Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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1-④

   

 

 

「『マスクメイカー』………」

 

 

こいつが、俺の顔と名前を使って強盗殺人をしたっていうのか?

こいつが、俺を死んでも足が付かない使い捨ての道具として利用した、張本人なのか……?

 

 

「はぁ…………最ー悪だ」

 

 

まさか一度絵のモデルになっただけでこんな事態を引き起こすとは思わないだろ。

しかも殺人鬼相手にノリノリでカッコいいポーズなんか取ってしまった。…過去の自分に嫌悪しかない。

 

こんなことならもっと早めに『仕事』を思い付いとくんだった……。

 

 

「心中お察しします……。でもどうか気を落とさないでください。これからは私たちがあなたを全力でお助けいたしますわ」

 

「そうそう。過ぎちまったことはしょうがないってことで、今は明日からの事を考えな」

 

「そうですよ!何の失敗もしない人なんていませんし、これからまた頑張ればいいんですよ!ね?」

 

「アッハハハ!ベアトが言うと説得力が違うね!!」

 

「…ドロシーさん!?」

 

「いやぁこいつもさぁ?最初の頃は姫様姫様~!ってプリンセスにべったりで、よくアンジェの足引っ張っては……」

 

「わーーー!?わーーーー!!!」

 

 

スパイ少女たちが俺を慰めてくれる。嬉しいけど、途中からベアトリス弄りに方向転換していったは何故だろう…

でもなんだろうな、彼女らの和気藹々とした賑やかな会話を聞いていると、かつての戦いを共にした仲間たちとの日常を思い出す。俺たちも傍から見たらこんな感じでバカみたいに楽し気で、かけがえのない物として映っていたのだろうか……。

 

そうだな。彼らとのことを思えば、やはりくよくよしてても仕方がない。前を向いて進み続けてこその俺、桐生戦兎なのだから。

 

 

「――あーはいはいはい!ユーたち落ち着いて!で、で……そういや思ったんだけど、俺にこの写真を見せただけで真犯人が分かったなら………なんで俺たちはここに連れて来られたんだ?」

 

 

収集が付かなくなりそうなドタバタを終了させ、新たに沸いた疑問の解決に取り掛かる。

さっきの簡単な質問で俺への用が済むなら、もう俺たちをここに置いておく理由も、ましてやアンジェが俺の護衛をする必要も無い。……もしかしたらまだこの殺人鬼についてなにか事情があるのではないかと俺は踏んだ。

 

 

「勿論それには理由があるわ」

 

 

沈黙を貫いていたアンジェが口を開く。

そして何枚かの新聞の切り抜きを俺に見せた。

 

 

「マスクメイカーには、殺人の際にあるルールを設けている。それは『強盗殺人を起こしてから48時間以内に、自分が顔をコピーした人間も殺している』というものよ」

 

 

見せれらた新聞記事には、どれも『逃走中の殺人犯が怪死』といった内容のものだった。

 

 

「じゃあ、俺も殺されるかもしれないってことか?」

 

「事実そうなりかけてたのよ。……あの時、あなたを追っていた警官隊の一人が殺されていたという情報が、さっきここに入って来た」

 

「……なんだって!?」

 

「あの場所にいたわね、間違いなく。あなたを捕まえて自分で殺すために」

 

 

アンジェが俺の前に降り立ったあの場所に、マスクメイカーが……

 

 

「じゃあ俺は、俺を殺人鬼だと思っている警察だけじゃなくその殺人鬼そのものにも狙われてたってことか…」

 

「流石に同情するわ……するだけだけど」

 

 

フォローになってないフォローをしてきたアンジェは用は済んだとばかりに再び椅子に腰を落ち着ける。

 

 

「………万丈を連れてきたのは、アイツも、殺人鬼に狙われてるから?」

 

「彼があなたを釣るためのエサとして、彼を利用する可能性はかなり高いから」

 

「……ありがとう」

 

