Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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2-⑦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クイーンズ・メイフェア校での戦いの後、俺をとっ捕まえようと追ってきた衛兵たちから地面に潜ったり屋根の上を走ったりとあの手この手で逃げまくり、ようやく店に帰ってきた俺は、いつものように飯の買い出しを済ませて"本"の執筆に勤しんでいた。

 

「――たっだいまー」

「おう、お帰り」

 

 玄関の方から扉の軋む音がしている。万丈が帰ってきたようだ。

ドカドカと大股で歩いてきた万丈はそのまま俺の座る席のテーブルの上を覗き込んできた。

 

「お、早速書いてんのか。紙とか足りてんのか?」

「モーマンタイ。あ、悪いなボトル持って帰ってきてくれたのか」

 

 ペンを置き、万丈がテーブルの上におもむろに置いたバッグの中身を確認する。

今日あそこに持っていったものは全て無事に入っていた。

 

「……なぁ、あれ何だったんだろうな、あの黒いの」

 

 ボトルを整理していると、横から万丈がボソッと問いかけてきた。

当然の疑問だろう。俺だって知りたい。

……そうだな、現時点での俺の所感くらいはこいつと共有しておこう。

 

「ショーンの鎌や、あのデカいカマキリと似た雰囲気は感じた。」

「あー、確かに」

「でも雰囲気だけだ。

アイツらにも自我はあるようだったけど、ショーンと違って人間の言葉を最後まで発さなかったな。」

「めちゃくちゃバカってことか」

「ところがそうでもねえ」

「おん?」

「土に潜って奇襲を仕掛けたり、こっちの隙を突いた攻撃をしてきたり、結構闘い方が理にかなってた。

ても全体的な動きに知性は感じられなかったから、動物的な本能でやってたのかもしれねえ」

「あー、雑魚スマッシュみてえなもんか」

「大体そんな感じだった」

「……っし!」

 

 珍しく的を射たことを言えてドヤる万丈を眺めながら、またあの蟻怪人たちについて考える。

 

 誘拐か、殺人か……

結局アイツらは何をしに来た……?

 

 あの三人の女生徒の中の誰か、又は複数人を狙っていたか。

はたまた誰でもよかったのか。

 

 ……ダメだ、まだ情報が足りねえ

これは一旦保留し

 

「あ、そうそうヒメさんたちがよ」

「あぁ!」

 

 ヤベェ完全に頭から抜け落ちてた!

 

「あぁー……どうしようこれ」

 

 悲鳴が聞こえて会話が止まってからすぐに戦闘で、そのまま直帰したから何も答えられてねえ!

絶対逃げたと思われてるよこれ……次会った時になんて言えば……

 

「おいどうしたんだよ」

「いやまぁ……俺たちはどっから来たんだって、ガチの質問されてさ……それに答えられなくてうやむやになっちまってる」

「へぇー」

 

 万丈は気の抜けた声を発しながら脇の下を掻いている。

……のんきしてる場合じゃねーぞおい!

 

「……なんか問題あるか?それ」

「はぁ!?」

 

 いやどっからどう見ても大問題でしょうが!

 

「お前状況分かってんのか!?

俺たちの正体が、ライダーシステムの真実がこの国のヤツにバレたら、どうなるか分かってんのか!?」

「わァってるよ!!」

 

 俺の言ったことに、万丈は殴るように答える。

 

「そりゃあんな変なデケェ飛行船やら、あとあのシーボール……だっけ?あんなのを創ってるようなヤツらに知られたら問題だってのは分かる。この国、色んなとこに戦争吹っ掛けられるくれぇ強ぇみてぇだし、下手したら"難波"よりヤベェこと考えてるヤツがいるかもしれねぇ。……でもよ」

 

 肩に、万丈の手が乗る。

 

「ヒメさんやリス子は……あいつらは絶対、そんなんじゃねぇだろ」

 

 ――ハッ、と気付く。

 

 

 

 

『本当の嘘つきは、自分の事を嘘つきだなんて言わない。……だってそうだろ?嘘つきが嘘になるんだから、つまりそいつは正直者ってことだ』

『……つまらない言葉遊びだわ』

『でもホントのことだろ?』

『……俺は君を、君たちを信用する。これはその証拠だ』

 

 

 

「くそ……」

 

 ――俺は、

 

「信じるって言ったくせに、全然信じきれてねぇじゃねぇか……!!」

 

 なんて傲慢。

 なんて恥知らず。

 

「信じてくれなんて、どうして平気な顔で言えたんだ……!」

 

 こんな体たらくで、どうして俺は愛と平和を語れるのだろう。

正義のヒーロー、仮面ライダーを名乗れるのだろう。

 

「最低だ……俺」

「それはちげぇぞ」

 

 え、と。声のした方を見上げる。

 

 万丈は立ち上がって、俺を見つめていた。

 

「今お前があいつらのことを心の底から信じられねぇってのは、何も間違ってねぇ」

「……それって、何が」

「お前が最初にあいつらを信じられるって思えたのは、なんでだ?」

「それは……」 

 

 始めてアンジェと出会った夜と、その次の朝を思い出す。

 

 アンジェは俺を、俺たちを――

 

「守るって、言ってくれたからだ。」

 

 それがなんだか……嬉しかったからだ。

 

「ならよ、今お前が信じてんのは"その"アンジェってわけだろ?

