Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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すいません、今回はチーム白鳩の皆さんはパーティの準備が忙しくて出られないみたいです


2-⑧

 

「――着いたな」

 

 椅子から感じていた振動が止まる。乗っている送迎馬車が反比例グラフのX軸の右側に移動するようなゆっくりとした動作で停止した。プロの技というやつだろう、ただの馬車も現代の高級自動車と引けをとらないスムーズな停止だ。

 

「んー……ハァー……」

 

 背中を伸ばし、大きく深呼吸。

この日のために大枚叩いて用意した黒い礼服、その襟を正す。お互いに似合わないと爆笑したシルクハットも被りなおして、良く晴れた春の陽気、中天の太陽が照りつける下、俺たちは白く輝く敷石の上に足を着けた。

 

「ここがパーティー会場か!」

 

 晴れやかな気分だった。

 

「いやぁー、はは!

もうあの子たちも中にいるんだろうなぁ……」

 

 だがあれ以来アンジェ達チーム白鳩と会うこともないまま、とうとう本番の日が来てしまったことに思い至ってしまった。晴れやかだった気持ちに、ちょっぴり暗めの青色が混じる。

 

「うおぉおお!ヤッバ、超白いなこの城!!」

 

 ……さて、公共マナーという言葉をかなぐり捨てたかのような大声で小学生並みの感想を叫んだのは誰であろう。そう、何故か本日の主役になってしまった男、万丈龍我だった。

 

「しぃッ!声がデケえよ!!」

 

 誰がどこで見ているかわからねえんだぞ!

……ったく。まぁ確かにこのパーティー会場は思わず叫びだしたくなるほどに美しい白色だけどな。

しかし、いかに美しい外観だろうと中に入るのはこの筋肉バカなんだから、奇妙な巡り合わせだ。

そしてその顔は、もはや呆れるのを通り越して清々しいほどにグレートチャージでマグマも冷める間抜けっぷり。

一緒にいる俺までバカ扱いされないかと不安になってくる。

 

「なぁ!これもし近くでカレーうどん食ったらよ、真っ黄色の壁になんのかな?」

「どんな状況だよお前それ……絶妙に科学者心をくすぐる想像を働かせるんじゃないよ」

「あとで実験してみようぜ」

「うんー!!……って誰がやるか!するわけねえだろ!!」

 

 どんな脳細胞の繋がり方をしたらそんな発想ができんだよこいつは……バカすぎて一瞬乗り気になっちまったじゃねえかよ。

はぁ……この筋肉バカ流の思考回路は今日も今日とて無駄に冴えわたってやがるな。勘弁してくれよホント。

 

「――はぁー、しっかし中もスゲェなぁ。お、見ろよ!天使が描いてあるぜ」

「ん?……おぉ、フレスコ画だ。そういや生で見るのは初めてだ」

 

 万丈の指差したのは天井だった。腕を組み見上げてみると、淡いながらもはっきりとした色彩でラッパを持ったたくさんの天使や、髭を蓄えた血を流す痩身の男が天井の隅々にまで広がって描かれており、とても荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

「すっげぇなおい。アートだアート。ゲージュツ的だぜ」

「ラッパの天使……世界の終末的なシーンなんだろうけど、なんでキリストもいるんだ?」

「なぁ、あんな高いところの絵、一体どうやって描いたんだろうな?」

「あー……建てる前に予め建材に描いておいたんじゃないか?パーツごとに区切って描いて、その後にパズルを完成させる感じで建築したとか」

 

 ここから天井までの高さは、ざっと見たかぎり10メートルはある。そんな高所で絵を描くなんてどう考えても危険すぎるからな。これが妥当な線だろう。

 

「へー、なるほどなぁ」

「――いやいやぁ、梯子使ってぇ、一から描いたんだよぉ?」

「んだよ戦兎ぉ全然違ぇじゃ……うおわぁ!?」

「おぉおぉお!?」

 

 びっくり仰天。思わず両手を上に挙げてしまった。

突然、何者かが背後より俺たちの間を通って現れたのだ。

 

「誰だお前!?」

「おっとぉ、たはははは。おどかしちゃったかぁ、ソリソリ」

 

 その人物は手を鼻先で合わせ、俺たち二人に向け頭を倒す。

 

「おいおいなんでガキがいんだよ。ここ結構エライヤツしか入れねえんじゃ」

「誰が子供かぁ!!」

「うぉわ!」

「ボクはなぁ!こう見えてもなぁ!立ーっ派なアッダァルトなんだぞおらぁ!」

「え……マジで言ってんの?」

「ほぉら見なさいよこの身分証明書をぉ。ここに28って、ちゃんと書いて!あるだろう!!」

「えぇー……っと」 

 

 よくよく様相を観察すれば、背は俺の鳩尾のあたりまでと、小学生並みの低身長に、血圧の低そうな白い顔貌。

羽織っているコートは煉瓦っぽい赤色で、その中には白いシャツ。また、大き目の黒いリボンが激しく胸元で自己主張をしながらキツめに襟を結んでおり、その横では服より赤い茜色の髪が三つ編みにされて後頭部から垂らされているのがわかる。そしてなんといっても特徴的なのは、頭をすっぽり覆っている服と同じ色の大きなベレー帽と、顔の面積の約半分を占める真円の縁なし眼鏡。その奥には今にも落ちそうなほどに重そうなじとっとした瞼と、髪と同じ色の瞳が覗く。

