Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~ 作:ポロシカマン
またまた新キャラ登場です。
では、どうぞ。
「二年ぶりにこっちに帰ってきたからね~~!!今日はハッスルしちゃ……ムン!?」
名刺に書かれている肩書と、貿易商を名乗ったところから恐らくは貿易会社の経営者なのだろう。
名刺を投げて渡してきたこのやたらにテンションが高い男、"サーマス・イニオン"というらしい。
ちなみに会社の本拠は"デリー"とある。これはたしか"インド"の大都市だったはずだ。
「おやおやおやおやぁ……」
肩書と氏名の横に、男の顔がデカデカとインクか何かで描かれている。証明写真もないこの時代によくやるものだと感心はしたが憧れはしなかった。
「ちっくしょ、変なところ投げやがってこのやろぉ……ぐぬぬ、髪ん中入っちゃった」
「オォ~~君が天才ヴェイラ・ルヴァオークだね!?いやぁ~~まさかあの天才建築家がこんなに若い女の子だったとはねぇ~~!!ハハハハハ……予想外だぁ」
「うおぉう!?」
そしてぬるりとヴェイラさんに近づいて彼女の正面で膝をつき、真剣そうな面持ちでそう語りかけた。
「な、なんだよぉ!こっち来んなよぉ!」
「女史!」
「んひぃ!」
「早速だけど月末の予定は空いてるかい??
ンー、せっかくの真ッピンク!普請するなら色がよく映えるスイスのツェルマットなんかいいと」
「ぎゃぁー!!冗談を本気にすんなぁーー!」
涙目になりながら、切実そうに答えるヴェイラさん。心中をお察しする。
「おいよせよ!怖がってんだろーが!
何言ってるかわかんなかったけど、なんとなくナンパっぽいこと言ってんだろ?外でやれよ外で」
お、筋肉バカが珍しくカッコいいことしてる。
「おぉっと失礼……フフ、ワタシとしたことがつい嬉しくって……ムン?」
「あん?……うわ今度はこっちかよ!」
ずずいっと早足で万丈に近づく褐色ノッポ。
おいおいただの筋肉バカに何の用が……
「キミ、もしかしなくてもあの……"Dragon☆Banjo⇒"じゃないかい!?」
「……なんつってんの?」
お、意外だな。
「『お前は"Dragon☆Banjo⇒"か?』って訊いてる」
「あー……そうだぜ!」
「オォ!?」
「イエス!!アイアムバンジョー!!」
「オォ~~~~!!」
ロンドンのボクサーとして万丈に興味があったのか。
「いやぁハハハ!!ドアの名前を見た時からそうじゃないかと思ってたんだよねぇ~~ッ!!」
万丈にイニオン氏の言葉を通訳する。
ちなみにビルドフォンの翻訳機はやっぱりこういう不特定多数の大人数がいる場所で使うのは失礼かもしれないとベアトリスに言われたこととあとドロシーがそうしたように色々訊かれたりしてごたつくだろうということで、チーム白鳩の子たちしかいない場所でのみ使うことにしてあった。
「なんだよ俺のファンならさっさと言えよなぁ!ワハハハハ!!」
「オッホホウ!いやゴメンネ!ほらワタシ、人見知りだからフッハハハハハ!」
「どの口が言うんだどの口がぁ」
苦手なのだろう高身長の男とのコミュニケーションから開放されたことで緊張が解けたからか、ヴェイラさんはまるで夏場の動物園のパンダのような雰囲気を醸し出しながらソファにぐったりしている。無防備すぎて、とても28の女性が人前でしていい姿ではない。
もしかしなくてもこの人、自分から危険な状況を作り出してしまうタイプなのではなかろうか。変な男にモテる女の子ってこういうとこあるよな。
「オ、そして君は……」
うお、俺か。やっぱ俺もそこそこ知られてきて……
「ンどちら様?」
……ないよなぁやっぱ。
はぁ、まぁしょうがねーか。対して名が売れるようなことまだしてないもんな俺。
「えーゴホン、初めましてMr.イニオン。俺は天ッッ才物理学者の、桐生戦兎です!」
「オォ学者!!そりゃあスゴイなぁ、キリュー氏!!いやぁ、お会いできて光栄だ!!改めて……ンよろしく!!」
固く握手を交わす。しかしインドの貿易会社の代表取締役か……これまたすごい人と知り合いになっちゃったな。しっかしインドといえば紅茶大好きなこの国の人たちにすれば本気で国家レベルに重要な……
「おっ菓子ぃおっ菓子ぃ……をほぅ!チョコチップクッキーだぁ!いただき!!……うっを、んーまい!!」
って放課後の小学生か!