そんで、お前が信じられねぇのはそうじゃねぇ"俺たちのことを暴こうとする"アンジェだ」

「……どういう理屈だよ。どっちも同じアンジェだろ」

「ちげーって!」

 

 万丈がしゃがみ、視線が水平に重なった。

 

「心と体が同じ人間でもよ、やることと考えることが変わっちまったら、それは全く同じ人間じゃねぇんじゃねえか?」

「!!」

 

 そうだ……内海さん。

 

彼は"難波チルドレンとしての顔"と、"『あいつ』に忠誠を誓った悪の仮面ライダー、マッドローグとしての顔"を使い分けていた。

 

……アンジェだって同じじゃないのか?

 

"人を守る彼女"と、"人を追い詰める彼女"は全く別の顔……『仮面』じゃないのか?

 

そして俺が信じられると思ったのは守る彼女の方だった。でも……

 

「だから今はそっちのアンジェの信じられる方を信じたらいい。無理してあいつの全部を信じようとしなくてもいいだろ」

「……でもそれは!」

「嘘になるってか?ならこれからホントにすりゃいいだろ。あいつのことを信じたいなら、ちょっとずつでいい、ゆっくりでも信じていきゃいいじゃねぇか」

「…………」

「な!」

「……そっか」

 

 んだよ……カッコイイこと、言うじゃねーか。

 

「そうだな!……ったく、筋肉バカのくせに妙にもっともらしいこと言いやがって!」

「へへ!経験談だからな」

「経験談?」

「あぁ!……俺も、信じたくても人間を信じられない時があってよ……ま」

 

 

『俺はお前を信じた。ただそれだけのことだ。

――ホントのバカは、自分をバカなんて言わねーんだよ』

 

「今はダイジョーブだけどな」

 

 そう言って笑う万丈を見て、何故か照れ臭くなる。

この野郎!と掴みかかり埃が舞う店内を転がりながら、俺たちは日が沈むまでゲラゲラ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

--ベアト視点--

 

 

 

 かちゃり、かちゃり、アンジェさんがティーセットを片付ける音が、部屋を満たします。

 

「今のところ判明した情報は以上よ」

「…………な、ななななん」

 

 そして私は、あまりのことに思わず席を立ってしまいました。

 

「なんってトンデモマシンなんですかそれはぁ!!!」

 

 姫様と、チームの皆さんから教えていただいた"KAMENRIDER BUILD"、そのシステムの特徴は、私の想像を遥かに、文字通り空の上へと飛び上がっていくものでした。

 

「ベアトでも、そう思うのか」

「それは……そうですよ。こんなすごい技術……」

「さすが、ベアトは理解が早いわね。」

 

 狼狽える私に、姫様は悲しげに笑みを向けてくださいます。

 

 "ドライバー"と"六十本のフルボトル"。

過去と未来を問わずありとあらゆる物質の能力を引き出し、鎧として身に纏う能力。

さらにボトルには生物と非生物で特に相性のいい特定の組み合わせがあり、それは"ベストマッチ"と呼ばれてるうんぬんうんぬんなどなどなどなど……

 

 まるで本当に御伽噺のような技術です。

 

「い、一体どこの国が、そんなものを……?」

「一番可能性があるのは……」

 

 ドロシーさんが、ちせさんの方を見ます。

 

「日本なんだよな」

「むぐ……」

 

 ドロシーさんの言い方が癪に障ったのか、不機嫌そうに眉をひそめるちせさん。

口早く言い返します。

 

「それは開発者が日本人である桐生の父君だからか?」

「それもある」

「……"も"?」

「アルビオンや他の列強の持つ技術力がどれだけあたしらの想定より高かろうが、あんなものを造ろうなんて思いつくとは、どうしても思えないんだよ。」

 

 どこから持ってきたのか、ドロシーさんはテーブルの下からワインを取り出し、グラスに注ぎ始めます。

 

「ほら思い出してみろよ!あの権力欲と保身で凝り固まって、自分の造った兵器でどれだけ人間を殺せるかしか頭になさそうなこの国の技術者の顔!

