」

 

 ちせは一度目を伏せ、また俺たちに向き直る。

 

「いや、過ぎたことを訊いてしまったな。

すまない、二人とも。」

 

 そして額を床に付けた。

 

「い、いやそんな謝ることねぇよ!」

 

「いいのだ。

お主たちが何処で生まれ何処で育ち、何を成し何を笑い何に泣き何を捨ててきたか。それはお主たちだけの物じゃ。おいそれと他人が踏み入るものではなかった。」

 

「ちせ……」

 

 なんで、俺たちにそこまで

 

「お主たちがたとえ何者であろうと、共に戦ってその時私が感じた感謝の心は紛れもなく誠のものじゃ。……私には、それだけでお主たちを信ずるに足る証となった。」

 

 ……そうか、そうだよな。

やっぱり俺の考えは間違ってなかった。

人が人を信じるのに、大した理由はいらねぇんだな。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「"仮面らいだぁ"という言葉がな、とても気に入ったのじゃ。日本語と英語、異なる言語の混じり物なのに何故か妙にこう……"合う"のじゃ。日本とアルビオンも、この言葉のように佳き繋がりを持てるような気がしてくるというか……まぁとにかく私はとても好きなのじゃ」

 

 花が咲いたような笑顔だった。混じりけのない純粋な。

俺たちがずっと守りたいものだった。

 

「……何いい話してんだよ」

 

「ふふ。お主たちと話していると、なんだか日本に帰って来たような気分になってしまうな」

 

「牛車だしな」

 

 気持ちのいい笑い声が車内を満たす。

 

「で、まぁさっきのようなことをな?

大使館の長である堀河公に話したのじゃ」

 

「…………マジ?」

 

 笑顔から一変、顔面が驚愕に染まる万丈。

俺は先程渡された大使館入館許可証の封を開け、中身の一番左のハンコの上の文字を見る。

 

「あ、この名前がその……堀河さんか」

 

「うわよく読めんなお前」

 

 偉い人の達筆と言えばって感じの文体だ。巧過ぎて逆に読みずらいヤツ。でも確かにそこには「堀河」と読めそうな文字があった。

 大使館の運営を任されるほどの人物だ。きっと物凄く偉い人に違いない。

 国の偉い人と話したことがないわけではないが、氷室首相のような温厚な人である可能性は低い。下手な発言はしない方がいいかもしれない。

 

「日本大使館は国の要人が出入りすることの多い屋敷。日本人とはいえ一介の市民をそう易々と中に入れることはできぬ。ゆえに堀河公にお主たちの人となりとショーンとの戦いの仔細をお伝えした。」

 

「あ……そっかそうことか、悪ぃな気が利かねぇで……ってじゃぁさっき俺の言ったコトお前ちゃんと理解してんじゃねぇか!!」

 

「あ、当たり前じゃ!

さっきはその……堀川公にお主たちのことを勝手に話してしまったことをそれとなく伝えるための苦肉の策で……」 

 

「いーよそんなん気にするこたねーだろ!つーか折角美味いメシ食わしてくれんのにそんな細けぇことで一々怒ったりしねーよ!」

 

「私が気にするのじゃー!!」

 

「じゃあ気にしなきゃいいだろ!」

 

「それができたらこんな話しとらんわぁ!!」

 

 って人が真面目に考えてんのに何してんだよこの二人は……

 ……でもまぁ、こんな風に他愛のないケンカができるってのは、今が平和な証拠だよな……なんつって。

 

 

 

 

 そんなこんなで俺たち一行は日本大使館に到着。

「「おぉ……!」」

 

 見れば金閣寺のように池の上に屋敷が立ち、そこかしこに鹿威しがあるというなんとも"昔の日本らしさ"を全面に押し出したような設計だった。

 そこでは初春の日差しが水面を煌めかせ、またそこに棲む鯉たちの泳ぎで美しい波紋を何重にも描いており、古き良き日本庭園の姿が目の前に広がっている。

 

「お、スゲェ鯉だよ鯉!!

食パン千切って撒こうぜ!!」

 

「こんなとこで売ってねーよ。

あぁでも綺麗だねぇ……見事なこの体の線が水の抵抗を逃がすのに計算されてるというか……」

 

「なぁ、鯉の刺身は美味いってアレホントか?」

 

「罰当たりなこと言うんじゃないよお前は!