「礼を言われる筋合いはないわ。……目的の為に彼を囮として利用しようとしているのは、私たちも同じよ」

 

「それでも構わない。…守って、くれるんだろ?」

 

「彼の場合はちせがね」

 

「なら俺からも彼女によろしく言っとかないとな!」

 

「………そう、でも私たちはスパイ。嘘つきなの。あまり信用しない方がいい」

 

「ふぅーん…」

 

「何よ?」

 

「本当の嘘つきは、自分の事を嘘つきだなんて言わない。……だってそうだろ?嘘つきが嘘になるんだから、つまりそいつは正直者ってことだ」

 

「……つまらない言葉遊びだわ」

 

「でもホントのことだろ?」

 

 

俺はアンジェの方へ歩み寄り、そして右手を差し出す。

 

 

「……俺は君を、君たちを信用する。これはその証拠だ」

 

 

その手をアンジェはじっと見つめ、

 

 

「そこまで言うなら…」

 

 

ゆっくりと、その右手を重ねた。

 

 

「改めまして、天っ才物理学者の桐生戦兎だ!よろしく、アンジェ!」

 

「……よろしく」

 

 

少し、ほんの少しだがアンジェの顔に笑みが広がったように見えた。

俺も釣られて笑えば、ぷいっとすぐにそっぽを向いて紅茶らしきものを飲み始めてしまったが。

……でも、ちゃんと通じたようで安心した。

この国でもやはり、握手はグローバルな挨拶なようだ。

 

 

「おっと、あたしらも忘れんなよ?よろしくな、セント!」

 

「もちろん、よろしく!」

 

「ふふん!よろしくお願いします!」

 

「あぁ、よろしく!」

 

「フフフ、では私も…」

 

「はい!よろし………あれこれ普通にやっちゃマズいパターンじゃない?」

 

 

ドロシーとベアトリスがずっこけた。

 

 

「おいおい……」

 

「いや、その通りですね!いい機会ですからここできちんとお作法を……」

 

「よろしくお願いいたします♪」

 

「姫様ぁ!?」

 

 

なんとプリンセス直々に先制されてしまった。しかも両の手で。

 

 

「こういうの、ちょっと憧れだったんです♪私も公務以外で殿方と触れ合うのは久しぶりなので…あら、なんだか胸の辺りがドキドキと…」

 

「ブふぉっ!?」

 

「うわアンジェ!?」

 

 

いやいやいやお転婆が過ぎますってあなた……

ベアトリス石になってるしアンジェが何故か某探偵張りの吹き芸を披露してるし……

こっちももう冷や汗が止まらないっす…

 

 

「……は!?い、いけません!!いけませんのですよ姫様!?」

 

 

あ、戻った。

 

 

「ほら!もう挨拶は済んだんだからさっさとあっち行っててくださいよ!!」

 

「御意。」

 

 

触らぬ髪…じゃなかった。神に祟りなしとも言うし。もうここらで女の子は女の子同士でワイワイしてもらいましょう。部外者は部外者同士でつるんできます。

 

 

「あ、と…そうそう。あんたら二人とも、今日はここで寝な」

 

「え、いいの?」

 

「当然さ。護衛対象の世話も任務の内だからな」

 

「万が一のことがあると考えて、私とちせで就寝中も周辺を見張っておくから安心するといいわ」

 

「仕方ないのでこのお部屋を貸してあげます。……汚さないでくださいよ?」

 

「そりゃ勿論。ホントに色々、ありがとな」

 

 

そうかそうだった。今はあの店に帰れないのだから別の眠る場所を探す必要があるのだった。

ここは彼女らの厚意に甘えるとしよう。

 

 

「と言いましても、もうミスターバンジョーはとっくにお休みになられてましたね」

 

「え!?……うわマジじゃん!!」

 

 

畳の方に首を向けると、なんとそこには和敷布団に包まれてすやすやと眠る万丈の姿が。

うわ、めっちゃいい寝顔……ってちせさんそれ何弾いてるの?三味線?安眠効果がある三味線なの?

