Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~ 作:ポロシカマン
では、どうぞ。
「行くぞお前らァアアアア!!!『負ける気が』ァア!?」
「「「シネェゼエエエエエエエエエエエ!!!!」」」
事件開始から翌日の今日、昼下がり、今まさに我らがスター"Dragon☆Banjo⇒"(命名:万丈)と隣町からやって来た同じくスターボクサー、"ベンジャミン・ザ・バッドニュース"の試合開始のゴングが鳴った!!
「調子づいてんじゃねぇぞガキャア!!!テメェ人間の言葉でしゃべりやがれチビザルァ!!」
「そっちこそ日本語喋れやデカゴリラァ!!オラいくぞオラァァ!!!」
「「「ワァアアアアアアアア!!!!!!」」」
「うぉお!?なんという轟音!!『ぼくしんぐ』とはここまで人を熱に狂わせるものなのか!?」
「ほらちせ、私たちも応援しましょう。静かにしてたら逆に浮くわよ」
「うむ、しからば。……すぅ」
「「頑張「ウォオオオオオオオオオ!!!!!行け万丈ォオオオオオオオオ!!!!!!!!」
折角来たんだ。編笠がなんぼのもの、自分の声が耳に埋まり切るほどの声量で、万丈にエールを届ける!
勝て!!勝つんだ万丈!!!
お前の拳に、俺たちの未来が懸かってる!!
お前のライダー魂を見せてやれ!!!
「オォルァァア!!!」
「フンヌ!?……オラ全然効いてねぇぞァン!!そんなもんかドラゴンってのはよぉ!?オォラァ!!」
「――――シュッ」
「(消えた)!?」
「――ッリャア!!」
「ッッッグゥウ!!」
(なんだ今の動きは!?まるで見えなかっただと!?……俺が!?)
「ッッラァ!!」
「ヌゥオ!?……ッチィ!!」
(どうなってやがる……俺ぁ一瞬だってアイツから目を離さなかった…だのに、何時の間にか俺の視界から消え、顎を狙える体制に入ってやがった!!)
「オラどうした来いよビビってんじゃねぇぞォ!!!」
(『避ける』と『狙い澄ます』――まさかコイツは、あの一瞬でそれを同時にやってのけたってのか!?)
「なんと!万丈め、あやつ無刀で居合の型を繰り出してきおった!」
「……どういうこと?」
「万丈は相手の拳が放たれた刹那、左足を後ろに引くことにより自らの重さに任せて腰を落とし、さらに、それを
「なるほど……その後は左骨盤を前に突き出すように上体を捻り、発条とした左足で地面を蹴ることで力を貯めた拳にさらに加速力を乗せることで、攻撃直後の隙をついた効果的な一撃を放てた。そういうことね」
「うむ…正しく居合、見事じゃ。」
(流水のように滑らかで無駄のない脚運びと拳筋、それに戦闘における的確な判断力とスピード……普段のどこかふわふわした雰囲気からは想像できないこの類まれな戦闘力……万丈龍我、万が一彼がプリンセスの作り直す新たなアルビオンの障害となるか、逆に大きな助けとなるかは…今はまだ判断できないけど、この任務が終わっても注意しておく必要がありそうね)
「いいぞ万丈ォオ!!!フィジックス!!今超フィジックスだった!!!もっといけフオオオオオ!!!」
「って何の応援よそれは…」
(クソ!!だがごちゃごちゃ考えても仕方ねぇ!!ボクシングは殴ってぶっ倒す!それが全て!!そんな手品なんざ押し切ってくれるわ!!)
「オリャオリャオリャオリャァアア!!!」
「む、ベンジャミンもまだあれだけの動きができたか!なんという気骨!あの気迫と動き、まるで歴戦の力士のようじゃ!!」
(ちせ、楽しんでるわね……流石は日本人、サムライの血が騒ぐのかしら)
「ほらほらアンジェもいい所なんだから盛り上げて盛り上げて!!ほら!!ほぉら!!!」
「分かった、分かったから!はぁ…」
(
『本当の嘘つきは、自分の事を嘘つきだなんて言わない。……だってそうだろ?嘘つきが嘘になるんだから、つまりそいつは正直者ってことだ』
(でも、今はまだ信じてみてもいいかもしれない)
「きゃぁーー!!バンジョー逃げてぇーー!!」
(疑うだけじゃない、信じることだって大切だって、あの子が脚を痛めてまで教えてくれたんだもの。)
「うぉはえ!?…へっ!でもそんな連撃はァ」
「オッル……ブア!?」
「大抵脇ががら空きになるんだよォ!!ッラアァアア!!」
「グゥオアアアアアア!?」
(なんで、おれのパンチが当たらねぇ!?なんでこいつは避けられる!!なんで……そこまで拳を恐れず、俺の懐に近づけやがる!?)