これ多分一匹500万とかするぞきっと!!」

 

「ウッソマジかよ!

nascitaの売り上げ何か月分だオイ!?」

 

「楽しそうじゃなお主ら……」

 

 そんな久々の日本の風景にまた興奮していると、寄り道ばかりの俺たちに呆れたちせが乱暴に俺たちを屋敷へと引っ張る。

 すると玄関に初老の男性が一人佇んでいているのが見えた。

 

「ただいま戻りました」

 

「うむ」

 

 恭しいちせの挨拶に口をぐっと結んで少し頷くこの男、もしかしなくてもこの人が……

 

「さて……お初にお目にかかる。

日本政府外交特使、堀河と申す。」

 

 やはりだ、一目見て分かる。この人からは只事ではないオーラの様な物を感じる。見た目の年代からして明治維新後の動乱期を生き抜いたからであろう、穏やかながらずっしりと重い物を背負った強い男の気風があった。

 

「そちらが桐生殿で、万丈殿か」

 

「あ、はい!

初めまして、桐生戦兎です。本日はお招きいただき誠に」

 

「はは」

 

「あり……?」

 

 え、笑い声?

 

「あぁ、いやすまん!

ちせから聞いていた話と違って随分と礼節を重んじた話し方をするからついな」

 

「えぇ……」

 

 ちょっちせさん?一体俺たちをどう紹介したんだよ!

 あ、こら、目ぇ逸らすな。

 

「あぁ、コイツの敬語とかあんま本気にしない方がいいっすよ、自分の事天才とか言って基本的に他人をナメてるんで。油断してっと金タカられますよ」

 

「嘘だろお前!?」

 

 え、何?お前まで俺を裏切るわけ!?

つーかパンドラタワー初突入の時のことまだ根に持ってたのかよ!!

 

「ふっざけんな!!ならお前だって基本的にタメ口じゃねぇかよ!敬語も使えないおバカさんには言われたくありませんー!」

 

「……はぁあ!?敬語くらい使えるし!!

葛城ん家行った時だってなぁ!きちんと敬語で……うわ俺お前に敬語使ってたのかよ恥っっっず!!!」

 

「今更かよーーー!!」

 

「――いい加減にしろっ!!」

 

「「()っだっ!?」」

 

 二人そろってちせパイセンからのローキック。膝裏はマジで痛いからやめて!!

 

「さっきから見ておれば下らぬことできゃっきゃきゃっきゃと……(ましら)かお主ら!!あぁ堀河公の御前でこのようなことして……恥ずかしすぎて顔から火が出るわ!!」

 

「ゴメンナサイ」

 

「モウシマセン」

 

「気持ちが籠っとらん!!」

 

「アァ痛い痛っってぇえ!!」

 

「膝裏はやめてやめアァアッ!!」

 

「ぶっふふ……ははははははは!!」

 

「ほ、堀河公!?」

 

 ――あやっべ!!ついいつもの調子でふざけちまってた!!

誰だよ下手な発言するなって言ったヤツ!!……俺じゃん。

バカ!!

 

「ははは……いや、久方ぶりに心の底から笑えたぞ。やはり鬱憤晴らしは笑いに限るな。」

 

 あれでも、意外と好感触……?

 

「やはり聞いていた通りの気持ちのいい男たちだったようだな、二人とも。

……うむ、中々によい面構えだ。少し感じは違うが、まごうことなき日本男児の顔をしておる。それに、さぞや多くの苦労をしてきたようだな。」

 

「!?」

 

 やっぱ只者じゃねぇなこの人……優しかった俺たちを見る目が一瞬で鮫か羆のように鋭くなった。

 

「あぁ、そうそう。日本人であるお主たちがなぜロンドンに居ついているかについては、大使館からは特に訊くことはない。安心して日々を過ごすがよい。」

 

「え、いい、いいんすかそれで!?」

 

「"おろしや"や"メリケン"では大昔に漂流してきた日本人の子孫だという者が結構いて、日本語学校で教師などをやっている……と、昔日本に来たプチャーチンだかハリスだかが言っとったらしい。ならばこの国にもいておかしくはあるまい?」

 

「…………わぁお」

 

「そういうことだ。よろしく」

 

 トントン拍子で話を進め、こちらの身分を保証してくれた堀河さんは、笑顔でそう言って右手をこちらに差し出してくださった。

 

「あ、よろ……よろしくお願いします!」

 

「うむ!」

 

「よろしくオナシャス!」

 

「うむ!」

 

 固い、大きな握手。大人物ってのはきっとこの人のことを言うのかもしれない。

 

「さて、必要な話は済んだ……ちせよ」

 

「はっ」

 

「実は席の支度が整うのにもう暫しかかる。その間、少し庭を歩かぬか。勿論、そこの二人も共にな。」

 