 

 

「かぁーー……かぁーー……」

 

「ていうかアイツ…シャワーとか浴びてました?」

 

「うむ。そこは安心せい、こやつには身も心も清めてから床に就かせた。今宵はお主も疲れたであろう、ゆるりと過ごすとよい」

 

「はぁー……優しすぎるぅ」

 

 

あ、やばい、泣きそう。

っていかんいかん、気を抜きすぎちゃダメだ桐生戦兎!ここは大人の男として、毅然とした態度で…

 

 

「……朝食は、何がいい?」

 

「は!?……アンジェ、さん?」

 

「『さん』はいらない……オムレツなら自信あるんだけど、良かったら、食べる?」

 

「………いただきます!!」

 

 

決意が籠っていた筈の俺の涙腺は秒で決壊した。

 

そうしてプリンセスとドロシー、ベアトは女子寮に一旦帰ると言って出ていき、残る俺たちはこの部屋で夜を共にした。

 

 

 

 

 

     ~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「あぁーーーーっ!!」

 

 

朝食後、アンジェの作ってくれたオムレツによる心地いい満腹感を楽しみながら新聞を読んでいたら、突然万丈が叫びだした。

 

 

「何だい万丈くん、そんな推しアイドルの生放送を見逃したドルオタのような声を上げて…」

 

「いやそれ一海じゃねーか……ってそれどころじゃねぇよ!!俺今日午後から試合だったんだよ!!」

 

「え?………あぁーーっ!?」

 

 

そうだった!!

今回のドタバタですっかり忘れてた!!

昨日と今日は万丈と別の町のチャンピオンとの交流試合だったのだ!

 

 

「あら………あなた達まさか自分の予定も忘れてたの?」

 

「あ……そ、そーなりますね、はい」

 

 

うわめちゃくちゃハズいなこれ……うぅ、そんな可哀想なものを見るような目で見ないでくれ

あれ、でも今の状況で外に出るのはマズいんじゃ…

 

 

「まぁ、そんなことだろうとは思っていたが。…これを使え」

 

「お……え?」

 

 

と、突然ちせから手渡されたのは、時代劇でよく見る虚無僧が被る編笠のような物だった。

 

 

「おい、何だそれ?」

 

「何だろう……覆面か?」

 

「そのような物だ。……まさか桐生、お主外を出歩くのにその顔を隠す気が無かったなどとは言うまいな?」

 

「え……外出ていいの!?」

 

 

まるで最初から俺たちの行動を把握していたかのように、準備万端と言った体で話を進め始めるちせとアンジェ。

この俺の顔による殺人が起きてからのこの短い間にそこまで調べ上げていたのか……。

 

 

「変にあなた達を長く引きこもらせたら、逆にヤツを刺激させて、無差別に人を殺し始めるかもしれない。ならいっそ、こちらから先に撃って出る方が得策じゃないかしら?」

 

「それにヤツの殺しは今までの傾向からして、必ず夜に行われていた。万丈を狙い、白昼堂々人目の多い『ぼくしんぐ』の試合会場で動く可能性は低い」

 

「確かに、俺としてもこんな事件はさっさと終わらせて日の当たる場所をこのままの顔で歩けるようになりたい……でも」

 

「あぁ、折角応援に来てくれる町のやつらを危険に巻き込むようなことはできねぇ」

 

 

俺たちのせいで誰かが傷つくなんてことは、もう金輪際ごめんだ。

 

 

「……気持ちは分かる、だが今日の試合を中止させるのはできぬ」

 

「悪いけどこっちも忙しいの。私たちもこの事件をできるだけ早く終わらせることを優先している。妥協は無しにね」

 

「妥協じゃねぇ!!」

 

「危険に曝されるのは俺たちだけで充分だ。俺たちは何も知らない人たちを態々事件に巻き込むのは…!」

 

「巻き込ませないわ」

 

 

そう言ってアンジェが懐から取り出したのは、あの時も見た、ネジのついた球体だった

 

 

「あん?」

 

「それって……」

 

「『Cボール』……国家の重大機密だから詳しいことは言えないけれど、これがあれば私は重力から解放され、そして対象を開放させることができる。桐生戦兎、あなたは実際にそれを体感したことがあるでしょう?」

 

「重力……そうか、そういうことだったのか!!」

 

 

だからあんな人の限界を超えたような動きや、空を飛ぶような跳躍ができたのか!

