Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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1-②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――時間は戻る。

 

 

 

 

「くっそ……どうすりゃいいんだよ…」

 

警察の包囲網を掻い潜りながらロンドンの街をネズミのように逃げ回っていた俺は、何時の間にか警察の検問に囲まれ逃げるように平民街の家と家の細い隙間に隠れ潜んでいた。

 

気付けばとっくに太陽は西に隠れ、街灯の光だけが街を照らしている。

 

夜闇に紛れて警察を撒こうにも、まだ土地勘の薄いこの街ではどこに逃げればいいかも分からずにこの小汚い道とも呼べない空間で途方に暮れていた。

 

「はぁ……まさか現実でアレをやることになるなんて…」

 

ロンドンで警察といえば、過去に俺は美空と万丈、そして『石動惣一』とともに興じた『スコットランドヤード』というゲームを思い出す。一人が犯人役、残りが警察役として制限時間内にロンドンのどこかに隠れた犯人をその足取りを頼りに見つけ出すというボードゲームだった。

 

………そういや一度も捕まえられなかったな、あの野郎。

 

「ってそんなの今思い出してどうすんだよ」

 

ていうか状況的に考えて『ブラッド』の事件の方が近いだろ。

『奴』との最終決戦の前に勃発した、三人のブラッド族との戦い。

奪われた万丈を巡っての伊能との対決。

その時に万丈と変身した『クローズビルドフォーム』。

 

それに、

 

 

「『仮面ライダー』として戦い続けることが出来たのは、あの姉弟みたいな人たちのおかげだ。」

 

 

『スマッシュ』に襲われていた姉弟、あの事件の後俺にお礼を言ってくれた時はとても嬉しかった。

 

見返りが欲しくて助けたわけじゃなかった。

 

助けてもスマッシュの仲間だと勘違いされて俺から逃げる人だって少なくなかった。

 

感謝なんて期待していなかった。

 

それでも………やっぱりお礼を言われた時は、嬉しかったのだ。

応援されたのは、嬉しかったのだ。

 

幻さんが最後まで『仮面ライダーローグ』として戦えたのも、きっと国民の思いを背負う喜びがあったからだと、俺は思う。

 

 

でも、この世界にその人たちはいない……『新世界』以上に面影の無い、俺と万丈が完全に孤立した世界。

俺たちを応援してくれた人たちに感謝を伝えることもできない完全な『別世界』なのだ。

 

 

「会いてぇな……みんなに…」

 

 

『新世界』で『記録』を創っていくなかで親交を深めていた、かつての世界とは別の人生を歩んだ俺の仲間たち。

美空、マスター、紗羽さん、一海、幻さん、内海さん、勝、聖吉、修也さん……

 

 

修也さん……青羽。

 

そうだ

 

 

「俺は誰も殺してない……わけねえだろ。」

 

 

東都と北都の戦争の中で、俺が初めて『ハザードトリガー』を押した日、

 

俺は確かに、彼の『命』を奪った。

それは紛れもなく………殺人だったじゃないか。

 

彼は、兵器じゃない。仲間と故郷の為にその身を捧げて戦っていた、紛れもない心ある人間だったじゃないか。

 

 

この国で俺は確かに誰かを殺したわけじゃない、冤罪だ。

それに抗うことは当然だ。

 

それに、俺はまだ彼の命を奪った罪を償いきれたとは到底思っていいない。

二度と彼や他の三羽烏、西都の兄弟、内海さんのような人間を生まない為にも、俺たちはあの『記録』を完成させないといけない。

 

そして、この国の人たちにも伝えるんだ。俺たちの思いを響かせるんだ。

 

 

「だからこそ……こんな所で足止めを食らってる場合じゃない!!」

 

 

立ち上がり、屋根と屋根の間から覗く赤い月を見上げ、俺はその明かりを頼りに壁に足を掛けた。

 

 

 

 

「いたぞ!!脚を狙え!!!ヤツにこれ以上走らせるな!!」

 

「うぉおおお!……おぉい!街のど真ん中でドンドン撃つんじゃないよ!!あんたらそれでも市民の味方か!?」

 

「黙れ殺人犯!大人しく捕まれ!!」

 

「だーかーらー!!冤罪なんですぅ!!今日の昼過ぎまでのアリバイを証明できる人がいるから!!そいつ連れて来るま…うぉわ!!…連れて来るまではちょっと待ってなさいよぉ!!」

 

俺はその証人……万丈とレストランの店主のいるあの店に向かって走っていた。

 

だがその旨を懇切丁寧に(弾を避けながら)説明するも、頭に血が上ったポリスメンはまるで聞く耳を持ってくれていなかった。

おかげでまたしたくもない逃亡劇を繰り広げてしまっている。

 

 

 

でも今の俺は至って冷静だ。これからやるべきこと、その道のりがはっきりと見えているからだ。

 

どんな困難にも決してめげたりしない夢が、俺の全身を動かす原動力となり、この足を走らせる。

 

 

―――待ってろよ万丈!!今の俺には、お前が絶対必要なんだ!!

