席を移動してウォースパイトの所へ。彼女の左横に座る。というかアークにこうグイッと座らされた。
どうやらウォースパイトは掘り炬燵が得意なタイプではないらしく普通のダイニングテーブルの方へアークの手で案内された。
このダイニングテーブルはおしゃれなカフェとか居酒屋にありそうなソファに座るタイプね。
これ、酒入るとめがっさ眠くなるよね。しかも、大体の場所が暗めの照明だから余計やばい。
ほら、あそこ見てみろよ。隼鷹が腹出してて、ポーラなんて全裸で寝てるぜ。ここは明るいけど酒が入ってソファがあればああなるよな。わかるわかる。
「アーク……悪いんだけど」
「分かっている。既にザラは呼んだ」
「流石アーク」
「このぐらいどうという事はないさ。では、ウォースパイト。頼まれていたものはここに置いてあるからな」
「えぇ、ありがとう」
アークは俺とウォースパイトに向かって気にするなと右手を軽く振ってさっき俺が頼んだ飲んだくれ達の対処に向かってくれた。
自然体なのは大いに評価するけど痴態を晒してもいいとは言ってない。節度を持って自然体。
行き過ぎるようなら大淀にでも頼んで秩序を守ってもらわないといけなくなるからね。
「Admiral. 紅茶を飲んだことは?」
「紅茶……自販機とかコンビニで売ってるような物しか飲んだ事はないな。ウォースパイトとか金剛が飲んでるような本格的なやつはさっぱりって感じ」
「なるほど。私が着任してから一度も飲んでいる所を見たことなかったから好きじゃないのかなと思ってたわ」
「そういうわけじゃないんだけど……俺的には紅茶って飯時に飲むものじゃないって認識があるから麦茶とか緑茶ばっかり飲むんだよね」
「コーヒーも同じ理由?」
「コーヒーは……苦くて飲めないんだ……コーヒー牛乳でも苦い……」
「まあ……それはとても良い事ですね。コーヒーは泥水です。飲めないことに何も悪い事なんてありません」
「ウォースパイト?」
あれ……ウォースパイトって確か朝の時報とかでコーヒー勧めてこなかったっけ?
それがなんでどこぞの少佐みたいな事言い出してんだ……まあ、こっちに来ての影響だろうな。
鼻歌を歌いながらアークの用意していったティーセットを準備し始めるウォースパイト。
これで紅茶まで嫌いだとか言いだしてたら事だったけどそういう事はなさそうだし別にいいかな。俺もコーヒー飲めないから人の事言えんしね。
準備をしているウォースパイトをボケッと眺めていると不意に俺の左側が沈んだ。
顔を向けてみると笑顔がとても眩しい金剛がぴったりと密着した状態で座っていた。
……ふぅ。これはあれだな。先にお茶会に招待していた身としてはこの状況に何か言いたいことがあるのかもしれない。
「はーい、ていとくぅ」
「はーい、金剛」
「ていとくぅ。私以外とお茶会するんですカ? 私のお茶会には一向に来てくれないのに? 私以外とお茶会するんですカ? ていとくぅ?」
「それに関しては大変申し訳ないと思っている……」
「んっ!」
「な、なに?」
「んー!」
金剛が両手を広げて百羅出しそうな声を上げ始めた。
いや、まあ、これみてわからない俺じゃない。昔妹もこんな感じで駄々こねてる所を何度も見たからね。
私は傷付きました! 慰めるためには抱きしめるしかありません! みたいなノリだろう。
というか、まさにそれが答えですと言わんばかりに後ろで待機していた比叡、榛名、霧島がうちわを取り出して振り出した。
比叡のうちわには『司令!』『お姉さまは傷付きました!』
榛名のうちわには『提督が』『抱きしめて!』
霧島のうちわには『慰めて』『あげてください!』
なんかアイドルのファンが持ってそうなキラキラした文字入りうちわだな、おい。
あと、比叡のうちわ文字数多すぎてなんて書いてあるか読みにくいんだけど……
それとちょいちょい榛名が『提督が』のうちわを裏返しにするんだけど? 『私も!』って、大丈夫? バレて怒られない?