確かに、あの跳躍が宇宙飛行士が月面でやる高いジャンプのような動きの延長だったとすれば、納得がいく。

まさかこんな所で新しい科学技術に出会えるなんて!!

 

 

「それちょっと詳しく」

 

「絶対ダメ」

 

「お願い!!せめて見るだけ!!見るだけだから!!!」

 

「だからダメったら…『好奇心は猫を殺す』という言葉を知ってる?下手な事するとあなた、死ぬわよ」

 

「あ、死……」

 

「こんな形で任務失敗なんて絶対ごめんよ」

 

「はい……」

 

 

仕方ない、今は諦めよう。これから自力で調べればいいことだしな。

 

 

「あの目……なるほど、確かに学の者の目じゃ」

 

「あ、わかる?ああなるとめんどくせぇんだよなー…」

 

 

いや、それよりも

 

 

「なんで今それを見せてきた?」

 

「これを使えば、あなた達の心配をほとんど解消できる。私たちはプロよ。無駄な犠牲者を出すことなく、任務は遂行する」

 

「我らは護衛じゃ。護衛とは対象の安全は勿論、その生活や大切な物も同時に護り通すもの。決して、お主らの悪いようにはせぬ、安心せい」

 

「信用、してくれるんでしょう?なら、私たちに任せて。あなた達は、普段通りに過ごせばいい」

 

 

……そこまで言われてしまうと、俺も弱い。

彼女たちを信用すると言ったのに、俺からそれを破ることを言ってしまっていた。

でも俺は危険に曝されるのは俺たちだけでいいとも言った。

だがその危険を彼女らはそれが任務だと言って、代わりに背負おうとしてくれている。

強い瞳で、俺たちも町の人も護ると言ってくれる。

俺は……

 

 

「そうか……わかった。頼む」

 

「万丈!?」

 

「俺たちはここに来てまだ日も浅ぇしここのことを何も知らねぇ、できることも少ねぇ。ならここはコイツらに任せてみてもいいんじゃねぇか?何もかもしょいこもうとすんのはたまにはやめてみろよ、戦兎」

 

「…………そうか」

 

 

俺たちは護衛されるんだ。その自覚が、俺には全くと言っていいほど足りてなかったじゃないか。

 

 

「そうだよな」

 

 

俺は懐の『ラビットフルボトル』を握りながら、万丈の言葉を噛み締める。

この国での俺たちは『仮面ライダー』じゃない。

護る側じゃなく、護られる側だったのだ。

彼女たちを頼ることに、俺を何を躊躇していたのだ。俺がきちんと信じ切らないで、彼女たちが俺たちを真に護ってくれるはずがない。俺たちの大切なものを護ってくれるはずがない。

 

 

 

「アンジェ、ちせ……改めて、俺たちの護衛をお願いする」

 

「護り通すわ。絶対に」

 

「あぁ!」

 

「頼むぜ!!」

 

 

アンジェとちせの瞳の輝きが、また一段と強くなる。

万丈も大きく笑いながら『あ、そういやグローブもねぇ!!』と自分の心配を始めた。

俺はそんな万丈に『会場で借りればいいだろ?』と提案して、渡された編笠を装着する。

 

 

「――じゃあ、行こうか!」

 

 

そして俺は彼女たちに向かって、できるだけ気安く呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 




活動報告を投稿しました。良ければ目を通してくださると幸いです。
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