Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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2-⑤

  

 

 

 

 

「…………ドロシー?」

 

 昨日、豚汁を食べながら笑顔を見せていたドロシーは、ここにはいなかった。 

 

「何処の何奴(どいつ)が、"そんなもの"を作ったのかって訊いてんだよ」

 

 代わりにいたのは、見たこともない程に冷たく感情を殺した顔の彼女。

視線は鋭く、俺に向けられている。

 

「(……桐生、ドロシーを嫌ってくれるなよ。)」

「("ビルドドライバー"も"フルボトル"も、蒸気機関やケイバーライトとは全く異なる超技術……)」

「(なぜ今、その力をこの国に持ち込んでしまったのですか、キリューさん……)」

 

 他の三人は何も言わず、椅子に座ったまま俯く。

俺の位置からは、彼女たちの顔は見えなかった。

 

「(なんでベルトから服が生えてくる……なんでそんな力を持ってる……なんで、なんでそんな力があって……振りかざさないんだよ!!自分本位にならないんだよ!!……そこまで、優しい人間のままでいられるんだよ!!)」

 

 彼女の顔に、じわじわと怒りが染み込んでいくのが分かった。

自分で強く握りしめている彼女の手は、みるみる内に赤みを帯びていく。

 

 ……そうだ、なんで俺は考えなかったんだ。

 

 19世紀、この時代のこの国の人々にライダーシステムを開帳した『後に』、彼ら彼女らが抱くであろう『感情』を、どうして考えなかったんだ。

 

 自分の価値観では絶対に理解できない現象、法則、技術、思想、それらを目にしたとき、人は何を思う?

 

なんでそんなことをする。

なんでそんなルールを敷いた。

なんでそんなものが創れる。

なんでそんな発想ができる。

 

――そんなものがあるのに、どうして自分には……

 

 

そうだよ……『怒る』に、決まってるだろ。         

 

 

 

「答えるよ」

「!!」

 

 そうする他ない。

慎重に、誠実に答えるしかない。確かな真実を答えるしかない。

そうしないと、この子は納得できない。

 

 今、真実を伝えることだけが、この子のために、俺ができることだ。

 

 

 

 

「──このドライバーを創ったのは、俺だ。」

 

 ドロシーの目が見開く。

 

「やっぱり……」

「なんだ、わかってたのか」

「万丈くんの翻訳機、あれだけの物を造れるならもしかして……って」

「……そうか」

 

 アンジェは数秒ほど俺を見つめたあと、またすぐ、視線をテーブルに戻した。

 

「……ボトルは? ボトルは誰が造った」

 

 ドロシーは目を細め、ボトルを指差し問い叫ぶ。

 

「ボトルについては分からない。……ある人から、託されたんだ」

「…………そ。」

 

 これは真実だ。

俺たちの地球に"持ち込んだ奴"なら知っているが、創った者については今や知るすべがなかった。

 

「――なら誰に託された」

「このドライバーの、設計者だ」

「設計者……? 今あんたそれを自分で造ったって言っただろ」

「設計図から実物を創り、機能を拡張させたのは俺だ。……設計図も、ボトルと一緒にその人から託された」

 

ドライバーに触れる。

 

「――ドライバーの設計者は、俺の父親だ。」

 

 その言葉を口にした瞬間、四人の視線が、一斉に俺に向いた。

 

「あんたの……父親?」

「そうだ。父さんこそが、ビルドの正式な装着者だった。俺はそれを受け継いだだけだ」

「受け継いだって……そんなものを息子にやって、あんたの父親は今何してるんだよ!?」

「…………」

 

 ドライバーを指さしながら、ドロシーは叫ぶ。その声はさっきまでの物とは比べるまでもないほどに感情的だった。 

 

 ……真実だけが、この子のためになる。

 

「死んだ」

「!!!」

「俺の目の前で……ビルドを託して、死んだ」

 