【ベンジャミン…おめぇにはあるか?守りたいもんが】
(!?)
【俺にはあるぜ、たくさん。両手で数え切れねぇほどにな。】
(これは……まさか、バンジョーの拳から伝わってきている、のか?)
【おめぇのパンチの重さは半端ねぇ。でもそれは自分の金の為、お前のためだけのパンチだ。それだけの拳じゃ、俺は倒れねぇ。】
(バンジョーの心が言葉じゃねぇ、感情で理解できる……そうか、この小せぇ拳がこんなに重てぇのは、きっと、いつもこんな気持ちを込めて撃ってやがったからなのか……!!)
【この世で一番強い拳ってのはな、『誰かの為に振るった拳』なんだよ。誰かを守るために、見返りすら求めずひたすら精一杯戦って振るった拳なんだよ!!お前らこの国の格闘家にも、そんな拳を振るってほしいんだ。】
(チクショウ……勝てねぇわけだぜ……)
【よろしく頼むぜ!!】
「ウォリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ブァアアアアアアアアアアアアアア!!」
(かっこよすぎだぜ………ドラゴン…バン…ジョー…)
万丈の拳に、ついにベンジャミンは沈んだ。
「ゥイナァア!!バン、ジョォオオーーー!!!」
「ッシャァアアアアアアアアア!!!」
「「「ッワァアアアアアアアア!!!!」」」
会場は笑顔と歓声に包まれた。
ベンジャミンも、そのサポーター達までもが笑顔で両者の健闘を讃える。
そして万丈とベンジャミンが固い握手と抱擁を重ねた。
「お前と戦えたことは俺の一生の誇りだバンジョー、お前ならもっとスゲェボクサーになれる!」
「俺もお前みたいな強ぇボクサーと戦えて最高だった!!へへっ、おめぇのパンチすっげぇ速ぇえし重かったぞ!!」
「へっへ、お前ほどじゃねぇさ」
「お、そうか?」
「ああ!ったくチビのクセに何食ったらそんなに強くなれたんだよ?」
「おう!やっぱプロテインだな!!」
「タンパク質?……おぉ肉とか魚のことか!!いやぁやっぱそれしかないか!!ガッハハハハ」
「うぉやった!プロテインで通じちゃったよ!!わっはははははは!!…あれ?この時代にプロテインあったっけ?」
バカがバカなことを言ってる間も歓声は鳴り響き、様々なプレゼントが両雄に投げ渡される。
二人はそれらを丁寧に拾い上げながら笑い合い、腕を固く組み合う。
今日の興行も、大成功のままにその幕を閉じた。
「どぉーーだ戦兎!!今日も勝って来たぜぇ!!」
「おう、お疲れさん。ほら水」
「はぁ、相変わらずドライだねぇ、ったく……っかーーーッ!!水うめぇ!!」
(こ、この男、試合中はあんなに盛り上がっといていざ帰ってきたらこの態度……)
(面と向かって喜びを見せるのが恥ずかしいんじゃろう、ほっといてやれ)
タオルで全身の汗を拭きながらがぶ飲みする万丈を横目に、俺は諸々の手続きを済ませて帰り支度を始める。
今日のファイトマネーはいつもよりも大分分厚く、これなら向こう2週間は特に金に困ることなく生活できるだろう。
……そうだな、これを元手にタイプライターなどの俺の仕事道具を買い揃えられるかもしれない。
この一件が終わったら、万丈に相談してみよう。
「あーー…戦兎ぉ、なんか腹減らね?」
「お、確かに……うん、そろそろいい時間だな。ちょっと早いけど夕食にするか。アンジェたちはどうする?」
「毒を入れられる可能性も考えて、私たちが用意する食事以外摂らないでほしいところだけど…まぁどこか食べに行くならそれでもいいわよ」
「うむ、我らが毒見すればよい話だしな」
「ど、毒見ぃ!?」
「あぁ、そういうこともあるのか…」
そこまでの発想はできなかった……やっぱりこの時代でスパイをやってるアンジェたちはそういう経験をたくさん積んでいるのだろう。俺たちの価値観で勝手に行動するのは慎んだ方がいいな。アンジェたちの提案に乗っておくのが賢明だろう。
「んじゃあの部屋に戻ってからにすっか?」
「そうだな、そっちの方がいい」
うん、万丈も大体俺と同じ考えのようだ。こいつは確かに普段は大が付くほどの筋肉バカだけど、こういう生命に関わる真面目な状況では驚くほどに頭のキレが良くなるのだ。そこには全幅の信頼が置ける。
「あ、そうだ!その前にあの店寄っとかねぇと!俺たちの『荷物』もあっちに移動させねぇと!!」
「!!」
そうだ!!ボトルとドライバーがまだあそこに置いたままだった!!!
