Princess Principal ~Gearing BUILD and CROSS-Z~   作:ポロシカマン

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遅れまして申し訳ありません。
多分今後もこのペースになると思います。ご容赦ください。

では、どうぞ……。


1-⑨

 

 

 

 

 

 

「なんだよそれ……カッコいいわけないだろ!」

 

「カッコいいわよぉ!」

 

彼の記憶の世界、心の中の世界……今俺が立っているこの場所が、そうだというのか?

 

『この世に醜い物は存在しない、存在してはいけない』!! このアホみたいな家訓のせいで!! 僕はもう一生この"ギプス"を外すことが許されないんだぞ!? 僕の顔は存在しなかったことにされたんだぞ!! こんな僕の、どこがカッコいいっていうんだよ!?」

 

「『短所は長所にできる』! ほら、海賊さんや軍人さんは眼帯や鉤爪の手になってもそれが勲章だぞ!って感じでカッコいいじゃない? あなたもそんな風に思われるような人間になればいいのよ!」

 

 あまりにも現実離れした目の前のこの"事実"に、俺は開いた口が塞がらないまま後ろ髪を掻き毟る。

 

『……なんだよ、これ…』

 

俺の声が自分たちすぐそばで発せられたというのにも関わらず、ショーンとユーシェはこちらを見向きもせずに会話を続けている。明らかに俺の存在に気付いている様子はなかった。まるで俺は空気だったのかと思うほどに。

いや、でもそうか……

 

『ここがマスクメイカーの…いや、『ショーン』の記憶の中なら、きっと彼があんな姿になってしまった経緯もこの"記憶の世界"を辿ることで分かるはずだ』

 

 今は『どうして自分がこうなってしまったか』よりも、 『今この状況で自分に何ができるか何をすべきか』を考えるのだ。

正直前者が気にならないわけではないが、それは今は置いておこう。

 

「そんな怖そうなのになりたくない! 僕が、僕がなりたいのは…」

 

「画家さんでしょ?」

 

「そう!どこか静かな場所でずっと絵を描いていられるような……!? なっ、何で分かるんだよ!?」 

 

「分からないわけないでしょう!こんなに素晴らしい絵を描いちゃうんだから。…あ、ごめんなさい。返すわ」

 

「あっさり返すくらいなら最初から取る…取らないでください。ユーシェ姉様」

 

「姉様はいらないわ。ユーシェでいいわよ固っ苦しいから」

 

「えぇ……」

 

「あ、嫌そうな顔」

 

「……何ですかそれ。 "顔なし"に、表情なんてないのに」

 

「あら、あるわよ?私には判るわ!だって…」

 

「…………」

 

「ショーンは、私の弟だもの」

 

 

 

ユーシェがそう言った瞬間、世界の全てが静止した。

 

 

 

『えっ!?』

 

 どういうことだ?どうして何も動かなくなった?

なんの前触れもなかったのに!?

 

『人も、風も、池の水の波紋すら止まってる……まさか』

 

 現実のショーンが思い出せる記憶が、ここまで

だから……そういうことなのか?

 

『そんな……なにか、続きに行ける仕掛けはないのか!?』

 

 どこかに、どこかにあるはずだ。

別の記憶へとアクセスできる方法が。

 

 人の記憶、特に自らの"思い出"に関するものは一つを想起すればまた別の関連した記憶が甦る、そういうものだと何時かどこかで聞いた気がする。

 

 そうだ、俺だって辛いとき投げ出したいときにいつも踏ん張ってこれたのは、仲間たちとの大切な他愛もない思い出があったからじゃないか。あの日々が、紛れもない"桐生戦兎"として過ごしてきた記憶があったからこそ、立ち上がってこれたじゃないか!

 

 大切な思い出ってのは、そう簡単に忘れられるものじゃない。きっと、ショーンの記憶も心のどこか深いところにあるはずなんだ!

 

『どこだ……どこにある!』

 

 探せ、行けるところの全部を。

見つけ出せ、それは必ずあるのだから――。

 

 

 

 

―――数十分程経っただろうか。

 

『見つからない……』

 

 いくら探してもそれらしいものは皆目見つからなかった。

 

『最悪だ……』

 

 折角いい所までこれたというのに、この始末。

奇跡か偶然かもわからないまま、今の状況をほったらかしたまま先に進もうとした弊害か。とうとう先に前進することすらできなくなった。

 

『いや……諦めるのはまだ早い。』

 

 まだやれることがある筈だ。

まだなにか、目を付けてない場所が…

 

『そうだあの二人! まだ調べてないぞ!』

 

 会話の途中で静止しているショーンとユーシェ。

二人にはまだ声を掛けてはいたが触れてはいなかった。

 俺が倒れてきた彼を抱き留めたあの時の光りが、俺をこの世界へと誘ったのだとしたら……

 

『ショーンの背中に……花?』

 

 探索から元居た場所に戻ると、奇妙な変化が起きていた。

真っ白の、キク科だろうか? 