「あぁん! もう、待ちきれまセーン!」
「んごぉ……」
「提督大好きデース!」
「そ、そではありがどう」
「はい、Admiral. アークの入れた美味しいお茶を使って作ったウォースパイト特製ミルクティーです。金剛達の分もあるから三人も席に着いて」
「おぉ! センキュー! ほら、三人も席に着くデース!」
「わーい! ありがとうございます! ウォースパイトさん!」
「榛名が焼いたスコーンもお出ししますね!」
「うぅ……ウォースパイトさんの紅茶……しかし、霧島は逃げません! 司令! 見ててください!」
見ててくださいって何を? 変身? 紅茶キメて変身するのは斬新な設定だと思うので是非とも見てみたい。
でも、もう改二だし改三になるの? つまりビスマルクみたいに雷撃戦が出来る様になるのかな? 最強じゃん。
見てろと言われたから見てるけど霧島は一向に変身する様子がない。まあ、そうだよね。
手に持った紅茶をちびちび飲んでる様子が可愛いだけでした。
しっかし、ちびちび飲むという事はこの紅茶熱いんだろうか。
なんか昔どっかでイギリスではホットしか紅茶を飲まない云々って言ってたような気がしなくもないような。
猫舌の俺に何たる試練。そう思って恐る恐るカップを持ってみたけど全然熱くないし何なら冷たい。
アイスじゃん。これホットじゃなくてアイスじゃんか。
じゃあ、なんで霧島はあんなになってんだ……
「霧島のだけホットを入れたのか?」
「えっ? みんな一緒の物よ? どうしてそう思ったの?」
「だってあんなにちびちび飲んでるし」
「あぁ! あれは違うわ。ふふっそれ、飲んでみたら答えわかるかもしれませんね?」
そう言われて、ウォースパイト特製ミルクティーを飲んでみた。
甘い。口に入れた瞬間は紅茶の匂いがぶわっと広がるんだけどその後に暴力的なまでの甘さが紅茶を蹂躙していく。甘い。
俺も結構甘党だと思ってた。実際、家族とか友達にもそういう認識だった。
しかしながらそんな自他共に認める甘党の俺が敗北D判定を喰らう一品。やばたにえん……
「甘い……これ紅茶って言うか、言うか……なんだこれ」
「まあ! これはれっきとした紅茶よ、Admiral.」
「ウォースパイトはかなりの甘党だからネー。甘いのが苦手な霧島には拷問レベルのミルクティーには違いないネ」
「提督も榛名の作ったスコーン食べてくださいね? こっちが甘さ控えめのビターチョコでこっちがちょこっとすっぱいレモン味です」
「司令! 一応、霧島用のピリ辛スコーンなんかも用意してますんで欲しかったら言ってくださいね!」
「あっまい……」
「霧島も無理すんなよ?」
「はい。そこは分かっています。脳の働きを助ける程度いただいたら残りは榛名にあげることにします」
「ほー。榛名はこれ普通に飲めるんだ」
「榛名もなかなかの甘党だからネ。前はこれをゴクゴク飲んでたヨ! でも、そのせいでネ……」
「あれは悲しい事件でした……」
「は、榛名は大丈夫です。以前の様な失態は犯しません!」
「でも、あの榛名も可愛かったわ。コロコロとしてて愛嬌にも磨きがかかっていたもの」
コロコロとしてて……あぁ、明石が言ってたのって榛名だったのか。
正直、初雪とかそういうゴロゴロぐーたら組の誰かかと思ってたけどこれは予想外ですよ。
「そ、そこまでコロコロはしてませんでした! こう、かろうじてぽよっとぐらいです!」
「ぽよっと榛名か」
「て、提督! いけません! いけませんよ! 想像したらダメです!」
「へーい。提督ぅ。ここに証拠写真があるけど見る?」
「だ、だだだダメです!」
「でも、ウォースパイトの言う通りこの榛名もベリーベリーキュートネ」
「あー確かにあの榛名は結構可愛かったかも。お菓子あげると目がすんごいキラキラしててついつい甘やかしたくなるというか……多分、私もあの時が一番お菓子作ってたと思うな―」
「ほら、Admiral. これよこれ。結構可愛いわよね?」
「あ、ダメですよ!」
ほー……これはこれは……まあ、確かに普段見慣れてる榛名よりは少し丸いかな。
けど、このぐらいなら十分許容範囲内だと思う。
というか普段の榛名が理想の体型過ぎるだけでこのぐらいは一般女性の普通体型なのではと思ってしまう。
「んーまあ、これぐらいなら普通なんじゃ? あんまり体型について話したかないけど、君らは基本的に究極的理想体型みたいな存在だし多少太っても誤差な気がしなくもないかなって」
「て、提督的にはこの榛名はどうなんですか? た、例えば榛名がこのぐらい太ってたらやだなーとか逆にこのぐらい太ってた方がいいなとか思いました?」
「いや、うーん……んー……そうだなぁ。どっちも榛名って事には変わりないし太ってても痩せてても俺は気にしないかな」
「提督……!」
「というか、同じような食生活をしていたであろうウォースパイトはこうならんかったの?」
「私の場合は……アークが毎日メジャー持ってここが昨日より何ミリ太いから絞るようにって細かく言ってきてくれたから大事にはならなかったわ」
「それは……凄いな。アークも凄いけど指示されただけでそこを絞るみたいな事出来るウォースパイトも凄いわ」
「んー私達って余分なエネルギーを燃料とか弾薬に変換出来るから意外と楽よ」
「ホント全世界のダイエッターが泣くような体してるよな……」
「全ては提督の為ネ! 提督がこんな体型がいい。あんな体型がいいって言ってくれたらすぐに合わせられマース!」