「それは……よいのですか?」

 

「よいよい、減るもんでもなし。久々の政の関わらぬ付き合いだ、羽を伸ばしたい。」

 

「わかりました。」

 

「なぁ戦兎……俺たちスゲェことしてるんだよな?」

 

「うん」

 

「全然そんな感じしねぇんだけど」 

 

「それな」

 

 などと言いながら歩き出す二人に付いていく俺と万丈。堀河さんの庭のオブジェクトに関する蘊蓄を聞きながら石の道を歩く。

 そこかしこで若草が芽吹いており、春の息吹感じる草むらを進んでいくと、やがて開けた場所に出た。そこには

 

「あ…………」

 

「おぉ………」

 

「うまく土に馴染んだようで、今日がた咲いていたのだ」

 

 

 満開に広がる――日本の桜があった。

 

 

「すげぇ……」

 

 

 たった一本の細い樹に俺たち四人をすっぽり覆えるほどに広がった桜。

 ……そういえば、海外でも桜の鑑賞が定着したのは、明治になって日本から使節を送られた国々からだという話を聞いたことがある。その国の一つにイギリスがあった。

 

「…………」

 

 万丈の頬を涙が伝っていた。

 

「……万丈?どうしたのだ?」 

 

「なんでもねぇよ……」

 

 鼻をすすって袖で目を擦る。

 

「ただちょっと……この国で見られると思わなかったし……ぐすっ」

 

 

――ねぇ龍我、一緒に、お花見しない?

 

 

「すげぇ……キレイだったから」

 

「…………そうか」

 

 ちせはそれ以上口を開かず、じっと万丈を見つめてから、また桜を見上げた。

 

「なぁ、堀河さん」

 

「どうされた」

 

「メシ……ここで食ってもいいかな。

みんなで、ここで。」

 

「ほぉ……」

 

 万丈の頼みを聞いた堀河さんはニヤリと笑って顎に手を添えた。

 

「それは良いな! よし、さっそく持ってこさせよう」

 

「ありがとございます」

 

 ペコリと頭を下げる万丈。それだけ、この頼みに本気だったのだと気付いた。

 

「珍しいな、お前がそんな風に人に頼むの」

 

「いいだろ別に、たまには」

 

「知らない内に立派になっちゃって……お父さん嬉しい!」

 

「誰がお父さんだよ! せめておじさんだろうが!」

 

「誰がオジサンだおい!」

 

「そっちじゃねぇよ!!」

 

 笑い声を響かせながら、運ばれてきた懐石や佐賀牛の鍋に舌鼓を打つ。

新しく知り合えた堀河さんともより打ち解けていき、ちせの学校での暮らしぶりや万丈のボクサーとしての活躍を肴にして、日が暮れるまでお花見会。

 春風の運んできた平穏の中、俺たちはただ今を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、俺と万丈は店の屋根の上で星を見ていた。

ここは郊外。この時間まで明かりを付けている家は少なかったから、星々の光がよく見える。

小熊、大熊、獅子、小獅子、海蛇、山猫、猟犬、少し離れたところに蟹。ロンドンの夜空はまるで動物園のようだ。

 

「なぁ万丈」

 

「どした?」

 

「俺さぁ、仕事見つけたんだよ」

 

「マジ?」

 

「おう」

 

 寝っ転がりながら、隣の万丈に報告する。

 

 

「俺、本を出す。

俺たちの、"仮面ライダー"の戦いの全てを書いた本を。」

 

「……できんのかよ?

あのデータ向こうに置いてきちまっただろ」

 

「できるさ」

 

 きっぱりと断言する。

 

「俺たちちゃんと生きてここにいる。

そしてこれからもここで生きていく。

ま、いつかは向こうに還んなきゃだけどそれもわかんねぇし……」

 

「……本かぁ、それ俺の名前も載せていい?」

 

「キャラとしてなら」

 

「えぇ~、いいだろちょっとくらい!」

 

「じゃあお前文とか書けんのかよ」

 

「…………」

 

「いやそこは書いとけよ!」

 

 ふと、空に一条の光が差す。

 

「…………あ」

 

 見上げれば、大きな緑の流れ星が走っていくのが見えた。

 

 

 

 

 

caseX-1 fin.




 ようやく第一章を完結できました。読者の皆様には多大な感謝を申し上げます。
次章も大体今のようなペースで投稿していきたいと思っていますので良ければまた続きも読んでくださると幸いです。

 次章はベアトとプリンセス、そして万丈がメインのお話となります。ご期待ください!
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