いや見た目と言動がまんますぎてガチに見えちゃうぞヴェイラさん。
「……ていうかもうすぐパーティーなのに今そんな食べちゃっていいんですか?」
思わず日本語で問いかける。
「んぅ?だめなん?」
「いや駄目ってわけじゃないですけど……」
「食べたいときに食べる、それがボクの流儀さぁ~♪ばくり」
「お、だよなぁ!」
「ういえぇす♪」
おぉう、食いしんぼ同士で共感してやがる……
「お、いい食いっぷりだね女史ィ!!」
「……んく、話しかけんなっつのぉ!」
「オ、そうだ――ヘイ!ヴィナスファアアイブ!!」
すると突然、イニオン氏は部屋の外に向かって声を上げた。
「はぁ~いサー様!!いかがいたしましたかー?」
「「「!?」」」
え、誰かいんの!?
「チョコチップクッキーに合うドリンク……キャモン!!」
「かしこまりましたー!!」
「……おい、今のだ」
「お持ちしましたー!!」
「早ッ!?」
勢いよく扉は開かれ、そこから現れたのは――
「えぇえ!?」
「なんだただのメイ……うオォ!?」
一人……ではなく五人のかわいらしいメイドだった。だが真に驚くべきはそこではない。
『淹れたてほやほや、ロンネフェルト紅茶でございまーす!!』
19世紀がなんぼのもんじゃいと言わんばかり。五人全員、もれなく"ミニスカ黒ニーソ"だったのである。
「なん………だと………!?」
これにはヴェイラさんも目を丸くしてビックリ。
常識を疑うその視線は当然だろう。俺だってそうだ。まるで意味がわからない。
「い~~ね!センキューべリベリマッチだよヴィナスたちィ~~ッイ!!
……ア!!ン~~……最ッ高の香りだァ!イィヤッ!」
パチパチと手を叩きながら五人に駆け寄り、手で仰いで紅茶を香りを吟味するイニオン氏。
そして五人のすばやい動きにより俺たち四人にカップが行き届いたのを見届けて、とりあえず一口。
「あ、美味い!」
聞いたことのない名前の紅茶だったが、ほんのちょっぴり舌先に触れただけでその洗練された味がわかった。イニオン氏はこんないいものを毎日この子たちに淹れてもらっているのだろうか……いや別に羨ましくねーけど。
「……俺よりバカな奴がここにもいやがった」
「くぅ!……こ、このやろぉ、なんつぅ権力の使い方をしやがるんだぁちくしょぉめぇ!」
五人とも上半分は本当にオーソドックスなメイド服なのだが下半分がなんというか……未来を先取りしてると言えばいいんだろうか。
まさかこの時代のこの国で、某電気街のアトモスフィアを味わうことになるとは思わなかったな……
「紹介しよう!!彼女たちはワタシの専属メイドでね!!その名も――」
「はい!18歳長女、アニーです!」
っと、間違えないようにちゃんと覚えとかねぇとな
ショートボブでハキハキ活発そうなこの子が長女……と。
「ベニーでーす。あ、次女ね。年は17でーす」
エアリーウルフのテンション低めな子が次女ね。
「三女!ケニーっす!!……16っす!!」
サイドテールでめっちゃ元気もりもりな子が三女……うんうん。最後年言うの忘れてたのだろうか。
「四女♡デニーでぇす♡あ、ねえそこのお兄様ぁ♡」
「はい?」
「デニー、いくつに見える?」
「……15?」
「きゃー♡せぇかぁい♡」
問題になってたんだろうかこれは……えっと、見事な縦ロールで艶っぽ喋りの子が四女か。
「……エニー……五女です14です」
最後の一人、ワンレンで片目が少し髪に隠れているこの子が末妹、と……人見知りするタイプだろうか。
そして五人とも桃色の髪に碧眼。顔はよく似ていて、まるで同じ人間の顔を身長順に並べたよう、服装も相まってかなり印象的な女の子たちだった。
「五人そろって!」
「うおぉ!?」
長女アニーの掛け声、そして整列する五人。
『我ら、サー様専属スーパー親衛隊!!