あいつらが『おーウサギの跳躍力は兵器に使えそうだなー』なんて発想、できると思うか?」

「思えぬ」

「そうだろ?」

「だが日本は長い間鎖国で完全に国際社会から孤立し、あのようなものを造り出せる技術など――!」

「ない……ってほとんどのやつは思うよな。――そこにつけこまれてるとしたら?」

「……まさか」

 

 ワインを飲み干し、とん、と。グラスを置きます。

 

「どこの列強国からもほとんど干渉されず、秘密裏に長い期間好き放題兵器開発できる場所……そんな都合のいい場所なんて、他にあるか?」

 

 強く言い放たれたドロシーさんの言葉に、ついにちせさんは何も言い返せませんでした。

 

「そんな……いやしかし……」

「こう言っといてあれだけどさ……別に今言ったことが真実とは限らないさ。」

 

 俯くちせさんに、ドロシーさんは肩を寄せます。

 

「ホントはもっととんでもないことが裏で動いてたりするのかもしれないし、逆にどーしようもないほどしょーもない真実が大げさになっちまってるのかもしれない」

「無責任なことを」

「そりゃそうさ。答えなんてわかりっこない問題に、どうやって責任が持てるんだよ。

わからないならわからないで、これからわかるようにすりゃあいい。責任を負うのはそれからでも十分さ」

「わかる日が、来ないとしてもか?」

 

 二人の視線が重なります。

 

「それこそわかんないだろ!

明日の命も保証できないあたしらだけどさ……明日の自分に期待するくらい、してもいいと思んだ。」

「ドロシー……」

「な?」

「酒臭い」

「わぶ」

 

 ドロシーさんのお顔を両手で押しのけるちせさん。あ、照れ隠しなんでしょうか。ちせさんのお耳がちょっと赤らんでますね。かわいらしいですね。

 

「こいつ、何しやがる!」

「顔を近づけるでないわ!

助兵衛が感染ったらどうする!」

「なんだよスケベって……スケベニンゲンの略か?」

「それこそなんじゃーー!」

「こら二人とも!ケンカしないの!」

 

 取っ組み合う二人と、それを止めに入る姫様。

 そういえば最近の姫様は、今のように積極的にチームの輪に入ろうとする振る舞いが以前より増えてきているように見受けられます。スパイになってすぐの頃のような、穏やかでもあまり表情の変わらなかった姫様も、カサブランカに行ってからでしょうか。よくお笑いになって活発さがマシマシになりました。なんだかとても楽しそうで、ベアトリスも嬉しいです。

 

「ふふふっ」

「……ねぇ、ベアト」

「はい?」

 

 御三方を見ていると、突然アンジェさんからお声がかかりました。どうかしたんでしょうか?

 

「貴方はKAMENRIDER BUILDを……桐生戦兎という男を、どう見ているの?」

 

 むむ、これはまた突飛な……珍しいですね、アンジェさんが他人の印象を訊いてくるなんて。

しかも当の大問題の中心、キリューさんのことです。

 

「どうって……まぁ出身はどこなのか、バンジョーさんとはどうやってアルビオンに来たのか、そもそもそのBUILDの力はなんなのか……気になること盛りだくさんの自称天才物理学者のめちゃくちゃ胡散臭い人だとは思いますけど……」

「けど?」

 

 聞き返すアンジェさんに、言葉を続けます。

 

「でも、悪い人には見えませんでした。」

「……人を見かけで判断しないほうがいいわよ」

「それはそうですね。まぁ確かに姫様のお顔も知らないような失礼な人でしたけど……でもやっぱりいい人なんだと思います。」

「なんでそう思うの?」

 

 碧い瞳に、私は覗き込まれます。その瞳の奥に隠れたアンジェさんの気持ちが、見えたように思います。

私は口の端を上げて、安心してくれるように、答え続けました。

 

「わたしのような者にもきちんと挨拶してくれましたし、それに……アンジェさんとちせさんを守ってくれたんでしょう?それだけでも私はあの人を、どこにでもいそうな優しいお兄さんみたいなキリューさんを、信じてあげてもいいと思います。」

「!!」

 

 アンジェさんは驚いたのか、眼をまんまるくして口を開けっ放しです。

 

「私はそんなこと……!」

「顔に書いてありますよ?

ホントはキリューさんを兵器で人を殺すような人だと疑いたくありませんーって」

「書いてないし……思ってない!」

「アンジェさんはお人好しだって、わからないニブちんじゃありません。

わたしも同じですよ。ホントは恐いです、彼の持つ力が。」

「なら」

「でも、力を持つ当人のキリューさんは、全然怖い人じゃないじゃないですか。

まだほんのちょっとしか会ってないですけど、これでも人を見る目はあるほうですよ?わたし。

だから大丈夫です。キリューさんは、アンジェさんが信じるに値する人ですよ。」

 

 私の言葉を最後まで聞いたアンジェさんは数秒ほど目を伏せ考え込んでから、またわたしに問いかけました。

 

 

 

 

「"愛と平和"って……何だと思う?」

 

 

 

 刺し貫くような視線。任務中のようなその視線は、本気の視線でした。

でもわたしはパッとすぐに答えられます。だって、決まり切ってることじゃないですか。

 

「姫様と、姫様が幸せに暮らせる世界です!」

 

 それだけが、わたしの願うことですから。

 

「……そう」

 

 アンジェさんの視線が、元の優しいものへと戻りました。

 

「ベアトはまっすぐね」

「えへへ」

「答えてくれてありがとう。……こっちのお皿も片してくるわね」

「あ、手伝います!」

 

 こうして、今日この日は暮れていき――。

 

 

 

 

 

 

「女王陛下の、ご入場である!!!」

 

 

 運命の日は、やってきたのです。

 

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