 

『巧……また背、伸びたか?』

 

 

「……………そうか」

 

 ドロシーは視線を一度左右に揺らし、唇をきゅっと締めて俯く。そしてそのまま、ゆっくりと席に着いた。

 

「…………ごめん」

「ドロシー?」

「あたしからはもう、訊くことはない…………答えてくれて、ありがとうな………」

「…………本当にもういいのか?」

「……あぁ。

変なこと訊いて悪かった。」

 

 それっきり、ドロシーは口を開かなかった。

 

「……なら」

 

 ドロシーとは違う方向から、声。

 

「貴方の父親は、何のためにそのベルトを設計したの?」 

 

 アンジェは、俺の心の奥の奥まで覗き込もうとするように、とても強い眼差しでこちらを見ていた。

 

「マスクメイカーのような怪物と戦うため……ではないでしょう?」

 

 訂正したかったが、そこで自分を制する。

全ての真実を話すことはしないと、さっき俺が自分で決めたことだろう。

 

「ベルトを託された貴方は彼のことを何も知らなかった。もし知っていたのなら、貴方の性格上私たちに彼について何かしら警告をしていたはずだし、そうでなくとも私たちが接触する前にBUILDとして彼を倒した。……だから怪物退治がその力を行使する真の目的だとは考えづらい」

「……その通りだ。」

 

 本当に知っていたら、どんなによかったか。

 

「よく理解してるんだな、俺のこと」

「理解なんてしてないわ。事実を述べただけ」

 

 『もしショーンの存在を知っていたら』、店長に大けがを負わせたりアンジェ達チーム白鳩を戦いに巻き込むこともなかったかもしれない。

……いや、そんな仮定は無意味か。俺の人生に、後悔に使えるような無駄な時間はないのだから。

 

「……答えて。」

 

 アンジェの視線がより強まる。俺の顔を刺し貫くように、それは鋭く尖っていた。

 

「これは……」

 

 アンジェが期待している答えを、俺は既に確信している。

彼女たちの住むこの世界、この国、アルビオン。ここが何をして繁栄した?

 

戦争だ。

 

戦争による数多の国の植民地化、その国々の人や文化の吸収、それによる繁栄。

なぜ繁栄できた?

 

軍事力があったからだ。

 

"空中艦隊"という、この世界のあらゆる国のそれを凌駕した圧倒的な力。

 

つまりは――。

 

「"兵器"として創られた……そう言いたいんだろ?」

「えぇ。」

 

 確信は悲哀に変わる。

 

「それしか考えられない。」

「……!!」

 

 咄嗟に否定しようと口が動きかけたが、声を出せなかった。

 

この国にスマッシュはいない。

この国に他のライダーはいない。

 

この国に――、

 

 

 

『お前が全ての元凶なんだよ。お前がライダーシステムを創らなければ、仮面ライダーにならなければ、こんな悲劇は生まれなかったんだァ!

お前は……俺に作られた、偽りのヒーローだったんだよォ!!』

 

 

 

――あいつは、いない。

 

 

 俺は、この国の人たちに、自分が兵器でないとどうやって言い切ればいいんだ……。

 

 

 

 

「……ねぇキリューさん、貴方とバンジョーさんは、一体どこの国からいらしたのですか?」

 

 沈黙を保っていたプリンセスが、俺に問いかけてくる。猫に袋小路へと追い詰められた鼠の情景が、ふと脳裏に浮かんだ。

 

「……な、日本に決まってるじゃないですか!!ほら名前も見た目も……」

 

 言ってる途中で今の自分が変身してることに気付き、変身を解く。

そしてアンジェに向けて腹を見せるように両手を広げた。

 

「俺、どこからどう見ても日本人でしょう?」

「……どこがよ」

「え?」

「貴方の一体どこが、日本人だというの?」

 

 アンジェは、先ほどのドロシーよりもすっと冷たい声でそう言い放った。

 