 

「どこ見てんだよ万丈、ここに書いてあるぞ」

「うわマジだ!!」

 

 全体的に赤が目立つこの人物、差し出された紙には年齢のほかに名を"ヴェイラ・ルヴァオーク"、性は"女"、出身国は"フランス"、職業は"建築家"とある。……うーん、これは見た目からじゃとても想像できないな。

 

「すんませんでした!!」

「はぁー……ま、いいよぉ。我が子を褒めてくれたからねぇ。特別に許してあげよぉ」

「あざす!!」

「いい声だねぇ」

 

 なんとも興味をそそられる人物だろう。しゃべり方も独特で、かなりの曲者の予感がする。普段着にするには少し硬すぎるその服装からして、もしかしたらと訊いてみた。

 

「あー、あの。ここにいらっしゃるってことはあなたも今日のパーティーに?」

「うんーそだよぉ。あ、てことは君らもそうなのかな?」

「はいっス」

「ほほぉ。あ、そういえば君らってさぁ、もしかしなくても日本人だよねぇ?」

「はい、そうですけど……」

 

 と、そういやまだ自己紹介してなかったな

 

「っと、初めまして。俺は桐生戦兎といいます。今日はこいつの通訳で来ました」

「万丈龍我っス。よろしくお願いします」

「戦兎クンに龍我クンか…変わった名前だねぇ。

あれ、その感じだと正式に招待されてるのは龍我クンの方なのかな?」

「そっス。ヒメさ…プリンセスに誘われて、楽しそうだから来ました!」

「おぉ!あのシャーロット姫にねぇ!すごいじゃんか君ぃ!」

 

 いやぁ~!と照れ笑いする万丈。確かに冷静に考えれば、俺たちって実はかなり特殊な形で招待されてることになるのか……

 

「はへぇ~、あ、二人はなにやってる人?」

「俺は格闘家……つーよりは今はボクサーっス。週末は大体、町のリングで興行やってるんで、よかったら観に来るといいっスよ!」

「ほほぉ、ボクサー……ふむふむなるほどぉ。戦兎クンは?」

「俺は見ての通り、天っ才物理学者です」

「ほぉ!」

「今はもっぱらこいつの通訳ですけど、本当は世のため人のために様々なアイテムの設計や開発、実験をしてまして、今度そんな俺の半生を綴った自伝『仮面ライダービルド(仮)』を出版する予定なんですよぉ。ははははは!」

「ほ、ほほぉう??」

「笑い方がキメェぞお前」

 

 そしてヴェイラさんもやはり目的地は一緒らしく、共に回廊を歩きながら詳しく彼女について話を聞いていると、建築家だというのにどうやら本当に天井の絵を描いた張本人らしい。

 

「――いやぁホントは有名な画家に描いてもらう予定だったんだけどねぇ、なぁんか気乗りしなくってさぁ。

ほら、ここって女王さまが特別な日に使う建物なわけじゃん?特別なモノ造るのに普通のやり方じゃあ特別にならないんじゃないかなぁー、とふと思っちゃったわけよぉ」

「あーそれすっっごい理解ります!!どうせ創るなら、他の人間が絶対やらないようなことしたいんですよねぇやっぱ」

「そぉそぉ!後で自分でも引くようなことをねー、してやりたいんだよぉ」

「それですそれ!完成した次の日とか、よくこんな音声入れようと思ったな!ふざけやがって!ってなるんすよねぇ~!」

「おい戦兎、お前それもしかして……あのドライバーから聞こえる声のこと言ってんのか?」

「でもその感覚がまた次の創造へのエネルギーになるっていうか」

「そうなのか?なぁそうだったのかよ!?おい!!」

 

 うるっさいなぁこの筋肉バカは……クリエイティブな時間を邪魔するんじゃないよ

 

「あれ、そういえばヴェイラさん、日本語わかるんですね」

「あ、そういやそうだな」

「たはは!そりゃぁわかるとも!なんたって去年まで日本で修行してたからねぇ!!」

「うえぇ!?マジかよ!?」

 

 おぉ、すごいな!

 

「どぉしても日本の城を生で拝みたくってねぇ。いやぁどれも美しかったよ!」

 

 そこからはヴェイラさんのマシンガントーク。明治初期の日本に関する現代人基準ではとても貴重な見聞がこれでもかと押し寄せてきた。

 

「はー……フィリップ・シーボルトがハマッちゃう気持ちもわかるってもんだぁ。薄汚れたヨーロッパの国々とは何もかもが違っていたよぉ。"黄金の国"とはよく言ったものだねぇ。まぁ私からしたらただの綺麗な金属より何億倍も価値があったけどたっははは!!」

 

 いやぁこの時代からこんなホットな外国人旅行客がいたんだなぁ。

まぁ確かに彼ら欧米人にとっては日本は正しくもっとも身近な"異世界"だろう。新しい文化の最先端を求め続ける彼女のような人々にはそれこそ垂涎の地なのかもしれない。

 

 と、歩き続けるうちにどうやら目的の部屋まで来てしまったようだ。

招待状いわく、ここはパーティが始まるまでの待合室らしい。部屋のドアに書かれている名前には、俺と万丈、ヴェイラさんの他に、知らない人物のものが記されていた。

 

「ここで待てばいいんだよな?」

「そうみたいだな」

「うぁれ?おっかしいなぁ……開かないぞこの扉ぁ!」

「えぇ……?」

 

 いやいやそんな、もうパーティが始まるまで一時間もないぞ?