 

あと十数メートル、もう少しであの店にたどり着く。

 

俺の夢を守ってくれ、万丈!!!

 

 

 

前方に差し込める街の光を見つめ、俺はこの長く暗い路をついに抜けた―――。

 

 

 

「残念だったな。ここが終点だ」

 

 

 

街の明かりだと思っていた光は、昔の刑事ドラマで見たような大きな照明だった。

 

 

「もうどこにも逃げられんぞイエローモンキー…フッ。屋根の上にも武装警官を配置してある。お得意のアクロバチックもこれで役立たずだなぁ。おっと、下手な動きをしてみろ…お前が凶器を取り出すよりも早く、ワインセラーにしてやっからよ。」

 

 

顔の厳ついこの場のリーダーらしき男が、拳銃を俺に向けながらペラペラと喋る。

その後方には数十人の棒状の武器を構えた警官がにじり寄ってきている。

背中からも、追ってきていた警官たちが俺を取り囲んでいた。

 

 

「これでてめぇは終わりだ。…ハハッ、運が無かったなぁ東洋人!!バカやった分、この国の為に文字通り馬車馬になってもらおうか!!」

 

 

男が下卑た笑みを浮かべながら、銃を手で弄びながら近づいてくる。

 

コイツだけじゃない、周りの警官たちも、まるで賞金付きの害獣を見つけたかのように、舌舐めずりしながら俺に近づいてくる。

 

俺はマングースやアライグマじゃない。

 

桐生戦兎だ。

 

 

「―――嫌だ。」

 

 

俺には、まだやるべきことがたくさんあるんだ。

 

この世界で生き抜くための仕事を見つけたばかりなんだ。

 

 

「俺は、俺たちはまだ戦わなきゃいけないんだ―――。」

 

 

『おはようセント!朝飯出来てるぞ!!今日のバンジョーの試合絶対見にいくからな!』

 

『セントー!なおしてもらったこのひこうきすごいよ!あぁーんなとこまで飛んでったんだぜ!』

 

『ほら、このシャツ私が仕立てたの!よかったら着てみてよ!ハンサムだからきっと似合うわ!』

 

『……東洋の人はまだ色々と大変だと思うけど、きっと今にいい国になるわ。…だから、この国の事まだ嫌いにならないでね?』

 

 

何も分からないこの世界でも、俺たちを迎えてくれた人たちがいたんだ。

 

 

『なんか……思ってたよりいいとこだよな、ここ。結構寒ぃけど』

 

『まぁまだ春先だしな。なぁ万丈……この国の人たちは苦労しながら日々の楽しみを大切にしてる。だから見せてくれる笑顔が凄く温かいのかもな。』

 

『それな!!そうだよなぁ!!……ずっと、笑っててほしいよな。あいつら』

 

『あぁ。』

 

 

 

本当に、心からそう思えるんだ。

 

 

だから。

 

 

―――だから俺は!!

 

 

「この世界の人たちも、守りたいんだぁあああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならまずは、私があなたを守らせてもらうわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑の光が、突然空から舞い降りる。

 

 

 

 

「な、何者――ぐあぁッ!?」

 

 

その次の瞬間、俺の視界は煙の灰色に包まれた。

 

 

「げっほ!!え、煙幕!?」

 

「なんだ何があっ…ぐへぁッ!?」

 

「お、おい!?何がどうし…ぶはッ!?」

 

 

俺を囲んでいた警官たちのものだろうか、男達が次々と何者かに倒されていく様子が煙のスクリーンに映し出されている。

 

「あれは………」

 

眼をこらし、警官たちを伸していく謎の黒いシルエットを注視する。

まるでアスリートのような身のこなしでバッタバッタと武装した警官たちを地面とキスさせていくその存在。

やがてそれ以外動くものが見えなくなると、徐々にこちらに近づいて、そいつは俺にその異様な姿を見せた。

 

 

「………え?」

 

 

黒いシルクハットに、同じ色のマントと口を覆う布。そして少しの銀髪と綺麗な青い瞳が覗く。

自分より頭一つ分くらい低い等身、まるで映画や小説の中でしか出会えないような出で立ちをした少女が、目の前に立っていた。その姿は、まるで………

 