「……どういう意味だよ」

「貴方たちは話し方もふるまいも、それにここでの暮らし方もただの日本人よりずっと、"私たち"に近いのよ。」

「…………!!」

 

 ドロシーとプリンセスは、目を閉じ俯いている。

 

 この時代は、19世紀。

俺たちが生きていたのは、21世紀。

 

俺たちは、この世界では日本人らしくない……そう言いたいのか。

 

「それは私もずっと感じていた」

「!?」

 

 な……そんな、ちせまで……

 

「桐生……私個人としては、ちゃんとお主のことを日本人として見ておる。

……でもな、お主を日本人として見れば見るほどなんというか……とても違和感を覚えるのだ」

「……なんだよ違和感って」

「見方じゃ」

「……見方?」

 

 ちせは頷き、言葉を続ける。

 

「この国の見方が、私や堀河公、他の使節たちとはまるで違う。我らはこの国に来てからずっとその技術力や景観の異様さに恐れ慄くばかりじゃった。……だがお主や万丈はどうだ? まるで京や東京を観光しているかのような目で、ずっとこの国を見ていたではないか!」

「……!!」

 

――――――――――――――――――――――

 

「おい戦兎!あのデッカイ時計、なんて名前だ?」

「ビッグ・ベンだよビッグ・ベン。全くそれくらい覚えときなさいよ恥ずかしい……」

 

――――――――――――――――――――――

 

「…………」

 

 ちせに大使館へお呼ばれしたあの日のワンシーンを思い出す。

 

「それに何より……今の日本国にその"びるどどらいばぁ"などを造れるような職人がいるなど聞いたこともない。お主の父親というからには、その者はまだ徳川幕府が健在だった頃に生きていた年代のはず……やはりあり得ぬ。そのどらいばぁの御伽噺のような力を理解し、操れる技術者など、到底輩出できたはずがない……」

 

 ……なんてことだ。

 

「……お主らは、本当に日本で生まれ育ったのか?」

 

 まずい、このままじゃ

 

 俺たちの、正体が――

 

 

 

 

 

 

「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 突然、窓の外から悲鳴が聞こえる。

ガタガタと音を立てながら俺を含む部屋にいた全員が声のした方へと走った。

 

「おいなんだ今のは!?」

「……! 皆、あれじゃ!!」

「!!!!」

 

 異変にいち早く気付いたちせが、声を上ずらせてそれを指す。

 

[nz:qc``]

[2{lyprq``]

[b\p heb\p]

「いや、いやぁああああああああああ!!!」

「来ないで……来ないでよぉおお!!」

「あ、いや、誰かぁああああああああ!!」

 

 そこには、濃いワインブラウンの髪に白薔薇のブローチの少女と彼女に縋るように抱きついているお団子とツインテールの二人の少女。

 そして三人に首を捻るように動しながらよろよろと老人めいた足取りで近づく、三体の黒光りしている謎の怪人がいた。

 

 そいつらは顎のハサミをギチギチと鳴らしながら、ゆっくりと、しかし着実に少女たちに近づいている。

 

[4jc4]

[4ic4]

[4ictu]

[4iex 6t3xyf4itzqzwezwq]

 

「あの色……まさか」

 

 あの時の、ショーンの纏っていた鎧と同じ……

 

「ひっ」

 突然、隣で見ていたプリンセスが、小さく叫ぶ。

 

 

 彼女の視線の先を見れば、怪物たちの後ろに赤い水溜りが……この学校の衛兵だった人が息もなく横たわっていた 

 

「……!!」

「待て!」

 

 窓から飛び出そうとするアンジェを抑える。

 

「何するの!!」

「俺が行く!!君はみんなを守れ……変身!!」

 

《ラビットタンク!》

 

「……あ!」

 

 俺は彼女の代わりに窓から飛び降り、蠢くそいつらの元へと向かって疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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