「司令の反応を見るにあの榛名ぐらいの体型はなんの問題もないみたいですね。この霧島がしっかりと分析してお姉さまを司令の好みど真ん中にしてみせます!」
「わ、私はそんなにお手伝いできませんけどお料理とお菓子ぐらいなら作ってお手伝いできます! 任せてくださいお姉さま!」
何勘違いしてやがる。もう既に好みど真ん中だからどこも変える必要ないんだよなぁ。
二次元の女の子なんて基本的に絵師の方々が考えた至高の存在だからな。好みじゃないわけがない。
というか、生まれてこの方一度たりともモテた事がない俺だぞ。正直な話、想いをストレートに伝えられたらどんな女の子でも好みのど真ん中になりそう。
「……それよりさっきからちょいちょい不思議なセリフが聞こえてきたような気がしたんだけど? 比叡って料理あれじゃないの?」
「比叡は私達姉妹の中で一番の料理上手ネー!」
「比叡お姉さまは、何度も御召艦に選ばれたことがある艦ですからお料理もお作法も完璧なんです!」
「たまに主計科の皆さんのお手伝いをしているらしいんですけど、手際が良いって毎回褒められてますね」
「アークと紅茶の入れ方について話しているのをよく見るんだけど凄く詳しくてびっくりしたわ」
「あ、あははーなんか照れちゃいますね」
「おぉー! てっきりアニメみたいな感じだと思ってたけど、皆がべた褒めするレベルか。比叡も凄いもんだな」
これとこれ、それからこれも比叡お姉様が作りましたと勧められたお菓子を食べてみたけど、マズいなんて感想は嘘でも言えないレベルで美味しかった。
お菓子作りは普通の料理より難しいってどこかで聞いたことがある。確か分量がめんどくさいんだよな。
つまり? 元気っ子で料理上手で作法も完璧で美人で戦艦……嫁力の塊な気がしてきたんだけど? 比叡最強かよ……
それと思ったんだけどさ。あの厨房にいる俺を太らせ隊に料理教わるよりも比叡に教えてもらった方がいいんじゃないかなって。多分、比叡は俺を太らせたいとか思ってないしね。
ちょっと想像してみたんだけどさ。
間宮さんと鳳翔さんと比叡。どの声で料理教室開いてもらっても幸せだよね。
オタクとは業が深い生き物だからね。好きな声優が多ければ多いほどどれにするか、どれにしようかと悩んでしまう……選べる立場にあるだけいいと思えよお前とか言われそう。
「ちなみに比叡以外の料理の腕とかはどうなん? なんか他の子達も割と料理習ってるって聞いたんだけど」
「愛情なら誰にも負けませン!」
「データは完璧です!」
「うふふ」
「まあ、詳しくは知らないけどイギリスだもんな」
「は、榛名はお菓子なら作れます!」
なるほど。なるほどな。なるほどね。
申し訳ないけど霧島は割と最初から料理できないと決めつけてしまっていたんだ。本当にすまない。
金剛は出来ないのか……お姉ちゃんパワーで割と何でもこなせマースとか言ってくると思ったんだけど……まあ、そういう事もあるか。
ウォースパイトはほほ笑んでごまかしてるけどどうなんだこれ。こうやってごまかすのって大体できないパターンだよな。まあ、アニメとか漫画の話だけど……
んで、榛名。
周りがごまかしてる中で唯一料理じゃないけどお菓子作れますアッピル。右手をぴっしりと挙げた姿勢が可愛いです。
まあ、よく食べる人は料理も好きって言うしな。よく食べる分よく作る。うんうん。
って言いたいんだけど、今俺の周りに座ってるのは全員戦艦。全員よく食うじゃん。ダメじゃん。
「Admiral. 勘違いしてそうですけど、私は料理できますよ? ローストビーフ得意なんです」
「ローストビーフってイギリス料理だったの?」
「そうですよ? イギリス料理はあれもまずいこれもまずいって色々言われてますけど、ローストビーフ美味しいでしょ? またの機会に作って食べさせてあげますね?」
「楽しみにしておくわ。そうか。ローストビーフってイギリス料理だったのか。てっきり食べれる物は芋だけだと思ってたわ」
「イギリス料理は良くも悪くも素材の味を活かす料理だったりやりすぎだったりが多いからネー。日本人からしてみたら凄い料理のオンパレードかも」
「だけど、私達からしたら日本人の貴方たちの方がおかしかったりするけどね。納豆……いまだによくわからないわ。川内がよく食べてるけどネバネバするし臭いし……」
「あー外国の人は納豆だめってのはよく聞くなぁ。後はなんかあるのか?」
「そうね。生魚とか生卵とか生で食べる料理もちょっとダメね。あと、食べてびっくりしたのがわさび。刺身の横にあったのを一気に口に入れたら凄く辛くて吐き出しそうになったわ……」
「生魚はわからなくはない。生臭いもんな。俺もあんまり好きじゃないや」
「わさびの時はびっくりしましたね。榛名達がちょっとよそ見したらわさびがごそっと消えててウォースパイトさんが悶えてました」
「よく吐かなかったな。俺だったら吐き出して母親に怒られてはたかれるまでが一連の流れだわ」
「吐き出すのは淑女として流石にね……でも、つらかったわ。わさびはあれから見るたびにちょっと体がこわばってしまうわ」
わさびを食べて悶えてるウォースパイトってちょっと見たくない? てか、超見たい。
それと聞いてて思ったんだけど、この子らもしかして内側へのダメージは通すのだろうか。
外側は戦車砲喰らっても無傷だって話だったのにわさびでもだえ苦しむってのは状況によってはマズいのでは?