 

「まさか…………怪盗!?」

 

「泥棒と一緒にしないで」

 

 

顔に布を被せられた。

 

 

「ンーーッ!!?」

 

「はしゃがないで。」

 

 

真っ暗になった視界が、ほのかに緑色を帯びる。ついさっき見た物と同じ光だった。

 

いや、この光は………ずっと前にも、見たような……

 

 

「!?」

 

 

思考を砕く圧迫感が、腹部を襲う。

そしてかつての戦いの中で何度も味わった、空中に吹っ飛ばされた時の、脳が揺さぶられるあの感覚。

 

まさか……『飛んでる』のか?

それに、担がれてる!?

 

 

「………撒けたようね。」

 

 

少女の声が聞こえる。凛とした、美しいがどこか超然とした、まるで遠くの人間に話しかけているような声。

でも、確かな信念を感じるような熱い声だ。

 

 

「手荒な真似をしてごめんなさい、こちらもちょっと立て込んでいるの。……そのまま聞いていて。先ずはあなたに知っていて欲しいことがあるから。」

 

「……?」

 

「あなたの顔と名前を使って、悪事を働いた輩がいる。それも今回が初めてじゃない。今まで何人もあなたのような身元不明の人間に化けて逃げおおせてきた、凶悪犯罪者よ。」

 

 

…………そして彼女は語り始めた。

そいつは没落貴族の元子弟で、一部の上流階級に顔が利くこと。

貴族と繋っているある政治家の汚職の証拠を盗み出し、それを脅しの材料にして自分の悪事の数々を見逃させている事。

自分はその汚職の証拠を取り戻すために、件の犯罪者の居場所の手掛かりが必要だったこと。

 

 

「その手掛かりがあなたよ……『桐生戦兎』。」

 

 

緑が視界から消え、腹部の圧迫感も消える。その代わりに足に地面の感触が戻った。

そして被せられた布も、最後に俺から離れた。

 

 

「ここは……」

 

 

すぐに今俺がいる地点の周りを見渡す。

強い光を感じた右方を見ると、そこはガレージのような場所で、その中に綺麗なこげ茶色とミルクティー色のクラシックカーが鎮座している。さらには用途不明だが洗練されたデザインの何かのアイテムの数々が目に付く。

 

まるで何かの組織の秘密基地のようだった。

 

………いや、それよりも

 

 

「えぇっと………怪盗じゃないなら、君は何者なんだ?」 

 

 

シルクハットの少女に問いかける。

少女は俺を一瞥した後、ハットと口の布を取って、こちらに向き直った。

 

 

「私の名は『アンジェ』、見ての通りスパイよ。今日からあなたの護衛をさせてもらう。」

 

「……はい?」

 

「そしてこの国の……プリンセスの為に、力を貸してもらうわ。」

 

 

 

 

 

 

―――俺たちの新たな戦いの日々は今日この夜、始まった。

 

 

 




万丈「もう待てねぇ!!!!俺に戦兎を助けに行かせてくれ!!!」

???「こら落ち着け!もうすぐ私たちの仲間が連れてくる。それにまだぬか漬けがこんなに…」

万丈「落ち着いてられっかよ!!漬物はたくさんあっけど戦兎は俺のたった一人の、俺の大事な相棒なんだよ!!行かせてくれよ!!」

???「ご安心くださいミスター万丈」

万丈「…どいてくれよ」

???「彼女なら、アンジェなら絶対に貴方の相棒様を連れてきてくれますわ」

万丈「あんたに俺とアイツの何が分かんだよ!」

???「分かりますわ」

万丈「んだと?」

???「あなた!姫様になんて口を……!」

???「…待ちな!」

???「っ、でも…」

???「いいから見てなって…ほら」

???「あなたのその人を大切に思う気持ちは、私には痛いほど分かりますから。私もね、本当は彼女の事が凄く心配。でもそれで彼女を縛ることはもっと嫌ですから……。だから私も、彼女が頑張るのと同じくらい頑張って待つの。彼女が帰って来た時に、精一杯の『お帰りなさい』をしたいですから。」

万丈「…………そうなのか。」

???「はい!」

万丈「………」

???「………」

万丈「んじゃ俺も待つわ。俺もアイツに、かっこわりぃとこ見せたくねぇからな。」

???「フフ♪……あ、でももう待つ必要は無いみたいですよ?」

万丈「え?」

???「緑の星が見えましたから。」
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