一輪の花がショーンの背中にくっついている。

 

『仮説に仮説を重ねまくるのはホントはご法度だけど…今はこれしかない。頼むぞ』

 

 その花を取る。

 

『うおっ!?』

 

 ばっくりと、成虫が抜け出した後の蛹のような亀裂がショーンの背中が開いた。

その中は何も見えず、吸い込まれそうな黒が広がっている。

 

『……行ってみるか』

 

 ショーンを救う。その強い決意を胸に燃やして、俺はその穴に右手を差し込んでみた。

直後、あの時と同じ紅と青の光が穴から溢れだし……

 

 

『………やった…進めた!!』

 

 穴をくぐった先、景色はさっきの庭から別の場所へと変わっていた。

不確定要素ばかりの行動だったが、これが正解だったようだ。

今度は何処に来たのだろうか?

 

『見た感じ……公園か?』

 

 遊びまわる子供たちや風景画に勤しむ大人たちなど、現実の公園でも見たような景色が眼前にあった。

大きく時代が変わっている訳ではないだろうし、そう断定していいはずだ。

 

『近くにショーンがいる筈だ』

 

 また周りを見渡すと、左方の木の陰に頭部が特徴的な少年の姿が見える、ショーンだ。さっきの記憶よりも若干背は高くなっているがきっとそうだ。

 

『絵を描いてる、間違いない』

 

 彼は何度も何度も群衆とキャンバスの間で視線を変えながら、黙々と描画に勤しんでいる。

かなり集中力が高いのだろう。目の前で走る子供に目もくれず一心不乱に筆を走らせていた。

 

「――ショーン!! もう、勝手にいなくならないで!」

 

「姉様。もう用事は済んだの?」

 

「あ、こら! また姉様って呼んだ! いい加減名前で呼びなさいったら!」

 

 ショーンの後ろの林から聞こえる甲高い声は、ユーシェだろうか。

ドレスを持ち上げ、大きな帽子を押さえながら走って来た。

この子も外見的に成長して、大人っぽい出で立ちになっていた。

身長はドロシーより少し高いくらいだろうか。

 

「でも…姉様はやっぱり僕にとってたった一人の本当の家族だから。だから、"姉様"がいいんです。」

 

「………~~!!」

 

「わぷっ!ね、姉様!?」

 

「ホントいい子ね~!!あぁ、ショーン!!」

 

顔を真っ赤にさせてショーンを抱きしめるユーシェ。嬉し恥ずかしい気持ちが表れての行動なのだろう。二人の距離は大きく縮まっているようだった。

 

「こんな、こんないい子に嫌な思いばかりさせて!神様って本当に不公平だわ!他の家族たちに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!!」

 

「く…苦ひいでふよぉ!」

 

「ふふ、ごめんね…あら、また一段と上手くなってるわね! 人が一杯なのにみんな丁寧で…」

 

「そんなことないですよ。奥の方の人はそれっぽい線で誤魔化してますし。その分近くの人は陰影を付けてハッキリさせてあげて全体のメリハリを……」

 

「う~ん…いや、とにかくすごい考えられてる絵なのね!! ショーンすごい!!」

 

いやお姉ちゃんもうちょっと聞いてあげて!

早いんだよ褒めるのが!!

 

「へへ……」

 

「うんうん、頑張って父様たちを説得して外に出させてあげた甲斐があったわ」

 

まぁ多少雑でもめそんな風にちゃくちゃいい笑顔で褒められちゃうと、不思議と褒められた方はすげぇ嬉しかったりするんだよな。わかるわかる。

 

「あ、そうだ。ショーン、いつも風景画ばかり描いてるけど人物画とかは描かないの?」

 

「人間は……好きじゃないです。題材にしようとは思えません」

 

「そっか…ごめんなさい」

 

「でも! でも……一人だけ、描きたい人はいます」

 

「! …誰なの!?教えて!?」

 

「…内緒です」

 

「えぇ~!?」

 

「いつか完成したら、一番に姉様に見せますね」

 