どこぞの神殺しみたいって事だもんね。辛いってのは味覚じゃなくて痛覚だしな。
まあ、俺より頭いい子達が沢山居てそこに気が付いてないわけないし対策をしてないはずもないよな。
「てか、戦車とかの攻撃は喰らわなかったって話なのにわさびの辛さはダメージ入るのな」
「ダメージにならないダメージは無効化する必要がないからネー。仮に毒を盛られたとしても私たちには効かないヨ」
「この前、フグを捌くの失敗して卵巣を思いっきり食べちゃったんですけどなんかピリッとするなってぐらいでした!」
「あぁ……なら艦娘には毒も効かないんだろうな……フグの毒でピリッか……って、艦娘はそれで済むかもしれないけど俺は? 俺がフグの毒なんて食ったらもちろん死ぬよね?」
「死ぬことはないと思いますけど、たぶん私たちよりちょっと息苦しいなみたいな状態になるかもしれないですね……でも、そうならないようにしっかりと毒見とかもしてますから大丈夫です!」
「頼むぞ……ホントに……」
死なないけど苦しいとか聞いただけでも嫌なんですけど? 風邪ですら辛くてつらいのに……
しかし、そうか……毒効かないのか。ますます無敵だな。こんなん相手にするとか絶望以外のなにものでもないのでは?
ホント頼むからこの子達が怒り狂うみたいな状況にならないことを切に願うわっわわわわわ。
「あーいーぼー!」
「お前、ホントお前!!」
「なんだ、相棒。ちょっと抱き上げただけじゃないか。それにもうそれ飲み終わったんだろ? じゃあ、そろそろこっちに来い、な?」
「酔ってる?」
「酔ってない」
「酔ってる?」
「ん~若干? 普段より子供っぽさが増してるからいい気分かちょっと眠くなってきたぐらいの感じかナ~」
「はい。霧島のデータでもそのぐらいと出ています。流石はお姉さまです!」
「じゃあ、今日はこのぐらいにしておきましょうか。今度はもうすこし時間を気にしなくてもいいお茶会をしましょ? 今度招待状を送るわね。その時は私の特製ミルクティーだけじゃなくてアークの入れたお茶もお出しするわ」
「ありがとう。楽しみにしておくよ」
「その時は私達も呼んでくれるよネ?」
「えぇ、勿論。お茶会は沢山居た方がいいもの」
「よし。じゃあ、相棒は持っていくからな」
次の予定が決まったと同時に歩き出す武蔵。この子ホント……
てか、俺素面の武蔵に会った事ないんじゃない? 大丈夫なのか艦隊最高戦力……
イベントではこの子なしには居られないのに……というかむしろイベントでしか使わないから何でもない時は飲んだくれて……と思ったけど、この子下戸だったな。
まあ、ゆうて武蔵とはまだ夕飯時しか会ってないからな。
そう考えるとやっぱり俺はまだまだこの子達と全然交流できてないんだなと痛感したね。
これからはもう少し昼間も鎮守府内を歩き回るか執務室の解放で交流を深めていければなと思う次第。
うん。とりま、今は目の前に広がる惨劇の対処からかなと思う。
中身の入っていない大ジョッキを天高く掲げる大和と大ジョッキを半ばまで飲んでテーブルに突っ伏したアイオワ。
武蔵がこうなってる理由って絶対これでしょ……