マズい……この町じゃ盗難なんて日常茶飯事だ!もしかしたら無くなってるかもしれない!!
「悪い、一旦俺たちが住んでたところに戻っていいか?」
「何か忘れ物?大した物じゃないならこちらで用意しておくけど」
「いや、どうしても俺たちで取りに行かなきゃいけない物なんだ。代えなんてきかない色々と事情がある物なんだよ……頼む」
二人に頭を下げる。アンジェは少し見つめた後、懐中時計で時間を確認してまた俺の方を向く。
「いいわよ。」
「……ホント!?」
「私も電話交換局に行ってドロシー達と一度連絡を取ろうと思ってたところだし、あの店の辺りなら確か近くにあっただろうから、あなた達に荷物を運び出す時間程度なら作ることはできるわ。」
「ありがとう!」
「ただし、その間はちせの目の届くところにいてもらう。それが条件よ」
「もうそろそろ日も沈む。ヤツが活動を始めるころ合いじゃからな」
「十分だ!助かる!」
「そう、ならいいけど」
やった!これでライダーシステムを俺たちの手元に置いておける!
「話が終わったなら、さっさと移動しましょう。ここだと万丈くんのファンに囲まれて身動きが取れなくなる」
「あぁ!行けるか万丈?」
「おう!」
「うむ、では行こう」
そして町の人たちの笑い声の中を通り過ぎ、俺たちは住まわせてもらっていたあの店に向かった。
「しかしお主、一体どこであのような技を身に着けたのだ?」
店へと向かう道すがら、ちせが万丈に問いかける。
剣の達人らしい彼女は万丈のテクニックに興味を持ったのだろうか、訝しげにじっとこいつを見つめる。
「え?普通のジムだけど」
「
「あぁ違くて!えっと…流派とかじゃなくて、道場の名前なんだよ!」
「ほう、道場か!なるほど、国に帰ることがあれば一度探してみるか。あのような実践的な武術を修められる場所は日ノ本では今日日少ないからな…」
いやないから明治の日本に!……とは流石に言えないのか万丈は口をまごつかせる。
ボクシングの歴史に詳しいわけでは無し、日本に伝わった次期は分からないがタイムパラドックス的なヤツが起きるとも限らないな。これ以上この話題を続けるのは危険かもしれない。
「お、あそこじゃないか?電話交換局」
「そうね。じゃあ私は行ってくるから、あの店で待ち合せましょうか」
「了解した。……む、店が見えたな」
ホントだ、この道からも行けたんだな。
「じゃあまたな!」
「えぇ、気を付けて」
「んじゃ!」
アンジェが別の道へ進み、俺たちは店の入り口に向かった。
昨日の昼までいた筈なのに、何だかすごく久しぶりに感じる。色々あったからだろうか。
あ、そうだ。店長にも色々と説明しないと!
きっと目ぇ丸くして驚くだろうけど、人のいいあの人の事だし、笑って済ませちゃいそうな気もするな。
「ただいま~……店長いる~?」
ドアのベルが鳴る、しかし
「………あれ?」
『いらっしゃいませ』が聞こえない。
それどころか、普段のこの時間は賑わっているはずの店内に、
客が一人もいなかった。
「おい何でこんな静かなんだ?今日って定休日じゃねぇよな?」
「あぁ……そうだけど…」
「!――妙な気を感じる。二人とも、私の後ろへ」
「…何?」
刀の鍔に親指を乗せながら、ちせが真剣な面持ちでそう告げる。
確かにおかしな気配だ……こんな雰囲気は、普通は有り得ない。
……普通じゃないってことなのか。これは
「なぁ、なんか聞こえねぇか?」
「………え?」
「いや聞こえんだよ!なんかこう……鉄かなんかを物に擦りつけたような…」
「私にも聞こえたぞ。これは……"大きな刀を研いでいる"のか?」
まだ聞こえていない俺は目を閉じ、耳を澄まして脳の感覚処理を聴覚に集中させた。
――キュイィイイ……キュイィイイ……
「聞こえた………厨房の方からだ!!」
「早まるな!!私が殿を務める、お主らは後に続け」
「……わかった」
ちせの言葉に従い、俺たちは厨房へとゆっくり歩を進める。
俺は脳裏に浮かんでくる最悪の想像を懸命に払拭しながらただ厨房への注意を続けた。
―――厨房に、着いた。
「おぉ、やっと来たか。遅かったじゃないか―――『俺』?」
全身に殴打痕を付けて厨房の床に横たわる店長。
そこら中に散らばった調理道具と食材たち。
そして―――それらの中心に立っていたのは、紛れもなく『桐生戦兎』だった。
「……………マスク、メイカー……!!」
「さぁ、"僕"に刻まれてくれ」
死神の鎌が、首筋に向け走った。