「あら……そういうことなら、楽しみに待ってるわね」

 

「はい!……あ、そういえば姉様の用事ってなんだったんですか?」

 

「ふふん、内緒♪」

 

「あ、真似しないでくださいよ!」

 

「なーいしょないしょー♪ふふんふふーん♪」

 

「あ、ちょっとぉ!!置いてかないでくださいよぉー!!」

 

 

 ショーンの声を最後に、記憶の再生は終わった。

 

 

『ショーンが誰かの人物画を描こうとしていること、ユーシェの謎の用事……それと、彼女の前で絵を描いている間だけはとても楽しげだったこと…か』

 

 ショーンの過去を紐解くのに必要な情報はまだ足りない。

数十年生きてきた人間の記憶だ、きっと桐生戦兎(おれ)のものとは比べ物にならない量の記憶、その世界を旅することになる。

 

『だとしても、俺は進む…ショーンの、未来のために』

 

俺は、二輪目の花を摘んだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それじゃあ行ってくるから、お留守番よろしくねショーン」

 

「はい。プリンセスのバースデーパーティー、楽しんできてください。姉様」

 

 

 大きな屋敷に住むもので、彼に話しかける物はユーシェ一人だけだった。

彼は一人でいる間、庭で野ネズミ等の食事を自分で調達するか、池の水で服を洗うかを繰り返す生活を送っていた。絵を描くのはその後だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「父様……母様ぁーーーっ!!!」

 

「一体誰が……」

 

「壁の建設工事の視察中に、"共和派"の人間が撃ち殺したそうですわ」

 

「ふん、賤民も偶には役に立つ。これで名実共に私がこの家の主だ…」

 

「……けほっ、ゲホゲホ、げえぇエっっ、エっ、エぇっ!!!」

 

「ユーシェ……ユーシェどうしたの!? ……キャアアアアっ!!兄様ァ!!血、血を吐いてるわ!!汚らわしい!!」

 

「くそっ、この忙しい時に……おい誰か医者を!!」

 

「……姉様ぁ!!」

 

「!? おい!!なんでバケモノがここにいる!!……っアァ!放れろ!!汚いんだよクソッタレ!! おい!!誰か庭に戻しておけ!!」

 

「姉様!姉様ぁああああ!!!」

 

 初めてショーンの兄弟たちが記憶の中で姿を見せたが、案の定悪辣な人間たちだった。

両親の他界により彼の待遇は益々悪くなり、そのうえユーシェも流行り病を患ったせいで彼の彼女と会える時間もやがて少なくなっていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ねぇショーン」

 

「なに、姉様」

 

「あなたが前に描きたいって言ってた人物画は……描けた?」

 

「……うん!描けた、描けたんだ!ほら見て!」

 

 床に臥せるユーシェは、まるで今にも消え入りそうなロウソクだった。

頬は瘦せこけ、美しかった髪はトウモロコシの髭と見分けがつかなかった。

死の気配が、彼女の全身を覆いつくしていた。

 

 

 瞳を潤わせ、ショーンは一枚の油絵をユーシェに見せる。

 

 

「あら……?おかしいわね……真っ白で……何が描いてあるのかしら?」

 

 

 描かれていたのは、最初の記憶の世界で見た――柔らかな笑顔の、健やかだった頃の少女。

 

 

「えぇとね、これは――」

 

「待って……当ててあげる。これは…そうだわ。きっと、あなた自身よ」

 

「いや、姉さ」

 

「お日様みたいな笑顔で、たくさんの人に好きになってもらえた、未来のあなた自身ね?」

 

 

 少女の絵を持つショーンの手は、震えていた。

 

 

「……………………………うん」

 

「あ…当たってた?やったぁ……」

 

 

 少年の頬を涙が伝い、窓からのぞく月の光を反射させる。

 

 

「ショーン、絵を見せてくれたお礼にね、プレゼントがあるの」

 

「え……………?」

 

 

 そう言って、彼女が震える腕でショーンに差し出したのは、大きな青い指輪だった。

 

 

「これ…でもこれ、姉様の大切なものじゃ…貰えないよ!!」

 

「いいの…あなたになら…」

 

「なんで……ぇぐっ…なんで…っえ…」

 

「どうしても自分の力で何とかできないことがあった時…その時あなたが一番信じられると思った人に…渡して。きっと、力になってくれるわ。」

 

「そんな人……姉様以外にできっこない!!」

 