 

「あれ?ホントだ……鍵が掛かってるな」

「のぉう……」

 

 おかしいな……ん?中でなにか物音が聞こえたような……

 

「おぉう!?」

 

 ゆっくりと耳をドアに当てると、突然部屋側に開いてしまった。

 

「あ……も、申し訳ございません!!」

 

 顔を上げると中には箒や雑巾など、一般的な掃除用具を持った使用人だろうか、オバサンが立っていた。彼女は俺たちの姿を視認したとたん頭を深く深く下げて侘びの言葉を上げる。

 

「あー、いやいやこちらこそ!掃除中にすいません!!」

「こ、この無礼はどうか!どうかご内密にぃいいい!!」

「ああああそんな畏まらなくてもいいですから!俺たちそんな偉くないんで!いやホント」

「あ、DOGEZAじゃぁん!ねぇそれどこで覚えたのぉ?」

「どこに食いついてんだよ!」

 

 ものすごい勢いで謝り倒すオバサンに押され、終始変なテンションでこの場は流れていった。

 

「なんなんだよ、ったく……」

「あーびっくりした……」

「んー……」

「あれ、どしたんスか?」

「いやぁ、掃除って普通部屋を締めきってやるかなぁ?って思ってさぁ」

「王族の所有する建物だから、あまり掃除する様子を外の人間に見せたくなかったんじゃないですかね?」

「んー……そうなのかなぁ」

 

 まぁ何はともあれ、これでひと段落だな。

 

「なんかノドかわいたな……茶ァ飲もうぜ」

「そうだな。あ、ヴェイラさんも飲みます?」

「うんー。昆布茶飲みたい昆布茶。梅味のやつ」

 

 いや紅茶の国で昆布茶は無いだろ……

 

「あ、でも玉露はあ」

 

 

「そんな貴方に塩味ラッシィイィイィイィイ~~~~~ッイ!!!!」

 

 

「「「うわぁあああああああああああ!!?」」」

 

 突如、ドアがものすごい風圧と共に開かれ、尋常じゃねぇ低音のビブラートが響き渡る。

 

「若しくはジョージアの天然水ィイイイイイイイ~~~~~ッイ!!!!」

「それ全部しょっぱい奴だろ!」

「てか誰だよ!!」

「ぎゃああああ!!でかい男だぁああああ!?」

「「驚くのそこ!?」」

 

「んッ、んんッ!ハァ……いやぁ驚かしてしまって申し訳ございません!!ワタクシはしがない貿易商を営んでいましてね!需要の匂いをスンッ!!かぎつけてしまうとついッ!!ウチの商品をおススメしてしまうんですよぉフッハハハハハハハハ!!」

 

 と、確かに二メートルはあろうかという長身で、褐色黒髪オールバック白スーツにド紫のシャツ~ネクタイなし胸元おっ広げを添えて~な男は、その顔よりも濃いキャラをこれでもかと見せ付けてきた。

 

「なんだこいつ……インドの№1ホストか?」

「それ」

 

 万丈の的確な表現に感心している間にも男は高笑いを続けている。

そしてヴェイラさんはというと、

 

「お、おい!!い、今すぐ出ていかないとお前!!あ、あれだぞ!!お前の家を、違法建築真ッピンクに建て替えてやるぞ!!」

 

 自分のできる範囲で精一杯抵抗していた。 

 

「おぉ!!君がもしかしてヴェイラ・ルヴァオークだね!?是非お願いするよ!!今ちょうど真ッピンクの家に住みたいと思っていたところなんだよねぇ!!フッハハハ!!」

「ぐぅう!!」

 

 これはぐぅの音も出な、出てたわ。

 

「つーか名を名乗りやがれ!!」

「あぁすまない!そうだったね!!……あ、ちょっと待って今名刺出すね」

 

 あれ……そういやこの男さっき自分のことを貿易商って……まさか

 

「不詳ワタクシは……こういうものです!!」

 

 まるでこれが常識だと言わんばかりに、名刺がフリスビーのように飛んでくる。

それをなんとか怪我しないようにキャッチしてその名前を見る。

 

 

 

"株式会社 Strain Vision 代表取締役"

サーマス・イニオン

 

 

「何か需要があればいつ!でも!声を掛けてくれたまえ!!……ンよろしくぅ!!」

 

 

 ここに来る前に抱えていた俺の中のちっぽけな不安は、目の前の巨大な不安に見事、塗りつぶされてしまったのだった。

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