……《ヴィナスファイブ》!!』
ドカン!と、何故か五人のバックで爆発が起こったような幻覚が見えた。
「"スーパー親衛隊"?」
「そう!スーパーです!!」
「ただのメイドじゃあないんだなーこれが」
「ごほーしはモチロン、ごえーもしちゃう!」
「特別な親♡衛♡隊、なの♡」
「ごー、ごごー……五女だけに」
お、おかしい……何が間違っているのかわからないのに何もかもが間違っている、そんな気がするのはなぜだろう……
「パねーなコイツら……逆に世界救えるんじゃね?」
筋肉バカはまるで何も考えてない顔でボリボリとクッキーをぼりぼり。ホント美味しい性格してるよなこいつ。
「そしてこの方々こそ!今日!ワタシの友となった世紀の傑物たち!
手前から、"ダ・ヴィンチの再来"!ヴェイラ・ルヴァオーク女史!!」
「なんだその異名!?初耳だぞぉ!」
「"大天才物理学者"!セント・キリュゥーーー!」
「以後、お見知り置きを!……大?」
「"マケルキガシネエゼ"でお馴染み!!我らが!!Dragon☆Banjo⇒ォオオオオオオ!!」
「万丈龍我だ!!……あれ、俺にはイミョーねえの?」
「そしてワタシこそ!!"黒曜石の貴公子"!!サァーーーマ」
「いやもう知ってるわぁ!!」
「ン女史ィ!!」
なんでこんな躁100%なんだこの人……
「"キコーシ"……おぉ、ヒビきいいな!」
いや参考にしてんじゃないよ、後で俺が恥ずかしいことになるからやめろ!!
「おい……サー様よぅ」
「ン?なんだい?」
お、ヴェイラさん、苦手そうにしてた割に意外とすんなりコミュニケーションが取れ……
「アニーちゃんとエニーちゃん、よこせ。」
「(紅茶を吹き出す音)」
「オーウ……そうきたかぁ……」
「家建ててやるから!!」
「ちょ……ちょっ、ヴェイラさん!?」
「なんだよぉ」
いやなんだじゃねえよ!!
何あんた、そういう人だったの!?
「あぁん!?キミなぁ、こんな趣味にぶっ刺さる女の子がいたら……欲しいと思わないのぉ?」
「思わねーよ!!あんた昼間になんのいかがわしいパーティをおっぱじめようとしてるんですか!!」
「う、うるせ~~~~ッ!!ボクにもあの流線美を堪能させろぉ~~!!至近距離で見せろぉ~~~!!」
思わぬ人の思わぬ性癖が露になってしまった……。
「おー告白じゃん。どーすんの?お二人さん」
「女の子どうしかぁ……さすがアニ姉!大人だな!」
「やーん♡この人こわぁい♡」
「もー!みんなからかわないでよー!」
いや余裕なのかよ!
図太いなキミら!
「あー……ハハハ!!さすがは僕のヴィナスたち!!ンン~!チョコチップがテイスティィ~~~~~~~ッイ!!」
……なんか他の部屋から苦情が来そうだなこれ……。
いやしかし今日だけで濃い人たちにめっちゃ会うな。さすがは国のトップが主催するパーティーってところか。
「バンジョー様……あーん」
「うめぇうめぇ。ほらお前も食えよほら」
「あむ……おうひいでふ」
こいつ満喫してやがる……ま、でも。
「なんか、人がいっぱいいると楽しいよな。やっぱ」
パーティー前だけど、俺もクッキー食べよ。
コンコン。
「お待たせしました!会場の方、準備が整いましたのでお知らせに参りました!」
ミニお茶会を楽しんでいると、不意にドアを叩く音が聞こえた。
「これより開場のお時間となります、ご用意のほどお願い致します!」
いよいよだな。さて、ここからだ……気を引き締めていかねえと。
「万丈、わかってると思うけどもう一度言うぞ」
「んだよ」
「絶っっ対に!偉そうな人にナメた口利くんじゃねえぞ」
「わぁかってるって!!何回言うんだよそれ!」
「ホントだな?絶対だぞ!?」
「おう!」
返事はいいんだけどなぁ……いや、もう心配しても仕方ねぇんだけど……
「フンフン、二年ぶりのこっちのパーティー……いやぁ~~楽しみだなァ!!ハハ!!」
「ふあぁ~~ぁあ……あれなんか眠い……」
「ヴェイラ様大丈夫ですかぁ!?」
「寝る……」
「ダメよぉ♡」
「うおわ!!ちょ、どこ触ってんのぉ!?」
「起きた……ちょろいっすね……ぶふっ」
むしろ心配すべきなのはこっちか……大丈夫かよこの人。
部屋から会場までのこの道、他の参加者たちから奇異な目を向けられまくるな。俺がしっかりしとかねえと……!