「できるわ……ねぇ、ショーン。あなたの絵は、きっと世界中の人に感動を与えられるわ。 だからいつか、私の他にも………あなたの顔も、他の全部も………受け入れてくれる人がきっとできる。 その人にも、絵を描いてあげてね?……私の分も、あなたはその人と幸せに……生きて。」

 

「………」

 

「ショーン」

 

 彼女の手が、濡れる頬を優しく撫でる。

その手を、彼の手は優しく包みこんだ。

 

「あなたの姉様になれて………よかった」

 

「姉様?」

 

 

伸ばされた彼女の腕が、重力に引かれる。

 

 

「……………姉様ぁああああ!!!」

 

ユーシェは笑っていた。そこには感謝があった

 

俺は、泣き崩れるショーンの背中に花が現れてもすぐに触れることができず長い時間を立ち尽くした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 最後の記憶の世界を抜けると、そこは真っ白の何もない世界だった。

 

『これは……』

 

余りにも異様な空間にきょろきょろ周りを見渡していると、手の中で一杯だった白い花たちが突然空中で寄り集まり、何処からか紙やリボンが現れて、立派な装飾のある花束になった。

 

『そうか……これで、彼の忘れていたショーンとしての記憶の全てを、見終わったことになるのか』

 

 この花束は今までの記憶の傾向からして、恐らく彼がユーシェから貰った多くの"愛"が形となった物だろう。

 

 そして…古来より"花束"とは、死者生者問わず必ず特定の誰かに向けて贈られているものだ。

これの場合、その相手とは――

 

『………やっぱりだ』

 

空間の奥に、ショーンがいる。

 

『これを彼に渡せば……きっと現実での彼に記憶が戻るはずだ』

 

あまりにも整ったこの状況に、その確信が強く湧いた。

これで、これできっと――。

 

『ショーン!!』

 

 花束を崩さないよう歩み寄りながら、声を掛ける。

 

「………君は」

 

『初めまして、俺は――』

 

 

「――"セント・キリュー"だろ? 君の顔にも世話になってるよ」

 

『!!』

 

 少年の体躯に似合わぬ、しわがれた低い声。

小さな身体から黒い液体が流れ出て、少年の全身を覆う。

そしてどんどん巨大になっていく。

 

[ふぅーー…。人の心に勝手に踏み込んだ罰だ。]

 

現実でも見た、巨大な黒鉄(くろがね)のカマキリ……ではない。

一瞬その姿を見せたが、すぐに縮んでいき二メートル程にまで落ち着くとついにその形態は固定された。

 

[[君だと分からないくらいにまで細かく!!刻み込んであげるよ!!!]]

 

巨大になる直前の姿に、巨大化状態の特徴を全身にあしらわれたデザイン。

まごうことなくそれは怪物。連続強盗殺人犯……"マスクメイカー"の姿だった。

 

『そう全部が上手くは、行かないみてぇだな』

 

ビルドドライバーを装着する。

 

『これが最後だ………俺が、俺たちが、お前の未来への道を創ってみせる! さぁ、実験を始めようか!!』

 

 

 

すると

 

[[ぬあっ!?]]

『――うおっ!?』

 

突然、花束が光を放ち姿が変わり始める。

 

『これは……』

 

花束があった場所には、嘗て新世界創世のエネルギーの一つとして役目を終えた筈の力

 

『"ジーニアスボトル"……!?』

 

この手に再び、七色の輝きが戻っていた。

 

『マジかよ……ハハ、最ッ高だな!!』

 

[[また変なアイテムをォオ………!!貴様ァ!!]]

 

『変とか言うな。こいつはな…俺たちの思いが籠りまくった、ラブ&ピースの結晶なんだよ。』

 

《グゥレイトォ!》《オールイェイ!!》

《ジーニアス!!》

 

『お前の中のラブ&ピース、それがこいつになったってことは…』

 

《イーー!!》《イエーイ!!》

《イーー!!》《イエーイ!!》

 

『これは、怪物になっちまってる今のお前にそれを思い出してほしいっていう、過去のお前(ショーン)の願いそのものなんだ!!…行くぞマスクメイカー!!』

 

[[黙れ……いい加減黙れよォオオオオ!!!]]

 

《Are you ready!?》

 

「――変身!!!」

 

 

 

黒き鋼の大鎌と、七色の虹の拳が

 

 

《完全無欠のボトルヤロー!!"ビルドジーニアス"!! スゲーイ!モノスゲーイ!!》

 

 

――今、記憶の最奥で激突した。

 










「過去が希望をくれる」
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