「こちらになります!」
「ありがとうございます!」
案内人さんに挨拶をして会場入り。
さてどんな感じなのか……おぉ!!
「うお、きれーだなー……」
まず目に飛び込んできたのは、外壁と同じく真珠のように美しい壁と床の白色。
そして瑠璃色と茜色を基調としたステンドグラスの窓、窓、窓。差し込める日の光がカラーライトとなって場内に煌びやかな光のモザイクを映し出している。
「オォ~~~~!!流石は女史!!素晴らしい作品だァ!!」
「たはは!だしょぉ?ナガサキの教会から着想を得たんだぁ。飛びっきりのいい子だよぉこの子はぁ!」
そういえばそうだったな。このパーティー会場になってる建物はヴェイラさんが建てたものだった。
「わぁいもっと褒めてぇ~!」
「ヴェイラ様の作品、すっごく綺麗です!」
「ヴェイラ様スゴーイっ!!」
「たっははは!!やっぱ好みの子に褒められると違うなぁ!……ふとももきれいだね触っていい?」
傍目じゃとてもそんなすごい人には見えねーけど……。
「――あら、皆さんごきげんよう!!」
ん?……うおぉ。
「ヒメさぁん!ちわす!」
プリンセス。それに、
「お久しぶりです。キリューさん、バンジョーさん!」
「おう!リス子も一緒か!!」
「ベアトリス!!デス!!呼べ!!ナマエチャんト!!」
「あー、悪……あれ日本語しゃべれんのお前!?」
「ふん!チョトダケデス」
おぉ!!すごいなぁ!!
「オソワるました。ちせサン、カラ」
「あー、なるほどなぁ!」
「日本語はどう?」
「む、む……ムズカシイデス!……ヒラガナ、カンジ、モジ!オオスギ!!」
あー……確かに。アルファベット26文字と比べたら日本語って常用漢字も入れたら2000文字以上あるからな……。やっぱ外国人にはそこがネックになるのか。
「でもちゃんと勉強してんだからすげぇって!!お前頭良さそうだし、今度は英語も教えてくれよ!」
「~~!!……アツカマシイ!!」
「おい、戦兎。今のどういう意味だ?」
「デリカシーがないってことだよ。
お前英語の前に日本語勉強しなおした方がいいぞ?」
「……うそーん」
嘘じゃねえよ。バカ語で言うとリアルガチだよ。
っておしゃべりしてる場合じゃねーな……この二人がいるってことはもちろん……
「プリンセス!そろそろ壇上の方に……!」
やっぱりだ。思ったより早く……
「お!ひさしぶ」
「あ……!あなたがバンジョー様ですね!?」
「おぉん!?」
……え?
「
町のスターにお目にかかれるなんて……嬉しいですぅ!!」
「お、おう。……よろしく?」
あれキミそんな……わかりやすく明るいキャラだったっけ?
……少し訊いてみるか。
「(えっと……それは、スパイのカモフラージュなのか?)」
「(わかってるならちゃんと話を合わせて。今の私はインコグニアから来た田舎娘。そういうカバーなの)」
「(……なるほど)」
冷静沈着なスパイ、感情豊かな普通の女の子、そして今のアンジェ。
……それも君の、"仮面"の一つなのか。
「あ、そうだ行かなきゃ……また後程お話しましょうね、キリューさん」
「!!」
"お話"……まぁそうだよな。
「……はい」
「それでは皆さん、失礼いたします。」
プリンセスとベアトリスは会場の奥へと戻っていく。
「……何から話せばいいんだ」
「キリューさん!!」
「!!」
あ、アンジェ……の田舎娘フォームか。
「バンジョーさんも一緒に、色々お二人のこと知りたいです!……お聞かせくださいませんか?」
――『洗いざらい全部話せ。』
そう聞こえたのは気のせいでは……ないよな。これ……